31 歴史ある井戸の様子と話を聞いて感慨深い思い浸っていた捜査員たちだったが、
番組もクライマックス。
歴史ある井戸の様子と話を聞いて感慨深い思い浸っていた捜査員たちだったが、井戸そのものは、一般的な井戸と変わらず、不思議な事はなかった。丁寧に管理、保全され、大切にされていた。
ゆえにお便りにあった「白鰐さま」なる生物の存在の可能性は確認できなかった。
と思っていた。
「ねえ、あれはなんですか?」
部屋から出る直前、最後尾にいたカメラマンが部屋の片隅に落ちていた不自然なゴミに気づいたのだ。
「おや、取材が来るからと昨日も確認したんですけど、誰か入ったんですかねー。」
用務員さんがそのゴミを拾いポケットにしまおうとするが、その手が止まる。
「な、なんだこれは?」
驚き目を見開き固まる用務員さんに一同の視線とカメラが集まる。ピントずれから画像がはっきりするとそこにあったのは、生き物のウロコだった。
数多くの動物の生態を紹介してきた番組の捜査員や視聴者たちの目は肥えている。見間違うこともない。
「ちょっといいですか。」
緊張しつつ用務員さんからウロコを受け取った捜査員はルーペを取り出してその鱗を丁寧に確認する。乾燥し、硬くなっていたが、ゴツゴツとした表面と四角い形、ワニの背鱗板の一部と思えるそれは、不自然なほどに真っ白だった。
「いやでもこのサイズは。」
鱗は手のひらサイズ。捜査の一環で鰐の皮に触ったり、生きている鰐を見たことがある捜査員も首をかしげるほど大きい。これが体の一部だとしたら、鱗の持ち主のサイズは通常のワニよりもかなり大きい。
「そんなバカな、昨日見たときは何もそれに蓋も。」
用務員さんが驚いているのは、鱗というよりもこの場所に見知らぬものが落ちていたからだ。見学のあとなどに落とし物などが落ちていることは過去にもあったが、今回はテレビがくるということで、彼を含めた職員数名で徹底して掃除と確認をしたとのこと。
「誰かが出入りした可能性は?」
「いいえ、見学の前には安全のために換気して放置してしまうけど、今回は何もない事を確認してから施錠していたので。」
見学の前に掃除というのがちょっと観光地っぽいなと思うが、本番組への期待値の高さゆえか、準備を入念にした上で、直前の様子を写真にとっていたそうだ。スマホにあった画像を確認すると先ほど鱗が落ちていた場所も含めて床には何も落ちておらずきれいなものだった。
「もしかして、あんた達。」
「待ってください、我々はなにも。」
疑う用務員さんをなだめつつ、我々は再び外へとでる。謎のウロコはそのまま校長先生に渡され、事態はつかめないままだった。
なお、我々の撮影中も見学者多数おり、我々が井戸を見学している間、周辺に近づいた人達はいなかった。用務員さんや地元の人達を疑いたくはない。だが、もしかすると。
「「そんなことありえませんよ。」」
お互いがお互いを疑う険悪なムードの中、我々は井戸周辺での撮影の記録を確認した。
すると驚くべきことに、我々が部屋にはいった段階で白い鱗がそこに落ちていたのだ。
少なくとも我々スタッフと用務員さんの疑いは晴れ、お互いに謝罪となり大事には至らなかった。
しかし、では誰が、何のために?
掃除が行われたのは昨日の昼間、その後は施錠されていた。夜中に見張っている人はいなかったが、テレビがくるということで近所の人は夕方ごろまで見学へきていた。また鍵は金庫で厳重に管理され持ち出された形跡はない。
「となると、夜中のうちにだれかが悪戯したのかもしれませんねー。」
残念ながら、こういったケースは稀にあった。他の番組が盛り上がりのために仕掛けることもあれば、住民が悪戯半分ですることもある。
「今回は申し訳ない。」
色々な意味で謝罪をされた校長先生に捜査員も頭を下げる。我々の不用意な捜査が、歴史的な建築物にこのような悪戯を呼び込んでしまった。責任の一端はここにある。
その後は、郷土の歴史や地域の発展の様子などを丁寧にご説明いただいた。それらはアーカイブにて閲覧可能です。
かくして、のどかな街の微笑ましくもたくましい歴史を学び捜査員たちは、帰還した。白鰐さまの正体は依然として謎のままであるが、可愛らしいご当地ネコや、地元の記録を保全する熱心な活動を知れたことは充分な収穫とも言えた。
「え、なんですって、それは本当ですか?」
だが、そんな捜査員たちに更なる衝撃が走った。(CMへ)
「・・・CM多いね。」
「まあ、そうやって引っ張るのがテレビだから。」
数週間後、改めて他の捜査を行っていた番組に、街のある人物から連絡があった。
匿名D氏
「はい、あの鱗の調査結果なんですが、80%以上の確率で、生物のものと判明しました。鰐のウロコが剥がれ落ちる事はめったにないそうですが、炭素系の調査を見る限りで剥がれ落ちてすぐのものだったそうです。また染色した痕跡はなかく、もともとあの色だったそうです。」
その情報を頼りに我々は鱗の画像を確認したが、不自然に白く美しい鱗は自然の生き物のものとは思えない。端的な電話の直後、我々は慌てて街へとコンタクトをとったが、なんと更に驚くべき事実が発覚した。
第三小学校校長。
「あの鱗は悪戯だったようです。しかも先日紛失してしまったんです。情けない事に展示中に鳥が迷い込んで持ち去ってしまったんです。」
電話口で聞いた話に捜査員たちは、耳を疑った。番組のあとで興味をもった住人に向けに公開していたところ、カラスと思われる鳥が会場に乱入して持ち去ってしまったということだ。希望者には触ってもいいとガラスケースにはおかず警備員を立てただけだったことがあだとなってしまったようだ。
「地元の生き物にに詳しい人の話だと作り物だったらしいですね、ただまあそちらの番組は人気だったので、番組の小道具を見る感覚だったので、申し訳ない。」
謝罪をする校長だが、彼に非はない。
だが、そうなると匿名の電話はなんだったんだろうか?校長の話では、大学の専門家へ鑑定を依頼する前のことだったらしく、我々に連絡があったような事実はなかった。
これもまた悪戯なんだろうか。ただ、連絡があった日付は、紛失事件のあってからしばらく経った後。もしかしすると、事件のあとで誰かが拾って調査したことも・・・。
これ以上は想像の域をでない。
憶測や想像で物事を脚色するのはミステリーポーターの捜査員として失格である。
我々は今後も誠意ある捜査を心掛けていきたい。そして街の更なる発展と文化の維持を願いたい。
EDへ
というのが街を舞台とした初のテレビ番組は終了し、僕たちはふうと息をはいた。
「・・・面白かった、でもデブネコ様をもっと見たかった。」
「うん、まあ、そっちの方が良かったよね。」
久しぶりに見たけど、ミステリーポーターは面白い。ちょいちょい毒を吐きつつもリアルに捜査していく様子や、地元や投稿者に礼儀正しく対応する姿は今までの番組にはなかった。
「超リアルドキュメンタリー番組だっけ?なかなか良く出来てるねー。」
それが自分たちの住んでいる街ともなれば興味も惹かれる。当日の視聴率は高かったし、結構な割合でビデオが保管されている。
「・・・でもこれ、やらせなんでしょ?」
「ああ、そうそう。」
人気も出て新聞にも載り、街のみんなも満足な展開だった。それが、つい先日SNSに暴露投稿がされて大騒ぎとなった。
「たしか、ああ、そうだ。これだ。面白かったからその時の新聞は別にしておいたんだ。読むかい。」
「・・・ううん。その前に話を聞きたい。」
親切に新聞を持ってきてくれたラルフさん。けれどリーフさんは会話を望んだ。
「うーーん、ホーリー頼めるかい。僕は口下手らしいから。」
「ええ、僕ですか。まあいいですけど。アッ、リーフさん、新聞貸して、ちょっと確認したい。」
流れからそうなるとは思っていた。僕はリーフさんから新聞を受け取り、噂の記事を見る。
うんうん、やっぱり。
そういうことだったのか。
僕は一つの安心を確信した上で、暴露事件の一件を語ることになった。
コーヒーの香りが広まる心地よい部屋で、僕は事件のあらましを語り始めた。
引っ張るだけ、引っ張って謎の影で終わるこういうドキュメンタリー番組って懐かしさを感じますよ。
そして、立ち上がるヤラセ疑惑。個人的にはテレビは創作でやらせ、エンタメと思っているので、そういうので騒ぐのはちょっとと思っています。




