28 ローマならぬ、リドルは一日にして、ならず。
それでも世界は止まらない。
ローマならぬ、リドルは一日にして、ならず。私はすべてを捧げて準備をしてきた。だというのにあの娘は欠陥品だった。痛みごときで怯み、感情で制御を失う。だから暴走した。強靭さを追求してしまった結果、致命的に品性が足りない。マーガレットは忍耐強く、つらい闘病生活でも微笑んでいてくれたというのに。彼女の血を引いているとは思えないほど醜悪な作品となってしまった。やはり混ざり者ではだめだ、次は純粋なものを作るところから始めないと。
俺の中にあった胸糞悪いウッディ・リドルの手記の一文。内容はともかく、気になるのは最初の一文、ローマならぬ、リドルは一日にして、ならず。ゲームをプレイしているときは長い研究と虐待の日々の事だと思っていたけど、街を覆い尽くすほどの悪夢が研究室だけで作れるものだろうか?
白いウロコから始まった僕の不安。しかし、それは意外な形から解決することになった。
「ねえー、この前の暴露動画見た?」
「ああ、あのドキュメンタリー番組のやらせ疑惑でしょ。あれはマジでないって思ったわ。」
新学期独特のまだ落ち着きのない教室で耳に入った噂。それはとあるテレビ番組がやらせをしているという暴露動画の話だった。
「・・・みんなは何の話をしているの?」
「ええっと、たぶん、ミステリーポーターのことだ。」
ミステリーポーターという人気番組。視聴者から送られた話をもとに、ご当地の謎や噂をタレントが調査し、そのルーツや正体をガチンコで調査するというドキュメンタリー番組だ。若手タレントが半年近くかけて必死に調べた内容は、些細な物からゴシップ的なものまで幅広いが、没も含めて専用サイトにアーカイブを公開していることと、その信ぴょう性が売りだった。
そんな人気番組のスタッフの内部告発、とある調査に置いてやらせがあったというニュースが最近の話題となっていた。そして。とある調査が行われたのが、なんとこの街だったのだ。
(色々あって、忘れてたけど。叔父さんが怒るだろうなって思ったけ?)
リーフさんに説明しながら、僕もその放送を見ていたことを思い出していた。
「・・・どんな話だったの?」
「ええっと、この街の地下に未確認生物がいるって噂があって・・・。」
あれ、これって?
「あああああああ。」
ガタンと立ち上がって、僕は頭を抱えた。そうだ、そうだったじゃん。
「・・・ホーリー?」
「あっごめん、ちょっと忘れ物を思い出して。」
「・・・教科書なら、一緒に見る?」
「いや、大丈夫、配達の事だから。今すぐじゃないから。」
これは帰って確認しないといけない。いやそれ以前にみんなの視線が痛い。
「・・・ねえ、だったら、番組の話。」
うん、リーフさんのマイペースに癒される。
照れとあせりを誤魔化しつつ、僕はリーフさんに番組の話をした、そしたら周囲の生徒も混ざって自分の好きな企画の話となり、先生が来るまでまた騒がしくなり、怒られたのは別の話。
そんなこんなで放課後、用事があると迎えに来てくれたラルフさんの車で送られながら、話題はまだその番組だった。
「そういえば、新聞に記事にもなっていったねー、この街にテレビなんて珍しいと思ったよ。」
「はい、取材が来る回と内部告発の時は、新聞がいつもより売れたって店長が言ってました。」
「ははは、地元が紹介されるとそれだけでうれしいからね。」
そう、番組の事は新聞の記事になっていた。普段は新聞なんて読まない僕も、店長に薦めれて読んだぐらいだ。そして、その暴露記事にあった。
「・・・その番組、見てみたい。」
「「えっ?」」
膝の上のエメルをなでながらリーフさんがぽつりとつぶやいた。
「・・・私、見てみたい。どうせなら暴露記事の前に番組を見たい。」
ぷーとほほを膨らませて不満と希望を口にするリーフさん。それを見て僕たちは思わず笑ってしまった。
「そうだね、アーカイブから当該番組は削除されたらしいけど。ローズさんが録画していたと言っていたから、ダイナーへ行ったら聞いてみよう。」
「やらせでも面白いから、リーフさんもきっと気に入ると思うよ。」
友人の微笑ましい姿にほっこりしながら、僕は安心していた。
あの番組をもう一度見て、確認したいと思っていたのは、僕もだからだ。
ネット社会、SNSに敗北した悲しきモンスター
なお「ミステリーポーター」という番組は作者の想像です、実際の番組とかテレビ局とかは関係ありません。次回は噂の番組の内容だ。




