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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
RCD2 2023 12月

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40 大学というのは、個性がある。

 レイモンド叔父さんの奮闘記 大学へ行ってみよう。

 大学というのは、個性がある。俺は、情報学と経済学を学んでいたが、どこかミーハーな人間が多いし、そこかしこにポスターやオブジェクトが置いてあり、我が母校は、なかなかカオスなキャンパスだった。

 対してミューランド大学は、非常に清潔で病院のようだった。丁寧に整えられた芝生と整えられた舗装路、白くツルツルとした壁の建物はビルのようなものから、ピラミッドのような三角錐、ドーム型など様々だが、通路なども合わさって一つの芸術作品のようにも見える。

「生物系の大学というよりは、医学系だな。」

 農学部とか、獣医学部を取材したことはあるが、そちらが人間よりも動物が多く、独特の匂いがあった。が、ミューランド大学は徹底して匂いがない。まるで高級リゾートのような爽やかさがあった。

「地下には地熱を利用した発電設備と地下水を利用した上下水道。独自のネットワークによるスタンドアローンシステム、すごいなこれだけで独立した街じゃないか。」

 パンフレットに堂々と書いてある都市システムの実験設備。先進的な試みだが、ミューランド大学の専門は遺伝子工学や、生物学だ。この建物の中では、新薬の研究や化石のDNA分析などは行われているそうだ。

「よかった、寝不足な顔だったら私たち、絶対、浮いてましたよ。」

「いや、すでに浮いてるよ、さっきからめっちゃ注目されてるから。」

 アポイントメントをとり、ゲスト用のIDがあるとはいえ、こういう閉鎖的な施設で部外者とは嫌でも目立つ。ちょっとでも怪しいそぶりをみせたら、警備員が飛んでくることだろう。

 だが、それは価値のある研究をしている証左ではある。実際、多数の企業が出資し、一部の施設は政府公認の研究機関としても登録されている。

「ルーザー、お前、ここのコネクション大事にしろよ。」

「ええっと直接会うのは初めてなんですけど。思った以上にすごい。」

 おいおい大丈夫か、そんな不安を感じつつも約束の研究室を目指す。研究者というのは忙しいらしく、出迎えなんてことは期待してはいけないのだ。


「ようこそ、ルーザーさん、お会いできて光栄です。」

 迎えてくれたのは若い研究員だった。20代前半、ルーザーと同じか、少し上ぐらいの若く、子どものように目を輝かせて俺たちを迎えてくれた。

「ロビンさん、今回は急な連絡にも関わらず対応してくれてありがとうございます。」

「いえいえ、ミステリーポーターの取材に関われるなら大歓迎です。」

 がっちりと握手をする研究員とルーザー。なんとも親し気だが、これはあれだな、同じ穴のムジナだ。ロビン、ルーザーの動画サイトによく顔をだすチャット仲間だ。まさかこんな若いとは思わなかった。

「ええっと、そちらは?」

「レイモンド・ヒジリ。しがない新聞記者だけど、HRだよ、ロビン。」

「ええ、HRさん、いつも的確なコメント尊敬してます。」

「ロビンの専門的な知識にはいつも感心してたよ。まさかこんなに若い人だとは思わなかったが。」

 なんだかんだ、ロビンのことはルーザーのサイトを通じて知っていた。

「ははは、ルーザーさんにHRさんなんて、最強の組み合わせじゃないですか。うれしいなー」

 ロビンは俺ともがっちりと握手をして、うきうきしていた。


 ロビンに案内されたのは清潔な実験室だった。中学校の理科室を小さくしたような水道と戸棚と冷蔵庫があるだけのシンプルな部屋だったけど、入るときは空気による洗浄と白衣を着ることが必要だった。

「ここは、研究員に貸し出される実験室です、まだまだ新米の僕たちは、教授の研究を手伝いつつ、自分で研究はこうしてレンタルして論文を書くんです。レンタルですけど、実験ごとにクリーニングされるので、異物が混入される可能性もないし、秘密も守られます。」

 ニコニコと笑いながらゴム手袋を差しだし、ロビンはそう説明した。

「すごいねー、これだけの設備だと維持だけでも金がかかりそうだ。」

「ははは、それだけ注目されているってことで。」

 ロビンの専攻は遺伝子工学らしい。あれだ、恐竜が暴れまわるテーマパークの映画の科学者みたいなやつ。マッドな匂いがする。

「普段は植物の品種改良ばかりですけどね。メンデルの法則に従っての試行錯誤ばかりですよ。」

 遺伝子工学も色々あるんですよ、笑いながらロビンは顕微鏡を準備し、ルーザーも鞄から白い鱗を取り出して手渡す。

「これは・・・。アメリカワニの鱗板と似た模様ですけど、サイズがおかしいですね、この模様の大きさなら持ち主はかなり大きな子ですよ。」

 ワニの背中の模様は種類や個体によって特徴があるのは知っていたが、顕微鏡で見ただけで大きさまで判断できるのはさすがだ。

「ただ、この色・・・。アルビノので白い鰐というのは聞いたことがありますけど・・・。」

 ブツブツと言いながらメモをとるロビン。研究者らしい集中力を発揮する彼に俺たちは待つしかない。

「あっすいません、観察と成分調査でとりあえず2時間ぐらいもらえます?せっかくなら、研究室を見学されてはいかがでしょうか。ゲストIDなら、他の設備を見学することもできますので。」

「へえ、それは、ありがたいね。」

「レイモンドさん、私はロビンに付き添いたいので。」

 だよねー、君は当事者だ。

「じゃあ、俺は適当に見学させてもらうわ。地図を借りるね。」

「「どうぞ、どうぞ。」」

 うん、すっかり2人の世界だ。オタクってのは度し難い。


「さて、ここは、第2研究室か。ハイテクだねー。」

 個室から出て地図を開く。地図といっても紙ではなく貸し出されたタブレットで、現在地も分かるし、見学可能エリアが色分けされて表示されている。その範囲は思った以上に広かった。

「ちょっとしたテーマパークだな。」

 とりあえず見晴らしのいい場所と思ってエレベーターへ向かい上の階を目指す。

「うん?」

 銀色のハイテクなエレベーターなわりにボタンが存在しない。

「ああ、タブレットで操作するのか。」

 ドア脇に本来あるべきものがなく戸惑ったものだが、タブレットをぽちっと押すとエレベーターは動き出して指定の階へと動き出す。途中で人が乗ってくることもなく、守秘義務が徹底している。

「すげえな、ホーリー、こんなエレベーターのことも調べたのか。」

 このエレベーターの仕組みはホーリーがくれたメモにもあったことだった。システムの便利さに驚きつつもネットにもない情報を調べたホーリーの実力に感心してしまう。

「うん、まてよ、たしか。」

 最上階から見える大学の全体図をみながら、そんなメモの内容を思い出して鞄から取り出す。

「すげえな、各研究棟の配置もばっちりだ。」

 まるで、ここから見て、メモをしたかのような文章の解像度の高さ、添えられたイラストの配置もばっちりだ。

「たしか、建物の形が暗号になっているんだっけ?」

 ここは公開エリアだ。写真などは禁止されているけど、見聞きした人が思いついたフィクションがネットに流れたのかもしれない。だが、良く出来ている。

「 KOTDDE 意味はないだっけ。」

 なるほど面白い。あとでロビンにもこのメモを見せたら甥っ子のユーモアに笑ってくれることだろう。

 せっかくだし、このメモをもとに大学を見学してみるのもいいかもしれない。

 

 ホーリーの渡したメモは、本来ならばレイモンド自身が数か月後にミューランド大学の研究室に潜入して、各地に残したアーカイブをもとにしたもの。だから、レイモンドが親近感を感じるのも、精度が高いのも納得の情報チートアイテム。

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