52 ギャンブルというのは夢を買うものであって、お金を求めるものではない。
新章突入? ゲームから外れた世界でホーリーの運命はいかに。
ギャンブルというのは夢を買うものであって、お金を求めるものではない。というのはレイモンド叔父さんの言葉だ。ダメオヤジと父さんに怒られるぐらいギャンブルが好きらしい。生活費を溶かしたことが何度もあるとかないとか。
そんな話を度々聞かされてきたせいもあって、叔父さんのことは尊敬しているけど、僕はギャンブルとか宝くじは良くないものと思っている。雑誌などの懸賞やお祭りのくじも信じていない。
信じていないから、ビンゴゲームが揃わなくても僕は気にしないのだ。これ勝てたことないんだよね。
「おめでとうございます! アシストンバレーファミリーチケットはリーフ・リドルさんのものです。」
えっ?
という出来事があったのは、イースターイベントで行われたビンゴ大会だ。全校生徒300人が学年ごとに分かれて行われるビンゴ大会は、参加証のお菓子の詰め合わせの他、上位10人には豪華なプレゼントがでる。今回の目玉は、隣の州にある遊園地のファミリーチケットだった。
「・・・やった?」
「うん、普通にすごいからね。」
100人で争うビンゴ大会。目玉商品をゲットしたのは、我らがリーフさんである。
ビギナーズラック?最初の6回でビンゴってありうるの?
「すごいじゃないか、これ。5人まで入場できるうえに、近くのホテルの割引もあるんだ。」
保護者ということで参観していたラルフさんはチケットの詳細を確認して、その豪華さに驚いていた。
「何代か前の校長が遊園地の関係者と知り合いらしくて、その伝手で提供されてるらしいぞ。」
「それにしても結構な太っ腹ですね、フリーパスにドリンクカップとポップコーンカップもサービスって1人100ドルくらいはいくんじゃないですか?」
その横から覗き込んで感心している叔父さんとルーザーさんだ。二人は年明けに、街に引っ越してきた。ルーザーはネットでの炎上、叔父さんはミューランド大学でのいざこざのほとぼりが冷めるまで大人しく活動するそうだ。
同棲?なんて思ったけど、ロビンさんというミューランド大学で働いていた学者さんも同居しているのでそっちがルーザーさんの本命っぽい。
で、今日は忙しい両親に代わって叔父さんとルーザーさんが保護者として参観していた。叔父さん的には新築になった母校と甥っ子の活躍を見たかったらしい。
「くく、ホーリーは相変わらずだな。」
15コールを超えても穴が二つだけの僕のビンゴシートを見て笑う叔父さんなどいらないが、カメラ撮影を両親が頼んでいたし、仮装の飾りに出資してもらったので、断れなかった。
「リーフちゃん、良かったね。ここペットもOKだって。」
「バウ。」
ルーザーさんは、男ばかりでリーフさんが気の毒だということで来てくれたけど、その膝でくつろぐエメルを見る限り、彼女にも目的があると思われる。
「・・・そっか、エメルもジェットコースター乗る?」
「ばう?」
「いや、それは難しいんじゃないかなー。」
いやいや、さすがにこの毛玉でも、あそこのジェットコースターは耐えられないだろう。あれは、アメリカだけでなく世界でも屈指のハードなものだ。日本にあるギネス級のジェットコースターに高さこそ劣るけど、落下の衝撃で腕時計が壊れるレベルだ。
「車はうちのを使うとして、お二人もどうですか?」
「いいねー、それなら宿の手配は任せてくれ、知り合いが旅行者で働いているからペット可でお得な場所を探しておくよ。」
ビンゴ大会が白熱する中(僕はもう諦めた。)、ラルフさんと叔父さんはもう旅行の計画を立てはじめていた。叔父さん達はともかく、僕が一緒に行くのかは聞かれるまでもなかった。
それは、僕たちの仲がいいからというだけではない。リーフさんの抱える事情が大きい。
部活なども通して、リーフさんの交流の輪は広がった。けれど彼女の家庭事情や性格を考慮したとき家族ぐるみの付き合いができているのは僕たちだけだ。いくら子ども同士が仲良しでも、ウッディリドルのことを知る、いや知らない親は交流に一歩引いてしまうのだ。
リーフさん自身の問題もある。父親の所業と自分の立場を理解してしまった彼女は、どこかで大人を警戒している。ルーザーさんは同性ということもあり、相性も良かった。だが彼女の仲間であるロビンさんも一緒のときは、かなり警戒している。その上で、不要、嫌いと判断した時は、先日のバイカーのような態度も平気でとる。その歪さが矯正される日はまだ遠いだろう。
そんなわけで、5人の枠に僕たちが選ばれるのは当然の流れというわけだ。
「・・・ホーリーのおすすめは?」
まあ、チケットを勝ち取った時点で、リーフさんは僕たちと行く気満々だったけど。
しかし、ここにきて、アシストンバレーにいくことになるとは。ここしばらくはおとなしかった「俺」は、その名前とそれが身近にあったことに戦慄していた。
アシストンバレー
隣の州にある遊園地はこの街の人間にとっても馴染み深い場所だ。隣の州と言っても車で半日ほどの距離で行けるし、ギリ近隣ということでクーポンや宣伝もよく出回っている。この街の子どもなら一度は遊びに行ったことがある遊園地だ。まあ、遊園地というにはちょっと個性的で世界的にも有名だったりするけど。ちなみにアシストンとは、フランス語で「魔法」と意味だ。
そして、「俺」が戦慄しているのは、この遊園地がRCDの舞台の一つだったからだ。
RCD4は、過去の事件から立ち直ったラルフとマックがそれぞれの任務へと赴くオムニバススタイルのゲームだ。世界各地で発生するリドルによるテロに対処していくという展開はスピード感はあるが、過去作にあったじっくり探索という要素が減ってしまい賛否両論だった。
まあ、それはいいとして。
アシストンバレーは中盤でラルフがテロリストの潜伏先として調査に訪れた遊園地だ。しかし、捜査は間に合わずテロリストたちは暴走、観客やスタッフがモンスター化してノンストップなホラーアクションがはじまるステージだ。別名「ノンリミットアトラクション」。にぎやかな遊園地があっという間に地獄に変わっていく展開は鬱展開ながら、迫力があり、4の中でも人気のステージであった。
事件が起こるのは4年後の2028年。この時点ではテロリストが潜伏しているわけがない。なにより、すべての黒幕であるウッディ・リドルは逮捕されているし、その研究も進んでいない。
RCD4以降の悲劇は起こりようがない。
というのは分かっているのに、このタイミングで、「ミステリバレー」のチケットが当たることに何か不穏なことを考えてしまうのは俺がRCDの世界を知りすぎているからだろう。
「・・・ホーリーは嫌?」
「うーん、嫌とかじゃないんだ。」
ちょっと残念そうなリーフさんの顔に、僕は慌てて首を振った。僕としては俺の杞憂よりも、もっと大きな問題があるのだ。
「安心しろ、ホーリー、今ならどのアトラクションも乗れるから。」
「叔父さん、うるさい。」
僕の戸惑いの理由を見抜かないで、そしてばらさないで。
「・・・どういうこと?」
ほら、リーフさんが興味を持ってしまったじゃないか。これはもう誤魔化せないじゃないか。
「ここってジェットコースターとかも有名なんだけどね。ほら、ああいうのって、身長制限があるんだよ。」
「・・・ああ。」
「察するの早くない!」
そうだよ、当時の僕は幼すぎて、メインのジェットコースターやほかのアトラクションに乗れなった。
その時の苦い思い出が・・・。
「・・・大丈夫、乗り物の身長制限は140センチ以上だから、ホーリーも余裕。」
「ぬわー、気にしているっていったじゃないか。」
身長ネタはやめてほしい。当時はそれが原因で遊園地が嫌いになったし、今だって身長関連は悩みのたねだというのに。
「・・・ふふふ、ごめん。」
「もう。」
悪戯っぽく笑うリーフ。その顔を見ていたら、「俺」の不安は忘れていた。
むしろ、当時のグラフィックを限界まで追求して作られた遊園地の本物を見れるなら楽しい違いない。
「降参、超楽しみ。」
こうして、イースター休暇は泊まりこみの遊園地ということで予定が決まった。
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ちなみに遊園地のモデルは、カリフォルニア州にあるマジックマウンテンです。過去に行ったことのある遊園地の中で最も刺激的な遊園地だったのです。




