表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/92

22.もやしの9割は水分です その2

 とある日、ソイビンの街の酒場で、勇者たちはそろってご飯を食べていた。

 土の勇者、ザオボーネ。風の勇者、ファシェン。炎の勇者、エルプセ。水の勇者、リンゼ。

 彼らはザオボーネのスカウトで集まった。そしてこれまで様々な困難に立ち向かってきたのである。

 そんな彼らの冒険も最近はおおむね平和で、もっぱら「もやし」に振り回されていることが多い。


「そんなわけで、もやしは9割が水分なんだそうだ」

「ヘエーソウナンスカー」


 ファシェンのもやし豆知識に、エルプセは感情の無い声で返した。

 趣味嗜好(しこう)は好きな人に影響されるとよく聞くが、こんなファシェンは見たくなかった。

 エルプセは、心の涙をミントジュースと共に飲み干した。すかっとした清涼感が鼻を突き抜けていく。


 リンゼももやしを気に入っていたようだし、このままではパーティーの半数がもやし派になってしまう。

 エルプセが向かいに座ったリンゼに目をやると、何やら彼女はぼうっとしていた。

 肩口で切りそろえられた青い髪。エルプセは自分が燃やしてしまった彼女の長い髪を思い出し、少し胸が痛んだ。


「リンゼ? どうした?」


 ザオボーネに声をかけられ、彼女は静かに顔を上げた。


「みんなに、言わなければならないことがある」


 透き通った水色の瞳で皆を見渡し、彼女は抑揚のない声で告げた。


「私は、パーティーを抜けさせてもらう」


 昼下がりの酒場。

 最近平和だった勇者一行に、予想もつかない大事件が起きた。



 □■□■□■


 ダンジョン内にて。


「おい、マメタロー」

「ん?」

「いつも思っていたが、なんでお前はもやしを人に食べさせるんだ?」


 ソーハは落花生もやしの天ぷらをしゃくしゃくとかじりながら尋ねた。

 その横には普通のもやしのフライドもある。

 塩やトマトソース、マスタードなどで無限に味変が楽しめる一品である。


「ここに来たやつらにも食べさせて、外でも孤児に食わせて。別になんの見返りもない。そんなことを続けて、お前になんの得がある」

「得、って言われちゃうとなあ」


 豆太郎は頬をかいた。

 豆太郎がもやしを皆に振舞う理由はひとつだ。


「美味いものはさ、みんなに教えたくなるじゃん」


 ずばり「そこにもやしがあるからだ」理論である。


「ああ、そうそう。お前に言おうと思ってたことがあるんだよ、ソーハ」

「あん?」


 先日もやしの調理実習をしたときに、豆太郎はレンティルから色々と話を聞いた。

 ソーハは、無理やり自分をここに連れてきたことを気にしている、と。

 本当は、ダンジョンから出たいのではないかと。

 なので豆太郎は、今度会ったときに伝えようと思っていたのだ。


「もやしを知らない人たちの世界に来てさ、もやしの美味しさを知ってもらえて、今、結構楽しいよ、俺」


 豆太郎はへらりと笑う。


「俺を召喚してくれて、ありがとうな」

「…………!」


 ソーハは大きく目を見開いた。

 しばらくそのまま固まった後、もやしフライドをばくばくばくっ! と一気に食い尽くし席を立った。


「今日は帰る」

「お、そうか? まだもやしフライド残ってるぞ」

「それは持って帰る」


 最近食い意地が張るようになってきた。

 豆太郎がフライドもやしを少し包んで手渡すと、ソーハはあいさつも無しに「しゅっ」と姿を消した。

 瞬間移動である。豆太郎は誰もいないところで思わず拍手をした。


「すげえな異世界、なんでもできるな~」


 さて。自分は残りのフライドもやしを食べ尽くそう。

 豆太郎が食事を再開しようとしたとき、今度は入口で足音がした。


 エルプセか、ファシェンか、はたまた瞬間移動したはずのソーハか。

 そんな予想を立てて入口を見る。だが、現れたのはいずれも違う人物だった。

 そこにいたのは、杖を握った青い髪の少女。


「……リンゼさん?」

「はい、リンゼさんです」


 水の勇者リンゼは真顔のまま片手を上げた。


「もやしを食べにきました、マメタローさん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ