33 正直者が貧乏くじを引く、そんなことは分かっていた。
よくよく考えればゲームは終わっていない。そんな伏線と新キャラです。
(2023年 11月末)
正直者が貧乏くじを引く、そんなことは分かっていた。
「焼け太りはいいけど、アンチもひどいなー。」
私こと、ルイーザ・ザルキンは、自身のSNSと配信チャンネルに寄せられるメッセージの量に顔をしかめつつ、届いたメッセージを精査していた。
『ルーザーさんは、嘘つきです。ミステリーポーターがやらせなんてするはずがありません。あなたの心ない軽はずみの行動は非常に深いです。私たちは大変傷つきました。』
『リアル、やらせなしが売りの番組でやらせは許せない。私はルーザーさんを支持します。」
『自演乙、そもそもミステリーポーターなんて、最初から全部ヤラセだろ。』
『そもそもテレビがオワコン。』
『社内暴露、うちもしてほしいワ~。』
あの暴露動画から数か月。ネットの反応はアンチが7割、擁護が1割、便乗が2割。
都市伝説や噂を取り扱っている関係上、私のチャンネルは反論や否定をしてくる人が元々多い。
「いや、私の性格からかなー。」
私はオカルトとか都市伝説と言われるものを割と本気で信じている。正確にはそれらが悪意やいたずらによる捏造ではなく、根拠となる自然現象やエピソードなどがあることを信じている。そして、その中には本物と呼ばれる超常的な存在がいる可能性だってあるのだと。
幼いころからお化けや都市伝説が大好きだった。そういった児童書や漫画を嬉々として読んだし、肝試しや度胸試しは、冷静に状況を分析したものだ。
なんやかんやあって、ミステリーポーターの捜査員になれたのは幸運だったが、待っていたのは悲しき社会、いやテレビ局の実態だった。
かけらもオカルトを信じず数字と盛り上がりばかりを評価するプロデューサーと、そんな彼に取り入って予算と演出にこだわるスタッフ。同僚の中には自分と同じように真剣に捜査をしている人もいたが、成果は取り上げられ、雑用ばかりの日々だった。
それでも、自分たちの取材や捜査を喜んでくれる人がいるので頑張れた。
「あんのーくそデブがー。」
徐々に低迷していく視聴率。その責任を自分たちに押し付けたくそ野郎はあろうことか、ヤラセを強要した上に、バレそうになったら、その責任を私に押し付けようとした。
積年の鬱憤が爆発した。
ほろぐらい感情のまま、取材へ向かい、プロデューサーお気に入りのくそタレントが、ホテルで酒を飲んでいる間に捜査を進め、井戸の現場では隠しカメラで自分の行動を記録した。当然、プロデューサーの指示も録音済み。
証拠は充分だった。偽物のウロコを鑑定にだして、プロデューサーを地獄に叩き落す。そう言う計画だった。なのに鱗は鳥に盗まれ、直談判した上層部は、保身のために知らんぷり。なんなら私のミスがでっち上げられ、自主退職を進められた。
そして、彼らは私がネット界隈で有名なオカルト系動画投稿者だということは知らなかった。
それはもう、面白いぐらい燃えた。
名誉棄損で訴えられる覚悟で、番組の闇とため込んだ録音をぶちまけた。
最初の反撃は、事実無根という報道と弁護士による警告だった。プロデューサーと上層部は結託して私が、不良社員だったと喧伝した。番組の信頼を損ねる悪行だと涙ながらの記者会見をした。
私の住所は曝され、悪戯電話に嫌がらせもたくさんされた。SNSが荒れに荒れた。
私は口を閉じなかった。ネットで知り合った弁護士や探偵、新聞記者に情報を流し、彼らを通じて録音や動画の信ぴょう性を保証して、もう一度会社を訴えた。
「このままだと番組も終わるし、君の人生も終わってしまうぞ。」
ニヤニヤと私を脅すプロデューサーの顔面をぶっ飛ばした。もちろんその会話は録音、相手がその動画を使う前に生放送でセクハラ発言などもまとめて暴露してやった。
そうなると、同僚たちも立ち上がってくれた。過去の不祥事の証拠が山ほど重なり、局は信用を失った。司法の手に委ねられながら、プロデューサーはブサイクに泣きながら私をなじった。
「お前に何が分かるんだ。俺が、俺たちがテレビを世間を動かしていたんだぞ。」
報道の傲慢と言えるその絶叫は波紋を呼び、近年のテレビ離れに拍車をかけた。
テレビ局は崩壊寸前で、多くのスタッフやタレントが仕事を失った。
自業自得。嘘と汚職を無視し続けた結果の終焉だ。自分の行動は正義だと胸を張って言える。
『あなたの所為で、夫は仕事を失いました。なぜ、暴露なんてしたんですか。』
だが、こういうメッセージは心に来る。
自分が悪いわけじゃないと思っていても、行き場のない怒りをお門違いに自分にぶつけてくる人達が多い。攻めるべき相手は塀の中、ネットで気軽にコンタクトが撮れる自分は恰好の的ということだ。
「もういいや。」
この怨嗟は逆恨みか、八つ当たり。いっそのことサイトもほとぼりが冷めるまで閉鎖してしまえ。
『ルーザーはサイトを閉鎖したんだって。やっぱり暴露はガセ?』
『おバカ、あれだけ騒げば休みたくなるって。悪いのはテレビ局 定期』
『一部の関係者の所為。そこは忘れずに』
別サイトの掲示板のメッセージを見るのもやめて、ベッドに倒れこむ。もうどうでもいい。しばらくは寝て過ごしたい。
と思っていたらスマホにメッセジーが届いた。
HR 『あいからず、にぎやかだなーお前のサイトは。』
L 『なんですか、私、お休みしようと思ってるんですけど。』
既読スルーしてやろうと思っていたが、送り主はお世話になった人だったので、返事はする。
HR『重ねて言うが、お前は間違ってない。報道の先輩として俺が保証してやる。』
L『それはどうも。』
HR『で、休むというならば、バカンスに行く気はないか?』
L『バカンス?まあたしかに、旅行もいいですねー。』
HR『そうかなら善は急げだ。チケットを送ってやるから、俺の地元にこい?』
L『地元?それって例の?』
HR『甥っ子がな、例のウロコを拾ったらしい。』
L『ま?』
HR『まじまじ、実物は紛失してしまったけど、画像は残っている。』
L『なにそれ意味ないじゃですか。』
HR『いやいや、そんなことはないぞ。我が甥っ子は天才かもしれない。』
L『親馬鹿乙』
HR『鱗の出どころが分かるかもしれないとしてもか?』
L『詳しく。』
眠気は吹っ飛んでいた。メッセージではもどかしく通話を願う。
「もしもしヒジリさん。どういうことですか?」
『おう、甥っ子が面白いことに気づいてな。取材も兼ねてお前の意見も聞きたいんだ。』
「だーからー、詳しく。」
『色々と複雑でな。だから直接会って話したい。』
「このロートル。」
一流の新聞記者を自称するレイモンド・ヒジリ。暴露の件でもお世話になった昔気質の彼の言葉なら、根拠はあるということだろう。
「うそだったら、承知しませんよ。」
『安心しろ、旅費は経費で落とすから。』
この時に、話に乗るべきじゃなかった。
後になって後悔することになるけど、この時の私は彼の言葉の先が聞きたくて行動してしまった。
好奇心は猫だけでなく人も殺すことがある。
あるテレビ番組の不祥事とは関係ありません。
補足
ルイーザ・ザルキン 人気番組 「ミステリーポーター」の元スタッフ。名前をもじった「ルーザー」という名前でオカルト系動画配信サイトを運営している。




