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遥か異界の地より  作者: 富士傘
摩訶不思議魔技修道編
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第131話

暫し時を遡る。


其れは俺があのハグレに攫われたスラム街の少年ルエンを救出する為に迷宮『古代人の魔窟』へ乗り込み、迷宮内で遭難していたアリシス王女に出会う前の事だ。


俺は大通りに店を構える露店の店主や、その辺を歩いて居る都市の住人と思しき連中への地道な聞き込みを積み重ねた結果、どうにかこの都市に支部を構えているらしい魔術師ギルドの所在地を突き止める事が出来た。丁度その時、俺には同行した迷宮探索で不幸にもお亡くなりになった蜥蜴人PT、通称リザードマンズ(俺命名)の遺産とも言うべき纏まった金が手元にあり、尚且つ迷宮で衰弱仕切った身体のリハビリが一段落付いて比較的暇だったこともあり、探り当てた魔術師ギルドを早速訪ねてみることにしたのだ。


俺が何故現金を握り締めて魔術師ギルドを訪問などしたのかと言えば、以前滞在していたファン・ギザの町で、魔術師ギルドでは金さえ払えば誰にでも魔法を教えてくれるという話を耳にしたからだ。何ともドリーム成分溢れる素晴らしいお話である。もし故郷のお子様達がそんな話を聞こうものなら、ヘビメタライブでガンギマリモッシュをかます観客の如くヒートアップしまくること請け合いだ。其のドリームレベル、かの鼠ランドなんて目じゃねぇぞ。無論、話を聞いた俺の目もキラッキラに輝きまくった。まっほっうっ!まっほッウホホォーッ!


そんな訳で。俺が遥々此の迷宮都市までやって来た理由の一つに、魔術師ギルドで魔法を習得したいというモノがある。あとついでに俺がヘビーに使い倒している回復魔法が、本当にこの世界で言うところの「魔法」なのかどうかハッキリさせたかったのだ。


そういえば、俺がファン・ギザの町を去ってから時系列的にはそれ程の時は経過していない。にも拘らず、短期間であまりに特濃すぎる経験を積み重ねたせいか、今の俺にはファン・ギザの町で過ごした日々が遥か昔の出来事のように感じられる。尤も、あの町で俺を常時シバき倒してくれたゾルゲのムカつく面は今でもクッキリハッキリ思い出せるがな。あ~~今思い出しても糞腹立つ。


更に言うとそのファン・ギザが属していたカニバル王国は、俺も従軍させられた隣国との会戦で主力を魔物の大群にゴッソリ削られて喪失したので、国防機能がかなり危うい状況だったハズだ。だが、血生臭い噂話の尽きない北方の戦乱によりあの国が滅びたという話は未だ耳にして居ない。存外にしぶといな。


狩人ギルドの提携宿を後にした俺は、相変わらず噪音と人波で埋め尽くされたメインストリートを南に向かってひたすら歩いてゆく。そして、目印となる給水塔と言われた特徴的な建造物が見えてきたら、その脇を曲がって東に向かって進む。この都市の全景は擂り鉢状となっているので、遠方に見える貴族街を背にして逆方向の坂を上ってゆく感じだ。


そして事前に説明を受けていた、ある一点を除いて此れと言った特徴が何も無いとある民家を見付けたら、三角屋根が立ち並ぶ此の都市ではスタンダードな住宅街の真っ只中に突入する。その後は、人二人位辛うじて並んで通れる程の裏路地みたいな曲がりくねった道をひたすら進んでゆく。路地を歩く俺の周囲では洗濯物が干して有ったり、小汚い謎の小動物が前方を走り抜けたり、ぺったんぺったんと何かを叩く音が響いて来たり、ガキ共の甲高い声やおばちゃんの世間話?が聞こえて来たりと周辺住人の生活臭がハンパない。本当にこの先に魔術師ギルドがあるのかよ。


それにしても、赤の他人の生活空間にモロに入り込むのは実に落ち着かない気分にさせられる。あと若干ホームシック気味になる。異国情緒、と言うには余りに異質で生々しい。そして此処に住んでいるのが異界の連中で、俺の故郷が最果てより尚遠く、遥か彼方であることが嫌でも実感させられる。


狭い路地を一体どの位歩き続けただろうか。


住宅街の路地をひたすら奥へと進んだ先に突如現れたのは、一瞬目を疑う程に広大な空間と、雑木林と言うか森であった。感覚的には故郷で偶に見掛けた、都心のビル街の中で不意に現れる神社の森に近い。尤も、故郷の寺社の参道に生えている整備された木々と違い、此方は樹木が殆ど手付かずなまま鬱蒼と生い茂っているように見える。恐らくあそこが魔術師ギルドの支部なのだろう。しかし何だか奇妙だな。これ程目立ちそうな場所にも拘らず、此処に来るまで遠目には全く気付かなかった。隠蔽されているのかどうか定かでないが、流石は魔術師ギルドと言った所だろうか。目の先を眺めると、木製のグネグネした門と思しき建築物が見える。その脇には武装した厳つい体格の人物が二人、門を守る様に立っている。しかも、その内の一人は獣人だな。ギルドの守衛か何かであろうか。


その幻想的でありつつも違和感が物凄い景観を眺めながら俺は考える。このギルドの連中はよもや自然愛好家か何かなのだろうか。正直余り良い予感はしない。何故ならこの世界、都市の外に出れば腐るほど自然しかねえからだ。今更自然なんて常時下痢便噴射する程腹一杯だっつうの。にも拘らず、何故わざわざ都市の住宅街のど真ん中にこんなどデカい森など構えるのか。一見すれば如何にも魔法使いの住処でござる的な雰囲気を醸し出しているが、夏は大量の虫、秋には落ち葉が降り注いで甚だご近所迷惑では無かろうか。正直、真っ当で無い連中との出会いの予感がプンプンするぜ。


因みに、魔術師ギルドの魔術師というのは俺が勝手に意訳しているだけで、この世界の言語を直訳すると魔素を動かす(或いは転がす)者となる。俺の解釈が間違っていなければ、だが。従って、正確には魔術師では無く魔動者と呼んだ方が正しいのかも知れん。だが、地球人の俺にはそんな名称は馴染みが無いので、勝手に魔術師と呼称している。魔法や魔術についても同様だ。何とか(名前は忘れた)いうこの世界の言語表現では其れは魔素を動かす力或いは技という意味合いとなり、実は「法」も「術」も付いては居ない。なので俺が適当に意訳して魔法やら魔術と呼称しているだけだ。意味合いとしては大して変わらんので問題は無いだろう。多分。


魔術師ギルドのモノと思われる門の前に辿り着いた俺は、当然ながら守衛らしきゴツい男の一人に誰何された。俺は此の場を訪れた経緯を詳しく説明し、堂々と門の中に立ち入ろうと試みた。


そして、お手本のような門前払いを喰らった。


襟首、というか襟無いから首の後ろを掴まれて摘まみ出されるなんて、人生で初めての経験だったぜ。いや、確かに目的を一方的に告げて門の中に立ち入ろうとした俺も悪かったかもしれんが、この守衛、職質のお声掛け以降一言も喋らねえんだもの。その後、バスケの試合の如く激しいオフェンスとディフェンスのやり取りを何度か繰り返し、いい加減憤怒の正拳突きをコイツの顔面にめり込ませてやろうかと思った矢先。もう一人の獣人守衛さんの騒ぐな近所迷惑だという至極真っ当なお叱りを受けて、俺はスゴスゴとその場を退散することになった。


聞いてた話と違うぅ。意気消沈した俺は恥も外聞も肥溜めに投げ捨てて、受付の赤毛のおっさんの所へ泣き付くべく狩人ギルドへとひた走った。実は魔術師ギルドで魔法を学ぶことについては、後でドヤる為におっさんには黙っていたのだ。だが、ギルドを訪れた俺を待って居たのは、王女様率いるハグレ討伐隊ご一行行方不明の知らせに大騒ぎになっているギルド職員達と、横柄な態度のギルド幹部による尋問であった。結局その日はおっさんと顔を合わせる事すら出来なかったので、日を改めて魔術師ギルドの事を色々と訊ねてみることにした。


その後、日を改めて狩人ギルドを訪ねた俺は、受付のおっさんに魔術師ギルドの前で起きた忌まわしい出来事を詳しく説明し、あのムカつく守衛をどうにかして突破すべく相談を持ち掛けた。だが、おっさんの口から齎されたのは同情でも共感でも打開策でも無く、驚愕の新情報であったのだ。


「ええとカトゥー君。魔術師ギルドの其の制度はとっくに廃止されてるよ。」

おっさんは憐れむような目で俺を見詰めながら、何だかちょと良く分からない事を言ってきた。


「え!?」


「いや、だからとっくに廃止されてるよ。それ。」


「ええと、戯言はもう良いから あの守衛をどうにか・・。」


「いや、冗談じゃないから。」


「・・・・。」


「・・・・。」


・・・嘘だっ!!ならば俺は、一体何の為にこんな所迄旅をしてきたというのだ。魔物や猛獣が跋扈する大自然の中を一か月掛けて踏破してきたんだぞ。・・・主に俺自身の所為ではあるが。


恐るべき話を聞いて暫しの間呆然と現実逃避していた俺ではあったが、気を取り直して改めておっさんにその辺りの事情を訊いてみた。すると、流石事情通だけあって詳しい話を聞く事が出来た。


魔術師ギルドでは金さえ払えば誰にでも魔法を教えてくれる、という制度自体は実は本当にあったらしい。つい数年ほど前には。まあ、本当の意味で誰でもと言う訳でなく、相応に身分照会くらいはしていたらしいが。其の制度が施行された理由は、想像でしかないが恐らくは金絡みだろう。ギルドのような組織を運営するには、金は幾ら有っても足る事は無いだろうからな。


魔術師ギルドとしては高額な教育費を設定することにより、学徒の充分な選別が出来ると見込んでいたたのかも知れん。だが結果として、彼等はこの世界の人々の魔法に対する憧れと情熱を甘く見過ぎた。


俺達地球人は魔法という胡散臭・・もとい不思議な能力に並外れた憧れを持っている。現代のフィクションのみならず、昔から世界中で語られる童話やら伝承も其処かしこ魔法だらけだ。それに対して、魔法という不可思議な力が現実に存在していて、世間一般に広く認知されているこの世界ではどうだろう。逆にこの世界の人々は、魔法に対して常に冷めた目で見ているんじゃなかろうか。だが実のところ、そんな事は全然無かった。寧ろ魔法の存在が広く認知されている故と言うべきか。どうやら魔法に対する憧れという想いは、此の異界の住人達は地球人以上に尋常でない代物を抱えているらしい。


其の制度はギルドから布告されるや否や、凄まじい反響と共にあっという間に国境をぶち抜いて世界中にその報せが伝播していったらしい。そして富者は我先にと、貧者は金を掻き集め、或いは他者から奪い取って魔術師ギルドへと殺到した。流石に王族や有力な貴族ともなれば、教育費どころか自前で何人も専属の魔術師を抱えて居る為、その範疇では無かったようだが。


そして布告通り選抜されたギルドメンバーを講師として魔法の教育が始まったものの、現場は早々に大混乱に陥った。そもそも誰にでも魔法を教えると掲げたものの、だからと言って誰でも魔法が使えるように成るわけでは無い。元々高い素養が無くては、幾ら熱心に教えた所で魔法が使えるようには成らないのだそうだ。


老いも若きも性別も、教養や身分や職業の垣根すら超えて入り乱れ、魔術師ギルドに殺到する人々。無論、金さえ払えば素養の有る無しなんぞお構いなしである。その教育現場ではどのような地獄が展開されたのか、想像すら憚られる。尤も、魔術師ギルドの上層部は凄まじい額の金が止め処も無く舞い込んで濡れ手に粟な状態だったらしいが。


そのような大混迷が展開された結果、教育現場の凄惨なストレスによってトチ狂った幾人かの高名な魔術師達が徒党を組んで、魔術師ギルドの本部に凶悪な攻撃魔法を叩き込んで半壊させるなどという前代未聞な大事件を経て。狂った魔術師ギルドの新しい教育制度は、僅か一年も持たずに撤廃されたのだそうだ。だが、この世界の情報伝達の手段は拙い。制度が廃止された後もその噂話だけが根強く残っていたのだろう。ファン・ギザには魔術師ギルドの支部が無かったしな。そういえば、あの守衛の塩対応も妙に手慣れた感じだったように思われる。俺と同じような連中を今迄何人も退散させて来たのだろうか。


いや、そんな事はどうでも良い。それじゃ俺が魔術師ギルドで魔法を教わる事なんてほぼ不可能じゃねえか。金はあっても伝手なんて一切無えし。此の国まで遥々やって来た最大級の目的が完全に頓挫してしまった。


一体どうすんだよコレ。


おっさんから話を聞き終えた俺は、悲嘆の余り思わず蹲って頭を抱えた。

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