(閑話7 後・承)
今より遥か昔。その起こりはとある好事家の貴人が、趣味が高じて一つの事業を発起した事に始まる。その男は考えた。古今東西、ありとあらゆる書物を収集したい。或いは神話、言い伝え、口伝等の知識を広く取集し、編纂したい。常ならばその様な願望は唯の夢想、絵空事で終る事だろう。だが、其の男は当時大国エリスタルでも有数の名声と財力を誇る名家に連なる者であった。その為、其れを成しうるだけの権力と、何より常軌を逸する情熱を有していた。その男が生涯を費やして血眼になって収集した無数の知識の数々は何時しか巨大な書庫へと姿を成し、そして彼が没した後もその情熱或いは狂気を受け継いだ者達によって知識の収集が継続された事により、書庫は時を経て大図書館としてエリスタルにその名を馳せるようになった。
そしてその結果、エリスタルの数多くの知識人達は炎に群がる羽虫のように大図書館に集い、其処で多くを学び、互いの知識を披露し、時に激しく議論を交わし、互いの叡智をより高め合う為の組織が結成された。その後、長い年月と紆余曲折を経て王国に接収された大図書館とその組織は、国営となった今でもその起源となる貴族の家名を冠した大いなる学び舎、プトリュードリア大学と呼ばれている。私が入学を果たしたのは、プトリュードリアに数多く存在するの学部の一つである。
私がプトリュードリアへの入学を志した秘めたる理由は、学問では無く異性とそれを巡る心躍る闘争である。だが一応中央の女官吏としての知識と技能、そして人脈を手に入れ、いずれは領地の発展に貢献したいという表向きの理由と、それに加えて末席に近いとはいえ貴族としての体面がある。父や兄姉達は割とどうでも良いが、母の面子を潰すのは出来れば避けたい。その様な事を考えた結果、殊更殊勝な態度を心掛けつつ大学の門を潜った私であったのだけれども。
入学初日。私とその他数名の新入生は、ちょっとした歓迎の式典の後に人気の無い場所まで上級生達によって連行された。彼女等は何やら大層ご立腹の様子だったので、怯えた風を装いつつ訊ねてみると、どうやら私が式典で上級生達への挨拶を怠り、供された料理を堪能していた事が癇に障ったらしい。成程。あとふてぶてしい態度が気に食わないそうだ。そんな馬鹿な。こんなにも慎ましやかな振る舞いで居ると言うのに。そして、一緒に連行された他の連中も似たり寄ったりな理由だ。
その後、彼女等は生意気な新人への躾と称して私達の頬に平手打ちをしたり、髪を掴んで地面に額を叩き付けたりと随分とお茶目な狼藉を私達に加えて来た。だが所詮は箱入りの小娘共の腕力である。始めこそ大した脅威は感じられなかったので適当に流していたのだけれど。その暴行がネチネチネチネチとやたら長ったらしい事に加え、私を田舎の山オブタッド扱いするなど舐め腐った言動が非常に癇に障ったので、私は力の上下関係を正しく認識させるべきであろうと思い直した。そこで充分に加減をしつつも、故郷で培った暴力のほんの一端を上級生達の肉体と精神に刻み込んであげた結果。
一緒に連行された新人達の証言により重い処罰は免れたものの、私は大変不本意ながら入学初日から懲罰房に叩き込まれると共に、早くも学部で一躍有名人となった。
エリスタルの王都には様々な教育の場が設けられているが、高等教育や専門性の高い一部を除けば、学びの場は基本男女別である。その主な理由として男女では技能や身体能力に差異がある、教育の目的が異なる等尤もらしい理屈が掲げられているが、ありていに言えば分別の無い若い男女が一緒では、風紀が乱れて学問に邁進するどころでは無くなるという事だ。私としても理性と知性に乏しい獣共に絶え間なく言い寄られるのは非常に煩わしかった為、それついては願っても無い事であった。
プトリュードリアへ入学して暫く経つと、私は知らぬ間に幾つかの異名を名付けられ、馬鹿馬鹿しい伝説とやらと共に早くも大学中にその名が知れ渡っていた。心当たりは十分にあるので殊更否定はしないけれど、陰口の誇張の度合いやその伝播の速度には少なからず衝撃を受けた。これが都会の怖さというものなのだろうか。しかも私を困惑させたのはそれだけでは無かった。
入学の日の騒動以降、同級生達から露骨に距離を置かれていた私であったが、表立っては慎ましやかな態度に注力する事により、徐々に打ち解ける事が出来た。煩わしさを堪えて私から彼女達に歩み寄ったのは、王都の男の好みや最先端の流行、服装や装飾、食事、風俗、そしてそれ等を提供する店舗等に関する情報を収集するにあたり、王都の出身者達に距離を置かれるのは好ましく無いと考えたからだ。だが彼女達との距離を縮めた結果、蓋を開けてみれば周りの同輩から齎される話題は男男男。如何なる時も男との色恋の話に終始していた。いや確かにその話題自体は望むところではあるし、男目当てで田舎の領地から遥々王都迄やって来た私がいうのも何だけれど、彼女等の頭の中には色と男の事しか無いのだろうか。正直何とも微妙な心持になった。それにこの頃から何をトチ狂ったのか、異常な情熱をもって私に愛を囁いて来る女学生が往々にして現れ始めた。私は酷く混乱した。何故女が私に愛の告白をしてくるのか。以前の私ならともかく、今の私は誰がどう見ても同じ女であろうに。
答えが皆目分からぬ問いに何時までも思い悩んでいても仕方がない。その後、早々に気持ちを切り替えた私は煩わしい同性達が囁く愛の悉くを斬って捨てると、大学の修学は程々にこなしつつも、漸く目下最大の目的である男探しに身を乗り出した。
そして季節は廻り、王都での暮らしにも随分と馴染んだ頃。私の名は図らずもプトリュードリアにおいて知らぬものは居らぬ程に響き渡ってしまった為、意中の男性との逢瀬は専ら学外で楽しむようになっていた。尤も、既に大学の学徒では私が満足できる水準の男は存在しなかったので却って好都合だったけれど。
王都に住み始めたばかりの頃は何度か苦い過ちを経験した私であったけれど、屈することなく母親譲りの類稀な容姿を王都でさらに磨きをかけ、更には丹念な諜報活動を経て艶やかな先達から多くを学び、そして実践に基づく経験則をひたすらに積み重ねていった。そしてその結果、私の良い男の心身を魅了し、蜜に群がる害虫共を効果的に排除する手管は飛躍的に上達した。その頃の私は恋多き女として、実に充実した日々を謳歌していた。勿論、王都の大学に入った表向きの目的である学問にも・・・一応励んではいた。時間があまりに足りないので、結局可能な限り手を抜いていたけれども。
そんな折、王都での華やかな生活を満喫する私の前に、一風変わった来客が現れた。始めは面倒なので放っておこうと思ったのだけれど、取次役の姿を見て気が変わった。
来訪者の取次ぎとして私の前に姿を見せたのは、確か数度面識のある程度の私の後輩だ。確か私と同じ下級貴族の息女だったか。私を呼び止めた彼女は俯いたまま頬に手を当て、震える声でその人物の来訪を告げた。
「その頬の手を離しなさい。」
その様子から何とはなしに事情は察せられたが、確認の為に私は彼女に命じた。
彼女は暫くの間モタモタと逡巡していたが、私が視線に力を籠めると小動物のようにその肩を跳ねさせた後、怯えた様子でその手を頬から離した。
其処には紫色に変色し、腫れ上がった肌が露わになった。
「あなたは唯の取次ぎでしょう。一体何故、そのような事になったのかしら。」
疑問に思った私は彼女に訊ねてみた。
彼女が取次役になった経緯は知らないしまるで興味も無いが、誰にされたのかは敢えて聞くまでも無いだろう。
「わ、わたじ、の、態度が、無礼だって・・急に。ゔええ。」
すると後輩の目には堰を切ったように涙が溢れ、彼女はその場に泣き崩れた。泣きじゃくる彼女の口から、欠けて歪になった歯が垣間見えた。
ふ~ん、成程ね。
その後、辛うじて後輩から聞き出した大学の人気が無い部屋を訪れると、その来客は独特な紋様の刺繍が入った暗灰色の外套を羽織って佇んでいた。線の細い神経質そうな容貌のその男は無遠慮に私の姿を眺め回すと、漸く私への用向きを口にした。
「僕は迂遠な物言いは好まない。端的に言おう。マリシュ・メル魔法学院に来る気は無いかね。」
その男の話に拠れば、誰某の推挙により私を魔法学院に勧誘しに来たと言う。
幼かった頃と違い、その頃の私は魔法に関してある程度の知識は頭に入っていた。自分が行使する不思議な力についても、それが恐らくは魔法である事は既に認識していた。だが世間一般で噂される魔法に関して、明確に接点を持ったのはこの時が初めてだった。
マリシュ・メル魔法学院。表向き魔法とはまるで縁の無かった私でも、一度ならずその名を耳にしたことがある程に高名な魔法の学び舎である。それ程に高名な学院からの誘いならば、常ならば諸手を挙げて歓迎すべきなのかも知れない。だが唐突な勧誘を受けて、私は逆に不審さを感じた。王都では派手にあの力を行使した覚えは無・・いや一度だけあるけれど、その様子は誰にも目撃されていないハズ。にも拘らず、一体何処で私の事を嗅ぎ付けたのやら。
「・・・・。」
私が男の問い掛けに応えず思考に沈んでいると、私を勧誘しに来たというその男は見るからに苛立ち始めた。どうやら随分と堪え性の無い男のようね。一つ減点。
「僕達がキミのような下等を拾ってやろうと言っているのだよ。迷う話では無い筈だが。それとも、このような程度の低い糞尿の掃き溜めで腐り続ける気なのかね。」
勧誘にしては随分と態度が悪いわね。それにプトリュードリアには数多くの貴族の子弟が通っているのだけれど、考え無しにそんな口を利いて大丈夫なのかしら。一応私以外の人目は避けているようだけど。直ぐに癇癪を起こす堪え性の無さと言い、オツムの程度が知れるわね。それに人を見下したような目線がどうにも気に食わない。うん、コレは満場一致で落第かしらね。
「・・・一つ質問して良いかしら。」
私の中ではもうこの男についての結論は出たけれど、まだ聞いておかねばならないことがある。
「ハッ、言ってみるが良い。」
「マリシュ・メル魔法学院には、良い男は居るのかしら。」
「・・・は?」
「聞き漏らしたのならもう一度言うわ。マリシュ・メル魔法学院には、良い男は、居るのかしら。」
一瞬間抜け面を晒した男はその直後、顔面を深紅に染めて激高しかかった。だが辛うじて尊大な態度を取り繕ったようだ。
「これだから下等は度し難い。だがその下賤な質問に答えをくれてやる。マリシュ・メルには優れた叡智と容姿を兼ね備えた者が大勢居る。例えばこの僕のようにな。」
「ふ~ん。」
成程。確かにこの男、目鼻立ちは整っていて顔だけなら結構私好みね。なら少しは考慮してやっても良いかな。でも。
男が間抜け面を晒した僅かな隙を付いて、私は上半身を揺らすこと無くスルスルと男に近付いていた。喧嘩慣れしておらずとも勘の良い者ならば直ぐに気付くでしょうに、男は全く警戒していない。余りにも愚鈍に過ぎるわね。
気取られること無く男との距離を詰めた私は、自分の距離まで近付くと同時に思い切り踏み込んで、一足で男の懐まで肉薄した。そして男の顔面に、存分に体重を乗せた拳を叩き込んだ。
バゴッ
男は私の一撃に反応すら出来ず、鮮血と折れた歯を撒き散らしながら派手に吹き飛び、鈍い音を立てて背後の壁に叩き付けられた。
あ痛ったぁ~。しまった。右手を襲った余りの痛みに、私は思わず顔を顰めた。
つい昔の勢いで拳を叩き込んでしまった。今の私は常日頃女を磨く為の鍛錬しかしていないので、指も随分と細く柔らかくなってしまった。その為、人を殴る時は専ら肘か掌底を使うよう心掛けていたのに。
「あ゛・・あ゛・・。」
倒れた男は折れた鼻から鮮血をボタボタ垂れ流しながら喘いでいる。先程迄の端整な顔と尊大な態度の面影は欠片も残って居ない。
これは想定した以上に期待外れね。一端の男ならあの程度の奇襲、せめて反応くらいは出来ないものかしら。
「弱過ぎますわ。私はキススキの枝のように貧弱な男には興味ありませんの。」
この分ではマリシュ・メル魔法学院の他の男共にも期待が持てるハズもない。私の中で魔法学院に対する興味は急速に薄れていった。僅かだけ溜飲が下がった私は身を翻して、そのままこの場を立ち去ろうとしたのだけれど。
「素晴らしい一撃ですわ。流石はリリィですわ。」
振り返った前方の暗がりから、手を叩く軽快な音と共に澄んだ音色の声が聞こえて来た。
「げっ、モニカ。」
目の先に面倒臭い人物が立っているのが視界に入り、私は思わず動きを止めた。
彼女の名はモニカ、と皆から呼ばれている。だけどその本当の名は・・いいやモニカで良いか。この女、実は何とエリスタルの王族に連なる一等貴族の一員である。僅かな隙も無い恐ろしく整った顔立ちと青みがかった金色に輝く頭髪、そして本来彼女が備えている深い冷青色に特異な光彩を湛えるその瞳はエリスタル王族の血を引く証だ。だけど普段の彼女はその身分も家名もどうやってか瞳の色も詐称して、何食わぬ顔でプトリュードリアに通っている。その上一等貴族でありながら、何故か上級貴族御用達の王立学院には見向きもしない超変人であり、以前私達が巻き込まれたとある事件以来、何かと私に絡んで来る非常に面倒臭い悪友でもある。尚、私にはもう一人厄介な悪友が居るが、彼女はモニカに更に輪を掛けて恐ろしく危険な女だ。そんな彼女達は私が知るだけでも数多くの破壊と騒動と傍迷惑を巻き起こして来た。それに比べたら、私などはとてもたおやかで慎み深く、人畜無害な淑女だと断言できるだろう。
「何時からそこに居ましたの?」
私は一体何がそんなに楽しいのか、艶然と笑みを浮かべるモニカを詰問した。
「ウフフ、さあて何時からでしょう。記憶が曖昧ですわ。そんな事よりも、リリィは相も変わらず惚れ惚れする程強いですわね。」
「曖昧ついでに先程の事は全て記憶から抹消していただけないかしら。また妙な噂話を吹聴されて、可笑しな名前を付けられたらたまりませんわ。」
「確か以前のは伝説量産工房でしたわね。」
「・・・。」
知らないうちに付けられた下らない異名を耳にして、思わず小さな溜息が口を付いた。まるで珍獣扱いね。
「買い被りも甚だしいですわね。モニカと比べたら、私なんてちょっとお茶目なだけの在り来たりな女学生でしてよ。」
その私の話を聞いた瞬間、笑みを崩さなかったモニカの顔からスッと表情が消えた。
「・・・一体どの口でそんな寝言をホザいてますの。アースティルの大聖堂を崩壊させた女学生なんて、アリスタルの長い歴史を紐解いても貴方以外に誰一人居るとは思えませんわ。」
「はて、何のことやら。私には皆目分かりませんわ。」
私は何食わぬ顔で、知らぬ存ぜぬを押し通した。
だけど勿論、心当たりはある。というか確かに結果的にやったのは私なんだけれど、アレは断じて故意ではない。不幸な事故に過ぎないのだ。
そもそも懸想した相手を私に奪われたと勘違いした阿呆が、一介の女学生を相手にあろうことか暗殺者集団なんて送り込むのが全て悪い。そのお陰で窮地に立たされた私は、最後の奥の手として久方振りに友人達に助けを求める羽目になった。そして数年ぶりに言葉を交わした友人達は、それはそれは喜び勇んでちょっぴり張り切り過ぎてしてしまったのだ。その結果として私が監禁されたちょっぴり豪奢な建物は良い具合に更地になってしまったけれど、友人達の配慮のお陰で棍棒で叩かれたチーチクのように潰れて死んだのは私を狙った暗殺者達と、私が連中に犯されて泣き叫びながら悶え死んで行く様をノコノコと見物に来たらしい間抜けな首謀者だけだったので、何ら不都合は無い。それに、頑張って調べれば過去に私と似たような事例を引き起こした学生が一人や二人は出て来るに違いない・・・多分。まあ、それはさておき。
「それはそうとモニカ、出来ればこの事は内密に・・。」
私は半ば無駄と諦めつつも、改めてモニカへ口止めの提案をしてみた。
「あらあら。リリィはその男に対して何か思う所でもあるんですの?それとも、殴り飛ばした事を後悔してるのかしら。」
「いや、別に何もありませんわ。」
私は倒れている男を一瞥すると、きっぱりと言い捨てた。勧誘だか何だか知らないけれど、本気で私を口説きたいのならば、少しは私の事を調べてから来なさいな。多分もう会うことは無いでしょうけど。
「フフフ。なら、何の問題も有りませんわね。」
彼女はそれが男ならば誰もが蕩けてしまいそうな可憐な微笑みを私に向けると、そのまま背を向けて何処かへ歩き去ってしまった。
既に倒れたままの男への興味は欠片も無かった私は、早々にその場を離れることにした。そして暫く歩いていると、別れた場所で未だに蹲ったまま嗚咽を上げ続ける後輩の姿が目に留まった。
「何時までそのままで居るつもりなのかしら。」
私は何とはなしに苛ついたので、彼女の頭上から声を掛けた。すると、彼女の身体がビクリと跳ねた。
「泣いて、喚いて、唯何もしないで助けだけを求めて。それで無償の愛の注いで助けて貰えるのは、幼い子供だけよ。」
「・・・。」
「もう一度言うわ。貴方は何時まで膝を抱えて泣きじゃくる子供のままで居るつもり。貴方は何の為に、親元を離れてこの大学に来たのかしら。」
「わ、私、私は・・。」
「世俗は貴方が想像するよりも遥かに厳しく、そして汚い。その中に交わればその程度の事など、些細な試練とすら呼べなくってよ。」
「だからもし、貴方が一端の女でありたいのであれば。何時しか一人前と認められたいのであれば。何時までも泣くのを止めて己の足で立ちなさい。そして顔を上げて前を向きなさい。」
すると、辛気臭い嗚咽は何時しか聞こえなくなり、後輩は静かに立ち上がった。そして、赤く充血した瞳で真っ直ぐに私を見返して来た。うん、その目の光は嫌いじゃない。
「良し。フフ、落ち着いたらあとで私の所に来なさいな。傷に良く効く薬を塗ってあげる。」
私は後輩に背を向け、さっさとその場を立ち去った。
魔法学院への興味は早々に失ったが、この出来事が切っ掛けとなり、私は魔法そのものに対する興味を強く抱くことになった。
その後暫くの間、殴り倒した男や面子を潰された形のマリシュ・メルからの報復を警戒していた私だったが、結局何事も起きる事は無かった。だがその代りに、私を魔法で篭絡し、押し倒そうとするマリシュ・メル魔法学院の邪悪な魔術師軍団が華麗に撃退されたなどという噂が尾鰭を量産しながら瞬く間に大学中に広がり、私には鉄血の淑女などという意味不明な新しい異名が追加された。そして、何故か私に届けられる後輩の女学生達からの恋文が更に増えることになった。
このような幾許かの面倒事はありながらも、私は基本平穏で充実した学生生活を更に謳歌することになった。そして時は流れ、プトリュードリア大学の卒業を間近に控えた頃。私の人生に、重大な転機が訪れることになる。




