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遥か異界の地より  作者: 富士傘
異界新天地編
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36話

「とまあこんなところだな。この村の由来については。」

ヴァンさんは一息ついて、お茶のような物体を啜っている。心なしか楽しそうだ。商売人だし、喋るのも知識を披露するのも元々好きなんだろう。


「ありがとう ヴァンは凄い 沢山 知ってる。」

俺はヴァンさんを誉めた。別に媚びてるわけではない。素直にそう思う。


「ずっと昔の話だ。黴臭い詰まんねえ話だったろ?」


「それは ない 沢山知る 凄い事。」


「そうかい。」


ヴァンさんを見て、俺も目の前に置かれた茶のような物体を頂くことにする。グボベッ。温い特濃○汁みてーな味だぞコレ。

顔面の筋肉を総動員して平静を装った俺は、続いてヴァンさんに色々聞いてみることにした。ヴァンさんはニヤニヤしている。チクショー。もっとポーカーファイスを鍛錬せねば。


俺が飛ばされてきたこの世界。本当は、その全体像を問うてみたかったのだが、考えてみれば、こんな超僻地の限界集落の小僧がいきなり世界のことを聞いてくるとかいくら何でも怪しすぎる。どうにか人攫いにあって、この集落に流れ着いた田舎者を装わねばならんだろう。俺異世界から来ました てへっなどと言ったらどんな扱いをされるか分かったもんじゃない。勿論、そんな与太話を相手が信じる可能性は極めて低いが、信じてしまった場合のリアクションが想像もつかない。下手すりゃとっ捕まって人体実験の日々となりかねん。


ただ、実際何処まで聞いてよいものか判断が難しい。森を抜けた先にある町の事か、それとも国のことか、それとも大陸の事か。ん?この場所て果たして大陸にあるんだろうか。もしかしたらデカい島なのかも。それに、大陸や島のこと聞いたらそのまま世界の事を聞くことになってしまわないだろうか。地球でも昔の人は欧州=世界 中国=世界て認識だったよな。たぶん。


色々考えてみたが、一応俺は故郷を探す旅に出る身の上である。色々聞いてもそう不自然ではあるまい、と開き直った。


「俺 故郷と家族を 探す ヴァン たくさん 教えて。」

俺は日本の特徴を適当に話して心当たりを聞いてみた。勿論かなり脚色してだ。空飛ぶ金属の塊だの、電気信号を利用した情報の塊だの、その気になれば飛翔体一発で都市ごと吹き飛ばせますだの話せるわけがない。

このことついては、逆に心当たりがあったら驚愕していたところだが、ヴァンさんの知識にも日本のような場所は無いようである。ヴァンさんは興味津々で、脚色された日本の文化や日本人の身体的特徴、生活様式などを聞いていた。


そして俺の今いる場所。先に聞いた通り、ここは忘れ去られたかつての開拓村である。ただし、完全に忘れ去られたワケではなく、最寄りの町とは僅かながら交流があるようだ。ビタやオルグも町の事を知っていたし、完全に接点が無いとなると、折角オルグに作ってもらう身分証も全く無意味なものになっちまう。ただし、ヴァンさんがどうやってか嗅ぎつけた希少金属の事は、ここの行商人しか知らないらしい。因みに外でバラしたらどうなるか分かるよな?とヴァンさんはにこやかに俺に言い含めてきた。怖い。

ヴァンさんの話では、ここはとある大陸の西端に近い所と言われているらしい。大陸の呼び方は国や地域によって様々で、バーラと呼ばれたりラフテシアと呼ばれたりしている。

因みに、大陸の西端と言うのは適当に言われているだけで、実の所全容は誰も知らないそうな。なぜなら、ヒト種の支配地域はこの大陸の中でも恐らく僅かであり、殆どが人々から魔物と言われてる動物、或いは怪物たちの支配域だからだそうだ。


魔物は戦闘力が非常に高く、繁殖力も強い。普通の野生動物と違って、身体に魔素を貯め込んでいたり、魔素によって肉体が変質しているのが特徴だ。種族にもよるが、基本凶暴で、人間を見たら大概襲い掛かってくる。

ちなみに、魔物ではなく普通の野生動物でも、魔物どもを蹴散らして蹂躙するようなとんでもない奴も居るらしい。一体何食ったらそんな怪物になるんだよ。


魔素というのは、俺が適当に意訳しただけである。ファンタジーぽくて良いだろ。エネルギーを抽出する物質だから呼び名は別に酵素でも何でもいいけどさ。魔素は太陽や月から降り注いだり、大地から噴出する不可視の力?或いは恵み?のようなものだそうだ。濃度が上がった場合や、特殊な人間には目視可能らしいが。


ううむ、興味深い。どんなエネルギーなんだよそれ。勿論唯の元中学生の俺には解析など不可能である。あの黒猪から流れ込んできたユスリカがそれであろうことは想像つくけど。なんとなくニュートリノを思い浮かべた。地球に居た頃、テレビで見たスーパーカミオカンデみたいな巨大施設なら魔素とかも検出できるだろうか。


それはともかく、そんな怪物どもが激しく弱肉強食してるハードなこの世界で、人間が滅んでないのはなぜか。それは、ヒト種の支配地域は魔素が非常に薄い為である。魔素の希薄な地域は、常に多くの魔素を取り込む強い魔物であるほど居心地が悪いようだ。なので、ヒト種の支配地域に強力な魔物が現れることは滅多に無い。

要するに、ヒト種の支配域は支配しているというよりは、魔物があまり来ない場所に逃れて住み着いているという方が正しいのだ。そのため、稀に強力な魔物が気まぐれや縄張り争いに負けたりしてふらりと現れると、目を覆うような惨事になるとのこと。怖すぎだろ。

だが、人間側もいつもいつも只一方的にやられているワケでもないらしい。鍛え上げた強力な個や軍隊、組織、武器、道具などにより魔物どもとどうにか渡り合っているそうだ。俺だって黒猪を狩りまくってたしな。人間の叡智舐めんなよ。



話は戻るが、大陸の西の端の方と言われてるこの森の東端を支配しているのは、現在カニバル王国とか言う国らしい。何か色々いけないものを食ってそうな名前だが、聞いてみたら単純に建国者の名前だった。

ちなみに有能な賢王さまの国は次の代で衰退して、この辺の領土はカニバル王国に分捕られてしまったとのこと。あちゃー。


当然、最寄りの町もカニバル王国の支配下にある。俺は町に付いたらまず職探しをするつもりだった。一定水準以上に発達した文明の中では、まず何をするにも金が要る。身一つでもどうにか生き抜く為の力は身に付けたつもりだが、なるべく健康で文化的な生活は確保したい。だが、カニバル王国はゴリゴリの軍事政権なので、町での活動は少し気を付けたほうが良いとのことだ。

と言われても一体何を気を付ければよいのか。町についての詳細は道中で教えてくれるそうだが。ん?道中?


「ヴァン 俺を連れていく いいのか?」

聞き間違いじゃないだろうな。俺は改めてヴァンさんに聞いてみた。


「ああ。お前と話をして決めた。どうせそこには一度立ち寄るし、一緒に連れて行ってやる。」


「分かった 感謝する。」

俺は深く頭を下げた。


「但し、その前にお前に聞きたいことがある。」


「?」


「お前は一体何者だ。」

そこには先ほどまでと打って変わり、真剣な貌をしたヴァンさんが目の前に居た。

その目は鋭すぎる光を放って俺を射抜いた。


おれは硬直した。


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