61 秘密の取引というものに彼らは慣れていた。
オークション開催。あとちょっとだけ残酷描写です。
秘密の取引というものに彼らは慣れていた。
ここにいる全員が、脛に傷がある身であるし、求めるモノは非合法なものばかりで、スーパーマーケットやネット通販で手に入るものではない。
持ち込める武器は限られ、暴力沙汰はご法度。オークションがどんな結果になっても州をでるまではお互いに不干渉。そういう制約をし、破った場合は以後どんな些細な取引も受け付けない。何とも生意気なものだが、それだけジョンが用意をする商品は魅力的ということでもある。
「・・・すごい数だな。」
地下倉庫に集まったそうそうたる面々に、レオは眉間のしわを深めていた。
「ええ、あっちの禿は中国で最近噂のマフィアだし、あっちの黒人は中東の活動家だ。警官が見たら、職務を無視して、逃げだすレベルだな。」
「はっ違いない。」
オークションに参加できるのは各組織の代表だけ、そういうルールはあるが下部組織や協力組織などであつまるので派閥のようなものが存在する。レオと話している2人も、部下であり協力者だ。その目的は様々だが、財力は確かだ。
「おい、見ろよ、あのぬいぐるみ。ずいぶんとくたびれてないか。本命以外の管理はずさんなのか。」
「いいから黙ってろ。すぐに始まるぞ。」
キョロキョロと落ち着きない仲間2人にイライラさせられつつ、レオはジョン達の準備が終わるのもじっくりとまっていた。
予定していた参加者が出揃うとオークションはすぐに始められた。
「さてさて、お集まりいただいた皆様でご歓談というわけにはいきませんし、さっそく商品のほうをお見せいたしましょう。」
そう言ってジョンは、パンパンと手を叩く、すると彼の背後に用意されていたコンテナがゆっくりと開き。中には頑丈そうなケースが目につく。あらかじめ開けてあったのだろう、緑色の液体の入ったアンプルが三つ、事前の情報通りに鎮座していた。
「これについては、今更語るまでもないでしょう。なので提供の仕方を説明させていただきます。本日「リドル」を競り落とされた方には、此方のケースとコンテナをそのままお持ち帰りいただけます。必要ならば、運搬用のトラックもご用意してあります。トラックは善意ある提供者の私物ですので、検問に引っかかることはありません。そのままお持ち帰りいただけます。」
ほうと、客の何割かが感心する。魅力的ではあるが、危険な薬品である「リドル」の移送手段も用意しているあたりジョンはニーズを理解していると。競り落としたら、港なり空港へ運びトラックごと持ち出せばいいというのもわかりやすいものだった。
「そのくらいでいちいち騒ぐな。」
その分のコストも見越して出資しろというジョンの腹の内を理解しているレオなどの常連は、早くしろとも思った。もったいぶったプレゼンやセールスに付き合う気などないのだ。
「では、記念すべきマウス君をこちらに。」
ギラギラとした視線を受けながら、ジョンは部下に合図をして、段ボールをどかし、その奥に隠していたマウスのケージを客たちの前に運ばせた。
運んでいたのは、どこか疲れた様子の世話係だった。
「すぐに終わるから我慢するんだぞ。」
なにやらマウスに話しかける世話係にジョンは鼻白む。いやいやだったわりにずいぶんと愛着をもっている彼の様子が気に入らなかったのだ。商品を大事にするのはいいが、世話係の見せた態度は、これからするショーの邪魔になりかねない。
「さて、見ての通りの巨大ネズミ君ですが、もともとはあわれなネズミ君です。ここの倉庫にいたのを捕まえたんです。」
そういってジョンが取り出したのは、ネズミの死骸、サイズは一般的なものだ。ジョンがケージの中に死体を放り込めば巨大ネズミは、それを丸呑みして、満足げに身体を丸めた。
「ですが、今ではすっかり巨大で元気に。リドルの持つ強心作用と回復力、それによって肥大化した彼は今もなお成長を続けています。こちらをご覧ください。」
用意されたスクリーンに映し出されたのは、レオや一部の常連がかつてみたマウスの急激な成長、そしてその後の成長過程を示したものだ。期間にして二週間。それだけの時間でマウスが巨大化したという証拠でもあった。
「信じられない。不老不死の妙薬と聞いていたが、これほどとは。」
その様子を見て、あるものは、不老不死をもたらす霊薬であるという伝説を確信し。
「あのアンプルの一つでもあれば、どんな軍隊も壊滅だな。」
あるものは、自分たちの希望を叶えるための有用な道具としての価値を見出した。
「ああ、そうそう。」
そんな感動をよそに、ジョンは部下から拳銃を受け取り、ケージの中で丸まるネズミに狙いをさだめ。
「なっ。」
皆が驚く中でためらいなく引き金を引いた。
それも数発。
「ぎゃああああああ。」
野太い悲鳴を上げてもがく巨大ネズミ。だが、その悲鳴に対して銃弾はわずかな傷と出血を伴うのみで、傷はすぐにふさがり、ピンク色の筋肉が見えて、弾丸は床に落ちた。
「回復力もお墨付きです。容量に関しては研究が必要と思われますが、少なくともただの一滴でこれだけの効果をもたらすようです。」
おおと歓声があがる。資料は確かに凄かったが、銃弾を受けても死なず回復して見せた生物は客の購買欲を一気にひき立てた。
「なあ、このネズミを売る気はないか?、できたらそっちとは「別口」で。」
客の1人の思い付きにジョンはしば思考する。
「正直、サンプルとしてこの後は処分するつもりでしたから構いませんが、どこまで生きるかは保証できかねますよ。」
「構わない、生体実験のサンプルとしての価値があるし、こいつにも「リドル」があるんだろ?」
「ええ、わずかですが、体内で増殖はしているはずです、抽出できるかはわかりませんが。」
マウスの巨大化に成功したとき、ジョンは培養も考えた。そしてすぐに諦めた。彼は商人であって研究者ではない。だから学術的な好奇心はなかったし、秘密裏に増やすにはリスクがあると思ったからだ。
「ほかに希望者がいれば相談ということになりますが、それでもよろしければ。」
そう提案してジョンが客達を見渡せば、何割かはうなづいていた。つまりは、商品としての需要があるということだ。
もともとは、リドルの効果を客に見せるためのサンプル、この後は客にも銃で体験をしてもらうつもりだったが、売れるならば、需要があるならば予定は変更しよう。
「そうですか、では本件が済みましたら、そのままこちらの商品もとりひきさせていただきます。皆さまふるってご参加ください。」
そして、改めて、今度はマウスの頭を狙って銃弾を撃ち込む。
「ぐやあああ。」
轟く悲鳴。しかしマウスは死なず、その傷はすぐにふさがっていく。その非日常な光景に、客達のテンションはさらに盛り上がり、それが最高潮になったタイミングでジョンはオークションの開始を宣言した。
「さあ、100からスタートです。」
「やめろおーーーーー。」
だが、そこで響いたのは、世話係の絶叫だった。
ジョン・ガーデンは、生粋でかつ凄腕の商人。なので倫理観はない強敵です。果たして・・・。




