映画
いよいよ今日という日が来てしまった。
そう、今日の夜に五十嵐さんと映画を見に行く約束をしている。
どの映画を観るのかは当日映画館に着くまで内緒と言われた。一体何を観るのだろうか?
王道のアクション映画か、はたまたB級映画か……。その辺は彼女の好みもあるだろうし、五十嵐さんに全部任せてしまおう。
授業を終え、放課後の勉強会も終え、俺たちは一緒に下校した。
「約束、忘れてないよね?」
「勿論。ちゃんと迎えに行くから心配しないで」
かくして俺らはいつもの場所で別れ、各自帰宅してその時を待った。
約束の時間だ。
外に出た俺は夜風が冷たいことに気づいた。
秋が深まっている事実を感じる。
ということは、遅かれ早かれ期末テストが行われるということでもある。
そしてその後、彼女に想いを伝えるのが怖い。
もし断られたらどうする?
仮に両思いだとしても、絶対に付き合えるとは限らないんだぞ?
例えば同じくらい好きな人がほかに居るとか、近々引っ越さないといけないから告白を受けられないとか……考え出すとキリがないからこの辺にしておこう。
でも彼女は『絶対に待ち続ける』と昨日メッセージで伝えてくれた。
あとは俺が当日勇気を出すだけだ。
彼女だって勇気を出してその言葉を紡いだんだ。
俺もいつの日か行動で示さなくてはならない。
そんなことを考えながら歩いていると、五十嵐さんの家の前に着いた。
俺はLimeで彼女の家の前にいることを伝える――と何やら彼女の玄関前から物音がし出した。
そして扉が開き、慌てた様子で五十嵐さんが出てくる。
「やっぱり間に合わなかったかぁ……。ごめんね? 本当は坂上くんがここに着く前に外で待っているつもりだったの」
「それだと体が冷えるでしょ? 気持ちだけ受け取っておくよ」
そんなやり取りをした後、俺らは映画館へと向かった。
夜風が気持ちいい。
街灯の光に照らされた五十嵐さんは夜空の暗さとのコントラストも相まって、普段より綺麗に見えた。
映画館に着いた彼女は一枚のポスターのもとへ駆け寄り、それに指をさす。
「ねっ! これ観よう?」
恋愛映画か。
キャッチコピーとポスターの構図で何となく察した。
俺自身も他の人視点の恋愛に興味があるし、彼女の提案を承諾した。
「飲み物とかどうする?」
「うーん……。飲み物は欲しいかな。でもポップコーンは無しがいい。映画に集中したい」
とのことなので俺らはチケットを購入した後、飲み物を購入し、館内を歩き進む。
若干重たい扉を開け、俺らは隣同士になれる指定席へと向かった。
「楽しみだね?」
「そうだね。俺も結構興味がある」
そんな会話を小さな声でしながら時間を潰す。
間もなくして舞台は暗転。コマーシャル等が流れた後。映画が始まった。
映画の内容は悲恋だった。
原因不明の不治の病により余命宣告された女性が、好きな男性に想いを告げる。
その想いはその男性に伝わり無事に両思いになる――かと思われたところで彼女の体調が急変。
彼女は意識不明になり、彼の返事を聞く前にそのまま亡くなるというものだった。
エンドロールが流れているところで俺はふと五十嵐さんの方を見る。
彼女は涙を流していた。
綺麗な涙だった。
愛慕と哀愁の気持ちが込められた涙。感情移入された表情。何かに共感している節もある。
ああ。一目彼女のその涙と表情を見ただけで、俺はそこまで彼女の気持ちを読み取れるようになってしまったのか。
これが俺だけに備わった能力なわけがない。
同じように、俺の気持ちも五十嵐さんに通じているときがあるのだろう。
彼女と一緒にいる時間が長すぎた。
「あーあ……。映画、ああなっちゃったかぁ」
「でもCパートに救われたな」
そう、エンドロール後にまだ映画には続きがあったのだ。
ただ、開く花のように微笑みながら『大好き!』という元気なころのヒロインのワンカットと、墓参りをする男性の姿。この二つのシーンのみ。
それだけで十分だった。
「そうだね。――ねぇ、男性視点からみてあの映画、どうだった?」
「正直絶望しかないよ。好きな人が亡くなるって分かり切っているのに、相手のことが好きになって……心が弱い人なら彼女の前から逃げ出しても不思議じゃない」
仮に俺があの男性の立場だったらどうしていた? あの現実に耐えきれたか?
難問だ。
では五十嵐さんがヒロインで、俺が男性役だと置き換えてみよう。
俺はヒロインの彼女を切り捨てて、ただの一人の高校生に戻ることができるだろうか。
――いや、無理だ。
俺はもう引き返せないほど彼女に入れ込んでいる。
きっとあの男性と同じように、定期的にヒロインの墓参りをする人間になっていたに違いない。
「じゃあ次は私がヒロイン目線で話すね? 彼女、幸せだったと思うよ? 男性の返事は聞けなかったけど、言葉にしなくても伝わるものってあるじゃない?」
五十嵐さんは立ち止まってこちらを見る。
まるで『言わんとしていること、わかるよね?』とでも言いたそうだった。
「そうだな。全部伝えようとしなくても、もう伝わっているものってあるんだよ。きっと、っていうか絶対」
彼女は何故か得意気な顔をしていた。
「それでこそ坂上くんだ!」
悲しくなるような映画を観た後だったが、彼女が元気で何よりだ。
俺は安心した。




