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Avalantear アバランティア  作者: 海豹
第一幕 ―起―
24/68

脱走

「おっ。武器庫はっけーん!」

「……叫ぶな」


 眠らせた看守を、とりあえず牢に閉じこめたレイスとテラ。二人は丸腰の状態での脱出は不利であると考えると、看守のいた管理室をあれこれ物色することにした。

 先ほどまでいた牢の五倍はある大きさの管理室は思った以上に物が多く、レイスはようやく見つけた武器庫に歓声を上げている。


「声がでかい」


 テラは呆れた様子で溜め息をつき、看守から奪った新たな鍵束をチャラチャラ鳴らしながらレイスへと歩み寄った。

 管理室の一角は武器庫になっており、数多くの武器が並んでいる。


「すげーな。剣に槍に弓、ちょっと古いけど貴重な銃火器。それにゴツい棍棒、魔術用の杖。おっ! ハンマーまである。ここは武器の博物館みたいだ」


 レイスは嬉々と武器に手をやりながら、状態を見る。どの武器も年季が入った物が多いが、どれも手入れが行き届いており、鋭利な輝きを放っていた。


「ここは……罪人達から取り上げた武器の倉庫なんだろう」


 テラは武器を眺めながら、忙しなく動き回っては武器一つ一つに感嘆を上げるレイスに説明する。そしておもむろに手に取った剣をまじまじと見つめ、あろうことかそれをレイスに投げつけた。


「危ねぇな……って、あれ?」


 驚く暇もなくなんとか滑り込んで、剣を両腕で抱えるように受け止めるレイス。怒鳴りつけようとしたが、投げつけられた剣の重量に覚えがあり、彼は慌てて腕の中の剣を鞘から抜きはなった。

 白銀の刀身。そしてうっすらこびれついてしまった古い血痕とハザードの灰。全てに彼は心当たりがあった。


「これ俺のだ」


 何で分かったんだ? 剣の隅々を見て自分の物だと確認すると、レイスはテラに視線を向ける。彼は左肩にアミーを乗せ、面倒くさそうその視線を受け止めた。


「鞘に堂々と“レイス・シュタール”と名前が入れられているのに分からないことがどうかしている」

「そうか。無くさないように鞘にナイフで名前入れといたんだっけ」


 ぽんっ、と両手を打ったレイスは頷きながら剣を腰のベルトに固定させた。同時に先ほどよりも大きな溜め息が耳に届く。


「テラ。あんたの武器は?」


 やがて、防具も見つけ出したレイスは身支度を整えた。ほかにも使える物はないかとあれこれ物色し続けていたが、テラが全く武器を手に取ろうとしないため、背を向けたまま声をかける。


「俺は取り上げられた武器がない」


 返答は素っ気ない。だがレイスはその言葉の重大さに気づいて、大きく振り返った。


「武器がない!?」

「うるさい」


 ハエが叩かれたように、レイスの言葉がはたき落とされる。だが彼はめげずに今度は声のトーンを落として問うことにした。


「武器がないって、あんた罪人なんだろ?」

「罪人が必ずしも剣やら斧やら鍬やら振り回して暴れた奴ばかりとは限らんだろう」

「そりゃあそうだろうけど」


 レイスは戸惑う。サンプル体として罰を与えられるていうことはつまり、体をいじられることを指しているのと同じ。そんな罰を与えられるような罪を犯したというのならレイスには凶悪な強盗、殺人、〈イレブン〉に攻撃を仕掛けた――そんなあたりの罪しか浮かばない。だが、そのどれもが武器なくして実行できるものとは思えなかった。


「なぁ、あんたは何でこの牢に入れられたんだ?」


 個人的な事だろうから聞くまいとは思っていたが、レイスは問いかけてしまう。

 やはりテラの顔が険しい物へとなった。


「デリカシーのない奴は嫌われる」


 テラはレイスがなんの前置きもせずにストレートに聞いてきたため、心底呆れた様子で武器の並ぶ武器庫の奥へと進む。


「俺は組織対組織専門の密輸を生業としていた」


 彼は物珍しそうに武器を見回しながら淡々と言葉を紡いでいく。

 鋭い眼孔からてっきり腕利きの傭兵か何かかとレイスは思っていただけに、意外な職業に目を丸くした。


「アバランティアのエネルギーを他組織に売りつけて金を巻き上げていた。今もきっとやっている人間は多いはず」


 なるほど、とレイスは頷きながら、更に物色を続ける為に視線をテラから離した。そういうことなら、テラがサンプル体として牢につながれたのも理解できる。〈イレブン〉はアバランティアのことになれば以上なほどに過敏に反応する。レイス自身、それは身を持って実感している。


「それにしても、〈イレブン〉はやること一つ一つ容赦ないよな。密輸で人体実験されるなんて罰が重すぎる」


 労るように言った言葉だったが、テラは一瞬それを耳にして武器にふれようとした手を止めた。そして誰にも気づかれないくらい微かな苦笑を表情に浮かべる。


「いや、〈イレブン〉は密輸をもっと重たい罪として考えているようだ」


 意味が分からない。レイスは首をひねりながら、手にした誰のとも分からぬ小さなダガーを腰のベルトに数本くくりつけた。

 そして、再びテラへ視線を向けようとしたその時だった。


『緊急事態発生、緊急事態発生。B1フロアサンプル室より脱走者あり。繰り返す。緊急事態発生、緊急事態発生……』

「警報機か!」


 機械によって合成された声とけたたましく鳴り響くサイレンの音が二人の耳を突き刺して通り過ぎる。すぐさま、警報機の音に反応したテラが忌々しいと舌打ちをした。


「思っていたより気づくのが早いな」


 テラは近くにあった武器――槍を乱暴に取り、それに巻き付いていた飾り紐を引き抜いてソフトケースに押し込む。そして背中にケースを背負うように固定した。ゆっくり自分に合う武器を選ぶ余裕がないのが残念だが、贅沢は言っていられない……とレイスは彼のぼやきが聞こえたが、警報機に動揺しているせいか、そのことについて全く言葉を返してやれなかった。


「テラ、どうするんだ? 警報、やばいよな?」


 テラはそれを軽く無視しながら、武器庫を出た。

「俺がこの牢に入れられたのはおそらく五年前。退路などうろ覚えだが、その記憶を頼りに〈イレブン〉から出る」

「なんか、物凄く危険な香りが……」


 慌てて後を追うレイスがこれまたあからさまに苦々しい表情を浮かべる。テラは早足で進み管理室のコンピューターの前に歩み寄った。


「黙っていろ」


 だんだんレイスの声が鬱陶しくなってきたテラは、少しイライラしながらコンピューターのキーボードを叩く。その動きは慣れたもので迷いがなかった。


『緊急事態発生、緊急事態は……』

「ありゃ?」


 数秒後、うるさかった警報機の音がピタリと止まった。レイスは驚いて、テラの方へと注目する。いったい何が起きたのか、彼には理解できなかった。

 警報機が鳴り止み、静寂が管理室を支配すると、テラの異常に早いタイピングの音が無機質に響く。しばらくして一度キーボードから手を離したテラが安堵の息をついて、振り返った。


「警報機を一時的だが止めた。同時に他のフロアには火災の警報機が誤作動するように少し手を加えた。これで少しは時間稼ぎができる」

「凄い。機械に詳しいんだなテラは」


 感心の意を示すレイス。テラはその彼の反応に少しだけ不機嫌そうな顔になる。彼はコンピューターが古い型で良かった、と呟きながら鼻を鳴らした。


「仕事上、セキュリティ破りなんかの多少の機械への干渉方法は詳しくないとな。数年前の知識だが役立って助かった」


 そのぶっきらぼうな反応は、彼の照れて隠しだとレイスが気づいたときにはテラは次の行動へと移っていた。


「このフロアの地図だ」


 不思議な電子音が聞こえたかと思えば、テラの目の前にあったディスプレイが点滅した。目を向けてみればいろんな色で区分けされた地図のような図が提示されている。機械のことはさっぱり分からなかったレイスはとりあえず何度か相づちを打ちながら、邪魔になりそうなアミーを彼の肩から抱き上げてみた。


キュ~~ン


 アミーは抵抗せずにレイスの腕の中で丸くなる。


「……ふぅ」


 続いてレイスは、地図を頭に叩き込もうとディスプレイを睨みつけた。ディスプレイには百分の一スケールの地図が画面ぎりぎりまで映し出されている。それ故に何かと細く、覚える数か多すぎて、めまいを感じずにはいられなかった。言語の勉強が苦手なように彼は記憶力にも自信がないらしい。


「まさか……この大きさの図で」

「“このフロアの地図だ”何度も言わせるな」


 とりあえずテラに確認のために聞いてみると、氷点下を大きく下回る返事が返ってきたために、レイスは何とも言えずに苦笑とともにため息をつく。その表情はまるで涙マークが描かれたピエロのように複雑なものだった。

 さすがにその姿に哀れみを感じたのか、テラは忙しく動く手を止めてレイスへと目を向ける。


「心配するな。今からこの画面は複写して紙面上に写す。全て覚えようとする必要はないからな」

「本当か」


 ああ。テラの相づちに、レイスが心底安心したように柔らかくなっていく。悪くいえば気の抜けた面構えだ。

 子供みたいな奴だな。テラはコロコロと表情を変えるレイスの反応に呆れながら、キーボードのエンターキーを二回叩き今度はレイスに指示を投げる。


「今からその四角い箱のような物から地図が出てくる。結構な量だが纏めておけ」

「コピー機だな、わかった」

「そういえば、確か近くのデスクにホッチキスがあった。まとめるのにいいだろう」

「カチッとやっとくぜ」

「あと、そこにある紐を取ってくれ」

「まかせろ」


 すっかり安心の笑みを浮かべるレイスは自分が使われていることに気づかずにキビキビと動き始める。


「ほい。紐」


 テラはぽかんとレイスが忙しなく動くのを眺めながら、手元にやってきた赤い紐を指に絡めた。紐は先ほど彼が手に入れた槍についていた飾り紐である。


「これだけ長さがあれば充分だな」


 人差し指に紐が六回巻けた。テラは満足げに頷くと、長く伸び放題の銀髪に手をのばす。束ねて持ってみるとかなり厚く長い。この五年ほど切ることをしなかった鬱陶しい長い髪を縛ろうとしたのだが、思いの外難しそうだ。


「おっ、ホッチキスはっけーん☆」


 仕方がない。あのバカを(レイス)を頼るか。テラは重々しく溜め息をついて何やらホッチキス片手にテンションが高いレイスの方へと目を向けた。


「レイス」

「なんだこれ! ホッチキス針入ってないし、使えねぇ!?」

「……レイス」

「あのくそ看守。ホッチキス針くらい入れとけよなぁ!」

「…………おい」

「うん? これよくみりゃホッチキスじゃねぇーし。穴あけパンチかよ! 片方だけのパンチとかややこしいわ」

「……………………………アホ」

「ホッチキス、ホッチキス……って誰がアホだ! ……あ、テラ?」

「ようやく気づいたか」


 無視されると嫌な感じだ。自分も通常は会話を無視をするくせにテラはそう深々に思った。


「髪、縛ってくれないか?」


 ようやく大人しくなったレイスに赤い紐を差し出すと、彼は訳が分からんと首をひねってしまった。目線は赤い紐に固定したまま動いていない。


「……かみ? まとめるのはホッチキスじゃなくていいのか?」

「違う。そっちのかみじゃない。俺の髪だ」


 まだ地図のことを考えてたのか。


「かみって、髪の毛のことか」


 ややこしいなぁ。とレイスは呟き、テラの背後に回った。


「はいはい。お客さん、よう伸びてますなぁ。どうします? バッサリいきますか?」


 どこの床屋のおっちゃんだよ。テラはつい突っ込みを入れたくなったが、入れるのも馬鹿馬鹿しいので、ただ首を振るだけにしておくことにした。


「……ただ縛ればいいのかねぇ?」

「あぁ。そうしてくれ」

「任せなさいな」


 やけに鼻息が荒い。自信満々でテラの髪を縛りにかかったレイス。少し心配ではあるが、思いの外手際良く縛り始めたためにテラは黙って成り行きに任せることにした。


「はいは~い! お客さんできましたぜ。素敵になった☆」

「……やめろ、そのしゃべり方。こっちがおかしくなりそうだ」

「そう? 結構気に入ってたんだけど」


 約一分後。テラの髪は綺麗に一つに赤い紐でまとめられた。左目を彼が酷く気にしていることも配慮して、前髪は左顔半分が隠れるように流したままにしたりと、レイスながらに頑張ったようであるのが分かる。


「意外と器用だな」

「意外は余計だ」


 感心した様子のテラだが、レイスは別に凄いことでも何でもないように、肩をすくめて彼にホッチキスでまとめた地図を手渡した。


「まとめたぞ。行くのか?」

「行かなければ、死あるのみだ。見つかればただではすまない」


 テラは何度も近くの鏡で髪型を確認しながら頷くと、もう一度だけキーボードを触れる。


「大丈夫。まださっき警報機をいじってから五分もしていないから、誤報の混乱は続いているようだ。今は動きやすくなっているはずだ」

「いい感じだな!」


 レイスは嬉しいと言わんばかりにガッツポーズ。


「そんなに上手くいくとは保証はできないぞ。これからやる行動はハッキリ言って無謀だ。八割は運頼みだと考えていい」

「……だろうな」


 ガッツポーズをとるレイスを冷めた目で見るテラ。レイスもさすがにそこまで楽観的ではないらしく、小さく息をつきながら元気良く上げた腕を下げた。

 賢くはない彼にも、今から行おうとしていることがどれだけ無謀なことなのかは理解していた。


 テラの作戦とはこうである。


一、警報機の誤作動の混乱に乗じて、なるべく人に見つからないように行動、とりあえず警備の厚い、牢が密集する現フロアを脱出。


二、脱出次第、一番初めに見つけた〈イレブン〉の戦闘部隊の兵士をタコ殴りにして、兵士の服を奪って変装。(戦闘部隊の服が一番顔が隠れる重装備型な為)


三、変装をして動きやすくなったところで二手に分かれる。テラ→脱出路の確保。レイス→リオール救出。二人の連絡手段は奪った際に手に入れると思われる通信機で行う。


四、脱出路を確保したテラと合流。脱出前にエネルギー管理室に侵入。爆破の警報機を誤作動させてから〈イレブン〉を脱出。


 おおざっぱで先が読めない作戦だ。残念なことに、命の保証ができる要素が全くといっていいほどに無い。

 腕っ節頼りの傭兵と、五年も牢に入っていた囚人のたった二人で行動するのだから、やはり限界があるのは仕方がないのだろう。


「もしも途中でどうしようもない状態になった場合、お前はどうする?」


 必要な物を手頃な袋に詰め込み、最終確認に取りかかったテラが、冷静に考えを巡らせるレイスに問う。


「どうしようもなくなった場合ってどんな場合だよ?」


 レイスの眉間に一本皺が入った。考えたくなかったことだけに、嫌な気分になる。

 テラはそんな彼の表情の変化を見ながら、小さく唸った。彼だってそれは同じ気持ちなのだ。


「パターンはありすぎて限定できないが……そうだな、例えば作戦段階“二”のあたりで、服を奪おうと兵士に襲いかかったはいいものも、その時に近くの警報機を鳴らされてあっという間に敵に囲まれてしまったとしたら」

「敵という敵を倒せばいいじゃないか」

「お前な……」


 呆れて何も言えないとは、このことを言うのだろうか。テラは痛くなりそうな頭をとりあえず抱えて、全く楽観的なレイスを睨みつけた。


「考えろ。お前がどれほど戦えるかなど知らんが、敵に囲まれたら絶望的だ。万一に逃げることはできるかもしれないが、リオールまで助けることはできない。そうなった場合はどうするつもりかと聞いている。……その女を諦められるか?」

「……」

「お前が逃げることを優先するならするで、俺は協力はする。だが、そこをはっきりさせておく必要がある」


 苦い言葉に耳を痛めつつ、レイスは改めて自分が一人ではなかったことに感謝した。勢いで行動する彼のこと、一人であれば後のことなど深く考えもせずに飛び出していたに違いない。

 彼は数秒黙って考え、その後真っ直ぐテラの目を見つめた。力の入った瞳は彼の決意の表れが窺える。


「……もし逃げる事しかできない状況になったとしたら、俺は死を選ぶ」

「命を捨てるのか? 考えが浅はか過ぎる」


 一瞬、テラの銀色の瞳に怒りの色が差した。

 レイスは、前に自分も同じような言葉を少女の口から耳にして、腹を立てたことがあったと思い出した。だが、彼は彼女のようにただ命を粗末にするつもりなど無い。それは彼に伝えなければならないと思った。

 自分の言いたい答えを探して、つい彼は興奮し、頬を赤くした。


「俺は!」


 途端にテラの口から大きな溜め息がこぼれて消えた。明らかにレイスの今の言葉に不快感を覚えている、といったようである。

 だがレイスは決意を曲げることはしたくなかった。


「お、俺は……自分がこの場から脱するために、今この瞬間を生きているんじゃない。リオールを助けるために、少ない時間を生きているんだ」


 彼は馬鹿にするだろうか。相変わらず鋭く、冷たい銀色の目は、レイスという存在を射抜いている。

 彼はただ、その目を逸らさず見つめ、言葉を続けることしかできなかった。


「もしリオールを助けられないとテラが判断したなら、一人で逃げてくれ。あんたは俺の道連れになる必要はない。五年も閉じ込められてたんだ……自由になってほしい」


 そうだ、テラは関係ない。彼まで死なせてはいけないーーレイスは納得した上で頷く。もう遅いとはいえ、極力テラを巻き込みたくはなかった。


「俺は、最後まで諦めない。リオールを助けることを最優先にする……それによって、たとえ〈イレブン〉から出られなくなったとしても」


 するとどうだろうか。今まで黙って話を聞いていたテラの口元から息がこぼれた。それは間違いなく、耐えかねて吹き出した息であり、彼が背中を震わせて笑っている証拠だった。


「よくもまあ、そんな台詞を恥ずかしげもなく……」


 レイスが怪訝な目つきで睨むと、彼はもう無理だ、と呟いて声を上げて笑い始めた。


「クサい。クサ過ぎる。まるで子供の頃読んだ童話の、正義の騎士を思い出す」

「うるせぇ」


 やっぱり馬鹿にされた。

 初めのうちは冷めた表情のテラからは想像出来なかった笑い声に目を丸くしていたレイスだが、あまりにも彼が爆笑するので、幼い子供のように頬を膨らめる。


「そんなに笑うなよ!」

「お前の暑苦しい考えは分かった」

「おう」


 分かってくれればそれで良い。レイスは大きく何度も頷いた。


「俺も最後まで付き合う。気色悪い話だが、死ぬときもお前と一緒だ」

「おう……………って、はぁ?」


 何を言っているんだこいつは? レイスは勢いで頷いたことを後悔した。テラは承諾を得たと言わんばかりに、次の行動へ移ろうと、部屋を去ろうとしている。


「行くぞ。あまり話をしていると間に合わなくなる」

「あぁ、え、あ、えぇ……テラ、どういうことだよ」


 混乱する頭で何とか言葉にするレイス。テラは早く動けと彼を急かしながら、ニヤリと笑う。

 クールな彼からは想像出来なかった、明るく、子供のような笑顔だった。


「俺もお前と同じ、リオールを助けるために今を生きなくてはならないということだ」

「はあ?」


 意味が分からない。テラは部屋を出るために、扉のノブを手にした。


「約束したんだ、ある男と」


 笑顔は一瞬で消え、真剣な顔に戻った彼の目は、揺るぎない強い光を放っている。


「それに、レイス。お前には借りがあるからな」

「訳わかんねぇよ。しっかり説明してくれ」


 レイスの顔が歪む。かなり混乱しているようだが、説明している時間は残念ながら無い。


「詳しい話が聞きたかったら、生き残れ。そうしたら話してやる。いくらでも」

「本当だな?」

「あぁ。約束だ」


 テラはそう言いながら、ノブを回して扉を開け放った。


 俺は約束事が多い。そう心の中で苦笑いしながら。



描写が……。視点が飛び飛びですね。

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