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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
RCD2 2023 12月

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39 我が甥っ子は、昔から賢かった。

 いよいよ、大学編 しばらくはレイモンド叔父さんの視点となります。

 我が甥っ子、ホーリーは、昔から賢かった。両親と叔父である俺の影響もあって新聞やニュースを読むことが多い子だったが、ありきたりなアニメや映画などを見てはその内容よりも、仕組みや作り方に興味をもっていた。

「なぜ、このネズミさんと、この前のテレビの刑事さんは同じ声なの?」

 内容よりも声優の存在を気にする子どもってのはどうなんだろうか?

 ともあれ、子どもながらになかなか面白い視点を持っているのは、新聞記者をしている俺でも舌を巻くようなことに気づくことが多かった。そんな甥っ子の成長を期待してお下がりのパソコンやデジカメ、ネット回線なんかも用意してやると、兄夫婦である両親よりも達者に使いこなしていた。

 そんな甥っ子も気づけば中学生、子どもの成長ってはのは早いものだと驚いていたが、そんな彼からとある旅館で起きた集団失踪事件についての質問メールが来た時はさすが驚いたものだ。

「旅館消失事件」3年前、2020年起きた事件は、ここ最近でも奇妙な事件だった。

 郊外に建てられた純日本風のホテル、支配人の意向で「旅館」と呼ばれていた場所は、知る人ぞ知る高級リゾートだった。広い敷地に再現された日本風の庭園と本格的な日本料理。俺も一度は泊まってみたいと思ったものだが、料金はべらぼうに高いので諦めていた。

 そんな旅館が一晩にして建物ごと消失した。最初は近くに泊まっていた観光客のSNS。確定したのは、いつもの仕入れ業者が訪れたとき、「旅館」は庭の一部を残してほぼすべてが消失、前日から宿泊していた青年が1人保護された。

 有名な場所であり、宿泊以外にも毎日のように見物客が訪れる場所だった。連日のように写真がSNSにアップされていたので、状況証拠を集めるのが容易かったので、様々な考察や推理がネット上で展開された。だが一方で報道関係は不自然なほどすぐに下火になったことでも有名だ。

 敷地の持ち主という人物が現れて土地を閉鎖したこと。唯一の生き残りと思われる青年のプライバシーの保護という名目で過度な取材が禁止されたこと。さまざまな理由がでっち上げられたが、俺を含めた一部のベテランたちは、明らかに作為的なものを感じた。それで突っ込んで調べてみれば、消えたのは「旅館」だけでなかった。「旅館」の主人と数名の従業員、そして当日宿泊してた9人の宿泊客も消息不明だというではないか。

 唯一生き残った青年、ラルフ・アルフレッドによる犯行?それは短絡的だ。

 ちょっとばかし過去の資料を調べれば、この旅館に宿泊した人間が定期的に消息不明になっている事実にたどり着くことができた。

「こいつはまずい。」

 その時点で俺は、この事件を追うのをやめておいた。腕のいい新聞記者というのはギリギリで超えてはいけないラインを見極めるものだ。この事件は個人でどうこうできるレベルを超えていた。

 けして、取材したラルフ・アルフレッドに同情したからではない。

 だから、ホーリーにこの事件への情報を求められたときも、当たり障りのないサイトを教えてただけだったが、なんと甥っ子は自力で当事者にして、唯一の生き残りであるラルフ・アルフレッドにたどり着いていた。おまけに仲良くなっていた。表面だけ取り繕って殻に閉じこもって廃人のようになっていたあの男がずいぶんと人間性を取り戻してた。

 こういう勘の良さは、今は亡き爺さんの血筋だと思う。ヒジリ一族はミステリーを調べずにいられない。若者の危うさと将来性というのにはいつだって驚かされる。

「レイモンドさん、ほんとにいいんですか?こんないい席。」

「ルーザー、こういうのは移動も大事だ。エコノミーで疲れた顔で先方に合ってみろ舐められるだけだ。」

 ふかふかのファーストクラスのシートに慣れない様子のルーザーこと、ルイーザも期待の新人と言える。ネットサイトの運営やテレビ番組の下っ端で収まるような子じゃない。いずれ大きな事件を取り扱う大物になるだろう。

「でも、これ」

「大丈夫だ、経費で落ちる。」

 ミステリーポーターの元スタッフ、その後を追った記事なら、そこそこのコラムにはなるからな。あとは、ミューランド大学の取材の機会というのもありがたい。大学というのはオープンなようで研究者とがっつり話せる機会というのは貴重だ。コラムがダメでも研究者に取材ができれば、こんなささやかなぜいたくでもおつりがくる。

「ミューランド大学の研究員とアポが取れるって、割とすごいことなんだぞ。ルーザー、もっと自分に自信を持て、自分の行動に自信のない記者なんて誰にも信用されない。」

 今回はうまいこと便乗させてもらう。めったにない機会に編集長もご満悦だった。

「そうなんでしょうか、でもこの鱗にそんな価値が?」

「価値というのは、人が決めるものだ。そして俺たちはその価値を決めるために、事実を探って世の中に伝える。それでいいんだよ。」

「はあ、そういうもんですか。」

「というか、寝ておきな。機内サービスではしゃいで寝不足なんてことならないようにな。」

 小ばかにしてやると若い記者は不貞腐れて目を閉じる。この程度の挑発で誤魔化されるなんて、まだまだお子ちゃまだ。

「さて。」

 隣から健やかな寝息が聞こえてきたのを確認して俺は、カバンから一つの資料を取り出した。

「我が甥っ子は、一体何を掴んだんだろうねー。」

 それは、街を出るときにホーリーから託されたたくさんのメモ書きだった。書いたノートをハサミで切ってホチキスでまとめた雑なものだが、ミューランド大学へ行くなら、ぜひとも読んでほしいというものだった。

「ネットとか、図書館にあった大学の記録とか噂話。ソースとか出典をメモするのは忘れてしまったから根拠は薄いんだけど、飛行機での暇つぶしにでもして。」

 そう言う割には真剣な顔の甥っ子に気圧されながら受け取ってしまったが、中学生が書く内容なんて・・・。

「ほう、なかなか良くかけてるじゃないか。俺の記事をよく読んでいるなホーリー。」

 ところどころ粗があるし、内容は荒唐無稽なものも多いが、俺の記事を思わせるようなセンスを感じる。内容はミューランド大学で行われている非人道的な生物実験とそれが行われている地下施設のうわさ。これ自体は何年も前から噂がされてたものだが、ドアの暗号や隠し通路などの設定はなかなか凝った描写だった。

「くくく、あいつは小説家にもなれそうだな。」

 まるで小説やゲームのプロットを読んでいる気分だ。まるでその場所に忍び込んだような感覚に俺はホーリーのメモを何度も読み貸し、飛行機の時間を有意義に過ごせたのだった。


 しかし、ホーリーのメモによってまさかあんなスクープを掴むことになるなんて思いもしなかった。




 ホーリーとリーフさんはお留守番です。

 ミューランド大学がゲームの舞台ということで、慌てて俺がまとめたメモ、それすなわち攻略情報です。

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