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遥か異界の地より  作者: 富士傘
百舍重趼東方旅情編
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第160話

迷宮都市ベニスから遥か東を目指して旅立った俺は、のんびり歩いて・・何て事は無く、大海原を回遊するマグロの如くひたすら走り続ける。


今の季節は夏真っ盛り。直射日光で頭の毛根が死滅しそうな程クソ暑かった故郷程では無いにせよ、此の異界の夏も其れなりに暑い。その上、俺は相当な重量の旅の荷物を担いでいる。にも拘らず、ジョギング程度のペースで走ると疲れるよりも回復する速度の方が明らかに早い。其のままだと永遠に走り続けられそうだ。我ながら馬車馬も泡吹いてブッ魂消る程の持久力である。今の俺のタフネスならば、仮に故郷でコンプラでケツ穴拭くようなブラック企業に放り込まれても、無遅刻無欠勤で定年まで余裕で完走出来そうな気さえする。尤も、この世界のブラック労働はタフな南米の炭鉱夫ですら号泣して即日逃亡するレベルのガチ暗黒らしい。一年も勤め上げたら俺でも余裕で逝けちゃいそうだぜ。


少々話は逸れたが、そんな訳で。往来の激しいベニス近郊ではすれ違う様々な連中を物珍しさからチラチラと覗き見し、そしてその十倍くらいたった独りで街道を爆走する常軌を逸した変態として好奇の視線に晒されながら、俺はインターバル走でかなりのペースを維持しつつ、日中ぶっ通しで街道を走り続けた。


今は暑いので背中に括り付けてあるが、油を染み込ませた真新しい外套のお陰で、天候を気にせず外で活動する事が出来るようになったのは地味に嬉しい。暫くの間意気揚々と走り続けると、何時しか往来の人や人擬きの姿は疎らとなり、街道は未舗装の細い道へと姿を変えた。粗雑な出来だが一応地図を購入して有るとは言え、此処から先は道に迷わぬよう気を付けねばならない。其れでも最悪迷ってどうしようも無くなったら、真っ直ぐ東に向かって突き進むつもりだ。因みに東とは地球と同じ太陽が昇る方角である。と言っても俺が勝手にその方角を東と定義しただけだが。


日が頃合い迄傾いたら、道中採取した獲物で手早く夕餉を取る。食料は基本現地調達。保存食は不測の事態の為に温存だ。湧水と発火の魔法のお陰で、夕餉の仕度は劇的に楽になった。水源を探し回ったり汲んだ水を毎度煮沸する必要は無いし、火起こしも超絶簡単だ。幾ら手際良くなったとはいえ、手で火起こしをするには火打石で何度も火花を飛ばしながら、美女のおっぱいを扱うが如く火種を優しく取り扱わねばならん。風が強い時など何度も失敗したりするし、上手く着火させるのはかなり面倒臭いのだ。だが其れが発火の魔法を使えば余裕の一発着火よ。魔法って素晴らし過ぎるぜ。但し野宿の場合、魔法で集中してる時に獣や魔物にイタダキマ~スされるとかなり危ないので、事前に周囲の安全確認が必要だ。


その後丸太剣βを活用した鍛錬で肉体を限界まで追い込み、夜になれば目を付けた樹上に身体を固定、残存魔力が危険水域になるまで尻洗魔法アスクリンを始めとする魔法の鍛錬に励む。だが、正直時間が全然足りない。工夫を重ねて鍛錬の更なる高効率化を図らねば。婆センパイの下を離れて以来、こうして独りで連日鍛錬に心血を注いでいると、トレーニングには気合や根性だけでなく、豊富な経験と明晰な頭脳が必要である事が嫌でも骨身に染みる。優秀なコーチが欲しいよお。


倦怠感と共に魔力の枯渇を感じ始めたら、最後に回復魔法をぶっ放して就寝である。無論、魔力を完全に枯渇させると非常に危険なので、常に若干の余裕を持っておく。そしてタップリと睡眠を取って、翌日の旅に備えて心身を十全に回復させる。以前はちょっと疲れる度に惜しみ無く回復魔法をぶっ放していたが、今は就寝前のリフレッシュや肉体を限界まで追い込む鍛錬の後以外、回復魔法は可能な限り温存するようになった。今の俺は使える魔法が増えたにも拘らず、魔力のリソースは限られている。その為、複数の魔法の鍛錬に魔力を割かねばならず、気軽に無駄打ちをする余裕が無くなってしまったのだ。とは言え、回復魔法の鍛錬も勿論継続しなければならない。漸く足から回復魔法を発動できるようになったのだ。何時かは頭や尻からでも発動出来るようになりたい。


此の世界では各所の都市や町を繋ぐ道は、一般的に街道と大雑把に呼ばれている。但し、俺が知らないだけで実際にはもっと細かく色々な呼び名があるようだ。だが一口に街道と言っても、例えば迷宮都市ベニスの周辺は滅茶苦茶立派な石とコンクリ擬きによって敷設された道であったり、舗装はされてなくとも十分に整備された広い道やら故郷の農道のような細い道、獣道と遜色ない糞ショボい道、果ては完全に自然に浸食されて最早道の体を成していないものまで様々ある。地図を購入した時に仕入れた知識だが、其れ等の道を管理しているのも一概に国だけでは無いようで、各地に点在する都市やら町、或いは小さな集落、其れ等以外にもギルドのような組織であったりと様々であるようだ。故郷でも確か国道県道市道村道私道等々道の管理元て色々あったし、其れと似たようなものなのだろう。


迷宮群棲国の東端(と思われる)町を素通りしてから暫くすると、街道が遂に糞ショボい隘路へと成り果てた。恐らくは既に迷宮群棲国の国外に出たのだろう。既に現在地がかなり怪しくなってはいるが、一応地図と照らし合わせて見てもそんな気がする。因みに此の地図、主要な都市や町の記述は確かに有るが、その都市である点と点の間の記述が適当過ぎて現在地が全然把握できねえ。折角狩人ギルドで暇そうにしていた受付のおっさんの協力の下、目印と思しき記述に日本語で注釈を付けまくったのに、結局あまり意味を成していない。昔はスマホに慣れ過ぎていたせいで全く意識していなかったが、こうして異界に飛ばされて糞みてえな地図を眺める度に、故郷の地図の緻密さと凄みを改めて思い知らされる事に成った。


其れにしても目印が何も無いので何処が国境なのかサッパリ分からんな。尤もこんな場所でポツンと関所何ぞ構えても、余計な経費が掛かるだけであまり意味は無さそうだ。それにこの世界、いや辺境と呼ばれる地域に限った事かも知れんが、国境どころか何処の誰の領地だか良く分からん場所も沢山あるようだ。そもそも人間が住む場所より圧倒的に広大な魔物領域なんてヤバ過ぎて真面に人間が立ち入る事すら出来無いし。それに地球と比べると、土地面積辺りの人口比率は桁違いに少ないだろうしな。


そんな事を考えつつ巨大な岩がゴロゴロ転がる岩石砂漠っぽい荒地に辛うじて刻まれた隘路を走っていると、ピイイッと風を切る音と共に、前方から俺に向かって何かが飛んで来た。


あ~、またかよ。


相手の技量が拙いお陰もあるだろうが、飛んで来る物体は驚くほどクッキリと良く見える。俺は慌てず騒がず前方から飛んで来た矢を横に軽くステップして充分な余裕を持って躱すと、速度を落とす事無く其のまま走り続けた。すると前方の岩の陰から街道を塞ぐように幾つかの人影が現れ、俺の前に立ち塞がった。更には前方の奴等の他にも、周囲に隠れて居ると思われる。


恐らくは野盗の類だろう。

本日実に三度目の襲撃である。は~面倒臭え。


俺は再び慌てず騒がず前方に現れたとてもとても汚くて臭そうな身なりの連中の間近まで速度を落として近付くと、緩いペースからいきなり速度を上げ、スルスルとやっぱり臭い連中全員から掠める様に身を躱しつつ、その場を一気に駆け抜けた。すると、後方から何やら喚き声が聞こえる。


うるせえなあ。



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