17 ゲームとかにある謎ギミックってなぜあるんだろうと思ったけど、理由が分かった気がする。
わくわく、どきどき、ラスダン探検
ゲームとかにある謎ギミックってなぜあるんだろうと思ったけど、理由が分かった気がする。
「これは、すごいなー。」
「俺」が感動する中、僕はリドル家の応接間の大時計に近づき。
「ホーリー、何があるかわからないから、うろちょろしないように。」
「はい。」
そして、ラルフさんに窘められた。
外で待つのもあれなので、僕とラルフさんはリドル邸へと足を踏み入れた。黄色と黒のテープで表は封鎖されていたけど、家の中は変わらずだった。キレイに掃除された応接間に丁寧に閉じられた戸棚、いくつか歯抜きになっているが整えられた本棚。警察の捜査があったという割にはずいぶんときれいだ。ああいう捜査って、乱暴に荒らされたあとに捜査員さんが大量の段ボールを抱えて出ていくイメージがあったんだけど。
「まあ、娘さんが一人だけ残されたという状況だからね、現場の人も気を使ったんだと思うよ。」
「・・・なるほど。」
「まあ、ローガン含めもともと怪しいと思っていた人も多かったから、見えないところは、徹底しているみたいだよ。おそらく戸棚とか書斎は空っぽだろうね。」
元警察官らしいことを声を潜めていうラルフさん。触らないようにと僕に言いながら、視線を周囲にキョロキョロとしているのは、彼にとっても警戒する場所だからだ。
「ローガン達の話では、ウッディ・リドルは何らかの薬物の依存症らしい。常人離れした力と家屋と娘さんに対する異常な執着。それだけならただのジャンキーだとも言える。」
でもそうじゃないんだろ?とラルフさんは目で聞いてきた。
明言を避けているのは、先日のわだかまりがあるからだ。あの鬼畜ゲーの世界を生き残り、お前が人外とファンから愛されるラルフ・アルフレッド。彼ならばわずかな違和感から、この事件にもっと早く気づいていたかもしれない。
「現実は非情さ。虐待や家庭問題があったとしても、警察は民事不介入。傷害などの犯罪行為の証拠が見つからなければ、動けない。彼女は運が良かった。」
うろうろと歩こうとする僕を見張りながら、ラルフさんは独り言のようにいう。
「それでも旦那が浮気しているから調査してくれとか、母親がボケてしまったから引き取ってくれとか、あれもこれも警察へ通報されたねー。ああ、隣の犬の鳴き声がうるさいから射殺してくれとかあったよ。」
「それは、また。」
まるでコミックの世界だ。僕の知っている警察官と言えば、夕方に子どもたちを追い回すローガンさんか、映画で銃を乱射しているガンマンみたいな人達だ。
「子どもが知ることじゃなかったね。僕はキッチンの方を見てくるから。大人しくしているんだよ。」
「いいんですか?」
「愛用のマグカップやお皿なんかを持ち出す分には文句は言われないよ。それにあらかたの証拠とか貴重品は持ち出されているから問題はない。あっでも内緒ね。」
そう言って部屋の奥へと進んでいくラルフさん。その姿が見えなくなったら、「僕たち」は改めて応接間の大時計の前に立った。
天井に届くほどに大きいが、その針は動いていない。ネジ巻式?というやつらしいが、動かなくなった古時計はリドル家が引っ越す以前からあるもので、今はインテリアとして置かれている。
というのは「俺」の知識。
何を隠そう、この大時計は、この家の地下へとつながるラストダンジョンへの入口、隠し扉なのだ。
「たしか、9時5分45秒に針をセットするんだっけ?」
隠し扉を開けるには、街の各地にいるボスモンスターを倒して、時計の針とネジ巻を集め、この家にある日記の謎解きをして、9時5分45秒にする必要がある。ちなみに時間に深い意味はない。
「って、まて、針がそろってる。というかネジ巻もささってるじゃん。」
感慨深げに見ていたら、必要なアイテムがすべてそろっていた。
「それもそうか、地下ダンジョンはウッディ・リドルが娘から逃げるために封鎖したんだった。」
娘が暴走したときに、恐慌状態に陥ったウッディ・リドルは、試験体として作っていた4体のモンスターに各パーツをもって逃げるように命令し、本人は地下へと逃げた。しかし、モンスターたちはすぐにリーフ・リドルによって支配され、街を破壊し始める。父親と街への復讐に狂うリーフ・リドルは、その事実を知らず、父親を探して被害が拡大したという悪辣なストーリー。
うん、ひどいわー。
まあ、それは回避できた未来だ。問題はゲームのラスダンへの扉が目の前にあることだ。おそらく、危険はない。RCDでは黒幕が敗北した瞬間に、それに関わるリドルも消滅する。ウッディ・リドルが逮捕され、今日まで目立った事件が起きていないということは、この扉の先にあるのは、ダンジョンになる前の地下室があるだけ・・・のはず。
いや、パーツを持ち去った試験体の4体が飛び出してくるかも?
誰かに立ち会ってもらう?いや、どうして見つけたと聞かれたら困る。
そうだ、気づいたら、開いたってことにしよう。
わずかなためらいと、抑えきれない好奇心で僕はネジを回す。何年も動かされていないはずの大時計はあっさりと動き、僕は素早く9時5分45秒にセットして、すぐに距離をとる。
キリキリ、ギリギリ、カチコチ。
最初は小さな、だんだんと大きな音を立てて動き出す大時計。よく分からないが何かの歯車がガチャガチャと動き出す。
「どうした、何があった?」
「いえ、僕にもなんだか。」
ごめんなさいと心の中で謝りつつ、応接間に戻ってきたラルフさんに近づき僕は時計を指さす。
「なんか、急に動き出したんです。」
嘘は言ってない。嘘は言ってないよ。
ホラーゲームのステージを明るいタイミングで探検したいと思ったことありません?もっとも当事者たちにはそんな余裕もない。




