後夜祭
文化祭二日目は五十嵐さんとは休憩時間が異なるので、一緒に催し物巡りをすることはできなかった。
そして十三時になったところで、文化祭は終了となった。
さて、皆が心待ちにしている時間が訪れた。
「……皆、よくやった! 我がクラスは黒字だ! 本当は利益が出た分で宴会でもしたいんだが、赤字のクラスもあるからそっちの補填がな……。すまない。――だがしかし! 余った飲み物や食べ物は食べていいぞ!
あとは好きにやってくれ!」
皆が大歓声を上げた。もちろん俺もだ。
色々大変なこともあったが、俺たちはやり切ったんだ。
そして祝杯パーティーが執り行われた。
俺もジュース片手におやつを頬張ったりする。
「よーう、翔太。お前、五十嵐さんと文化祭デートしたんだって? やりやがったなこいつめ」
「ごふっ!」
俺はジュースを吹き出しかけた。
どこから仕入れたんだその情報。
「勇、吐け。誰から聞いた」
「誰からっていうか学校中のやつら全員知っているんじゃね? 手を繋いだりしてりゃ、そりゃな」
教室の隅っこで男二人してこそこそと内緒話をしている。
ある意味恐怖の光景だな。
「――やはり校内の人らに見られていたか。まぁ、仕方ないな。その辺は」
「で、お前ら付き合ってないんだろ? この後、大丈夫なのか?」
その後々大丈夫か? って言葉は何を指すんだ? と考えていたが、勇は『そのうち分かるさ』とはぐらかすだけだった。
その男同士の会話の輪に五十嵐さんが加わってきた。
「なになに? 何を二人して話しているの? ――そうだ、後夜祭! 一緒にキャンプファイア見ようね?」
「本当に、翔太はこれだからな……。俺もある程度は手助けするけど全部は無理だからな」
などと勇氏は意味の分からない発言をしており……いや、ある程度は分かる。
俺は、五十嵐さんと特別仲のいい男子として色んな男どもに認知されたんだ。
たぶん他の男子たちはこれから何かしらの行動をしてくるはず。
……今時リンチとかされないよな? 本当に大丈夫だろうか。
別に俺だけターゲットにされて何かされるのならいいのだが、これが五十嵐さんの方へ流れて行って、彼女に迷惑をかけないかが心配だ。
本当に俺の事なんてどうでもいいんだよ。
ただ彼女のことが心配だ。
いけない、最近五十嵐さんの事ばかり考えている。
恋をするってこういうことなのか。恋は盲目とはまさにその通りだと実感してしまう。
俺らクラスメイトはメイド喫茶の内装を外していき、文化祭の片付けを開始する。
たまに五十嵐さんと目が合う。そのたびに五十嵐さんは手を振ったりして軽くリアクションをする。
その姿が愛おしい。
きっと俺の中にある友達に対する気持ちと恋心の境目にあったガラスの壁は粉々に砕け散ってしまっているだろう。
片付けが大方終わったところで外は暗くなり出し、校内放送でグラウンドでキャンプファイアが執り行われるとこが伝えられる。
約束通り、俺は五十嵐さんを誘うことにした。
「五十嵐さん、キャンプファイアを一緒に見よう」
「――うん、一緒に見よう?」
俺らは外へ向かうが、流石に今回は手を繋ぐような真似はしない。
別に彼女はナンパされて困っているわけでもないし、残っているのは学生のみだから人も少ないし人混みに紛れる心配もない。つまり手を繋ぐ理由がない。
それでも――手を繋いでいるわけでもないのに心の距離はとても近く感じた。
それが俺だけの勘違いではないことを祈る。
他の生徒たちは出来るだけキャンプファイアの組み木の近くへ行こうとしているのを尻目に、俺と五十嵐さんは遠くの方へ行き、腰を下ろす。
程なくしてキャンプファイアは点火された。
一部の生徒たちが感嘆の声を上げる。
しばらく俺はその火を眺めていた。
「キャンプファイアの火、綺麗だな」
「――うん、そうだね」
若干生返事の彼女の声が気になって、俺は五十嵐さんの方を見る。
――五十嵐さんはキャンプファイアを見ていなかった。
彼女の視線の先にあるのは俺の顔。つまり彼女はずっと俺を見ていたことになる。
恥ずかしくなって俺は問いただした。
「なんで俺の方見ているのさ……」
「っていわれても、わからないよ。――ううん、最初は分からなかったけど、今なら分かるかも」
彼女は淡い笑みを浮かべる。
暗闇の中、キャンプファイアの火の光に照らされた彼女の笑顔は、それはもう素敵なものだった。
「私も頑張らなきゃ、って思ってさ。じゃないと本当に坂上くんが遠くに行っちゃう」
彼女は俺に自分の目が見られなくなるよう、袖を使い目を隠しながら言葉を続ける。
「――もし、そうなったら。きっと私は死ぬまで後悔するんだ。何であの時坂上くんと一緒に前に進むことができなかったんだろう? って。もし仮にこの先他の男子が私の隣を歩くことになっても、何でその男子は坂上くんじゃなくなったんだろう? って。絶対に後悔するんだ」
「じゃあ一緒に前に進もう。五十嵐さんはもっと欲張っていいんだよ」
彼女は苦笑しながら腕を下ろし、俺の方を向く。
強い眼差しが俺をとらえる。
「それじゃ、ちょっと頑張っちゃおうかな」
彼女は何かを決意したらしい。
キャンプファイアの炎はいつの間にか小さくなり、今にも消え去ろうとしていた。
――文化祭が終わる。




