25 格の差とか女子の諍いは男子には関係ない。
学校探検、そして逃れらない、フラグ回収
格の差とか女子の諍いは男子には関係ない。
というか、そういうのに女子がこだわるから思春期の男子と女子の関係は微妙な物になる。と誰かが言っていた。
「ねえ、聞いた。サラたちのグループ、リーフさんにマウント取ろうとして返り討ちにあったらしいよ。」
「違う違う、そもそも相手にされなかったって聞いた。」
ぞろぞろと校内を案内されながら、僕は周囲の女子グループ(サラたちは別)の噂話が気になって集中できていなかった。
「あいつら、6年の時にやらかしたからクラス中からハブられてんのに、まだやるか。」
「そうだよねー、触らぬ神に祟りなしだってのに、わざわざ別のクラスのリーフさんに絡んでいくとか、ざまあ。」
なんとも辛辣な話だ。
「・・・図書館、どんな本があるんだろう。」
ちなみにリーフさんは全く興味なし。大人しく歩きながら先輩たちの説明を熱心に聞き、視線は施設にしか向いてない。なまじ成長が他の子よりも早く、一回りお姉さんな彼女のそんな様子はなんというか。
「てか、かわいくない?」
「うん、小学校のときはもっと地味というか大人しかったし。」
それ、僕も思います。でもこれが彼女の素です。
「ねえ、貴方、たしか、リーフだったよね。本好きなの?」
「うん、リンダさんも好きなの?」
「えっ?」
「たしか4年のときに同じクラスだったよね。話すのは初めてだけど。」
「マジ?覚えてくれてうれしいわ。うん、私は本が好きってより図書館の雰囲気が好きって感じなんよ。」
「ちょっと、私も混ぜてよ、リーフさん私はわかる。たしか3年の時一緒だった。」
「サラさんだよね。覚えてる。」
「すごい、まじで全員覚えてるの?」
「クラスで最初に自己紹介するよね。」
「「いやいや、普通は憶えてないって。」
そうなのと首をかしげるリーフさん、その姿に話しかけた女子たちがキュンとなっていた。
「まあいいや、同じグループだったし、授業が一緒になったらよろしくね?」
「・・・よろしくって。」
リーフさん、隣の席に座ろうとか、ランチを一緒に食べようってことだよ。とフォローしたいけど
「あははは、リーフさん面白い。そうだね、もう私たち友達じゃん。」
「そこ、仲良くするのはいいが、静かにしなさい。」
まあ、そんなことは関係なく、きっかけ一つで女の子は仲良くなるし姦しい。
「さて、せっかくなので、10分ほど図書館の見学を許可する。貸出は明日以降だが、学生証があればだれでも借りれるぞ。」
おおと歓声をあげて、生徒たちは思い思いの場所へ行く。
「リーフ、こっちこっち、小説系見て見よう。」
「・・・小説か、あんまり読まない。」
「そうなの、普段はどんなの読むの?」
「・・・最近読んだのは、図鑑?」
「ああ、そっち系か、そういうのもいいよねー。」
なんか懐かれている。あんまり心配する必要はないってことだろうか?
助けを求めるように見えたのは僕の自意識過剰だった・・・。
そんな彼女の様子を見守りながら、僕ものんびりと図書館を見回す。中学の図書館に来るのは初めてだ。そして、「俺」がどこかうずうずしていた。
RCD3は町全体をステージにしたオープンワールド型ゲームだ。街の各地で暴れるボスを倒し、ヒントやキーアイテムを入手する。この中学校は、最終ステージに入るための時計の針を入手するために訪れることになるが、よほど思い入れがあったのか、どのタイミングで来ても学校は廃墟になっている。なっているが、
「でも本棚の配置とか階段は同じだ。」
天井は崩れ、穴だらけになっていたゲームのステージとは比べようがないが、構造や配置は似ている。崩れまくった校舎に対して比較的損傷の少ない図書室の中にあるヒントを入手し、罠をはってボスを体育館へおびき出す。
「そうそう、たしか6番の本棚の6段目の文庫本。それがキーアイテムだった。」
俺の知識に引っ張られるように本棚へと向かうが、さすがにキーアイテムはなかった。なんなら文庫本コーナーではなく、ハードカバーの小難しい本ばかりだった。
「いや、違う。たしか事件の直前に大規模な配置換えがあったから。」
キーアイテムになった本は文庫本コーナー?
何度も言っているが事件はもう終わっている。この図書館も街も破壊されることはない。モンスターもここにはいないはず。
そう言い聞かせながら、僕は文庫本コーナーへと向かい、記憶を頼りにその本を探す。幸いアルファベット順になっているので、探すのは簡単だし、見つからなければそれまでだ。
「EL LIBRO DE LOS SERES IMAGINARIOS(幻獣辞典)、作者は確か、ホルヘ・ルイス・ボルヘス。」
キーアイテムとなるのは古今東西のファンタジーな生き物を紹介するエッセイ集。その本に記された情報からラルフ・アルフレッドはモンスターのヒントを得る。というか、弱点が落書きされていたのだ。
「・・・これ?」
「ああ、ありがとう。ってリーフさん。」
「声に出てたよ。」
いつの間にか横にいたリーフさんが上の方の本棚にあったその一冊をとり手渡してくれた。
「へ、ホーリーってそういうの好きなの?」
「うわー、夢見る男の子ってこと、かわいいじゃん。」
ちなみにリンダとサラもいる。そういえば文庫本コーナーへ行くって言ってたな。
「・・・これ、結構有名。スペインの作家さんが書いてて翻訳もされてる・・・はず。」
「「「そうなんだ。」」」
博識なリーフさんに僕たちは、もうメロメロだよ。なんだろうこのカワイイ生き物。
「そ、そうなんだ、僕は名前しか知らなかったけど、リーフさんは読んだことあるの?」
「うん、結構面白かった。ドラゴンとか、ユニコ―ンとかの元ネタって感じ。」
「へえー。」
普通に会話しながら僕は、パラパラとページをめくる。
そんな様子を女子2人がニヤニヤと見ていたことを後で知って赤面することになるが、今は顔が真っ青になった。
「な、なんで。」
Not make eye contact.(目を合わせるな。)
とあるページを塗りつぶさんばかりに乱暴かつ大胆に書かれた文字。
「うわ、なにこれ、悪戯?」
「最低。」
突然現れたそのページと文字に全員が眉を顰める。マジックか何かで書かれたと思われる文字はイタズラにしか見えないが、俺には違う意味があった。
(えっいるの、バジリスクが?)
RCD3の中ボスの一つである大蛇。廃墟の隙間を縫って獲物に近づき、その瞳を見たモノは石になる。ファンタジーでも有名な蛇でもあるけど、弱点である頭を狙うとカウンターで即死するという理不尽なボス。Not make eye contact.(目を合わせるな。)というのは、それを示唆するヒントだったはず・・・。
「と、とりあえず司書の先生のところに持ってってみるね。」
「そうだね、お疲れー。」
そっとページを閉じて僕は、3人そう告げてカウンターへと向かった。女子たちの興味もすぐに他の本に移った。
「すいません。この本なんですが。」
僕はまっすぐカウンターに行って、司書の先生に事情を話した。そしたら苦笑まじりに感謝された。どうも文庫本コーナーは死角になりやすく、このようなイタズラをする不届き者が時々いるらしい。
「ありがとう。この本はすぐに新しいのを入れておくから、少し待っておくれ。」
恰幅の良い司書の先生はそう言って本を、カウンターの奥に置く。
「その本ってどうするんですか?」
「うん、写真をとって、校長に確認してもらったら廃棄だね。さすがにこれだけ派手に落書きされたら置いておけないよ。」
「そうですか、本楽しみにしてますね。」
ぺこりと頭を下げると、ちょうど見学の時間も終わってしまった。
(これで良かったのだろうか?)
俺の記憶では、あのメモは街が廃墟になったタイミングで、生き残った職員の人が図書館に残したものだ。何故文庫本?とプレイした時は首を傾げたものだけど、そうやって隠されたことで主人公に、バジリスクの詳細と例のヒントが届くのだから、ご都合主義とも言える。
なんともモヤモヤしたものだけど、そのあとはリンダとサラに、リーフさんとの仲をからかわれたり質問されたりして、それどころではなくなっていた。
思い出したのは入学して一か月、司書の先生から新品の幻獣辞典の入荷を教えてもらったときだった。
まあ、それだけの期間何事もなかったなら、問題ないだろう。
どこか楽観した気持ちで僕は、新品の幻獣辞典を借り、その内容が面白くてちょっとハマってしまうのだった。
なんだかんだ中学生ぐらいの女子同士のあれやこれって大変なんですよねー。そして、女子のおもちゃになることが決まりつつあるホーリーと、マイペースなリーフ。学校生活は楽しそう。
次回は文庫本の裏話。




