告白ラッシュ
「――ごめんなさい」
文化祭が終了してから大変なことが起こっていた。
五十嵐さんに対する告白ラッシュである。
おそらくこの原因は『文化祭中五十嵐さんと手を繋いでいた男子がいた』というものだろう。
つまり俺のせいだ。
申し訳なさから俺は五十嵐さんに謝罪の言葉を入れる。
「ううん、坂上くんのせいじゃないよ? あの時手を繋いだのは私だしね。……あっ。でも、相手が彼氏ってことにしとけば話は違ったのかも?」
めっちゃ話が飛躍したな。
この子はその告白ラッシュに俺も加われとでも言いたいのだろうか。
でも告白するタイミングは今じゃないんだよなぁ。
もし告白するとしたら少なくとも期末テストが終わってからだ。もしくはずっと先になるかもしれないが……。
最低でもそこまで俺は行動に移すつもりはない。
正直俺は気が気ではない。もし告白してくる男子の中に五十嵐さん好みの男性がいるとしたら?
もし告白を承諾して五十嵐さんに彼氏ができたら?
……それでも俺は恋心を隠して彼女に勉強を教えるんだろうな。
告白してもいないのに失恋して――なんて本当は嫌だが、それはそれで仕方がない。
その時は彼女の幸せを祈ろう。
いつものように放課後に居残って一緒に勉強していたのだが、急に教室の扉が開き、一人の男子が入ってきた。
上級生か。
「五十嵐さん、ちょっといいか? 今回こそ本気だから」
また告白かぁ、とか考えながら五十嵐さんの方を見るが、何やら様子がおかしい。
「――坂上くん。おねがい! 今回は一緒に来て!」
何故俺までその告白現場に同行することになったのか……。
そっと彼女が耳打ちしてきた。
「先輩、実は何度も告白してくるの。今日で四回目」
なるほど。つまり彼女は先輩に何度も告白されて辟易しているのか。
そりゃ疲れ果てるのも分かる。いくら断っても相手は諦めてくれないのだ。
「――五十嵐さん、俺は君のことが好きだ。どうか良い返事を聞かせてほしい」
第三者の俺がいるのに普通に告白したな、この先輩。
「ごめんなさい。何度もお答えしている通り、私はお付き合いするつもりはないんです」
五十嵐さんは誠心誠意彼の想いに答えた――のだが、これが彼の逆鱗に触れることになる。
「何故だ!? 俺はサッカー部のエースだぞ! どう考えたってそこら辺の男どもより魅力がある! 例えば――そう、そこの隣にいる冴えない男なんかよりはな!」
「――坂上くんのことを悪く言わないでください! 彼の事、何も知らないくせに!」
驚いた。彼女がここまで負の感情を表に出しているところは見たことがなかった。
それだけこの先輩は彼女を怒らせるようなことを言ったんだ。あるいは前々からの告白時にそういったことをしてきたんだ。
とりあえず俺は『まあまあ』といいながら、二人の間に入って五十嵐さんを落ち着かせる。
彼女は小さな声で『ごめんなさい……』と言った。
悪いことをしているのはどちらかというと先輩だろう。
「――おい、そこの男子。ちょっとツラかせよ。廊下で話そうぜ」
「望むところですよ、先輩。――五十嵐さん、ちょっと教室の中で待ってて? 大丈夫、荒事にはならないから」
そう伝え、彼女は教室に残ってもらい、俺と先輩は廊下へ出た。
先に声をかけてきたのは先輩の方だった。
「お前、五十嵐さんのことどう思っているんだ? あ、言っとくけど、彼女に相応しい男は俺だから。俺ってかっこいいし?」
実際容姿はいいんだよな、この先輩。
でも残念感が漂う。
「素敵な友達って思ってますよ。――でも先輩は彼女に相応しくないって思ってます。魂胆が見え見えですよ。五十嵐さんの事、自分のアクセサリーにするつもりですよね? 先輩?」
サッカー部のエースで、容姿もいいとなれば言い寄ってくる女子はたくさんいるはずだ。
なのに接点のない下級生の五十嵐さんを何故選ぶ?
そこから俺はそう推測した。
「――いけ好かない野郎だな。まぁいい。だが周りのやつらはどう判断する? お前だって自分は冴えない人間だって理解しているんだろう? そんな奴が五十嵐さんの横に居てみろ。わらいものだぜ?」
正直俺はいらついている。
それは俺が馬鹿にされたことに対してではない。
今までの会話からして彼は自分の恋心をさらけ出していない。
彼女の気持ちもお構いなしだ。
五十嵐さんの事をただの『お人形さん』としてしか見ていない。
「別に笑われてもいいですよ。それでも、俺は彼女の隣にいるんで――」
その時、先輩が近づいてきて俺の目を見て、睨んできた。
「何マジになってんだよ、てめぇ。調子に乗るなよ」
「別に調子に乗ってはいませんよ。――ただ、本気になる理由は先輩だってわかるでしょう? ……だって、俺の中にあるその気持ちは――」
先輩は目からうろこが落ちたような表情をしていた。
その表情を切り替え、俺の会話に割り込んでくる。
「あーあ、しらけたわ。……やめた、もう彼女には告らねー。近くに面倒な男がいるって分かったしな」
『じゃあな、めんどくせー後輩』と一言いい、先輩はその場から離れていった。
面倒ごとになりそうだったけど、なんとかなったな。
俺はひとまず教室に入ったのだが、ドア側から急いで離れていこうとする五十嵐さんの姿を見た。
「五十嵐さん。先輩、もう来ないってさ――ってどうしたの? なんか様子がおかしいけど」
「ひゃ、ひゃい……!」
何故だか知らないが、今の五十嵐さんの様子は相当おかしい。




