35 レイモンド叔父さんのことは嫌いではない。
ちょい悪叔父さんと甥っ子なお話?
レイモンド叔父さんのことは嫌いではない。
独身で、記者の仕事で各地を放浪しているからめったに帰ってこないけど、クリスマスや記念日の前後にはふらっと帰ってきて家の手伝いをしたり、お小遣いをくれたりする。両親が反対した新聞配達のお手伝いも叔父さんが推薦してくれたら実現した。
ただ、冷静な思春期的な視点からすると、ふらふらしているし、その言動はデリカシーにかけるところがある。
「ホーリー、悪かったて、さっきのはやりすぎた。」
「やりすぎた以前の問題だよ。リーフさんは今微妙な状況だって、メールで説明したじゃないか。」
「うう、それはそうだな。だが、第一印象だからと取り繕ってもしょうがないだろ。そう見えちゃったし。」
この野郎、反省していないな。
僕がイライラしているのは、デート云々でからかわれたからではない。ラルフさんとリーフさんを見てあからさまに驚いた態度を見せた上に、お前の名前を知っているぞといった態度をとったことだ。
「ああ、君たちが、例の・・・。」
意味もなく含みを持たせるのはレイモンド叔父さんの悪い癖だ。
「まあまあ、今日は進学祝いに叔父さんがおごっちゃうからな。」
そんな僕の態度をニヤニヤと笑いながらレイモンド叔父さんはゴキゲンにハンドルを切る。目的地は、ちょっとリッチなステーキハウス。そこのハンバーグは、僕の好物の一つで、帰ってくるときは奢ってもらうのが習慣となっている。
「ホーリー、新聞部に入ったんだってな、うれしいぞ。」
「別に叔父さんは関係ないよ。街の事をもっと調べたいと思っただけ。」
「本当に知りたいことはネットを頼らない。うん、大事だ。」
テーブルに座りながら、うんとなる?いつもは窓際の二人掛けの席なのだが、今日は奥にある4人掛けのテーブルだったのだ。
「どうした?」
さもなにもありませんと首をかしげる叔父さん。これは絶対何かを隠しているな。
「どうしていつもの席じゃないの?たしか、記者として、店の中も外も見れる席は譲れないって言ってたよね。そのために行くときは必ず予約してたじゃん。」
前置きが面倒なので座る前に指摘をすると叔父さんはニヤリと笑う。
「やるな、じゃあ問題だ。なぜ今日はこのテーブルなんだと思う?」
「そういうのいいから。一体、だれを紹介してくれるの?」
推理劇場に付き合う気はないので、僕は座ってメニューを開く。こういう演出を好むところも嫌いなんだったわ、そう言えば。
「うーん、ハンバーグステーキもいいけど、ミックスグリルも食べたいなー。いっそ全部のせ欲張りセットにしちゃおうかな。」
シンプルで大きなハンバーグもいいけど、色々な肉料理を色々食べたい気分でもある。
「降参だ。好きなやつを頼め、一番高い厚切りステーキでもいいぞ。」
「あれは食べづらいから嫌い。」
ボリュームと食べ応え優先のファミリー向けの料理を男2人で食べるのはちょっと。って、いい加減、スルーするのはちょっとまずいかな。
「そこの女の人じゃないの。とりあえず座ってもらいなよ。」
叔父さんが背後に隠している、いや僕が気づけるように配置していたんだろうけど、トイレの方からこちらをじっと見ている美人さんがいるのがばっちり見えてるんだよね。
「ははは、どうだ、ルーザー。俺の甥っ子は優秀だろ。」
「いやいや、レイモンドさんの演技がわざとらしいんです。笑いをこらえるのに必死でした。」
苦笑しながらこちらに近づいてくる女性。うん、予想通りだ。今日はこの人を紹介したくて、テーブル席にしたんだろう。以前にも気になる人がいると、まずは僕に紹介してリアクションを見てから両親や祖父母に紹介するか判断していた。
今回もそういうことなんだろう。
「なんというか、達観された子ですねー。ええっと、ホーリー君でしたっけ、よろしく。」
「ホーリー・ヒジリです。この度は叔父の悪ふざけに付き合っていただきありがとうございます。」
「ははは、そう言う感じだよね、あっ、私はルイーザ・ザルキン。ルーザーって名前で動画サイトやってます。」
「ルーザー?あのルーザーさんですか?」
まじかよ、おじさんなんて人を連れてきてるんだ。
「え、ええっと。たぶんそうよ。この街の人が一番に浮かぶルーザーは私です。」
件の暴露動画、その投稿者にして内部告発をした正義のテレビクルー。まさかの有名人と叔父さんが知り合いだったとは、なんというタイミングだろう。
叔父さんとルーザーさんが知り合いというのは驚くことじゃない。叔父さんはヤラセ疑惑とその後のアレコレにめっちゃ詳しかったし。動画の内容も叔父さん好みだ。
まあ、それはさておき、「俺」がうるさい。
まさか、ルーザーさんがルイーザ・ザルキンだったなんて。
そして、このタイミングでこの街に来ていたなんて、ファンとしては感動ものだ。
ルイーザ・ザルキン。RCD4から6にかけてラルフさんをサポートする後方支援担当のオペレーター。辛口な指摘とオカルト系の知識量が多いクール系美人。スマホのモニター越しにしかグラフィックが存在しない彼女を生身で見ることになった感動に、俺は震えていたのだった。
なんだかんだ、甥っ子が報道関係に興味を持ってくれてうれしいレイモンドおじさん。でも記者らしく目的はスクープだったようです。




