20 それは最初からそうであったと思うほど、丁寧で違和感がなかった。
ホラー攻略RTA
それは最初からそうであったと思うほど、丁寧で違和感がなかった。きれいに並べられた正方形の白いタイル、ホコリなどの汚れがうっすらとあるが、充分にキレイな壁。だが、数十秒前にはたしかに扉があったはず・・・。
「・・・どうして?」
不思議そうに首をかしげるリーフさんの言葉ではないが、3人と一匹が、隠し扉の存在に驚いて目を離していたのは数秒となかった。それなのに、まるで最初から何もなかったかのように壁はタイルで敷き詰められていた。
「悪趣味だな。」
言いながら、大股で壁に近づき、再びタイルを観察するラルフさん。
「これか。」
そして妙にきれいなタイルを見つけ、こちらを振り返る。
「2人はそっちを見ていてくれ。」
「はい。」「・・・わかった。」
ラルフさんの意図を理解して僕たちは部屋のすみっこに進み、先ほど開いた扉をみる。絶妙な大きななので、両方を同時に見ることが難しい。
「押すぞ。」
ガコンとタイルが押し込まれ、タイルがスライドして、扉が開く、それと同時にもう一つの扉の周辺のタイルがスライドして扉が隠されてしまう。
「・・・なるほど。」
格子の向こうの暗闇と、白い壁を見ながら「俺」は何となく理解した。
「危なかった、下手に進んだら迷っていたかもしれない。」
「待ってください、おかしいです。」
現れた格子扉を開けようとしたラルフさんを止める。
「なんで、明かりがついてないんですか?」
言われて、2人もはっとして格子の向こうを見る。そこにあるのは暗闇で何とも言えない気配があった。
「・・・扉が閉まるたびに消えるのかもよ?」
「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。でもあのスイッチって一度オンにしたら簡単にはオフにできないタイプなんだよ。」
古いタイプのスイッチはオンとオフがはっきりしているタイプ、素人配線なこともあって自動な機能があるとは思えなかった。
「そうだね、ホーリー、よく気づいたね。となると、向こうは別の部屋ということか。」
実際にスイッチを操作した2人も納得し、それでいて不思議そうだった。
「・・・でもそんなことがありうる?ここ地下だよ?」
「駐車場のような設備なのかもしれない、だとしたら技術の無駄遣いだと思うが。」
それでも受け入れているのは、同じような部屋が3回も続いた異常を経験したからだろう。これだけのことをしていたら、そんな不思議が起こってもおかしくない。そんな思考になってしまう。
「もしかすると、同じような部屋をいくつもループさせる防犯装置なのかもしれない。よっぽど何かを隠したいのか、それとも悪趣味なしかけなのか。ああ、いやごめん。」
「・・・大丈夫、パパはやっぱりオカシイ。」
色々と考えつつ、僕らは次の行動に悩む。
進むにしろ、戻るにしろ、この状況のルールが分からない。
が、「俺」はこの状況に心当たりがあった。
(これってRCD5の無限ルームと同じだ。)
のちの作品ででてくるこのギミックは、文字通り同じような部屋を何度も通り抜ける死にゲー覚えゲーなステージだった。「リベンジャー」という極悪な敵から逃げつつ迷い込んだ謎の部屋、ランダムに配置の変わるスイッチを操作して、次の部屋を開けて追いつかれる前にステージを突破しないとならない。そんな感じ。
攻略方法としては、スイッチを操作しつつ部屋を荒して、すでに突破した部屋かそうじゃないかを判断すること、明かりのオンとオフも判断材料の一つだった。
「手の込んだことを・・・。」
それが何故ここにあるのかも、「俺」の記憶にあった。この無限ルームのギミックはRCD3の段階でも提案されていたステージだったけど、開発段階で没になった。そういう製作者のインタビューがあるのだ。それを反映し、サイドストーリーとして、ウッディ・リドルがこのギミックを用意してからボツにしたというエピソードがのちに追加された。
僕の行動によって始まる前に終わったウッディ・リドルの企み。その結果としてこの無限ルームが残ったのだろうけど・・・。後付けの設定まで盛り込まれた世界なのかここは。
と困惑する「俺」がいる。しかし、今は「僕」がいるこの場所がリアルで現実だ。
「たしか、この辺り。」
僕は、反対側の壁のタイルを探る、そして最初に自分が押したタイルを探す。深く考えていなかったからよく覚えてないから大体になってしまうけど、幸いなことに押せるのはそこだけだった。
ガコン。奥に引っ込むタイルとスライドするタイル。そして現れたのは格子の向こうは明かりがついていて、僕たちが入ってきた階段も見えた。
「やったー。」
「なるほど、タイルと行ける部屋が連動していたのか。よかった変に奥に進んでいたら戻れなくなっていたかもしれない。」
ほっとした様子でラルフさんは部屋へと入り込み、階段の奥を懐中電灯で照らす。
「よし、戻ろう。ここは長居したくない。」
まったくもって同意である。見知らぬステージに「俺」が後ろ髪ひかれたけれど、僕たちは反対することもなく、部屋をでて我先にと階段を上っていた。
「ばうー。」
「エメル、大人しくしなさい。」
リーフさんの腕の中でむずがゆそうに暴れるエメルだが、がっちり抱っこされているので逃げ出すことはできないようだった。
「しかし、流石にこれはローガンに伝えないとか・・・。」
「ですねー。」
あわよくば扉は見なかったことにしたかった。だがこのギミックを知らずに他の人が迷い込んだら大変なことになる。長いロープ、あるいは壁を壊すハンマーのようなものを用意して進む必要がある。
「「何事もなければいいけど。」」
その言葉がフラグにならないことを祈らずにはいられなかった。
シリーズガチ勢の「俺」と、前作主人公、そしてラスボスのトリオは最強です。本来ならばいくつか部屋を抜けた先で異変に気づき、その時点で部屋の組み合わせがランダムになるところですが、ホーリーの機転で何事もなく脱出が可能となっています。




