唯一の手掛かり
「どこに行ったのかわかるんですか!?」
食いついた私に、ローレンツは手を振った。
「いーや、知らん。あいつがふらっといなくなるのなんて良くあることでね」
「そうですか」
項垂れたが、残念に思いつつも心のどこかで安堵している自分がいる。
私たちだけが知らないわけじゃなかった。
——そう思った私が、嫌になる。
「でも君たちのことは聞いてんだわ」
「やっぱりアランが来たのか!?」
「ああ、そのブレスレットを買ったその日に」
ちょいちょいと私たちのブレスレットを指差して、思い出すように頭を傾けた。
「珍しいことが続くもんだなと思ったんだよ。あいつが頻繁に顔を見せることはないんでね」
「……それで?」
「その時に聞いたんだよ。お前らのことを」
ごくりとなった喉は私のものか、それともフレッドのものだったか。
真剣な顔を食い入るように見つめてしまった。
「——仲の良い幼馴染だとさ。銀ランクになるかもしれないんだって? 絶対に昇格できるようにしてやりたいってな。だから協力してほしいと、あいつが頭を下げたんだよ。あいつがな」
ローレンツは腹の底から吐き出すように、短く笑う。
心底信じられないものを見たように、口元は薄く緩んでいた。
「どんだけ気に入られてんだよ、お前ら。何したんだ」
そう言われても、とフレッドと二人、顔を見合わせた。
何かした覚えもない。
「いや、ティアのことはよく構ってるようだったが……俺のことはたぶん嫌ってるんじゃないか?」
「まさか。嫌いなら、あいつは関わらない」
「じゃあ、俺で遊んでるんだろう」
「それは否定できないがな。それでもだ。あいつが自分から関わっていく人間は、本当に少ないんだ」
良い兆候だよ、とローレンツは商品棚から耳飾りを取り上げた。
耳の上部を挟むタイプのそれは飾り気が少なく、どんな格好にも合いそうだった。
「ん、フレッドにはこれ」
ついで、私には耳たぶからぶら下がるタイプを手渡してくれた。
「ティアにはこれかなー。お、似合う似合う」
ローレンツは満足そうに頷いている。自分の作品を見る職人の目だった。
「やるよ。まあ、お礼みたいなもん? 喜べよ。ちゃんと付与付き」
「そんな高価な……!」
「ああ、アクセサリー作りは俺の趣味みたいなもんだから、元手がそんなにかかってねえんだ。剣や防具は俺には作れねえからな、別の職人が作ったものは、安くはできねえが」
それでも、簡単に手渡されたアクセサリーはきっと、市場では高値になる。
狼狽える私たちに、ローレンツは片目を瞑る。
「ちょっと試しに作ったもんだから、また感想を教えてくれればいいさ。アクセサリーに通信具を仕込んでみた。お互いに連絡を取り合いたいと思っていれば連絡できる仕様。ま、それだけじゃあ面白くないから、防御魔法もつけてある。本当は要人警護用に作ったもんなんだけどな、なかなか実践にはデータが足りなくて」
「試作品ってことか?」
「そうそう。付与付きだとバレたら意味ねえからな、込める魔力量を極力抑えてて。ま、効果はもちろんあると思うぞ。なんせ俺が作ったんだからなあ」
やはり自信に満ちた顔は、どこか信用できる。アランにも似ている、と少し思った。
「ちなみに」
ローレンツは横髪を掻き上げ、自分の耳を晒した。私がもらったものと似た耳飾りが揺れている。
「アランも持っている。俺もな」
「!?」
信用どころではない。神と崇めなければならないかもしれない。
手の上の耳飾りを握りしめたのは、視線の合ったフレッドと同時だった。
「……後から返せって言われても返しませんからね」
「ああいいぞ」
「……ありがとうございます」
これがあればアランと連絡が取れるかもしれない。もしかするとアランに辿り着けるかもしれないのだ。
思っていた以上の手がかりに身を震わせた。
「言っとくが、お互いに、連絡を取りたいと思っているときにしか使えないモノだからな」
「はい、わかっています。……それでも、唯一の手がかりと言っても過言ではありませんから」
もらったばかりの耳飾りをつければ、気分が上がった。
一歩アランに近づけたような、僅かな達成感を噛み締めながら、ローレンツの店を後にした。
今度は必ず自分のお金で買いに来るからと約束をして。
「なあ、これで良かったのか?」
店に残されたローレンツは、そう独りごちて天を仰いだ。
しんと静まり返った店内で、返事はない。ただ見慣れた商品棚があるばかりだ。
先程まで店内にいたのは、まだ若い——青いというべきか——未来ある若者の二人だった。
「まあ俺らも若いんだけどな。この店に俺より若い冒険者が来ることはなかなかないんだぞっと」
言いながら店じまいの準備だ。と言っても入り口に設置してある魔法具を発動するだけだ。
店内に侵入することはもちろん、外から店の存在も判別できなくなる。
完全に遮断された空間で、腰掛けた椅子がギッと音を立てた。
「全く、どうするつもりなんだ、アラリック?」
アラリックは勇者の名。ローレンツの、友人——そして仲間でもある。
その問いへの返事のように、ローレンツの耳にはくすくすと笑う声が届いていた。




