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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
RCD2 2023 12月

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45/88

45 警官という仕事は苦情担当ではなく、ヒーローだ。

 教授の悪事が色々と暴かれていきます。

 警官という仕事は苦情担当ではなく、ヒーローだ。オフィスで、市民からの愚痴を聞いたり、夫婦喧嘩の仲裁をすることじゃなく、悪を暴き、弱気を守るそれが警官だ。

「警官は暇な方がいいんだよ。馬鹿マック。」

「でも、先輩、いくらなんでも退屈っすよ。」

 俺は、マニエス・グロック、今年から、ミューランド町の警察署に配属された新人警官。期待のホープで、親しい人間はマックと呼ぶ。

 しかし、肝心の悪人がいない。

 この街はめちゃくちゃ安全だ。整ったインフラとカメラや警報などの防犯設備。犯罪はおろか、ポイ捨てだってすぐに見つかってしまうので、悪い事をする隙がない。

 そもそも、ミューランド大学関係の仕事や関係者向けの商売のおかげで仕事には困らないし、大学側の実験の一環ということで、電気やガス、水などのインフラは格安で提供されている。少なくとも住民が犯罪に走る理由はないし、わざわざこんな辺鄙な場所にまでくる強盗もいない。

 おかげで、警察署はほんとお飾りとなっている。地元とはいえ、ヒーローがそれでいいのか?

「大学様のおかげで俺たちは仕事がない。それでいいじゃないか。」

 ミューランドは残念ながら田舎だ。都市部へのアクセスも悪いし特産品も観光資源もない。だから俺が生まれたころはホントに田舎だったらしい。そこにミューランド大学とその研究施設の誘致が決定され、大学関係者向けの商売とインフラが整った。大量の税金とともに。

 そんなわけで、町長も署長も大学関係者には頭が上がらない。

 そんな俺たちの一番の仕事は、外部からたまに来る苦情の対策だ。やれ、ミューランド大学は裏金で入学者を選んでいるとか、○○教授の研究は、うちの研究を奪ったものだとか。うちのペットや家畜が大学の敷地にはいったまま帰ってこないだとか。

「しょうがないさ、大学に敷地を貸す関係で、牧畜関係の人には無理を言ってもらった、特にダグラス爺さんのところはひどいもんさ。」

 また、この話か・・・。というのも直前まで苦情もとい通報に来ていたのは街外れで牧場をやっているダグラスさんだったからだ。ミューランド大学の誘致のとき、ダグラスさんの農場は大きく移転することになった。そのときにいざこざからか、ダグラス爺さんはミューランド大学を毛嫌いしており、家畜に何かあると、やれ大学の騒音だ、大学の関係者が牛や馬を連れ出したなどの通報、もとい相談をしてくる。

「どうせまた、爺さんの思い込みか、息子さんのほうの取引だろ。」

 大学に訴えれば、業務妨害で逆に訴えると脅される、役所に言ってもスルーされる。結果として警察へ話を持ち込むが刑事事件にまではならない。そうならないように、法と道理を説きつつ、相手の愚痴を聞いてあげる。

 それがミューランド大学の警官の仕事だ。まったく嫌になる。

 じりりりり。

 昔ながらのレトロな電話がなり、俺たちは話を中断して、先輩が電話を取る。なんだかんだ、話し相手には困らない職場でだな。

「ああ、これはどうもお世話になっております。また無許可の見学者ですか?いえ、違う?違法建築?土地の不当利用? 分かりました、すぐに向かわせていただきます。」

 しかし、その電話はいつもと毛色が違った。電話口から漏れる声は明らかに焦りが見えた。相手をしている先輩が紙にメモを書いて俺によこす。

『大学内で、不審な部屋を発見、すぐに向かうから車を回せ。』

 大学構内?あの未来都市のような場所に不審な部屋?

 どういうことはわからないまま、俺は慌ててキーを取りに行く。暇すぎてパトカーの整備も万端だ。出番もほぼない拳銃もな。


 ただならぬ気配は、大学内もそうだった。いつもは警官を見下す守衛もそんな余裕もなくゲスト用のIDとタブレットを渡して、早足で俺たちを案内する。ちなみに警官は15人、署内にいた暇な人間が総動員された結果だ。経理担当の人間まで引っ張り出すとかどうなってるんだ?

「ああ、来てくれた、こっちです。」

 そのまま建物の一つの裏に案内され、エレベーターにすし詰めにされて、地下へ。そう地下だ。万が一のために大まかな構造は知らされていたけれど地下深くにまで施設があることを、俺たちは知らされていなかった。

「あのー、これは。」

「我々も困惑しているんです、設計段階でも、拡張工事でも地下にこんな施設はなかったはずなんですが・・・それにあんなもの・・・。」

 代表として先輩が案内役の警備員に話をしていたが、警備員も冷静ではなさそうだった。そんな様子に俺はとあるホラー映画の冒頭を思い出した。

 地下にある秘密の研究所。ある日、そこでエレベーターが止まる。ウイルスによるパンデミックを防ぐためと外部から封鎖されて、満員のエレベーターには毒ガスが・・・。ゾンビだというのに、冒頭のメカニカルな恐怖の印象が残ったあれだ。

 チン。

 まあ、そんな怖い事は起こらず、俺たちは無事に到着したわけなんだけど。

「な、なんじゃこりゃー。」

 ぞろぞろとエレベーターからでた俺たちは、目の前の光景にそんな大声をあげた。

 ハイスクールの体育館ぐらいの大きさの空間に、ずらりと並んだ透明な円筒。まるで出来の悪いSF映画のような光景なのだが、その中身は。

「なんだ、これ? 生き物なのか?」

 化物だった。


 全身に鱗を生やしたみたいな巨体。手足の生えた魚。頭が二つある馬や犬。ぱっと見ただけでもまともな生き物とは思えない造形のそれらが薄緑色の液体の中で目を閉じている。眠っているのか死んでいるのかわからないが、作り物とは思えない存在感を放っている。

「お、巡査さん、お待ちしておりました。」

「ネロルさん、お疲れ様です、こ、これは一体。」

 俺たちに一行に気づいた先客、渉外担当のネロルさんは、顔を青くしていた。彼はここの研究員でもあり、研究関係の苦情について説明を受ける、苦労仲間だ。巡査を含めここにいる警官たちとは面識がある。ほかに何人もの研究者や警備員と思われる人間が円筒の周りをうろうろしているが、全体的に顔が青い。

「われわれにもまったく、ゲストの方が迷い込んでしまったと連絡を受けて駆け付けたのはいいのですが、このような設備は記録になくて。」

「しかし、タブレットには、見学可能エリアになっています。」

「はい、何者かがマップデーターをいじっていたとしか。」

 先輩がネロルさんから事情を聞きだしている間、俺たちは手もちぶたさだった。おかげで少しだけ冷静になれた。

 地元を発展させた恩のある大学、その地下にこんな悪魔の研究所みたいな場所があるなんておかしい。

 まずはそう思う。漫画や映画じゃないんだ。こんなものがあるわけない。何かの冗談だ。

「なあ、お巡りさん。これあんたはどう思う?シークレットイベントにしては悪趣味だよな。」

「そ、そうだな。悪趣味だ。」

 そう、イベント、そういうドッキリなんだろう。横から不意に話しかけられた声に俺はそう結論する。そうやって自分を落ち着かせて横を向くと、何やら毛色の違う男と、

「かわいい。」

 めっちゃ可愛い子がいた。

「ははは、ルーザー、美人はやっぱりお得だなー。」

「か、揶揄わないでください。それよりも・・・。」

 けらけらと笑う男と、真面目そうに咎める美女。これまた映画のような組み合わせだが、そんなことよりも、と思うぐらい彼女は美人だった。

「ええっと、私はマニエス・グロックと言います、見ての通り警官で、通報を受けてきたのですが、お二人は。」

 いやいや、今が職務を全うせねば、けして名前を知りたいというわけじゃない。

「おお、俺は、しがない新聞記者だ。構内見学の最中に、偶然、いやちょっとした謎解きをしたらここを見つけてしまってな。ああ、レイモンド・ヒジリという。」

 そう言って男は名刺を渡してきた。記載された会社は知らない名前だが、ここにいるのが当然という振る舞いもあって違和感はなかった。

「で、こっちはルー、ルイーザ・ザルキン。俺の助手をしてもらっている記者見習いだ。」

「どうも、ルイーザと言います。あいにく名刺はもっていないのですが・・・免許証でいいですか?」

「ああ、いえ結構です。いや一応いいですか、後々面倒にならないように。」

 差し出された免許書を手に取り、その証明写真と連絡先を頭に叩き込む。

「お住まいはニューヨークでしたか。これまたずいぶんと長旅をされたんですねー。」

 遠すぎる場所出身。都会出身の垢ぬけた美女。うんいいねー。なんともかっこいい。

「記事のネタがあればどこにでも行くのが記者というものです。今回は縁があってミューランド大学の見学許可をいただいたもので、はるばる訪ねたわけなんですけど。」

 ルイーザさんのことをもっと詳しく知りたいと思ったら、レイモンドなる男に阻まれた。ちょっと腹立たしいが、がっつきすぎるのもよくない。

「では、お二人は取材でこちらに?」

「ああ、そうだけど、なにか問題が?」

 これだけ自信があるのなら、その許可も正規のものなんだろう。というか、なぜ俺が対応を?まあ、美人と関われるチャンスを逃す気もないけれど。

「すみません、様式的なものです、メモもとりませんよ。ただね。」

 自称記者や研究者が無許可、アポなしで大学を調べようとすることは多い。そういった輩を引き取るのが仕事なところもある。なんなら彼を連れ出すのが今日の仕事になるかもしれない。

「ああ、マナーの悪いやからも多いですからね。この業界は。」

 レイモンドは言わずともその意図を理解して、俺たちの近くに立つ。余計な事はしませんよというアピールだ。まともすぎて逆に胡散臭いぐらいだ、この状況で写真はおろかメモの一つも取ろうとしない記者というのは初めて見た。

 都会の男とはこうスマートなんだろうか?警察学校にもいなかった余裕を感じる男に俺は興味をひかれた。ひかれてしまったのだ。

「ところで、先ほど、ここを発見したと聞きましたが。」

 ここでそんな質問をしなければよかった。

 後悔は先に立たない。

新聞記者に警察に、有識者と大学教授・・・。

ホラー現場に過剰戦力が投入されてしまった。

 

ちなみにゲームでは、ここで更に付き合っているヒロインからのSOSメールが届くのですが、この時はまだ、出会ってすらいないマック君。


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