37 勢いに押されたというわけではなく、僕たちは乗せれらたんだと思う。
なんだかんだ、中学生の好奇心は強いねって話。
勢いに押されたというわけではなく、僕たちは乗せれらたんだと思う。
次の日の週末、僕たちはルーザーさんの願いを聞いて、スーパー周辺の調査に協力することにした。
「・・・初めてきた。」
「まあ、確かにここは車がないと来ないからねー。」
「ばう。」
ラルフさんの車で先導し、後ろにはレイモンド叔父さんが運転する小型車。週末でそれなりににぎわうスーパーの駐車場になんとか駐車して、再び合流すると、ルーザーさんはイキイキと周囲の写真を撮っていた。
「とりあえず、当日の流れを再現したいです。あ、経費はだしますんで、できる限り同じルートで買い物してください。」
「は、はあ。」
捜査の基本は再現だということで、メインはラルフさんとエメル。僕たちは見学だ。
「ふむ、まあ、あの日はこの子との初めての買い物だったから、わりと覚えているけど、確実じゃないですからね。」
そんなことを言いながら、ペット用のカートを取りに行くラルフさんもちょっとウキウキしているように見える。ラルフさんもミステリーポーターが好きだからねー。
「・・・もう何か月も経つんだねー。」
そんな様子にリーフさんはどこか感慨深そうに見守っていた。たしかに、ウッディ・リドル関連のゴタゴタやリーフさんの養親関係に中学進学と色々とばたばたしていた。
リドル家は解体され、地下室も証拠品が持ち出された上で埋め立てられて更地になった。そこに作為的な何かを感じることもあったけど、資産整理とかでリーフさんの貯金額はなんかすごいことになっているとこの前こっそり教えてくれた。
「あの日は、リーフが家に来る準備だったから、色々と食料品、あとは餌を選びに。」
「ばう。」
さも当然といった顔でカートでくつろぐエメルにほっこりしながら、僕たちは買い物をしていく。缶詰やドリンクなどの食料品に、洗剤やシャンプーなどの雑貨品。結構な量だったけど、確かにあの日は車が荷物で満載だったなー。
「ばう。」
そしてエメルは自由にカートから飛び出して、気になる商品の前でちょこんとお座りする。
「ああやって、欲しい物をアピールするんだよねー。」
「・・・エメルのセンスに外れはない。」
ほんとなんなんだろうね?この毛玉。
「この子の生態も興味深いですねー。」
次々にカートに積まれる商品とともにルーザーさんのテンションも愉快な事になっていた。
「これだけ賢く、興味の強い動物さんはね、私たちが気づかないことをふらっと見つけたりするんだよ。ミステリーポーターの取材でも、近所の動物の行動を追ったら見つかった証拠もあるんだ。」
「ええっと、ネコの集会とか、謎の磁場でしたっけ?」
「そうそれ、、謎の磁場の方は私も担当してたんだー。」
猫の集会というのは、ミステリーポーターの人気コーナーの一つで、各地にある猫のたまり場を調査し、その原因を調べたり、同じような環境を作ったりする活動だ。前者は気温や日当たりなどの条件などをデーターでまとめ、似たような条件や集まる猫の種類や保護している活動家の紹介などだ。後者の方は、集まったデーターの信ぴょう性を確認するために、ネコの多い地域に猫の楽園を作るというものだった。まあ、野良猫問題などの指摘があがり、保護施設の環境改善にシフトしたけど。
「リーフちゃんは猫好き?」
「・・・動物は大体好きです。」
「そっか、動物は、動物好きに懐くからねー、エメルちゃんも幸せだ。」
そうやってのんびりと買い物をしている僕らはそれなりに目立っていたけど、週末の込み合うスーパーではそんなもんだった。
エメルがドッグフードと猫用おやつの両方を欲しがったあたりは、なかなかシュールな光景だった。
「ふむ、買い物を終えて、車に運んでいる間にエメルちゃんがどこかへいったと。」
「まあ、賢い子だからね、ふらっと消えて、ふらっと戻ってくるんだよ。」
そしてその言葉どおり、エメルはするりと居なくなっていた。リーフさんがいるときにこの行動はめずらしい。
「・・・あっデブネコ様だ。」
「えっまじ、前の取材のときは会えなかったのに。ラッキー。」
ただ愉快なメンバーはエメルの存在を気にせず、久しぶりに見たデブネコ様に夢中だった。
「にゃあ。」
今日は駐車場の支払機の上でベロンと溶けているデブネコ様は、お客さんがキャーキャーはしゃぐ中でもいつ通りわが物顔でくつろいでいた。
「うわー、かわいい。ずいぶんと大きいけど、雑種?見た目は長毛種っぽいけど。」
キラキラと目を輝かせながら、デブネコ様を観察するルーザーさん。そういえば、ゲームでも猫好きで、ネコに関するトリビアで場を和ませるという展開があったな。
「この街はいいねー。穏やかだし、街の人達は歴史を大事にしている。だというのに・・・。」
「しょうがないだろ。テレビ番組なんてのはエンタメ優先、視聴率を取るために阿漕なことをするもんだと思ってないと。」
落ち込むルーザーさんを、今まで黙っていたレイモンド叔父さんがそっと慰める。ちなみに叔父さんもなんやかんや写真をとって熱心にメモを取ったり、ラルフさんとこそこそ話してはいた。
「それよりも、周囲の探索をしてみよう。鳥が居そうなのはあっちか?」
「ばう。」
とか思っていたらエメルが戻ってきた。
「バウバウ。」
毛玉が、白い鱗を持ってくる。なんてミラクルが起きるわけもなく。エメルはなにも持っていなかった。
「そう都合よくはいかないか。」
ちょっとだけ期待していたけど、そこまでうまくいくとは思えない。
「・・・ホーリー、あれ貸して。」
「えっあれって?」
「デジカメ。」
みんなが脱力する中、リーフさんは僕からデジカメを受け取り、あの鱗の画像をエメルにみせた。
「・・・ねえ、これ?どこにあったの?」
「ばう?」
うん、さすがに無理がある。
「ばうばう。」
と思ったらエメルはついてこいとばかりに声を上げてそそくさと走り出す。
「・・・行こう。」
「「「「いやいやいや。」」」」
マイペースなペットと飼い主の行動に僕たちはそうツッコミをいれるのであった。
「ばうばう。」
エメルが僕たちを導いたのは駐車場の片隅の日陰だった。
「・・・ここ?」
「ばう。」
ここだとばかりに鳴きながらぴょんぴょん跳ねるエメルだが、特別な物はなかった。
「いや、そもそもエメルがここで見つけたというのも怪しいでしょ。」
ラウルさんが苦笑するが、なんとなくここじゃないかとみんなは思った。
「見て、あそこに鳥の巣がある。もしかしたらあの巣材が落ちたのを見つけたのかもしれないわ。」
キョロキョロと周囲を見回したルーザーさんが目ざとく見つけたのは近くの木にできていた鳥の巣だった。藁や枝を組み合わせて作られた巣にしか見えないけど、カラスとかはハンガーを巣材に使うこともあるので、可能性はあるかもしれない。
「ちょっと私、見てきます。」
そして、止める間もなく木にしがみつき登りだすルーザーさんにはさすがに驚くが、そのままするすると木に登り巣を覗き込み。
「あった、あったよ。」
そのまま手を突っ込んで彼女が取り出したのは、あの白い鱗だった。
「まじか。ほんとに?」
「事実は小説より奇なりだよ、ホーリー。」
驚く僕たちに対して、なぜか叔父さんは誇らしげだった・・・。
なんだかんだ、平和な日常風景?




