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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
RCD3 2023 9月

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12/88

12 自分は何も悪い事をしていない。

 タイトル回収タイムです。

 自分は何も悪い事をしていない。

 

 留置所で寝ころびながらウッディ・リドルは自分の不運を嘆いていた。

「もう少し、あと少しだったのに。」

 凶悪犯用の拘束服を着せられ簡易ベッドに投げ出され、顔には殴られた痕があり、身体のところどころに打撲や擦り傷もある。ボロボロである。傷が原因で発熱しているようにも感じる。

 そんな痛みなど、どうでもよかった。

「家宅捜索の結果、家から違法な薬物がいくつも見つかった。ほかにも悪事の証拠が見つかりそうだな。」

 頭の悪そうな警官が鉄格子越しにそう告げたとき、彼の中に生まれたのは激しい怒りと慟哭だった。

 警官だ、児相だと名乗った愚か者たちは、自分のリーフを連れ去り、聖域を汚した。崇高で唯一無二、至高で長年の悲願であった彼の願いを踏みにじった。

「何が違法だ。薬は使ってこそだろ。家の事情にずけずけと。」

 ブツブツと毒づくのは何度目だろう?夜中になり、留置所には誰も残っておらず、彼の言葉は届かない。まあ仮に残っていても彼の気持ちを理解できるような人間はこの街にはいなかっただろう。

 ずっと前から、ウッディ・リドルは狂っていた。

「取り戻せたのに、今度こそ。」

 彼の狂気の始まりは、まだ青年と言われて、大学で研究者を志していたころだ。

 彼はそこで、最愛の存在を見つけた。

 マーガレット、同期の研究者であった彼女は、美しく、そして聡明だった。日系人らしく黒い髪は神秘的で、整った唇からは高い知性を発揮し、彼と議論をするときは、未知の可能性に目を輝かせていた。それまで学業ばかりだった彼はすぐに恋に落ち、プロポーズした。

 同じく学業ばかりで、研究者であった2人は他のカップルとは違っていた。ロマンチックな会話はなく、デートは研究室、しわくちゃの白衣を着てデリバリーを食べながら、片手には研究資料。色気なんてものはなかったが、2人はそれで満足で幸せだった。

 大学を卒業して、就職し、家をもって、子どもが生まれる。自然と豊かになっていく日々に、これが自分の運命だとウッディ・リドルは確信していた。


 だが、そんな幸せは、愛娘の出産からすぐに消えてしまった。


「残念ながら、奥さんは・・・。」

 病気だった。研究職で不摂生な生活をしていたところに、出産という一大イベント。彼も献身的にサポートをしていたが、マーガレットは出産してすぐに起き上がることができなくなり、一年も経たずに病で旅立った。

「どうして?」

 わんわんと泣く愛娘を抱きながら、ウッディ・リドルは現実感のないまま愛する妻の葬儀を執り行った。周囲は彼女の死を嘆き、残された夫と娘の今後を心配した。

「なにかあれば、すぐに頼ってくださいね。」

 マーガレットの両親は彼を責めることはなく、涙を流しながらそう言ってくれた。彼がマーガレットの両親や自分の両親と顔を合わせたのはそれっきりだ。

「どうして、どうしてだ、マーガレット。」

 機械的に愛娘の世話をしながら、彼は嘆いた。最愛の存在、自分にふさわしい半身。永遠の愛を誓ったはずなのに、あっさりと死んでしまったマーガレット。


 認めたくない。


 だが、聡明な彼は、死にゆく妻の様子を医学的にも科学的にも理解し、二度と戻らないことを理解していた。失意に呑まれ、愛した妻へ恨み言を言った日もある。絶望の中でも死を選ばなかったのは、託された娘の世話があったからだ。子育てなど初めての経験だったが、聡明で勤勉な彼は、すぐに慣れた。

「ははは、笑いかたがマーガレットそっくりだ。」

 泣いたり笑ったり、眠ったりと忙しい赤ん坊との日々は何時しか彼の心を癒していた。数年も経つと、すっかりと父親として一人前になり、周囲の人間たちは我がことのように喜んだ。

「ほんと、そっくりだ。このまま成長すればマーガレットそっくりになるな。」

 亡き妻を思い、子どもを抱っこする彼は多少過保護であったが、良い父親だった。

「そうだね、まるで生き写しだ。」

 きっかけはそんな彼を見て、微笑ましく思っていった同僚の言葉だった。

「生き写し?」

「あっすまない。リーフちゃんも将来は美人になるだろうなって話だ。」

 失言だったと同僚はそう誤魔化して、その場から去ったが、ウッディ・リドルにとってその言葉は天啓だった。

「そ、そうか、そうだ。マーガレット。」

 仮に同僚がその場に残っていれば、この先の狂気は生まれなかったかもしれない。

「作ればいいんだ。いや、いっそ今度は壊れないマーガレットを。」

 狂気に染まりつつ、ウッディ・リドルはその考えが異常だと分かっていた。だから、彼は慎重に行動した。

 娘をのびのびと育てさせたいと、もっともな理由を告げて職場を辞めて田舎へ引っ越す。周囲の人間は彼の能力を惜しんだが、娘のために生きようとする彼の選択を評価した。

「そうだな、まずは教育だ。」

 街へ引っ越すと同時に彼は娘のおもちゃや絵本をすべて捨てた。代わりに学術書を与えて、読み書きや様々な知識を教え込んだ。同時に母親がどのような人間だったか、その娘であるリーフがどう生きるべきかを何度も言い聞かせた。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

 刻み付けるように、塗り替えるように。

 それだけで、愛するマーガレットが戻ってくるとは思っていなかった。何より今度はもっと丈夫で不変の存在を作らないといけない。

「これも運命だ。」

 幸いなことに、彼はそれを叶える可能性を持っていた。

「リドル、あやふやなものだと思っていたが、これの力は本物だ。」

 研究者時代に大学で流れていた噂。眉唾な都市伝説と思っていたその存在に、ウッディ・リドルは遭遇していた。

「リドルはルール、ルールはリドル。いかなる願いもいかなる不死も叶う。」

 妻にも秘密にしていた、オカルト的な危険物。危険性を理解していても研究者としての好奇心から持ち出し、隠し持っていたリドルのかけら。彼はそれを研究し、生物の存在を書き換える力があることをみつけだしていた。

「あの老人が言っていたことも嘘ではなかった。」

 一度だけ会ったことのある老人は、その力をもって不老不死を目指し、耳を塞ぎたくなるような行為を平然と語っていた。リドルの力を引き出すには「恐怖」や「苦しみ」といったストレスが必要だと言われたが、老人の行動は異常だった。

「不老不死はいらない、ただ健康なマーガレットを。」

 老人のように関係ない人間を虐殺するようなことはしない。そう誓った彼の行動は、相変わらずの娘の教育とリドルの効果の研究だった。小動物から植物、犯罪者予備軍のヒッチハイカーを使った人体実験。あくまで理性的に、理論立て、彼はマーガレットを復活させる。


 いや、娘をマーガレットに作り替える方法を模索していたのだ。


 娘がリドルの投与に耐えられるように、幼いころから薬品や食事で身体を調整し、より早くマーガレットになれるように余計な知識をいれさせないように気を付けた。小学校へ通わせることも避けたかったが、世間体もあるのでしぶしぶ通わせた。

 研究と準備、それらが実を結び、マーガレットを作る準備ができたのは、娘が小学校を卒業した時だった。娘も初潮を迎え、あとは実行に移すだけだった。

「今日は記念すべき日になるはずだったのに。」

 マーガレットが一部だけでも帰ってくる。そうなる日だった。ゆっくりと時間をかけ3年から4年ほどかけて娘にマーガレットの経験を追体験させ教育をし、身体はより丈夫に作り替える。

 そのために、残った私財の多くを投じて準備を整えた。リドルを活性化させるために、わが身を捧げて、家から出ないというルールも守ってきた。

「なのに、なのに。」

 ずきずきと痛む身体とともに、怒りがこみあげてくる。ぶしつけな愚か者たちの所為で、ウッディ・リドルの願いと今までの準備はすべてパーになった。

 ルールを破ればリドルはもう力を貸してくれない。集めた薬品や施設は踏み荒らされた。何より、社会的な信用を無くしてしまった以上、ウッディ・リドルが、娘を取り戻せる可能性は限りなく0になってしまった。

「だが、諦めない、諦めないぞ。」

 10年かけた。10年も待ち焦がれ、あと数年にまで手が伸ばせていた。

「そもそも理解なんてされないと分かっていたはずだ。だったら今度はどんな手を使っても。」

 ブツブツと言いながら、亡き妻を思う。

「ああ、待っていてくれ。マーガレット、私は必ず、君を。」

 逮捕されたといっても、死刑になるほどじゃない。違法な薬物の所持や家にある証拠程度では、それほど大きな罪とはならない。ほとぼりが冷めたらまた、一から準備をすればいい。

「そうだな、地下室が見つかることはまずないだろう。それならば、リドルは回収できる。ごねるだろうが、また交渉することもできるはずだ。」

 気づけば希望を持てていた。また時間はかかるだろうが、一番難しい素体の準備は終わっているのだ。けして不可能なものではない。

 自分は最愛を取り戻せる。

「まあ、そんな都合よくはいかないんだけどね。ウッディ・リドル、君はもう終わりだよ。」

 そんな願いは叶わない。無邪気な声の執行者はそんな彼を見下ろしながらあざ笑った。


 愛妻を失って狂気に走る科学者 ウッディ・リドル。同情できそうな過去がありつつもどこまでも身勝手なキャラクターをイメージしています。

 なお、次回はざまあされます。

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