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思いの丈

 ある日の朝、登校した時勇と出会った。


「うーっす。翔太、なんか中里がお前に用事あるってよ。あと先に行っとくけど、期末テストの追い込みの勉強会は俺パスで」


「わかった。登校したら中里さんに何の話か聞いてみる。サンキューな」


 何か大事な話でもあるのだろうか?

 俺は教室まで気持ち早めに歩いていき、中里さんに話しかけた。

 隣には五十嵐さんもいた。


「中里さん、五十嵐さん、おはよう。中里さん、俺に話があるって勇から聞いたんだけど、何?」


「おはよう、坂上くん」


「おはよー。坂上、悪いんだけどさー、勉強会、あーしやらないから。二人の仲? 邪魔するの悪いし? っていうのは冗談で、二人とも何か理由があって一緒に勉強しているんでしょー? その邪魔するのもどうかなーって思ってさー」


 あっ、澄香には伝えてあるからと彼女は付け加える。

 それならいつも通り放課後居残って勉強すればいいか。


「でもどうすんのー? これから追い込み期間だから放課後色んな生徒が居残るよー? ……二人きりになれなくて寂しいんじゃないのかこのー」


「ちょっとやめてよ凛ー! ――でもそうかもね」


 またクラスの空気が凍り付いたよ。

 この空気、懐かしいな。五十嵐さんと初めて仲良くなった時もこんな感じだったな。


「んー? のろけかー?」


「中里さん、ダメージ受けるの俺だからもう勘弁してくれ。五十嵐さん、放課後の勉強場所だけど、今まで通り教室でいい?」


「うん、いいよ」


 すまん、クラスの男子たち。

 これから一週間毎日俺と五十嵐さんの距離の近さを見せつけることになるのだ。

 申し訳なさから俺は手を合わせた。




 放課後の勉強はいつも通り進み、気づけば期末テスト当日。


「問題用紙は指示があるまで表にしないように。……では、はじめ!」


 クラスメイト全員が一斉にテストに取り掛かる。

 ……うん、先生の出題傾向を割り出しておいて良かった。ヤマが当たった、これなら高得点を狙える。

 あとはケアレスミスに気を付けて、時間が余ったら解答の再確認も徹底する。


 そんなこんなでテストは進んでいった。




「坂上くん。自己採点、どうだった?」


「かなりいい線行っている。五十嵐さんは?」


「私はまあまあかな?」


 この『まあまあ』というのは謙遜だろう。

 明らかに駄目だった場合は駄目だったと言うはずだ。

 そしてその言葉が出なかった以上、彼女の成績は最低限保証されていると考えられる。




 後日、テストの解答用紙は返却され、それと一緒に自身の成績順が書かれた小さな紙きれも手渡された。

 俺の順位は九位か。大分の一言で済ませていい成績の上がり方ではなかった。

 これは上がり過ぎた。

 それもそうか、四六時中五十嵐さんと一緒に勉強していたんだ。成績の上昇量に納得した。


 休み時間中、五十嵐さんが駆け寄ってきて俺に耳打ちをした。


「私ね、すごく成績上がったよ? 二十六位」


「それは良かった」


 さて、俺にとって一番の障害であった『五十嵐さんの成績を上げる問題』が解決してしまった。

 ――解決した以上行動に移さないとな。

 でないといつの日か愛想を尽かされるぞ。


「今日、大事な話がある」


「私が期待しているような話かな?」


「まぁ……その件で間違いないと思う」


 彼女は真剣な表情をしていた。

 きっと俺も同じ表情をしているはずだ。


「放課後、教室で」


 その一言を機に俺らの関係性は一気にバランスを崩し始めた。

 さて、吉と出るか凶と出るか……。




 放課後、皆が教室から出ていき、中に残っているのは俺と五十嵐さんのみとなった。


「それで、大事な話って?」


 彼女のその淡い笑みが俺の心を揺さぶる。

 動悸が激しい。

 でもその気持ちから逃げてはいけない。


 ――きちんと伝えないと。


「俺、好きな人がいるんだ」


「そうなんだ」


「その人は頑張り屋さんで、ちょっとお茶目で、誰かに助けてっていうのが実は苦手で……違う、そんなのその人には全部もう伝わっているんだ。俺が言いたいのはたった一言」


 そう、たった一言でいい。


「君が好きだ」


 その言葉を聞いた彼女は涙を流した。

 この涙は見たことがある、あの映画を観たときの、あの涙と同じだ。


 恋慕の涙だ。


「――なんでもっと早く言ってくれないかな? もし私が命に関わる不治の病にかかっていたとしたらどうするつもりだったの?」


「その時は毎年お墓参りにいくよ。あの男性みたいに」


 絶対にそれをやるんだろうな、俺。


「……冗談! 私も貴方のことが好き。付き合おう?」


「それ、俺の言葉だったんだけど。締まらないなぁ。よろしく、五十嵐さん」


 彼女はハンカチで涙を拭きとり、咲いたコスモスのような笑顔で『うん!』と返事をしてくれた。


 俺の心は充足感でいっぱいだった。

 彼女も同じ気持ちであってほしい。

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