16 命の危機、というにはあまりにモフモフで温かった。
マスコット、もといトラブルの参戦です。
命の危機、というにはあまりにモフモフで温かった。
「バウバウ。」
僕を押し倒したモフモフは、そのまま体重をかけて僕にのしかかる。斬殺じゃなくて、窒息死?あれでも
なんか心地よい。
「エメル、だめ。ホーリー、大丈夫?」
「も、モフモフー。がく」
「ホーリー―――!。」
と茶番を繰り広げていると、何事か戻ってきたラルフさんに助けられ、九死に一生を得た。
「ごめん、まさか急に飛びつくなんて思わなかった。」
「バウ。」
リーフさんに頭を押さえられる毛玉は元気よく鳴きながら、僕とラルフさんをじっと見ていた。
「この子は?」
「うちの近所に住み着いた犬?」
そこで首を傾げられても、困るんですが。
「バウ。」
当人は犬ですか、何かといった顔をしているけど、犬というにはなんか変だ。
中型犬サイズのけだまは全身が黒い毛でモフモフだった。毛皮が厚すぎて手足は見えないが、シルエットは犬そののもで、顔の輪郭も犬だ。
「雑種かな?ずいぶんと毛並みがいいね。」
「・・・毎日トリミングしてる。」
ラルフさんが不思議に思ったのは、その犬?の毛並みだった。モフモフでありながら整えられた毛並みはさらさらしていて清潔感がある。品の良さは日々のお手入れの賜物らしい。
「エメル。この人達はいい人だから、大丈夫。」
そう言って顎の下をなでると気持ちよさそうに目を細める毛玉。エメルというのは名前だろうか?
「・・・目がキラキラの緑なの。」
怪訝そうにしていると、リーフさんは顔の毛を持ち上げて、そこに隠されていた緑の瞳を見せてくれた。
「「おお。」」
確かに、その目は緑色に輝いていた。輝いていたが・・・。
「犬?うーん珍しい犬種なのかもしれないねー。」
「・・・問題ある?」
「いや、首輪をしているわけでもないし、大丈夫じゃないかな?」
絶句している僕に代わって淡々と答えるラルフさん。いや、アナタも気づいているよね。
「それで、この子はここの飼い犬なのかな?」
「・・・ううん、パパは動物が嫌いだから、こっそり飼ってた。」
「そうなのか、なら、この後は連れていくかい?」
「いいの?」
「ううーん、そのあたりはあとで考えるとして、まずは荷物を取りに行こう。家の中をちらっと見た限り、そんなに荒れてないようだ。」
「・・・そうだった。部屋行ってくる。」
「そうしたまえ。」
そんな会話をして、リーフさんは家へと入っていき、エメルという毛玉は当然といった様子で入っていた。
「ホーリー。」
それを見届けてから、ラルフさんはため息をつき、僕の名前を呼んだ。
「わかっていても、害がないなら放置しよう。」
「・・・はい。」
緑に輝く瞳。それは「リドル」から生み出されたモンスターが持つものだ。リドルによって巨大化、狂暴化した動物に、人為的に改造された生物、そして、ボスがその意思で生み出す生物。どれにも共通することは、その瞳が緑色をしていることだ。
「あれは、「リドル」なのか?」
「でも害はないと思います。リーフさんになついてるし。あと、リーフさんは、自分のことを知りません。知る前に、父親が捕まって解放されたんです。」
「やはりか。となると不発となるのか?」
大丈夫かな?そう思ってラルフさんを注意深く観察するけれど、怯えている様子はなく、むしろ思考に気を取られているという感じだった。
「あれだねー、自分でも不思議なくらい吹っ切れたようだ。リドルは恐ろしいが、対処が可能と分かってしまうと、理性が対応を選んでいる。」
その顔は能面で、機械のように表情がない。けれどもそこに怯えはない。
これは、RCD3のラスト付近からシリーズを通して超人と言われる覚醒ラルフ・アルフレッドだ。普段は気のいいおじさんなのに、戦闘や分析になると冷静で冷酷で機械のように精密になる。
「彼女自身はリドルの被験者ということかな?」
「・・・はい。」
隠してもしょうがない。だが隠しておきたかった。この状態のラルフさんは、リドル絶対殺すマン。身内だったり仲間でも、リドルに感染、リドルを使おうとした人間は容赦なく排除する。
「まいったなー。駆除、処分という案がないわけではないけど。さすがにやりたくない。」
「彼女が何かをすることはないと思いますよ。」
それは「俺」の意見で、「僕」の願望だ。リドルの活性化には本人の自覚と絶望が必要だ。だが、リーフさんは致命的な虐待を受ける前に保護された。
「いや、父親が犯罪者として捕まった。これも絶望に通じるものだと思うよ。」
「それでも。」
「・・・わかっている。今更どうこうしないよ。」
一度は逃げた癖に、今更引っ掻き回さないでほしい。
ラルフさんがこっそり考えているリーフ・リドルの排除は未来の危険を回避するという意味ではありかもしれない。仮に「俺」の話がすべて伝わっていれば、ラルフ・アルフレッドは、色々な段階をすっ飛ばして、リーフさんをどうにかしようとするかもしれない。
だから、「僕」はすべてを話していない。
一度助けを拒絶されたことで、信頼しきれていないというのもある。それ以上に、リーフさんがこれ以上、苦しむ姿を見たくないのだ。
なんちゃってラスボス要素を隠していたリーフさん。本人はこっそり犬を飼っていた感覚です。




