42話
各国の目論見通り目障りな探索者ギルドは壊滅したが、その爪痕は想定を超えて余りにも大きかった。
討伐に参加したいくつかの国は、軍の主要部隊が壊滅してしまい、国内の治安維持すら困難な状況に陥った。また、普段の戦争ではありえない数の戦死者が出たことにより戦後処理のための膨大な戦費の必要に迫られ、国庫の破綻が相次いだ。
いくつかの国はその後、政局の混乱や国民へ重税を課したことにより反乱が勃発して内戦に突入。あえなく滅亡を迎えることとなった。
討伐を主導した大国も同じく軍の主力に大打撃を受け、再建の目途も立たないまま周辺国に容赦なく攻め込まれ、領土を次々と切り取られることとなった。
市井においては、探索者がいなくなったことにより魔物の素材の供給が一気に滞り、極度の物価の上昇が始まった。また、探索者どころか各国の兵士も甚大な被害を受けた為、人々は各地で頻発する魔物の襲撃に対する対抗手段を失ってしまった。一応傭兵ギルドは健在であったが、彼らは探索者ギルド以上に素行が悪い上に、基本市井の一般人が依頼をする類の組織では無かった。治安も一気に悪化した。至る所で叛乱や暴動が巻き起こった。
人類世界は一時的に荒廃の一途を辿ったのである。
世界は探索者ギルドが受け持っていた業務の数々を引き継ぐ組織の必要性に迫られていた。そして白羽の矢が立ったのが、当時商人ギルドの下部組織であった狩人ギルドである。
狩人ギルドは元々、商隊の護衛や、山や森で狩った獲物の肉や毛皮を商人ギルドへ卸す業務を生業としていた。彼らはある程度の戦闘能力があり、魔物との戦闘経験もそれなりにある。そして何より各国に顔が広い商人ギルドの下部組織ということで、探索者ギルドの業務の後任を見込まれたのだ。
商人ギルドとしては各国からのその要請、と言うより懇願を突っぱねる事は出来ず、結局下部組織の狩人ギルドに元探索者ギルドの業務を受け持たせることになった。
その後、引継ぎによる長い混乱期を経てギルドの運営が安定してくるようになると、次第に構成員の数も増え、狩人ギルドの勢力は拡大していった。
そしてさらに数十年の後、規模が大きくなった狩人ギルドは商人ギルドから独立することとなる。
狩人ギルドとしては、商人ギルドの下部組織のままでは制約が多くて運営に色々と支障が出てきてしまっていること。商人ギルドとしては拡充した構成員に脳筋が多い狩人ギルドを管理するのが煩わしくなってきたことがあり、両者合意による円満な独立となった。
そして現在。狩人ギルドの主な業務は魔物の素材狩りや魔物の討伐である。昔のような魔物以外の肉や毛皮の狩りも細々とやっていはいるが、そこはギルド未加入の地元の契約狩人達にほぼ委託しているような形だ。ちなみに、彼らが契約しているのは狩人ギルドではなく商人ギルドである。また、遺跡や未開地域への探索業務は傭兵ギルドと折半して行っているそうだ。
___ヴァンさんの長い長い説明が終わった。聞き慣れない単語が多すぎて説明に余計な時間を取らせてしまった。今何時だ。
「成るほど。探索者ギルド 今は狩人ギルドになってる。ヴァン 言い方 紛らわしい。」
壊滅してない狩人ギルドなら入るのは不可能てことは無いんじゃねえの?今のギルドとは仕事内容はかなり異なるぽいけど一応俺狩人やってたし。紛らわしい言い方しないで欲しい。
俺は半眼でヴァンさんを見つめた。
「すまんな。狩人ギルドはお前が説明した冒険者?だっけ。とは成り立ちも趣も異なるからな。どちらかというとかつての探索者ギルドが先に思い浮かんだんだよ。」
ヴァンさんは苦笑いをした。
「ただ、ギルドに入るのは俺はあまりオススメはしない。」
表情を改めて、ヴァンさんは俺に忠告してきた。
「なぜ?」
「理由の一つは、上手く入れたとしても、ギルドに加入すればそれだけ制約が多くなるからだ。基本、ギルドの規約には逆らえなくなるぞ。それに、ギルドからの指名依頼の中には強制力を伴うものもある。これを無視したり反故にしたら国によっては違法になる場合があるからな。厳しい罰則が科せられるぞ。この手の組織に入るのは、当てもなく故郷を探す旅をするお前にはあまり都合が良くないかもしれん。」
「・・・・。」
「それともう一つ。魔物と積極的に戦うようになった今の狩人ギルドの死亡率は、傭兵ギルドと並んで桁外れに高い。具体的に言うと、加入した新人は1年以内に6割死ぬと言われてる。そんな中、お前生き残る自信あるか?」
・・・ええ~マジかよ。6割とかちょっとありえないだろ。日本の昔の炭鉱労働者でもそこまで死亡率高くないだろ。
ブラック通り越して暗黒じゃねえか。
とはいえ、他の選択肢は俺にあるのだろうか。やっぱり日雇い?
「とはいえ、職探しをするなら選択肢は他に無いかもしれんな。今のカニバルは不景気でまともな仕事の公募なんて無いだろうし、他のギルドは入るのに制約が多くて難しいぞ。今のお前が入れそうなのは狩人ギルドか傭兵ギルドくらいじゃないかな。ちなみに、傭兵ギルドは新人の死亡率はもっと高いぞ。あるいはいっそ職探しは諦めてそのまま旅に出るという手もあるな。」
うう・・・世知辛い。でもせっかくここまで来たのに無職は嫌だ。どうにか狩人ギルドへの加入を目指す方向で行くべきか。
「ヴァン 俺は職探し したい。狩人ギルドに入る。頑張る。」
俺はどうにか声を絞り出した。ヴァンさんから見たら恐らく凄い渋面をしていることだろう。
「そうか。ならお前がギルドに行くときは時間を作って俺も付いていってやるよ。このまま放りだすのも気分が良くないからな。商人ギルドメンバーの俺ならかなり顔が利くはずだ。」
「ヴァン ありがとう。」
几帳面なヴァンさんらしい。その好意は実にありがたい。
「あともう一つ。以前もお前に言ったと思うが、町に入ったらお前が気を付けることがある。」
ヴァンさんが真面目な顔で改めて言ってきた。そういえば以前、町中での活動に気を付けろと言ってたな。
「何だ?」
「さっき俺がまともな仕事の公募は無いって言ったろ。じゃあまともじゃない仕事ならどうだ?」
「・・・聞いて いいか?」
「カニバルは年中戦争してるから、最近じゃ常に人手が不足してる。要するに兵士がな。しかも、最前線で使い捨てにできるような兵士だ。」
「・・・。」
「お前みたいな身元の怪しいイキの良さそうな若い男が職探しでアテも無く町中をブラブラしてた場合、強引に兵士に勧誘されるかもしれん。下手をすれば適当な罪状をでっち上げられて衛兵に捕まって、そのまま奴隷兵にでもされかねんぞ。」
うげーマジかよ。奴隷がどうとか言ったぞ今。凶状持ちでもないのにまともに町で異世界観光すらできねえのかよ。どんだけハードな世界なんだよ糞ったれ。
「町中ではできるだけ目立たないように大人しくしておけ。ギルドに行くのも俺が案内してやるから、ブラブラと寄り道しないで一緒に真っ直ぐに行くようにするんだ。」
「・・・わかった。」
そういうことになった。
俺はヴァンさんの天幕から出ると、すでに空は白み始めていた。うげえ。ほぼ徹夜かよ。俺は回復魔法があるからどうってことは無いが、長い時間話をさせてヴァンさんには悪いことをしてしまったな。




