14 事実は小説よりも奇なりというけれど、事実は小説よりも強い。
黒幕が倒されて、事件が終わった後で邂逅するラスボスと主人公
事実は小説よりも奇なりというけれど、事実は小説よりも強い。
僕が「俺」を思い出して3日、リーフさんを連れ出して2日。今日は、9月6日、夏休みの最終日だ。例年よりもずれ込んでしまったのは、色々と街が騒がしかったからだけど、ほとんどの子どもにとってはラッキーという程度の認識。街が滅びかけていたという事実を知っているのは僕たちだけだ。
「・・・ひさしぶり。」
「いやいや、昨日も会ったよね。」
新聞配達を終えた僕は、その足でダイナーローズへと顔をだし、カウンターでモーニングを食べるリーフさんの姿にホッとしてしまった。
「おや、ホーリー、モーニングはコーヒーさね?」
「うん、お願いします。」
カウンターでニヤニヤと笑っているローズさんに注文をとり、リーフさんの席の隣にすわる。
「・・・今日も配達?」
「うん、新学期になっても続けるつもりなんだ。」
「・・・ふーん。」
聞くだけ聞いてほとんど減っていないモーニングをもきゅもきゅと食べ始めるリーフさん。もしかしなくても僕を待っていたのだろうか?
色々と家庭に問題があることが分かったその日、リーフさんはローズさんのところに預けられた。彼女が特別懐いたこと、ローズさんがそういった保護も請け負っていることが理由らしい。僕は彼女が落ち着くまでできる限り気を配ってほしいという大人たちの言葉に従って、昨日今日と彼女に会うためにダイナーに通っていた。
正直言えば、彼女の状態を気にしていた「僕」と「俺」としては、何がなくても彼女に接触するつもりだったし、むしろ大義名分をもらったようなものだ。
「明日から中学校だねー。」
「・・・そだね。」
問題があるとしたら、思春期真っ盛りな僕には女の子と上手に会話をするスキルが皆無な事だろう。色々と話題を振ってみるけどリーフさんはそっけなく返事をして、キャッチボールが止まってしまう。特に食事中は顕著で話しかけると、面倒そうにこちらを見返してくるので、結構メンタルに来る。
「そういえば、そうさね、リーフ。あんた着ていく服は決めているかい?それっぽい服なら貸せるけど。」
「ええ、オリエンテーションって特別な服を着るんですか?」
ローズさんの助け舟?もといパスに僕は却って驚いていしまった。別にいつもと変わらない恰好でいいはずだけど。
「まあ、せっかくの晴れ舞台さね。いつもよりちょっとだけいい服を着るぐらいでいいんじゃないか。今頃ホーリーのママさんも洗濯とアイロンがけをしていると思うさね。」
そういうものなのか、着ている服なんてタンスから適当に選んでいるので考えたことがなかった。
「その恰好が悪いってわけじゃないけど、どうせならもっと可愛いのでもいいと思うさね。」
「・・・服?」
フォークを止めて顔をあげるリーフさんに、僕は少しだけ感動してしまった。さすがはローズさん、同性云々を抜きにしてリーフさんの気を引くのがうまい。
リーフさんは何かを考えるようにローズさんや僕、そして自分自身の服に視線をキョロキョロさせる。
「これって変?」
「めっちゃ似合ってると思う。」
即答です。黒い髪に優しい肌色に黒いワンピースがとても似合っている。今日は長い髪をみつあみにしてまとめているので、首がはっきり見えてなんか大人っぽい。何というか、黒が似合うんだよねー。
「・・・ありがとう。」
それを伝える前に、顔を赤くしてそっぽを向く姿が可愛くてそれ以上言えなくなってしまう。
「なかなかやるじゃないか、色男。」
ローズさん、揶揄わないでください。というかどうしようこの空気。
からんからん。
そんなタイミングでダイナーの扉が開き新しい客が来た。モーニング終了間際の微妙な時間に客はめずらしい。
「失礼、まだモーニングはやっていますか?」
「おや、ラルフさんじゃないか。めずらしいね。」
「家のコーヒーを切らしてしまってね。アレがないと目が覚めないんだ。」
「目が覚めない状態で車を走らせるんじゃないよ、この不良警官。」
「元ですから。」
あっけらかんとした接客に会話を中断された僕たちは、クスリと笑いあって食事を再開した。いやまて。
「ラルフさん?」
「ホーリー・・・ああ、そうか中学生だもんな。外食ぐらいするか。」
「そうですよ。」
やばくない?「僕」がそう思う一方で、「俺」は落ち着けと言っていた。
ラルフ・アルフレッドと、リーフ・リドルが出会ったのは今日が初めてだ。
RCDの冒頭で突然街を襲撃するリーフ・リドルが操るモンスターが無差別に襲ったご近所がラルフであって、2人の間に因縁や確執があったわけじゃない。街を破壊しようとするリーフ・リドルの魔の手から逃れ、抵抗するラルフ・アルフレッドという構図がはっきりするのはゲームでも終盤になってからだ。
ありうるとしたら、リーフ・リドルの父親であるウッディ・リドルの研究の内容をラルフさんが知ることだけど、色々と余罪が見つかったウッディ・リドルは警察所で拘留中。近いうちに精神鑑定も可能な施設に隔離されるらしい。
だから、ただの一般人のラルフさんが、リーフ・リドルと「リドル」を結び付けて考えて敵対する要因も理由も今は存在しない。
「そちらの素敵なお嬢さんは、お友達かな?」
「え、ええっとそうです。近所に住んでるリーフさん。リーフ、この人はラルフさん・・・、僕の。」
「「僕の?」」
ああ、何と迂闊なんだろう。普通にご近所さんって言えばよかったんだろうけど。元警察官とか、ひきこもりとかラルフさんの情報ってあれなのが多いんだよ。
「コーヒー仲間。この前もコーヒーを奢ってもらったんだ。」
「・・・へえ。」
コーヒーという単語にリーフさんはラルフさんへの興味を失った。彼女は苦いものが苦手でコーヒーではなく紅茶派なのだ。
「はは、たしかに、ホーリーは若いのにコーヒーの味が分かるようなんだ。」
僕の紹介にぽかんとした様子だったラルフさんも、そう言って笑い出した。
「たしかに、中学生なのに、ブラックコーヒーを飲むのは珍しいさね。」
「そうなんですよ、味にもうるさいようで。」
ローズさんも会話に加わり、気づけばラルフさんは僕たちと並ぶようにカウンターに座っていた。
「ほら、先にコーヒーだよ。ジャンキーども。リーフはオレンジジュースでいいさね。」
ドリンクをサービスされて、まったり会話モード。できることなら、距離を取りたかったけど、理由がない。いやむしろ、穏やかな上に信頼できるラルフさんをリーフに紹介しようとしている。
大丈夫だと思うけど、大丈夫だよね?
ラスボスと主人公の邂逅を不安に思っているのは僕だけらしい。
日本で、虐待や事件などに巻き込まれた場合、専用の施設や病院などで子どもの身柄を一時的に預かるらしいですが、そう言った子を一時的に自宅で保護するボランティアをしている人もいるとか。ローズさんがリーフの身柄を預かったことは、フィクション的な要素があるのであしからず。




