表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か異界の地より  作者: 富士傘
人跡未踏生存限界編
20/267

19話

俺は高熱で倒れたのぶさんを必死で看病した。

だが、此処は人跡未踏の異世界である。医者なんて居ないし、医療器具も薬も無い。俺に出来ることはのぶさんの側で声を掛けて元気付けたり、出来るだけ消化に良さそうな食事を食べさせてあげることくらいであった。


だが、俺の必死の看病の甲斐も無く、のぶさんはどんどん衰弱していった。俺は頭を抱えた。何度も経験した食当たりならお手の物だが、明らかに症状が違う。原因がサッパリ分からなかった。やはりあの黒猪が原因なのだろうか。全然分からねえ。

糞っ糞がっ!どうにかならないのかよ。




____のぶさんが倒れてから、1週間余りが過ぎた。


「ごめん、な加藤。迷惑ばかり 掛けちまって。」

巨大樹の葉っぱを重ねて作った簡素なベッドで仰臥するのぶさんは、俺に顔を向けて弱々しく口を開いた。


「のぶさん。在り来たりな台詞に在り来たりな台詞を返してやるが、そう思うならさっさと直せよ。ここには医者なんて居ねえんだ。弱気なままだと直ぐにくたばっちまうぞ。気合入れろよ。」

俺はのぶさんの手を握って、何度も声を掛け続けた。

のぶさんの指からは力が抜けていた。ああ、ヤバイよ。何となく判るんだ。のぶさんの身体から命の火のようなものが抜け落ちていってるのが。このままじゃ・・。


その次の日も、俺はのぶさんの手を握って声を掛け続けた。のぶさんはもう、食事も何も口に入れることが出来なくなってしまっていた。

俺は後悔した。もし俺があの時、のぶさんを連れ出さなければ・・。思わず懺悔の言葉が口から漏れ出した。

「ごめんのぶさん。のぶさんが皆と一緒に居ればこんなことには成らなかったかもしれねえ。俺のせいだ。俺がのぶさんを連れ出したから・・。」


「そんなこと ないよ。あのまま・・あそこに居たら 俺はたぶん とっくに 死んでた。此処に来てから、色々あった。でも・・・楽しかった。」

のぶさんは小さく笑みを浮かべた。

何でこんな穏やかな顔で笑えるんだろう。俺は・・。


「のぶさん・・・。」

言葉が詰まった。俺はそれ以上、何も言えなくなってしまった。


「お前は 凄いよ。こんなことになっても 全然挫けないし 諦めない。生きることを やめようとも しない。俺も元気 凄く・・・貰った。」


「だから・・・・頑張れよ。」


「あ~、また父ちゃんと母ちゃんに 会いたかったなあ。」


そしてそれきり、のぶさんは昏睡状態になってしまった。


____そして翌日。のぶさんは静かに息を引き取った。



俺はこの異界の地で、生まれて初めて友達の最後を看取った。


冷たくなったのぶさんの手を、俺はずっと握り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] のぶさんーー!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ