29 平和の街の下水道に現れた白き影。
テレビ番組風?
平和の街の下水道に現れた白き影。
多くの未確認生物の正体を暴いてきた当番組に、新たな情報がもたらされた。
「私の街には、デブネコ様という大きなネコがいます。犬みたいに大きくてモコモコしたお猫様なのですが、人慣れてしているのか絶対に動きません。餌やおもちゃで誘っても無視して、一度決めた場所が車道や人の家の玄関でも絶対に動かないんです。街の人も慣れているのか無理に動かそうとしないし、車も避けるのが暗黙の了解となっています。そんな動かないデブネコ様なんですが、毎日違う場所で寝ています。でも、だれもデブネコ様が歩いているところを見たことがないんです。やんちゃな友だちが一日中観察していたこともあるんですが、寝落ちしてい間に移動してしまってかないませんでした。カメラとかで撮影しても、いつの間にかいなくなっているんです。ぜひともミステリーポーターの捜査員の人に、デブネコ様が歩く姿をとらえてほしいです。あっでも、無理に持ち上げようとするすごく嫌がるので絶対に持ち上げないでください。機嫌がいいとなでさせてくれるのですが、デブネコ様をいじめると街の人がめっちゃ怒ります。」
なんともファンシーで可愛らしいお便り、これだけならば当番組のスタッフが動くことはなかっただろう。場所が場所なだけに、出張費も馬鹿にならないし、可愛い猫では刺激が足りない。
ゆえに、調査は保留と思われていたその時、番組にもう一通のお便りが届いた。
「僕の小学校には、昔から生徒にだけ伝わる不思議な話があります。それは白鰐さまと呼ばれる守り神様の話です。学校裏にある古井戸。そこには昔から白い鰐が住んでいると生徒たちの間では有名です。だから古井戸に悪戯をしてはいけないし、死んでしまったペットをその周りに埋めると白鰐様の力で蘇ると言われています。学校ができた当時からある井戸は今は使われていないんですけど、蓋を外すと底の方に水が見えます。僕の学校では昔の生活を勉強するためにその井戸を見学して、深い穴を掘った先人の知恵に驚くんです。落ちたら絶対登れないだろうなって竪穴を懐中電灯で照らすと水面が見えるんです。当時3年生だった僕も、順番にその穴を覗いていたんですが、僕の番のとき、水面が不自然に揺らいで、白い何が見えたんです。見間違えと思って他の子にも聞いたんですけど、見たのは僕だけでした。あれがなんだったのか未だににわかりません。ですが、アレが見間違えだと思えないんです。白鰐さまなのか、それとも別の生き物か、ぜひとも突き止めてください。」
学校や地元に残る歴史的遺物に不穏なエピソードが付随することは良くある話だ。日本の学校では、各学校に7つずつ怪談があるとも聞く。多くの場合が他の地域でのエピソードのオマージュや模倣であることが多い。しかしベテラン捜査員たちは、このエピソードにひっかりを覚えてネットでの追加調査をおこなった。
そして驚くべき真実が発覚した。(ここでCM)
「・・・白鰐様?」
「ええっと第三小学校にそんな噂があるらしいよ。撮影場所もそのあたりが中心だったみたいだし。」
「・・・デブネコ様が気になる。」
ベテラン捜査員たちは、このエピソードにひっかかりを覚えてネットでの追加調査をおこなった。
そして分かった真実は、お便りにあった井戸が実在すること、そしてその地下が現在は下水道につながっており広大な空間となっていることだ。地下水を求めて掘られた井戸であったが、上下水道の整備の過程で下水とつながって汚染されてしまったことで井戸として使えなくなったが、地域の人々の保全活動によって残された由緒あるものだった。そして、その保全活動の理由の一つして、ごく少数の住人によって信仰されている白鰐さまという存在も確認された。なんとこの白鰐様は、子どもの噂ではなく、街の公式記録にも残っている存在なのだ。
この時点で空飛ぶスパゲッティモンスター教のような目的をもった創作の線が濃厚である。逆に言えばそれを実際に調べるだけでも取れ高は確保できる。仮にダメでもその町にはデブネコ様がいる。それならばとケチな局長も、捜査員の派遣を決定。
相変わらず金と手間を惜しむ男である。
飛行機と車を乗り継ぐこと一日、街へと降りたった捜査員たちは、宿の確保と同時に、件の井戸についての聞き込みを開始した。
とある若者
「ああ、第三の井戸か。第三出身の子は一度は中を見るんだよねー。」
とある主婦
「デブネコ様?今日はスーパーの近くで見たわよ。白鰐さま?なにそれ?」
とある老人
「白鰐様か、物好きだなー。学校へ行けば資料もあると思うが、勝手に井戸にいかんようにな、いたずらをする子どもが多くてかなわんのよ。」
聞き込み調査から、デブネコ様が街の人に認知されていることはすぐにわかった。スマホで撮影された姿は脱力する猫そのもので、非常に愛らしく捜査員たちはほっこりした。一方で白鰐様の認知度は低く、その存在を信じている人は皆無だった。だが、ネットでの事前捜査で公式の資料が存在することは確認できる。捜査員たちは意を決して学校へ連絡、快く白鰐様と井戸に関する資料の閲覧を許可されたのだった。
第三小学校校長
「汚染された井戸を保全することには、住民でも意見が割れたそうです。ですが、白鰐
さまという守り神の話や、郷土資料を残すという目的から保全活動に熱心な人達がいましてね。この記録は、彼らがまとめた井戸とその周辺の開発の記録なんです。」
丁寧に保管された手書きの原本を校長先生は捜査員の前に差し出した。だいぶ年期の入ったそれを触るのをためらう捜査員だが、直後に再販された資料を差し出される。
そこには、お便りにあった白鰐さまに関する記述が確かにあった。
西部開拓期、金鉱山を求めて全土に広がった移民の一団が居ついたこの街は、立地的には申し分なかったが、水場から遠くなかなか人が居つかなかった。長い旅の果てにどうにもならないと嘆く住人たち、そんな彼らはある日、乾燥地帯にはいるはずのない白い鰐を発見する。
鰐がいるということは水場がどこかにある。食料としての価値もある。住人たちは鰐を追うが、どんなに急いでも、いつも見失ってしまう。そもそも白い鰐という時点で怪しいが、住人達の多くは鰐を見たことがなく、その色には疑問を持たなかった。
結局、白い鰐を捕まえることはできなかったが、見失った場所を調べていくと、疑わしい場所が判明する。きっと運命だと思った村人たちは、協力してその場所に井戸を掘ると、見事に水がでた。それをきっかけに各地で井戸が掘られ、人々が居ついて、今日の街となった。
不思議なことにそれ以降、白い鰐を見ることはなくなったらしい。
当時の話を知る人達は、きっと精霊様の使いと信じ、白い鰐に感謝して、最初の井戸である、第三小学校の井戸を大事にしていくのだった。
第三小学校校長
「赴任が決まって、地元の人に挨拶をしたときに、一番に話されたのがこの話でした。それだけ地域では大事にされているんです。」
校長先生は笑顔でそう言っていた。だからこそ過去にきた、ミーハーなテレビ番組や自称研究家などはお断りしていた。ただ、校長先生や教員たちがミステリーポーターのファンということで特別に許可がでたとのこと。
ここに来て、番組の積み重ねてきた信頼の高さを誇りつつ、我々はいよいよ、噂の井戸へとむかったのだった。(CMへ)
「・・・白鰐さま、そんな話があるんだねー。」
「郷土資料だから、中学校の図書室でも読めるよ。今は人気で貸し出し待ちみたいだけど。」
「ははは、ネットでも考察サイトとかもできたらしいね。」
「バウ。」
「・・・そうだね、デブネコ様はまだ?」
噂の井戸は、保全のためにコンクリートの建物で覆われていた。
第三小学校用務員
「定期的に掃除とか整備はしているけど、井戸は当時のままです。授業の一環で毎年生徒が見学するけど、それ以外は基本的に施錠してます。自由解放という話もあったんですけど、どうしても悪戯を企むやつがいるんですよ。ほら。」
そういって用務員さんが指さす壁には、いくつかの落書きの跡があった。子どもの悪戯として微笑ましい気もするが、同時にこれほど大事にかつ厳重に管理されている場所に捜査員たちは強く興味を惹かれた。保全のためにこのように囲われている場所はあるが、清掃も含めてここまで大事にされている場所は、当番組の歴史でもかなり珍しい。
歴史的な建築物。それをこの目にできることに期待が高まるところだ。
ここで捜査員は改めてお便りを確認する。
実際に井戸を見学するのは、番組の後半となります。
○○探検隊を意識したけどいかがでしょうか?
資料といっても○○区読本みたいな郷土資料でしかない。
長くなったので、もう一話引っ張ります。




