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遥か異界の地より  作者: 富士傘
異界転移編
13/267

13話

 人気者の才賀は普段いつも誰かに囲まれてるので、皆が寝静まった夜くらいしか二人きりで話せる機会が無い。夜、出来る限り物音を立てないよう静かに才賀を起こした俺は、見張りの目を盗んで二人でベースを離れた。といっても森の奥に踏み入るのは自殺行為なので、ベースの竈の火の光が確認できる程度離れた場所である。才賀は流石空気の読める男。俺に突然起こされたにも拘らず、特に騒いだり文句を垂れる事も無く静かに俺の後を付いて来てくれた。


 眼がこの世界の明るさに慣れてきたのか、空にデカイ月が二つもあるためか、俺たちは夜でも周りの様子が薄っすらとだが見えるようになっていた。


「才賀。俺は此の場所を離れようと思う。」

 足を止めて才賀と向き合った俺は、心に決めた話を切り出した。


俺の告白を聞いた才賀は難しい表情をしていたが、首を横には振らなかった。

「そうか。」


「理由は分かるよな。俺はもうあいつらを信用できない。これ以上一緒にも居られない。」

 俺は苦々しい感情を抑えきれずに才賀に思いを伝えた。


「加藤、すまん。俺が不甲斐ないせいでお前を追い詰めることになっちまったんだな。俺にもっとちゃんと周りが見えていれば・・・。」

 すると、憂いを含んだ表情の才賀が謝ってきた。ははは、俺は可笑しくなった。幾らお前のスペックが高くてもこんな訳の分からない状況で唯の中坊に何ができるってんだよ。


「アホか。お前は何も悪くねえよ。お前が不甲斐ないなら俺なんてゴミカス以下だわ。あいつらとの仲がこんな風になったのは俺のせいでもあるしな。お前は何も気にすんな。詰まらん事であまり気に病むとハゲるぞ。」

 俺は敢えておどけた感じで言ってやった。そう。気に病むことなんて無い。部活でキャプテンをやってたせいか、此奴はちょっと責任感が強すぎるんだ。


「ははは・・。」

 才賀は自分の頭を撫でて苦笑いをした。相変わらずフッサフサのサラサラヘアーである。ここ数日髪洗ってないはずなのに。


「で、こんな夜中にお前を呼び出したのは一つ頼みがあるからなんだ。」


「なんだよ?話してみてくれ。」


「俺は明日の早朝、此処を離れる。その後にお前から他の連中に俺のことを上手く説明しておいて欲しいんだ。変に騒がれても困るし、万が一伊集院のように捜索されても俺の場合、却って迷惑だしな。ま、お前がどうしても自分を不甲斐ないと思うならそれで借りを返すとでも思ってくれ。」

 俺は才賀に軽い感じで頼んだ。頭も下げない。変に重い雰囲気にしたくなかったからだ。此奴を始めクラスメイト達とはもう二度と会えないかもしれないが、別れはサラリとしたい。湿っぽくなるのは苦手なんだ。


「分かった・・。だが本当に良いのか?こんな場所でたった独りで生き延びる可能性は・・・。」


「もう決めたことだからな。」

 俺はきっぱりと言い切った。


 その時___


「ちょっと待ってくれないか。」

 突然、俺たちの横合いから声が掛けられた。


「誰だ!」

「うはうっ!?」

 咄嗟の出来事にも才賀は動じなかったが、俺はビクンとなって変な声が出た。


 慌てて振り向くと、そこには一人のクラスメイトが佇んでいた。

 其の見た目は不精髭を生やした一見厳つい見た目のおと・・・もとい男子である。だが、見た目は完全におっさんだ。


「「のぶさん。」」

 俺と才賀は同時に彼の名を口走った。


 俺達に声を掛けた彼はのぶさん。その見た目が完全に野武士なのでクラスメイトから早々に野武士ののぶさんと名付けられ呼ばれるようになった。其のあだ名は先生方にもすぐに定着して誰も本名で呼ばなくなったので、俺は彼の本名が何だったかもう全然覚えていない。見た目は頼り甲斐があり逞しそうな男性なのだが、その実体は将棋部のインドア派である。


「加藤。俺も一緒に連れて行ってくれないか。」

 のぶさんはちょっと不安そうな表情で俺に同行を願い出て来た。


 その言葉を聞いた俺は、胡散臭い気分でのぶさんを眺めた。何で俺が此奴を連れて行かなきゃならんのだ?俺はもうソロでやっていく気満々だと言うのに。そもそもこいつ信用できるのかよ。


 だが、ふと俺はのぶさんの特徴的な声を聞いて思い出した。俺が一服盛られて苦しんでいた時、水を飲ませて介抱してくれたのはのぶさんだったのか・・・。


「俺、加藤がやられてる仕打ちを見ていて思っちゃったんだ。加藤と同じように。先生達も含めてあいつらは信用できない。怖いって。」

 のぶさんは苦しそうな顔で俺たちに胸の内を吐露した。


「だから、迷惑かもしれないけど。怒ってるかもしれないけど。どうか、俺も一緒に連れて行ってほしい。お願いします。」

 のぶさんは90度綺麗に腰を折って、俺に向かって頭を下げた。


 うっ、こういう雰囲気苦手なんだよな。

 俺は暫く考えた。まあ独りよりは二人の方が生き延びる確率は上がるだろう。男手が一つ増えるのは悪くない選択だ。それに何より、俺はのぶさんに大きな借りがある。


「・・・分かった。一緒に行こう。これからよろしくな、のぶさん。」

 俺は敢えて軽い感じでのぶさんの求めに応じた。大げさに握手とかはしない。なんとなく恥ずかしいからな。


「ありがとう加藤。こちらこそよろしくな。」

のぶさんは一転嬉しそうに答えた。此奴の顔見た目は完全におっさんだけど愛嬌はあるな。


 その後、俺達は3人連れ立ってベースに戻り

「じゃあな。山下にもよろしく言っておいてくれ。」

 俺は才賀に別れを告げた。


「加藤。辛いと思ったらいつでも此処へ戻って来い。皆は俺が何とかする。」

別れ際、才賀は俺の目を見て静かに告げた。

才賀。やっぱりお前は良い奴だよ。俺なんかと違ってな。


 才賀と別れた後、こっそり自分の荷物を運び出した俺とのぶさんは、ベースの外の端の方で寝ることにした。


 そして早朝の早朝。まだ少々薄暗い中、俺たちは見張りの目を盗んでこっそりベースを後にした。




 ・・・そして、此の日から俺の異世界サバイバル生活が本格的に始まった。


 ネット小説でお馴染みの都合よく俺に惚れる美少女だのエルフだの魔法使いのおねえさんだのは、当たり前だが俺の隣には居ねえ。

 俺の隣で歩く相棒は、むさ苦しいおっさん顔の男子だけである。


 スキルはねえ。ステータスもねえ。加護もねえ。魔法もねえ。  

・・・・たぶん神様もいねえ。


俺の懐には一本のナイフとライター、電源の入っていないスマホと飴だけ。

俺はどこにでもいる唯の中学生。




でもやってやんよ。絶対に生き残ってやる。この遥か彼方の異界の地で。



そして何時かきっと日本に・・。



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