36 ルイーザ・ザルキンはシリーズを通してもかなり人気キャラだ。
新たなる火種の可能性
ルイーザ・ザルキンはシリーズを通してもかなり人気キャラだ。
クールで毒舌ながら、オカルトや都市伝説に詳しく、ストーリーでは謎解きのヒントをくれたりやモンスターの元ネタを解説してくれたりと、殺伐した世界での清涼剤となる。
また、多くのモンスターに的確なニックネームを付けることから、「名付けママ」というあだ名もあったりする。
その圧倒的な人気でRCD4のラストで行方不明になったはずなのに、次回作のRCD5では最初からしれっとオペレーターとして復活していたほど。なんでも新作開発にあたり、過激なファンからルイーザの死亡を確定させるなと脅迫メールが届いたとか。いや俺はそんなことはしてないよ。
そんな彼女が目の前にいる。それは驚きとともに納得だ。RCD4でラルフとコンビを組む彼女だけど、彼の過去を知っていたし、どこか分かりあった雰囲気があった。
「もともとルーザーさんのサイトは好きです。フォローとイイねは毎回してます。」
そんなことよりもルーザーさんだ。彼女がルーザーさんだというならば僕としてはそっちの方が重要だ。
「そ、そうなの?うちの動画は年齢制限かかっているのもあるけど。」
「ブログの方ばかりですけど。都市伝説紹介系の。」
過激な内容(ホラー的)な意味で15歳以上限定公開になっている動画はともかく、考察は事例をまとめたブログの方は、ちょっとしたホラー小説のようで非常に面白かった。
「あれ、もしかして毎回感想を書いてくれるホーラー君だったり。」
「そうです、去年から毎回楽しみにしてます。」
おじさんもたまにはいい事をするじゃないか。
「おい、失礼だぞ。」
聞きたい記事が山ほどあり、大好物のハンバーグを食べながら僕は、ルーザーさんにあれこれと質問をさせてもらった。ビッグフットの足跡の捏造疑惑や、吸血鬼の生物学的な見解。どれも非常に興味深い話だった。
「でだ、ホーリー君。実はこの街に私が来たのは、君たちに会うためでもあったんだ?」
気づけばデザートとコーヒーが並ぶテーブルで、ルーザーさんは、おずおずと話を切り出した。
「えっ、僕、僕たち?」
「ホーリー、お前が前に送った白い鱗のことだ。」
「ああ、あれ?」
色々あって忘れていたけど、エメルが拾った鱗を見たときに撮った画像を送っておいたんだ。
「アレの話を聞きたい。できたら実物も見たい。」
なんでまた、と思いつつ白い鱗が鳥に持ってかれたというのは有名な話だった。それに。
「私はアレがなんなのか知りたいんだ。」
ルーザーさんが世間を騒がせたのも白い鱗に関わるアレコレだったけ、けど・・・。
「あれと関係があるとは・・・。」
「いや、画像を見た限りでは私の記憶と一致するんだよ。」
真剣な顔のルーザーさんに気圧されつつ僕は、カバンからデジカメを取り出す。何年か前にもらったおじさんのおさがりで、かなり古いもので、正直画像も荒い。
「あ、あった、これですか?」
当時は色々と悩むことがあっておじさんに、写真をメールしたけど、画像もテクニックも雑で白い何か程度にしかみえないくらい画像も荒れている。
「うーん、これ本物は?」
「ええっと、じつは。」
友人のペットが食べてしまいました。そう言ってしまったら彼女はがっかりするんじゃないだろうか。
「できたら発見者の話も聞きたい。どこで拾ったか、できたら現物も見たい。」
ものすごい真面目なルーザーさんに真実を告げるのに時間がかかったのは許してほしい。
次の日、土曜日の朝、新聞配達を終えた僕は、おじさんとルーザーさんを連れてダイナーローズへと来ていた。
「おはよう、リーフさん。」
「・・・おはよう。」
「ばう。」
店の前で待っていたリーフさんとエメルと挨拶を交わす。昨日の夜に電話して待ち合わせをしたのだ。当事者も交えて話した方が色々と早いと思ったからだ。
「ホーリー君、この子が?」
「ええっとはい。」
挨拶もそこそこ、エメルに近づくルーザーさんに、エメルがリーフさんの後ろに隠れてしまう。
「ああ、ごめん。焦ってしまったわ。」
「ばうー。」
気づいて謝るけれど、エメルはすっかり警戒してしまったようで、リーフさんの足元から離れようとしない。
「ホーリー、この子は犬でいいのか?」
「「さあ?」」
おじさんの質問に僕たちは声をそろえて首をふる。このモコモコ毛玉の正体は未だにわからない。わかっていることは食欲旺盛なことと、賢く人を選ぶことぐらいだ。
「・・・エメルは、私の近所にいた野良の子。賢いからお世話も簡単。」
しゃがんでエメルをなでながら、リーフさんがそう答える。犬か猫かはあまり関係ない。
「ふむ、でこの子が例のウロコを見つけたと、そして食べたと・・・。」
その様子を見ながらルーザーさんはあれこれ考えこんでしまう。
「おいおい、とりあえず店に入ろうぜ、店先で騒ぐのも迷惑だ。」
おじさんが促して店内に入ると、店内にはローズさんとラルフさんがいた。あいからず、モーニングの人気はないらしい。
「おはよう、ホーリー。そちらが・・・。」
「おっと、ラルフ・アルフレッドさんじゃないか、その節はお世話になったな。」
「ええっと、たしか。」
「レイモンド・ヒジリだ。改めて甥っ子の知り合いということで名刺を受け取ってくれないか?」
おじさんを見て、少し気まずそうなラルフさん相手にぐいぐいく叔父さんに申し訳ないと思いつつ、僕はリーフさんとルーザーさんと共にテーブルに座って、モーニングを注文する。
「こほん、先ほどは失礼しました。私は、ルイーザ・ザルキン。ルーザーという名前で動画配信サイトを運営しています。」
丁寧に出された名刺、QRコードからサイトにとべるようになっているみたいだけど、携帯のない僕たちは曖昧に笑って受け取るしかできない。
「さっそくだけど、あの画像をもう一度みせてくれないかな。」
「はい。」
言われてデジカメの画像を二人に見せる。
「・・・ああこれ。エメルが食べちゃったやつ。」
「やっぱりたべちゃったのかー。鱗はカルシウムとかだから動物がおやつ感覚で食べることがあるって聞いたことがあるけど、その後は大丈夫だった、あの子?」
うん、ぴんぴんしてました。
「あの子は悪食だから、何でも食べる。気を付けないとチョコレートとかタマネギも。」
「それは、本当に気を付けたほうがいいわよ。」
運ばれたモーニングを食べながら、僕たちは鱗について思い出そうとしたけど、三ヶ月も前の事で記憶は曖昧だ。
ラルフさんがエメルと一緒にスーパーへ買い出しへ行ったときに気づいたら咥えていたとのことだったし、珍しいから僕たちにも見せてあげようと取っておいたら、もぐもぐされてしまった。
「なんとも嘘っぽい話なんですけど。」
「いいえ、信じるわ。話を聞いて却って確信が深まったぐらい。」
昨日僕からから聞き出した話をリーフさんからも聞いたルーザーさんは納得顔だった。
「ふふふ、これでも色々と取材しているからね。でっち上げかどうかはわかるつもりよ。」
「・・・根拠、聞きたい。」
その様子にリーフさんが疑わし気にまゆを寄せるが、ルーザーさんは微笑んで写真を指さす。
「まずは写真ね。デジカメで直に見せてもらえたことから、加工の可能性は限りなく低い。デジカメも信用できるモデルだし。」
「そうなんですか?」
「うん、一時期のデジカメってメーカが独自の保存形式をとっているから加工が難しいの。とくにこのメーカは、精度が悪い代わりに信用度が高いのよ。まあ、フィルムカメラと比べるとあれだけど。」
「フィルムカメラ?」
「ああ、そうか今の子は知らないよねー。昔はフィルムで撮影してたんだけど、フィルムっていうのは・・・。」
そこから丁寧にフィルムカメラや、カメラの仕組みを丁寧に話してくれるルーザーさん。なかなかに話上手だけど、そのまま心霊写真の信ぴょう性を語っているのは彼女らしい。
「で、結局これはなんなんでしょうか?」
一通り話を聞いたところで、僕は改めて鱗の画像を見せる。覚えているのは真っ白でとげとげしていたこと。当時はセペクとか白い鰐を連想して怖かったけど。
「ワニのウロコってそうそうないですよね。」
「そうだよ、ゲームみたいにぽろぽろ落ちるものじゃないね。」
ネットや図鑑で調べたけれど、あんなぽろっと落ちているものではない。ワニの皮膚の一部が剥がれ落ちることもないらしい。
「・・・もしかして、ミステリーポーターのやらせ疑惑の?」
ここに来てリーフさんがぽつりと言った疑問に、僕は番組との関連を話していなかったことに気づく。
「そうそう、あの番組で発見された白い鱗。あとになって鳥に持ってかれたアレが、これじゃないか、私はそう思っているわ。」
マジ?といった感じでリーフさんとラルフさんの視線が僕に向けられるが、僕は首をふる。
「そんなわけないじゃないですか。場所も離れているし、番組とは違ったし。」
だよねと3人でうなづく。あとで一緒にテレビを見たときの大きさも違ったし、見た目も違う。
「いやいや、私は本物だったんだと思う。」
しかしルーザーさんはびしっと指をさす。
「まずは画像の信ぴょう性、アナタたちが白い鱗を拾った事実は確かよね。」
そうですねー、そこは否定しない。
「次に鱗のあった場所、あの時期の風の流れを天気図で調べたけど、話に聞いたスーパーの場所は、展示場の風下にあるのよ。」
テーブルに地図を広げて、丁寧に説明してくれる。確かに季節的に一定方向に風が吹くのは調べればわかる。その風にのって飛ぶ鳥が鱗を落としたならスーパーとその周辺が怪しいことになる。
「あとはあの子が食べたこと。そこから何かの生物のウロコってことも予想できる。実際触って確認した私も思ったけど、あれって生き物の一部だったよね?」
「「「確かに。」」」
簡潔で説得力のある説明に僕たちも信じてしまいそうになるけど。
「いや、でも大きさが違うんじゃ。」
「そこよ。」
ルーザーさんは元気よく地図に丸を付ける。
「鳥が食べるにしては、大きすぎる、硬すぎる。おそらくは巣材として持ち出したんだと思うのよ。その一部をあのこ、エメル君が拾ったなら可能性はあると思わない?」
いやいや、さすがにそれはないんじゃないかな?
「探してみる価値はあると思うの。お願い、この場所まで案内してくれるだけでいいから。」
うん、この勢いは報道関係者特有のものなんだろうか?
勢いに押されるままに僕たちは、こくこくと首を縦に振るのであった。
ホーリーの中でヤラセ関連の出来事はどうでもいいカテゴリーに入っていました。




