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28.

 

「……ウさま、マメタロウさま」

「うーん……、うおおわあっ!?」


 豆太郎はとびのいた。

 なんせ目を覚ましたらレンティルがどアップで映っていたのだから。


「ななな、なんすか、レンティルさん!」


 レンティルは真剣な表情で、飛び退る豆太郎をじっと見つめた。


「マメタロウさまにお願いがございます」


 まじめな空気に、豆太郎もすぐに落ち着きを取り戻した。


「わたしと――」


 その時、ばたばたと複数の足音が聞こえてきた。


「マメタロー!」

「マメタローさん!」


 息せき切って飛び込んできたのは勇者ご一行だ。


「え、みんな……?」


 大所帯にあっけにとられる豆太郎。

 とりあえず無事なことにホッとするザオボーネ。

 レンティルといることにムッとするファシェン。

 エルプセは、水源のそばに落ちている杖を見つけてはっとした。


「マメタローさん! リンゼがここに来たんすか!?」

「え、ああ。来てたな。……あれ? リンゼは?」


 眠っていた豆太郎は、一切の状況把握ができていない。

 ミルクを飲んでいたら眠くなって、気が付いたらリンゼが消えていた。

 混乱する雰囲気に、レンティルは額をおさえてため息を1つ。


「あ、ごめん。レンティルさん、大切な話の途中に」

「いえ。こうなれば、皆さまも協力していただきましょう」


 レンティルは皆を見渡した。

 そして、先ほど水晶玉を通して聞こえてきたソーハの言葉を思い出す。

 俺のもとに来い、と言った後に、小さく付け足された言葉を。


『これは、俺が人間に貸しを作るためにすることだ。……だけどお前は、無理に従わなくていいからな』


 幼い頃から人は敵だと大人に刻み込まれて育ったソーハにとって、今からやろうとしているのは「悪いこと」なのだろう。


 そしてそれにレンティルを巻き込んでいいのか悩んでいる。


 レンティルだって、これが正しいことなのか分からない。

 だけど。

 レンティルは、いつだって頑張っているソーハのもとに駆けつけたいのだ。


「皆さま、水の勇者を助けるため、ダンジョンの最下層へ行くつもりはありますか?」


 魔人は、勇者たちにダンジョンを踏破することを提案した。



 □■□■□■



 ソーハのダンジョン。

 地下1階。


 エルプセたちはダンジョンを走っていた。

 先頭から順にファシェン、レンティル、エルプセ、豆太郎、殿(しんがり)はザオボーネだ。


 魔人が作る恐ろしきダンジョン。

 待ち受けるのは数多の罠と果てなき迷路。

 だが豆太郎たちは、入り組んだ道を迷うことなく突っ走っていた。

 その理由は、豆太郎の手首から伸びる一本の光の糸。


 これは一体何なのか。

 それを説明するには、少し前にさかのぼる。


 □■□■□■



「助ける、だと?」


 自分が聞いた言葉を信じられず、ファシエンはもう一度繰り返した。


「ええ、今水の勇者は命の危機に陥っています。それをソーハ様が助けようと、地下に連れて行ったのです」

「ソーハが?」


 豆太郎はオウム返しに繰り返した。

 ザオボーネが手を前に出してストップをかける。


「待て、待て。訳が分からん。ソーハ、というのは魔人の名前か?」

「いかにも。私の崇高なる主でございます」


 肯定に、ザオボーネの眉が跳ねあがる。


「魔人がなぜ人間を助けるんだ」

「それは……」


 それはもっともな問いだった。

 レンティルは言葉に詰まる。

 ソーハは他の魔人とは違う。だが、それを説明しても納得はできないだろう。

 彼らとソーハの間には何の縁もない。ソーハと豆太郎が積み上げた絆も知らない。けれど、魔人と人の殺戮の歴史は知っているのだから。


 だが、ここで声を発したのは意外な人物だった。


「……いや、ありえるかもしれません」

「エルプセ?」


 そう、助け舟を出したのは、炎の勇者エルプセだった。

 エルプセは神妙な面持ちで口を開いた。


「ザオボーネさん。このダンジョンの主は、マメタローさんを攻撃しない意思を持っています。おそらくは、人に対しても」

「なんでそう思う。マメタローがダンジョンの中で生きているからか?」

「それだけじゃありません。この前、もやしを狙ったごろつき達と俺が戦っていたとき、魔物が俺の味方をしたんです」


 エルプセはレンティルを見つめ、己の考える「正解」を口にした。


「このダンジョンの主は、もやしが好きなんだ。だから人間を守ろうとする」


 レンティルの脳内ソーハが「不正解だバカタレ―!」と激怒した。

 ファシェンがそれに同意する。


「その話なら私もマメタローから……、いや、風のうわさで聞いたことがあるぞ」


 鳥になったときに聞いたとは言えないので、ファシェンは慌てて言い直した。


「ファシェンまで……!?」


 共に歩んできた仲間2人の言葉に、ザオボーネも「ダンジョンの主、もやし好き派」に傾きつつあった。


「……本当にそうなのか、魔人の女?」


 ザオボーネは半信半疑といった様子でレンティルに尋ねた。

 レンティルの脳内ソーハは「否定しろよ! 絶対に否定しろよ!」と言っている。


「おっしゃるとおりです」


 レンティル、主人を裏切り嘘をつく。

 正確に言えば

 ・ソーハさまは今大変な状況 

 → 一刻も早く駆け付けたい 

 → 一刻も早く彼らを説得しなければならない 

 → まあ、もやし好きでいいか


 というソーハファーストな思考によるものだったが。

 それでも頭の中のソーハが「レンティルが裏切ったー!」と叫んでいた。


しばらく平日が遅くなりそうなので、午前中投稿できそうな日は午前中投稿しますー!

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