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遥か異界の地より  作者: 富士傘
異界新天地編
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32話

俺がこの集落の一員になってから1年余り。俺は、意を決してビタ父であるオルグに相談を持ち掛けた。


「オルグ  話 したい。」

俺は、集落の男衆と一緒に蛮刀の手入れをしていたオルグが一人になったタイミングを見計らって、彼に話しかけた。


「ここで話せ 俺は忙しい。」

オルグは訝し気な顔で俺に話を促した。


「大切な話。 二人で話 したい。」

俺は頭を下げて、オルグに必死で頼み込んだ。今はまだ、ビタにも狩人仲間にも話の内容を聞かれたくはなかったのだ。


「許す。日が沈んだらお前の家に行く。そこで話せ。」

暫らく考えた後にオルグは鷹揚に頷くと、踵を返して男衆たちの方へと歩き去って行った。俺も狩りの準備をするため、自分の家へ向かった。


今日の狩りを終え、自分の家に帰った俺は、ドキドキしながらオルグが来るのを待っていた。何時もならこの時間は回復魔法の鍛錬に余念がないが、今日ばかりはそんな余裕は無い。俺はオルグに、この集落を去ることを告げる決意を固めたのだ。



暫く待っていると、家の入口の外に僅かな気配を感じた。そして、オルグが静かに家の中に入ってきた。

「カトゥー。入るぞ。話を聞かせてもらおう。」


俺とオルグは家の中で座ったまま、暫く無言で向かい合っていた。俺はさっきまでと違い、なぜか心が落ち着いていた。なぜだろう?オルグの形は厳ついが、それでいて穏やかな光を放つ目を見たからだろうか。

俺は静かに話を切り出した。


「オルグ 俺は ここを 去ることにした」


「・・・・・」

オルグの目つきが厳しくなり、剣呑な光を帯び始めた。

無理も無かろう。集落の皆で俺の家を建て、1年余り共に生活して、漸く皆に馴染んできた矢先にコレである。俺だって集落の長なら怒るかもしれない。だが。


「何故だ。理由を言え。カトゥー。此処に住むことは、お前が望んだことだろう。」

オルグは眉間に皺を寄せて俺を詰問した。耳が痛い。あとちょっと悲しそうな表情をするのはやめてくれ。


「俺は家族に 友に 会いたい。故郷 探しに 行きたい。」

俺はオルグに理由を話した。当然、元々定住する気はありませんでしたぁなどと暴露する勇気は俺には無い。だが、話した理由は嘘ではない。もう一度、家族に会いたい気持ちは本物だ。


俺の訴えを聞くと、オルグの目から剣呑な光が薄れていった。


そして俺はオルグに、この集落に来るまでの出来事や故郷を探していること、故郷に居るはずの俺の家族や友人の事を掻い摘んで話した。とはいえ、ありのままを話しても信じるワケ無いだろうから、大いに脚色して話した。脚色はしたが嘘は付いていない。なので許して欲しい。元々此処に定住する気は全然無かったが、日本に戻る方法を探すのは本当だ。


オルグは暫く厳しい表情で俺の目を見ていた。だが俺の決意が固いのを悟ったのか、

小さく息をついて言った。

「それで・・お前は何時此処を去るつもりなのだ。カトゥーよ。」


「次 商人が来た時。 一緒に行く。」

「オルグ お願い ある。」


正直、オルグが認めてくれるのは分かっていた。この集落の人たちは家族や友人との絆を殊更大切にする。以前狩人仲間たちは、俺のナイフを見たときに異常にそれを欲しがった事があったのだが、俺が友人の形見だと説明するとあっさり引き下がり、決して粗末に扱うなと逆に忠告までされた。ううむ、すまん大吾よ。咄嗟に出任せを言ってしまって。

そんなわけで、俺はオルグに対してはそれ程には心配していなかったので、図々しいとは思いつつ、ついでに一つお願い事をしてみた。


それは、俺がもしビタから以前聞いた町に辿り着いた時に、この集落の一員という俺の身元を保証するような何かが欲しいというお願いである。

町に入るにせよ、町中で何らかの職探しをするにせよ、何の後ろ盾も無い氏素性も一切不明の原始人に、すんなりと事を運ばせる程この世界は甘くはないだろう。

町の入口で門前払いされたり、下手すりゃ警察や自警団的なものにとっ捕まる危険すらある。いやかなりの高確率でそうなりそう。

何か俺の身の証を立てるモノが欲しい。

大切に持ってる俺とのぶさんの生徒手帳は勿論この世界じゃ何の効力も持たない。しかも、この集落は深い深い森の奥でひっそり自活してるほぼ未開の原住民である。町の人はこの集落の事を誰も知らないかもしれない。例えオルグから何か貰えたとしても気休めにしかならないかもしれない。だが、やれるだけの事はやっておきたい。


と、勢いでお願いをしてみたものの。オルグは口をへの字にして考え込んでいる。少々無謀なお願いだっただろうか。すっかり馴染んだせいで忘れかけていたが、なにせこの集落は未だ竪穴式住居民。身元だの身分だのとかそういう概念は果たしてあるのだろうか。仮にそういった制度や概念があるにせよ、俺が望んだような身分証的なものはあるのだろうか。紹介状とか?印籠とか?う~ん。 


結局、オルグは引き受けてくれた。オルグは一見竪穴式住民のウホウホ蛮人に見えるが、集落の長として一応色々な事を学んできたらしい。さらに行商人との交流でそれなりの知識を身に付けているようだ。彼は俺に集落の住人の証として木札のようなものを準備してくれるそうだ。有難うオルグ。顔は厳ついけど優しいぜ。お礼に黒猪の燻製沢山仕込んどくからな。

でも、こんな超限界集落謹製の木札なんて他の地域で通用するんだろうか・・。そもそも何の根拠で証なのか良く分からんし。かなり不安だ。


いつまでも悩んでも仕方ないので、オルグに集落を去ることを告げた後、俺は冬の間に少しづつ準備を進めることにした。まずは保存食の作成と、行商人と話す内容のシュミレーションをしておく。聞きたいことはいくらでもあるのだ。


また、この一年余りで俺の回復魔法の技術はかなり向上した。動物実験を繰り返したお陰で、魔法の効能もかなり把握できた。俺が色々な応用を試しまくるため、次第にビタの方が俺に教えを請うようになり、最近では二人で試行錯誤しながら色々試すようになっている。

まず回復力については1年前のビタよりは俺の方が上である。だが、今のビタは1年前より成長しており、今の俺より上である。そして、現在は俺の回復力の向上は頭打ちになりつつある。

回復魔法の効能については、俺の想像以上であった。ウサネズミによる実験の結果、皮膚や筋肉の外傷のみならず、神経や血管、腱、骨、内臓の損傷にも有効であり、脳の損傷まで修復して見せた。ただし、一定以上の深い傷には効果が無かった。やはり修復力には限界があるようだ。また、欠損部分の再生も不可であった。ただし、腕をちょん切った場合、切断後1時間なら回復魔法でくっついた。2時間後はくっつかなかった。

細菌に関しては、この世界にもあった黒黴に対して、除菌を意識しながら回復魔法をぶっ放してみたら、黒黴は消し飛んだ。恐らく菌にも有効であると思われる。ウイルスは調べようがないので断念した。これらの結果は、人間に対してもある程度は参考になるだろう。


それにしてもだ。正直回復魔法凄すぎだろ。仮に地球に持ち込んでも完全にオーバーテクノロジーだよこれ。地球で披露したらスンゴイことになるぞ。


また、俺達は出力向上の鍛錬しながら色々な事を試した。俺は、今では数秒・・いや嘘です。調子が良ければ15秒くらいあれば魔力を練り上げて回復魔法を発動できる。ちなみにビタは数秒である。また、手以外の頭や足や尻から発動できないか滅茶苦茶頑張って試してみたが、これは今のところ全然できそうにない。諦めず鍛錬は続けるがな。ただし、それに付随して面白いことが出来るようになった。

一度手で発動した回復魔法を再び体内の魔力の流れの中に押し込めることに成功したのだ。

ただ、それは簡単な事じゃなく、思いついてから何度も何度も練習して、手で魔力の霧散を繰り返しつつ漸くタイミングを掴んだ。ちなみに、出かかったゲップを押し戻すような感じですこぶる気持ちが悪い。ビタも初めて出来たとき顔を顰めていた。

これが中々面白いもので、身体の中の魔力の流れは自分のコントロール下にあるので、発動した回復魔法の拡散は体内で自由に出来たのだ。ただし、一度手で発動させた上で無理やり体内に戻す工程を挟むため、手を使ってそのまま回復するより当然時間は倍かかる。

俺は正直この回復魔法は、戦闘中は殆ど使えないものと考えていた。何しろ集中力が必要だし、発動にも時間がかかる。小説や漫画なら適当に修行してたらそのうち息をするようにお手軽に出来るようになるんだろうが、実際に体感していると訓練でどうにかなる性質のモンじゃないのが分かる。

複数名でチームを組んで、俺自身はサポートしてもらいながら回復に専念するか、特定の条件を揃えない限り戦闘中は使い物にならないと考えていた。だが、この応用を利用すれば、死んだふりしながらコッソリ回復できるんじゃなかろうか。


俺は、次にコレを試しに腹の中で盛大にぶっ放してみた。するとっ!これが超絶気ンもちイイイイィィ!!何というかエナジードリンクを大量に体内でぶっ放した感じで何かが体内で超絶アガる。そして内臓がスーパーリフレッシュされたような感じになった。・・腸内細菌消滅してないよな?

また、腕の中で拡散したときは昔大吾にやられた古傷が一気に完治した。・・激痛と共に。でもこれすんげええぞ。体内で回復魔法を拡散すると外から注入するより骨や内臓への効能が増すのだろうか?ただ、検証するのは流石に無理だった。動物実験では能力的に無理だし、内臓や骨を破壊するまで自分の肉体を実験台にする勇気は流石に無かった。

脳に試すのは何か戻ってこれなくなりそうだから怖くて試してはいない。

だが、俺も男の子で青少年である。当然アソコには試した。俺の愚息だ。


「フオオオオオオオオォォォォォ!!!」


その結果、俺は男子の夢の一つを叶えた。俺は童貞であり、当然その技巧についてはゼロである。にもかかわらず、性的フィジカルは恐らく地球人類最強となった。


・・・相手居ないけどな。


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― 新着の感想 ―
魔法の描写面白い。加藤はビタにもっと感謝すべき。
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