61話
俺達が今待機している小さな砦に戻って来てから一晩明けて。
街道の後方から、追加支援の物資を積んだ荷蜥蜴車がやってきた。
俺達は兵士からの指示で、彼らの物資の荷下ろしを手伝う。
その後、この補給基地に集められた物資のうち、前線で追加で必要と思われる糧秣や水などの物資を俺達後方支援部隊の荷蜥蜴車に積み込む。
支援部隊の補助たる俺達狩人部隊の仕事は、今物資を積み込んでいる後方支援部隊の荷蜥蜴車と一緒に物資を担いで、主力後方の補給部隊に支援物資を届けることだ。その第一陣には俺達の組も入っている。
支援部隊の中隊長が伝令から聞いた話によれば、隣国の軍とはどうやらほんの一部が接敵したものの、牽制の小競り合いだけでまだ本格的な衝突には至っていないそうだ。
俺達は兵士たちが準備してくれた物資を背板に固定する。両軍がいよいよぶつかるかもしれないということで、昨日までとは打って変わって、周りの兵士は随分緊張している様子だ。
その後、追加支援の荷蜥蜴車が後方に引き返していくのを見送った俺達は、前線に向けて慌しく補給基地を出発した。
俺達は前線に向けて、山道の小さな街道をひたすら歩き続ける。俺達狩人の組は5組20人が後方支援の第一陣に加わっている。積み荷を満載した荷蜥蜴車が居るので、それ程ペースは上げられない。身体の疲れは皆無だが、心労がハンパじゃない。襲撃されませんように。襲撃されませんように。
そして2日後。俺の祈りが地球の神様に届いたのか、俺達後方支援部隊は特に敵国の襲撃を受けることも無く、無事カニバル国主力後方の補給部隊と再び合流することが出来た。支援部隊の中隊長が補給部隊の兵士に取次ぎを行っている。周りを見渡してみるが、先日訪れた時と特別変わった様子も無い。
大勢の味方に囲まれた俺は、思わず弛緩してホッと一息ついた。
その時であった。
ガーン ガーン ガーン ガーン
ずっと遠くで何か銅鑼のような音が鳴るのが聞こえてきた。
すると、俺達の周りの兵士たちの様子がいきなり慌しくなり、異様な緊張感に包まれた。おいおいおい何がどうしたってんだ。
「遂に来たな。」
「始まるぞ。」
「ボサっとすんな。早く持ち場に付け。」
「魔法戦からだ。此処までは来ないだろうが一応流れ弾には気を付けろよ。」
「伝令は?前の様子はどうなってる。」
俺は察しの悪い鈍感系主人公ではない。そして今はそのことが恨めしい。やっぱりこれって今から始まるってことですよね。・・・両軍の本格的な衝突。マジかよ。なんつータイミングで。逃げてもいいかな?
ドドドドドドドドドド
うおおっ耳にいきなり爆音が飛び込んできた。これが魔法戦てやつか?距離があるせいだろうか、意外と落ち着いて聞いて居られるな。遠雷みたいな感じだ。
俺達の周りの兵士は慌しく動き回っている。そして、放置気味の俺達後方支援の狩人部隊は特にやれることも無いので手持無沙汰だ。正直このままUターンさせて欲しいんだが、まだ積み荷はそのままだ。
おーい。誰か担当の兵士さ~ん。この荷物どうしたらいいんですか~。
その時、ズカズカと慌しく俺達の救世主がやってきた。バルガさんだ。
「お前ら。早くこっちへ来い。積み荷を降ろすんだ。」
俺達はバルガさんに従って、先日別れたファン・ギザの補給部隊本体の兵士達と再び合流した。背負った荷物を降ろして近くの兵士に渡す。そして荷車から積み荷を降ろす作業を手伝った。
両軍の本格的な衝突が始まったとはいえ、此処は後方の補給部隊である。今この瞬間にも最前線では激しく殺し合いが行われてるんだろうが、今すぐにこの辺りが血生臭くなるなんてことは無さそうだ。
俺としてはさっさとさらに後方の補給基地へトンズラしたいところなんだが、上からの指示が無い上、護衛の兵士が居ないと怖くてそれは出来ない。此処に来るまでに一緒だった護衛の兵士たちは、先ほどの騒ぎの際に慌てて何処かへ行ったまま戻ってこない。
首の後ろの毛が逆立ち、胃が猛烈に締め付けられる。なんだか途轍もなく嫌な予感がする。ただし、俺に霊感の類は皆無だし、幼いころから嫌な予感は外れっぱなしである。過度に恐れる必要は無いが、この身体の変調は何だろう。
嫌な予感の事もあり、俺は早くこの戦場からトンズラしたくて苛立っていた。だが臨時とはいえ、俺達は一応正規軍の中の一部隊である。命令も無しに、勝手に後方へトンズラすることは許されない。いや、本当にヤバくなったら俺は逃げるけどな。
周りが騒がしいのを尻目に、俺達4人を含む狩人部隊の面々がそのままボケっと待っていると、今まで一緒だった後方支援部隊の兵士たちが俺達の所に戻ってきた。
俺は彼らに早く後方の補給基地に戻りたいと訴えたが、暫くは命令を下すバルガさんの手が離せそうにないとのこと。
その為、後方支援部隊の中隊長の判断により、俺達支援補佐の狩人部隊は、指示があるまで此処で待機することになった。
そしてその判断が、俺達の生死を分けることになった。




