38 その場に居残るのはさすがにためらわれたので、僕たちは車へと戻った。
またまた、「俺」と「僕」は悩みます。
その場に居残るのはさすがにためらわれたので、僕たちは車へと戻った。
「目的を達成したら、現地の人に迷惑の掛からない場所へ移動する、これが大事です。」
ちゃっかりこちらに乗り込んだルーザーさんはご満悦だった。
「朽ちたのか、つつかれたのか、だいぶ傷んでますけど、この独特のとげとげと白さは私が持ち込んだものと同じです。これを調べれば物的証拠になります。まあ、状況が状況なので、追求は難しいでしょうけど。」
ミステリーポーターの放送は終わり、局もスポンサーが離れて他会社に買収されたとニュースになっていた。プロデューサーや上役は一新され、番組も曲も別ものとなっている。ルーザーさんが今更、鱗の真贋を告発したところで罰を受ける人間も、興味を持つ人間もいないということなる。
「きっとエメルちゃんは、道に落ちていた鱗を拾ったんだねー。お腹壊さなくてよかったよ。」
「ばう。」
大丈夫、この毛玉の胃腸は相当頑丈です。
「・・・結局それはなんなの?」
大事に布でくるみ箱にしまう様子を見守りながらリーフさんが訪ねるとルーザーさんは顎に拳を当てて空を仰ぐ。
「ううーん、ワニか、爬虫類のウロコを染色したものじゃないかな?あるいは炭酸カルシウムを固めて作ったか・・・そもそもね。」
ルーザーさんが説明してくれたことだけど。ワニのウロコは鱗板と呼ばれ、皮骨と言われる骨があり非常に丈夫らしい。バッグやベルトに加工されるワニ革は、この皮骨をはいで、薬液につけて柔らかくしたものなんだとか。この鱗は、背鱗板といって背中の皮膚の一部らしいけど、白すぎて骨と皮膚の境目が分からないほどらしい。
「成分検査は専門家にお願いしたいですねー。」
果たしてそこまでする必要はあるのだろうか?
この鱗が外から持ち込まれたものなのは、他ならぬルーザーさんが知っていることだ。なんとなく勢いで付き合っているけれど、この調査に意味はあったのだろうか。
「大事ですよ、あのくそオヤジがどこからこんなものを用意したのかは、判明していないんです。今後、このような贋作によるヤラセを無くすために、製作元を突き止めたいんです。」
「そこまでいくと、警察の仕事では?」
「さすがに、動いてはくれないでしょうね。」
そんな会話の中で、「俺」はリドルの関わりを考えていた。
白い鱗で真っ先に浮かぶ生き物といえば、セペクというRCD3の中ボスの巨大ワニだ。下水道を住処とする巨大ワニは地面を突き破って現れる上に、ストーリーが進むまでは不死身で撃退しかできないという厄介な敵だった。オープンワールドの世界でランダムに出現する強敵、ボス戦もキーアイテムも関係なく暴れまわるセペクは「暴君」とか「いきなりセペク」とか色々言われていた。
ただ、セペクを含めたボスたちは、ウッディリドルが3年かけて改造したものというアーカイブと、リドル家から飛び出していく描写があるので、リドル家がなくなった今、ボスたちが街を襲う未来はきっとこない。アーカイブにボスの詳細はなかったけど、ウッディ・リドルがどこかから持ち込んだ生き物にリドルを投与して巨大化、狂暴化させた存在としかない。その改造自体もリドルを増やすための苗床的な扱いで、本来は戦闘用のモンスターではなかったとのちの作品で発覚したりする。
(戦闘用といえば、1の殺人人形とか、2のグールとかだけど。)
殺人人形は、からくり人形を改造して自動化した凶器で、一定のルールで相手を追い詰める。対してグールはリドルに感染して発症して狂暴化した人間だ。こちらはルールなど関係なく扉も階段も全力疾走で獲物を追い詰める理不尽モンスター。
「これはこのまま、ミューランド大学の生物研究科に持っていきます。」
うん?
「ああ、たしか生物の進化について研究しているんでしたっけ。恐竜の化石なども多く保管されていると聞きますね。」
「はい、あそこの研究室なら、これが生物の一部なのか偽物なのかはっきりすると思うんです。」
「よく伝手がありますねー。」
「実は、チャンネルのフォロワーにそこの研究者がいるんです、だから時々調査に協力してもらっていて。」
いやいや、待ってほしい。そこはまずい。
「ミューランド大学、ですか?」
願いを込めて僕はルーザーさんに確認した。どうか聞き間違えであってほしい。
「はい、ここから飛行機でとんぼ返りです。」
マジかよ。
「それはまた・・・。遠いですね。」
うん、やめておいた方がいい。というか、何で僕は気づいていなかったんだろう。
ミューランド大学はRCD2の舞台となる大学で、今から一年後にリドルによって地獄となる場所なのだから。
「いやいや、あそこは生物や医学に関しては国内、いや世界でもトップレベルの大学なんですよ。」
ニコニコしているルーザーさんに対して僕はかける言葉が見つからなかった。
自分の身の安全を確保できたことで、「俺」の知識にまで考えが及ばなかったホーリー。彼にとってはやはりゲームの世界の知識であるため、こうして身近にきっかけがないと、RCDの内容は想起されないのです。




