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遥か異界の地より  作者: 富士傘
幕間
262/267

間章 旅の途上8

俺達がキルキーの大河を渡り、対岸の町に辿り着いた翌日。




昨晩の交渉の結果、晴れて旅の供兼剣の師弟関係となった俺達は、荷物を纏めて宿を後にした。そして目に付いた街の住人に聞き込みをしながら、木工ギルドないし木工職人の所在を探し歩いた。その結果、此の町には木工ギルド支部は存在しないものの、各種ギルドの構成員である大工、家具職人、革職人等が寄り集まった店舗兼作業場が在る事が分かった為、ささやかな心付けと引き換えに教えて貰った場所を訪れる事にした。




職人達の作業場を訪れた俺達は、直ぐに目当てのブツ、野積場に積まれた木製の建材を見出すことが出来た。その後、如何にも頑固親父然とした見た目の大工頭と交渉し、ストイケの目利きに従って具合の良さそうな建材を幾らか買い取った。幸い、作業場の建材の在庫に余裕が有ったのと、ストイケが所持する身分証とイケメン効果も相まって、妥当な金額で買い取る事が叶った。・・・適正価格が幾らか知らんけど。まあストイケが言うならそうなんだろう。多分。因みに支払いは折半である。




建材を購入した俺達は、其の流れで大工頭の親父に頼み込んで作業場の片隅を間借りすると、切り鋸を借りて建材を適当な長さに裁断。更に、昨日俺達を急襲した鼠風男を返り討ちにした際に手に入れた魔法の大鉈を使って縦に割ると、お次はストイケの指示を仰ぎながら削りまくって形を整えてゆく。つうかお前指示が一々細かいな。俺は大工や木工職人じゃねえんだぞ。




とは言え、山暮らしの拠点の建設や丸太剣製作の経験も相まって、この手の作業は手慣れたモノだ。しかも、分捕った魔法の大鉈は恐ろしい程切れ味が良く、殆ど手応え無く固い木材をサクサク削れる。お陰で、作業は実に円滑に進んでゆく。




此の様な時には非常に便利な魔法の大鉈ではあるのだが、藪漕ぎや枝打ち等の鉈として普段使いするには刃渡りが長過ぎる上、余りにも刃の切れ味が鋭過ぎる。扱い辛く持ち運びに難がある上、些細な弾みでスパンと指を切り落としそうで非常に怖い。なので、機会を見て此の大鉈はとっとと売り飛ばす腹積もりだ。ストイケには昨晩コレ欲しい?と訊ねてみたら、いらんと素っ気無く拒まれたしな。




こうして野郎二人掛かりで木材を削る作業に没頭した俺達だが、魔法の鉈のヤバ過ぎる切れ味のお陰もあって太陽が空の真上に来る頃には仕事が片付いた。そして、見た目は不格好ながらも鍛錬用の木剣が二十本完成した。俺としては運搬が面倒なので、別にその辺の立ち木から削り出しても良いし、そもそも俺には相棒二号とも言うべき丸太剣βが有るのだが、其処ら辺はストイケの拘りである。ちゃんと乾燥させた木材で、鍛錬用の木剣を造りたかったのだそうだ。尤も、元は唯の建材なので材質は高品質とは言えないが、質の低さは本数でカバーするとの事だ。




その後、職人達に礼を言って作業場を後にした俺達は、其のまま王都に向けて町を出立した。唯でさえ巨大な荷物に加え大量の木剣を担いだ俺は、悲しいかな傍目には完全にストイケの従者にしか見えないだろう。




町を離れてから体感で僅か30分程移動した俺達は、街道近くの展望が利く具合の良さそうな原野を今日の野営地と定めた。二人での協議の末、結局出立の前に町で食料を数日分買い込んだので、暫くの間は狩りで食料を調達する必要は無い。周囲は明るく、日が落ちる迄には未だ充分な暇が有る刻限ではあるが、剣の鍛錬を考慮すれば野営を決めるに早い時間とは言えないだろう。




するとストイケは製作時にやたら煩く注文を付けやがった長さ凡そ6尺(約182cm)、太さ5寸(約15cm 但し持ち手を除く)ものアホ程長大な木剣を手に取ると、俺から借りた魔法の鉈で更に表面を削ったり、ブンブン振りながら具合を確かめ始めた。




「ふむ。まあ重さも感触も、此の位で良かろう」




そして確認と手直しを終えたのだろうか、俺に向けて木剣を差し出した。




「先ずはコイツを振ってみろ」




「ああ」




オウケ~イ。見せてやんよ、異界で長年滅茶糞に鍛えまくった俺の実力って奴を。俺は手に取ったクソデカ木剣を正眼に構え、入魂の一振りをぶちかました。




「ほう・・カトゥー。矢張りお前唯の素人では無いな。何処の流派かは判らぬが、少なからず剣の手解きを受けたと見える」




腕を組んで俺の一振りを観察していたストイケは、目を細めて感嘆の言葉を口にした。ドヤアァッ!そらまあ都合丸一年以上、俺はあのゾルゲから受けたシゴキと称するのも憚られる超絶ハードな虐待に耐え続けたからな。もしあの時回復魔法を身に付けて居なければ、俺は100パー再起不能か、若しくはあの世に向けてハイなダイヴをしたに違い無い。そら例え猿だろうが素人だろうが、剣の腕前がアイスピックでぶっ刺されたみたいに肉体の奥深くに刻み込まれるってモンよ。




「良し。ならばカトゥーよ。俺が此処で見ているから、続けてあと五千本振れ。充分に身を入れろよ。一振りたりとも手を抜く事も、途中で休む事も許さぬ」




オイオイオォォイ。お前はゾルゲか馬鹿野郎っ!俺に悪夢みたいな記憶の数々を思い出させんな・・・まあやるけどよ。





____シパァン




ラスト一振り。勿論一切手を抜く事など無く。飛び散る汗と共に放たれた一撃は、木剣にあるまじき音を奏でて眼前の空気を切り裂いた。




「ぷうっ」




俺は一つ息を吐いて、巨大な木剣を肩に担いだ。ホカホカと温まった身体と、程良い疲労感が何とも心地良い。




以前、ファン・ギザの町で狩人ギルドの新人教育実習を受けていた頃の俺は、毎日毎日毎日ゲロと涙と鼻水と小便を撒き散らしながら、丸太剣で地獄の素振りをひたすらやらされたものだ。しかしながら、此の手の鍛錬はとにかく時間が掛かり過ぎるのが最大の難点である。事実、周囲の景色は既に夕焼けに染まっている。なので今の俺は、専ら短時間でより高負荷な鍛錬に移行している。尤も、暇さえ有れば今でも偶に素振りの鍛錬はローテに組み込むけどな。そして其の際に俺が手にするのは、丸太剣より遥かに高価高耐久高荷重な丸太剣βだ。




「まあ、こんなモンだ」




課された五千の素振りを終えた俺は、ストイケに向けてフッと気取ったドヤ笑みを浮かべて見せた。




「うむ、大体判った。ともかく、今日の鍛錬は此処までだな。もう日が落ちそうだし、野営と夕餉の準備は俺がするから少し休んでろ。明日からの鍛錬の話は、食事をしながらでもしようか」




「いや、休憩は別にいらんよ」




此の程度なら回復魔法を使うまでも無い。ボロ布と湧水の魔法で吹き出た汗を拭った俺は、ストイケが着手した野営と夕餉の準備を手伝う事にした。




本日の夕餉は魚の干物と謎の赤黒い穀物(かなり保存が利くらしい)を使った雑炊だ。味付けは干物の塩分のみなので、勿論不味い。彩と栄養バランスを考慮すると野草を採取しておきたかったが、この辺りの植生が全く分からん。




辺りが薄闇に覆われる中。忙しなく野営の仕度を済ませた俺達は、即席の竈を囲んで腰を落ち着けた。




「カトゥー。お前に基礎鍛錬は不要だ。先程の試しで、其の事が改めて判ったのは幸いだったな。基礎から始めるには、余りに時が足りぬからな。」




夕餉を頬張りながら、ストイケが口を開いた。




「基礎鍛錬か。具体的には何をするんだ?」




「膂力と持久力の鍛錬だ。騎士を志し高度な戦技を欲するならば、先ずは肉体に最低限必要な力を身に付けねば話にもならぬ。しかし、此れが中々に困難な壁なのだ。大概の者達は、壁を踏み越えられずに振り落とされるからな」




「ふ~ん。リオディーンから剣を教わるには、あの木剣を5千は振れないと 話にならない訳か」




「いや、流石に全力で5千も振る必要は無いがな。しかし誠に嘆かわしい事ではあるが、俺が見た限りでは今のエリスタルで騎士を名乗る者達の中で、其れを充分に熟せる者は十人の内一人にも満たぬだろうさ」




いや待て。お前そうは言うけどさ。丸太剣βに劣るとは言え、あの重さの木剣を全力で5千本振るのは、真面な人間じゃ絶対無理だろ。此の世界の連中の身体能力は上を見れば青天井らしいが、一般的な人族は地球人と大して変わらんからな。まあ基本虚弱な現代日本人と比べれば相当にタフだけど。




「まあそれはともかく、カトゥーよ。明日からの鍛錬は全て実戦形式で行うぞ。最早お前には、剣の技を一から授ける事はせぬ。多くを見た訳では無いが、お前には己自身で練り上げた戦技が、既に深く身に付いている様に見えるからな。そんな状態で無理に矯正すれば、下手をすれば却って悪手と成りかねん。なので俺が手を出すのは目に余る短所に留めるし、授けるのは上積みしても差し障りの無い技術だけだ」




「成る程・・うむ、承知した。それと、王都への移動は 午前の三の刻までとしようか。其の後は日が落ちる迄 狩りと野営の準備、それと鍛錬の時間に当てようと思う。其れでどうだ?」




「良かろう。しかし、その日の内に町に辿り着けそうな場合はどうする?それと、此処から王都までに在る町や関所に関してなのだが・・」




夕餉を終えてからも、俺達は明日からの鍛錬や旅のプランを入念に話し合った。




まあ今迄の経験上、結局想定外の事態が起きて行き当たりばったりと化す事が多いのだが。とは言え鍛錬の時間を改めて考慮すると、事前にアレコレ決めておかないと色々と面倒臭い。しかし幸いにもストイケは従軍経験に加えて兵を率いた事も有るらしく、出会った時に迷子だったとは思えぬ程にテキパキと物事を決断して、顔面のみならずアタマの有能さを如何なく発揮してくれた。当然、イチ野郎として俺の心の中の嫉妬ゲージもモリモリ上昇中だ。ついでにほんのちょっとだけ胸が熱くなった気がしたが、断じて気のせいだろう。絶対に認めねぇぞ。




その後もたわいもない雑談を交えた協議は続き。結局、俺達が交代で就寝する時分には、頭上に満天の星空が拡がって居た。




翌朝。




早朝の鍛錬と朝餉を済ませた俺は、昨日振りまくったクソデカ木剣を魔法の大鉈で叩き割って二振りの木剣に作り替えた。あの木剣はストイケが俺の力を測る為に造らせた代物で、既にお役御免だからだ。




そして爽やかな青空の下。旅を再開した野郎二人は、エリスタルの王都に向けて野営地を後にした。

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― 新着の感想 ―
追いついてしまった、楽しくてハイペースで読ませてもらいました。これからも楽しみにしています。
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