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影響力

 告白まがいのことをした俺は気恥ずかしさから中々五十嵐さんに声をかけられなかった。

 後ろめたさもあった。

 友達という立場を使って彼女の逃げ場を潰してしまったのではないか、という懸念がある。


「坂上くん、意識しすぎ。私、嫌じゃないよ? こんなの初めてでビックリしているくらいだし。男子って怖い人ばかりじゃないんだーって分かって本当に嬉しい」


 彼女はあっけらかんとした様子でそう言う。

 これも日々の積み重ねによるものだろうか?

 少なくとも彼女と知り合い、また、友達になってからもそう異性として意識する機会は全然なかった、

 いや、これは言い過ぎか。女性として魅力的であることは理解していた。だからと言って恋心に発展するかというと、それとこれは話が別だ。


 しかし今さっき俺は理解してしまった。彼女のことを異性として意識しだしていることを。

 その気持ちが分かった今、これからどうやって彼女と接すればいいんだ? ――わからない。

 経験値が足りない。

 これが恋心まで発展したとしたら、それは俺の初恋ということになる。

 怖い。まるで薄いガラスの板を今まさに手で押そうとしているかのような――


「正直五十嵐さんと友達はやめたくないな」


 今の言葉はダサい。

 自分の恋心の芽から逃げ出そうとしている。

 先ほど『自分の気持ちから逃げないで』と言われたばかりなのに、俺はそれを実行できないかもしれない。

 自分がこんなに格好が悪い男だとは思わなかった。


「でも私のこと、異性として見始めているんでしょ? その先って、何があるんだろうね? 本当に、友達のままでいられるかなぁ」


「だよなぁ……」


 痛いところを突かれた。

 やっぱりさっきのは無しで、友達のままでいよう。とか言うこともできるけど、そんなことをしていいのか?

 彼女だって俺の言葉から逃げなかったんだ。

 俺だけ傷つくのか嫌だからって逃げに走るのは間違っている。

 もっとこの気持ちと見合わないと。


「――最初はさ、五十嵐さんのこと格好がいいって思ってたんだよ」


 五十嵐さんはこちらを見て、頷きながら続きの言葉を待つ。


「読者モデルの仕事を続けながら真面目に勉強もするしさ。俺が逆の立場なら絶対にできなかっただろうなって。羨ましかったのかも? 自分にないものを一杯持っている五十嵐さんが――」


「でもそれ、一部は坂上くんがくれたものだよ? 私の大事なもの。誰にもあげたくないもの」


 どうやら俺は彼女の人生の一部となっていたらしい。

 恥ずかしくなってきた。

 しがないクラスメイトの自分が、学園のマドンナの人生に影響を与える人間になるとは思わなかった。

 俺は胸を張っていいのだろうか?

 いや、そうしなくてはいけない。もっと自信を持たないと。

 彼女の隣に立つ男というものはきっとそういった条件が求められる。


 しかし自信の根拠となるものが中々ない。

 部活をやってるわけではないからスポーツに打ち込んだりはしてないし、勉強だって大人になれば使わなくなるものが大半だろう。

 よく『大人になったらやってきた勉強は中々役に立たなくてなぁ』と大人が愚痴をこぼしているのを聞く。

 だとするといつの日か自分のアイデンティティが崩壊するのではないだろうか?


「五十嵐さん。俺、これから何をすればいいと思う? 五十嵐さんに匹敵する――まではいかなくても、追いつけるくらいには成長できる男になりたい」


「んーっ……。それなら問題ないと思うよ? だってもう――」


 隣にいるもん。


 彼女のその一言に俺は救われた。


「むしろ追いかけなきゃいけないのは私かも? いつか色んな女の人が坂上くんの魅力に気づいて、近寄って行って――そうしたら、坂上くんの隣にいる女性は私じゃなくなるんだろうなって思う」


「それはない」


 自然と語気が強くなっていた。

 でもしょうがないんだ。それは本心だから。

 どんな女性に言い寄られても、俺の視線の先にはずっと五十嵐さんがいる。

 その事実に気づいてしまったのだからもう否定はできない。


「もしそうなっても、俺はきっと五十嵐さんのことばかり見るよ」


「――変なの。男子の視線なのに、全然嫌じゃない」


 はにかみながら彼女はそう言う。

 俺は笑う君が好きだ。恋愛感情抜きにしてもそう思う。

 咲いた向日葵のような笑顔、所作、感情の揺れ動き。

 彼女のそれらが全て愛おしく思える。


「結局俺も他の男子と一緒だったんだよ。だって、五十嵐さんの魅力に惹かれているんだから」


「――違うよ」


 彼女は真面目な顔をしてそういうと、一歩前に出て俺の方へ振り返り、立ち止まった。

 そして言葉を続ける。


「坂上くんは私の容姿にそこまで興味がないでしょ。私が両親からもらったもの、最初から持ってたものじゃなくて、今頑張って追いかけているものを見てくれてる」


 だから――


「だから、私はかっこよくなれたんだよ? そうしてくれたのは、坂上くん。君だよ」


 煌めく姿に見惚れてしまった。

 やはりこれは恋心ではないか? でも恋をしている男女は交流を持つと動悸が激しくなると聞く。

 では今の俺の気持ちはどうかというと、安心しているだけだ。

 ああ、いつもの五十嵐さんだ。ちょっとだけテンションが高いし、滅茶苦茶俺のことをほめてくれるけど。

 それらが聞き間違いでなければ、それは俺の行動がもたらしたものらしい。


 今までそんな恰好がいいことしてきたっけ?

 ただナンパから助けたり、友達になったり、勉強を教えたり、帰る時送ったり……。

 いや、結構やらかしてるな、これ。

 親密な間柄になるのも不思議ではなかった。


「――本当に坂上くんと友達になれてよかったなぁ。じゃなかったらきっと読者モデルはそのうちやめてただろうし……」


 それに――


「なにより今の私はいなかった。友達になってくれてありがとう、坂上くん」


「どういたしまして。五十嵐さんはやはり格好がいいな、俺もあやかりたいよ」


 その言葉を聞いた彼女は大笑いした。

 笑う場面じゃなくね? お互い『尊敬してます』って言い合っているようなものだぞ、今の場面。


「あはははっ! ……ふふっ。あーおかしい。坂上くん、元からかっこいいでしょ。何言ってるのさぁ、もう」


 ……俺はかっこよかったのか? でもその言葉は容姿のことではないだろう。

 だとすると今まで取ってきた行動か。

 ただ流れだとか、空気だとか、気分だとか。そういう曖昧なもので決めてきた道がここまで彼女の信頼を得る糧になるとは思わなかった。


 人の人生はどうなるかわからないものだな。

 高校入学後、初めてクラスメイトの彼女と顔合わせした時はこんな結末になるだなんて想像だにしなかった。

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