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再確認

 体育館の中は人でごった返していた。

 『前の方に行こうか?』と五十嵐さんに提案するも、


「ううん、後ろの方がいい」


 と彼女は言う。

 普通なら最前列でバンドマンを見たくなるものじゃないのか?

 俺は音楽にそこまで詳しいわけじゃないから、よくわからなかった。


「――私ね、実はライブハウスに入ったことあるんだ」


 俺はぎょっとした。

 陽キャここに極まれり、五十嵐さんはまさかのライブ鑑賞勢である。


「あっ、勘違いしてるでしょ。撮影で入ったことがあるってだけだよ。演奏しているところは見たことがない」


 なるほど……? つまり撮影スタジオとしてライブハウスを使用したことがあるのか。

 一体どんな写真を撮影したのやら。

 ガールズバンド風の写真か? 真相は分からない。


「そういえば俺、五十嵐さんが雑誌に載っているところ、見たことないな。っていうかどの雑誌に載っているのか知らない」


「――それじゃ今度一緒に見る? 私、自分が載っている雑誌持っているから」


 なんだと……。これはどっちを選択するのが正解なんだ?

 写真を見たいですっていって気持ち悪がられないだろうか。

 でも背に腹は代えられない。何を言いたいかって言うと『その写真めっちゃ見たい』、というかそれしか選択肢がない。


「……はい、見たいです」


「あははっ! なんで敬語なの?」


 その時、檀上の軽音楽部のメンバーの一人がマイクテストをし、バンドメンバーの紹介を始めた。

 それが終わった後、ドラムスがスティックを数回かち合い、ドラムを叩き始める。

 次の瞬間、音の暴力が観客に襲い掛かった。


 凄い。

 重低音が体の芯を突き抜ける感覚がある。

 この歌は聞いたことがない。もしかしたら彼らのオリジナル曲かもしれない。


「す――い――!」


 五十嵐さんが何かを俺に向かって言っているが、曲の音量が大きすぎて聞こえなかった。

 俺は聞こえなかった事実を伝えるべく、大声で彼女に話しかける。


「えっ、なんだって!?」


 すると彼女はこちらに近づき、両手をメガホン代わりにしながら俺の耳に手を当て、耳打ちしてくる。


「音、凄いね。私、興奮しちゃった」


 興奮しそうなのはこちらである。

 今のそっと耳打ちは威力が高い。

 きっと俺の耳は茹蛸のように赤くなっていることだろう。


 彼女、五十嵐さんは音楽のリズムに合わせて体を上下に動かしている。

 俺もそれにあやかって同じようにリズムに乗る。


 好きな人と趣味を分かち合うってこんな感じなんだろうか。

 そんなことを考えながら音楽を聴きふけった。


 だが視線の先にあるのは軽音楽部のメンバーではなく、五十嵐さんの姿。

 彼女も視線に気が付いたのかこちらを見てくる。

 お互いに見つめ合いながら俺らは音楽を聴いていた。


 この俺の恋心は彼女相手に伏せたままにできるのだろうか。

 下手したらもうばれていてもおかしくはない。

 手を繋いだり、助けに入ったり、ずっと見続けたり――

 自分でも態度が露骨すぎるなぁとは思う。

 でも五十嵐さんの事となると体が勝手に動くんだ、仕方がないんだよ。

 惚れた弱みということで自分を納得させた。


 一方で問題点もある。

 後夜祭、大丈夫だろうかという懸念だ。

 どういう意味かというと、雰囲気に流されて告白してしまうのではないかという懸念。

 日が落ちたあの空気、冷たい夜風、グラウンドの中央で燃え盛るキャンプファイア。

 その時隣にはきっと五十嵐さんがいる。

 そんな空気の中、俺は本当に自制しきれるのか疑問しか湧かなかった。


 何曲か終わり、一時休憩タイムとなったところで、五十嵐さんが暑そうにしていることに気が付く。


「五十嵐さん、暑くない?」


「やっぱわかる? 本当はあっついの!」


「じゃあそろそろお化け屋敷の方に行こうか。涼しくなりそうだし」


「そうだね。あー、楽しかった!」


 そして俺らはお化け屋敷の出し物をしているクラスまで移動し、入り口から一緒に入る。

 内装はよくあるお化け屋敷だ。

 全体的に暗くし、最低限道が分かるように明かりを灯し、アトラクションへの参加者を恐怖に陥れる道筋を示す。

 どんな場面で驚かせてくれるのかと楽しみにしながら入口から進もうとしたとき、五十嵐さんが意外なことをしてきた。


 なんと腕を組んできたのである!


「五十嵐さん――」


「ご、ごめんね、坂上くん。私、本当はお化け屋敷、苦手なの」


 いやいや! なんで怖いって分かり切っているのにお化け屋敷に来たのさ?

 そう優しく質問をする。


「だってさ、怖いものって怖い方が面白いじゃない……?」


 なるほど、一理ある。

 だが彼女は結構怖がっている。

 俺は大丈夫、怖くないよって伝えておいたが、どこまで効果があるかは分からない。


 その時、血塗られた幽霊役の誰かが目の前に現れ、『うーらーめーしーやー』と古典的な驚かせ方をしてきた。

 その幽霊役に驚いたのか、五十嵐さんはびくっと体を震わせ、先ほどより強く俺に引っ付いてくる。


 オーケー。大丈夫だ、俺。冷静になれ。

 彼女を傷つけるような男にはなりたくないだろう?

 下心なんてどこかに押し込めよ。


 その後も驚かされるたびに彼女は『ひぅっ!』だの『ふああっ!』だの良い反応を見せながら、お化け役を喜ばせていた。

 出口に着くころには五十嵐さんは息も絶え絶え、という状態だった。


「……大丈夫?」


「――うん。怖かったけど、楽しかった。坂上くんがいたし、安心できてたのもあるけど……」


 さらっと口説かないでほしい。

 本当に後夜祭がどうなるか怪しくなってきたな。


 正直想いを告げるにはまだ早い。

 彼女は読書モデルを続けたいのだ。その為には親御さんに釘を刺された『成績を上げる』という約束を果たさなくてはいけない。

 俺が好きなのは努力して、結果も出す五十嵐さんだろう?

 それならまず彼女の成績を上げることが先決だ。


 俺の気持ちなんて後回しでいいよ。

 そっちのほうが素敵な五十嵐さんを知る機会が増える。

 そしてきっと今よりどんどん彼女のことを好きになっていくのだろう。


 そんなことを考えながら、そろそろ交代時間になるので俺たちは自分たちのクラスへと戻った。

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