4月某日 前回のつづき
【ローズマリー営業日誌】
4月某日 執筆者:エスニア
怪しい。
どこからどう見ても怪しい人物が二人、店の中に入ってきた。
生憎今はエレンさんがお休みで、グレイさんは遣いのために外出中だ。ホールには私とリリアナしかいない。
店長に報告しようかと思ったが、今調理場は戦場のような状態だ。
とても声を掛けられる雰囲気ではない。
「(この人本当に伯爵令嬢なの? はぁ、私の復讐は何だったのかしら。)」
いけないけない。
それよりこの二人よ、リリアナは自然と接客しているけど何故不思議に思わないよの!
黒い色付きメガネに白いマスク、不自然な帽子に春先だと言うのにロングコート。めっちゃ怪しいわ!
とにかく目を離してはいけないわね。
しばらくして呼び出しのベルが鳴った。
注文内容はごく普通のチョコレートパフェとミルフィーユとフルーツケーキとストロベリーパフェとキルシュトルテとラズベリーパイってまてまて、二人でいったいくつ注文するのよ!
気づけばテーブルの上には埋め尽くさんばかりのケーキで溢れた。
周りのお客さんも目が点になっているわよ。
あの二人は周りの視線に気づいていないのか、夢中でケーキを食べ始めた。主に片方の人だけだが。
「あのお客さんよく食べますよね。」
ってリリアナ、何呑気な事を言ってるのよ。
はぁ、忘れていたわ、この店でまともなのはグレイさんだけだったわね。
ディオンさんは料理の事しか興味がないし、エリクさんは頼りない。エレンさんは店長のツッコミに生き甲斐を感じているだけだし、当の店長もしっかりしているのは調理場に入っている時だけ、普段はぽわぽわさんだ。
私がしっかりしなきゃ、復讐ができないんだからね。
すでに復讐の意味を間違えているエスニアであった。




