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Avalantear アバランティア  作者: 海豹
第一幕 ―起―
20/68

揺らぐ心

「何故だ、どうして出動しない?」


 戦闘部隊が待機する三階へと向かったアベル。

 彼は最上階で起きている事柄への対処の為に、援軍の要請を戦闘部隊に求めているのだが、その表情は険しく、明らかな苛立ちが伺えた。


「最上階で我々の部隊員が緊急自体に遭遇している。戦闘になっている可能性は非常に高く、一人では対処に不安がある。なにも、大隊を動かすわけじゃない。……せめて六、七名ほど兵士を借りることができればいい」


 善と分かれて既に二十分が経過しようとしている。アベルは援軍要請に手こずっていた。

 この階層は兵士たちの訓練室を多く設けており、他階と間取りが大きく違う。通信手段を用いて連絡することも考えたが、直接会って話した方が早いと考えた彼は、勝手の違うその中を駆け回った。


「そうは言いましてもアベル統括。最上階で戦闘が行われている可能性がある……という大雑把な知らせだけでは、我々は動くことはできません」


 苦労して窓口まで辿り着けば、いきなり責任者に足止めを喰らった。

 すぐにでも動いてもらえるとばかり思っていたアベルは、その横柄な対応に耳を疑う。

 戦闘部隊のリーダーを務める男は、呆気にとられているアベルを見て肩をすくめている。歳は四十前後。役職はアベルより下とはいえ、明らかにより多くの場数を踏んできているといった重々しい雰囲気があった。


「せめて、善殿が何と戦っているかだけでも仰ってくれないと」

「それは言えないと言ったはずだ」


 いら立った感情と、焦りはすぐにアベルの声色を強いものへと変える。

 善は既に戦っているだろう。レイスはリオールを連れ、逃走を企てようとしていたのだから。五年前に前科のある善が、レイスを冷静に説得できるとは考えにくい。現場は秒刻みで状態が変化してる。ここでぐずぐずしている余裕はなかった。

 しかしだからと言って、アベルはレイスの存在をここで口にしたくなかった。彼が敵だとここで申告すれば、<イレブン>もう彼を捕らえる以外、選択肢が無くなってしまう。

 まだレイスを反逆者と断定したくないアベルは、結論を先延ばしにしたかったのだ。もとより制御体に関わる問題を、自分たちの勝手な判断で処理していいとも思えなかった。事を急いではいけない、彼の中でそう警告音が鳴っている。


「困りましたな」

「どうしても動かないというのか」


 アベルが焦るのには、もう一つ理由があった。それはレイスの安否だった。

 善と戦闘になれば、≪剣聖ソードマスター≫のレイスでも勝ち目はない。それほどにあの悪魔の異名を持つ男は、猛者なのだとアベルは知っている。五年の付き合いの中で、彼は善が敗北するところを見たことが無い。きっと今回もそうなのだろう。不思議な確信があった。

 言い訳も事情も聞かずに死なれてしまうのは避けたい。アベルは善が冷静に行動していることを切に願った。

 普段冷静に見える善だが、彼はある一線を越えると、殺人鬼のように見境なく殺しに走ることがある。組織に忠実で、兵士の鏡の様な男だが、それゆえに組織に仇をなす敵に対する冷酷な行為には目に余るものがあるとアベルは感じていた。実力のあるレイスなら、彼のスイッチを入れてしまう可能性は非常に高い。最悪な情景ばかりがアベルもの脳裏に浮かぶ。

 

「上司命令でも動けないのか?」


 使いたくない手ではあったが、とアベルは声に力を入れる。


「私は特殊部隊に置かれた統括官という、位置に身を置いている。つまり、君よりも遥かに地位においては優遇される身であり、直属ではないとしても上官だ。君は、上官の命令に服従する義務があるはずだ」


 相手が、アベルの口調の変化に微かに動揺するように、肩を震わせた。

 己の地位の権利をこのように使うことを、アベルは好まない。しかし、手段を選んでいる場合でない。彼はいつになく威圧的に、目の前の兵士を見つめた。


「アベル統括。貴方をそこまで焦らせる理由は私には分かりません。実際、緊急事態に陥っているのは嘘ではないのでしょう。しかし、我々は簡単にあちこち動かせるような駒ではありません。……いくら統括の命であっても、無理なものは無理なのです。これは<イレブン>の総意によって動くものの務めです。正式な手続きを、せめて詳細な事実の提示を求めます」


 兵士は一瞬、上官命令という言葉に困り果てた顔をしたが。すぐに頬を引き締めてそう厳格にアベルに言い放った。

 頭の堅い連中め、アベルは恨めしく兵士を睨むことしかできない。



「あれ? アベル統括じゃないですか」


 そんなとき、背後から聞き覚えのある声がしてアベルは振り返った。一触即発状態だった空気が、一気に緩みを見せ、彼の視線を受け止めていた兵士が安堵したように息をついているのが聞こえる。


「どうしたんですか? そんな怖い形相で、せっかくの男前が台無しですよ」

「こら、失礼だろ」


 声をかけてきたのは、山のように積み重ねた書類を抱えているグレイスとターナー。書類は、任務の報告書だろう。今日は戦闘部隊と合同で動く作戦があり、彼等は派遣される形でこちらで行動していた。アベルはスケジュールの内容を思い返して、彼等の登場に納得する。


「どうかしたんですか?」

「善が今最上階で戦っているんだ。私はその件で戦闘部隊に応援を要請している」

『え』


 もう戦闘部隊には話が通じないと判断したアベルは口早に言った。

 二人は一度顔を見合わせる。突然のことなのでやはり戸惑っているようだった。


「戦闘部隊は、正式な手続きを求めてなかなか動けないようなんだ。正直、あまり時間が無いので困っているんだが」

「リーダーの戦ってる相手、そんなに手強いんですか? リーダーに応援が必要なんてよっぽど強い奴じゃなきゃありえないですよね」


 アベルの言葉に、ターナーが大層驚いたように声高でまくし立てる。そしてアベルの背後に佇む兵士に目を向けて、目を細める。その笑みとも取れる目は、蔑むような意図をもっているようで、次に彼から紡がれる言葉はひどく嫌味を含んでいた。


「珍しいですね。いつも援軍を頼めば理由も聞かずに動いてくれるあなた方が、今日はこんなにも腰が重いなんて」

「やめておけ、ターナー」


 明らかに挑発的で探るような口調のターナーに、もめ事を予感したグレイスがやんわりと間に入る。

 だが、そういう彼も何か思うところがあるのかややその表情は堅い。


「戦闘部隊にしっかりとした規律が前々からあった方がいいとは俺も思っていた。連絡無しに実行されるのは少々強引な気がするが……仕方ないだろうな」


 言いながら、グレイスはターナーから書類を奪い、自分のものと合わせて廊下の隅に置いた。兵士それらの言葉に一切返答せず、沈黙を続ける。アベルは頑なに協力を拒む彼の態度に、怒りではなく違和感を感じ始める。

 しかし疑問を追求する前に、身軽になった二人はほぼ同時にアベルの方を向いた。


「アベル統括。俺達が行きます!」

「いいのか?」 

「大丈夫です。この書類終わったら今日はあがりにする予定でしたから」

「そうか。助かる――」


 内心彼等が来てくれることを望んでいたのでアベルは安堵する。だが二人は彼がほっと息をつく暇も与えずに走り出していた。

 さっそく行動に移る、フットワークの軽さは今の状況にはありがたいが、アベルは思わずうろたえてしまった。

 しかし、立ち止まっているわけにもいかず、慌てて彼は二人の後を追う。

 ブランドものの白く長いコートがはためく。正直邪魔な装飾に、お気に入りの品とはいえ、アベルは思わず苦笑う。

 数十秒かけて、なんとか二人に近づく。オフィス勤めに慣れつつある彼にはなかなか骨が折れる全力疾走だった。


「へぇ。なかなか足速いんですね、統括」


 後ろで懸命に走るアベルに気づいたターナー。バサバサと長いコートをかき混ぜるように走る上官の姿に小さく笑い、並列して走るグレイスに声をかけた。


「俺は階段で最上階まで先に行くから、グレイスさんはエレベーターでアベル統括から事情を聞いといて」

「いいのか? ここ三階だぞ」

「エレベーターよりは速い自信はある。じゃ、先行くから」


 大丈夫か? と疑問符を浮かべるグレイスに彼はウインク込みの笑顔を投げてよこす。そしていきなり方向転換したかと思えば、階段室へと勢い良く飛び込んで行った。アベルはその姿を信じられないものを見るようにただ見ているしかなかった。


「アベル統括、事情を説明していただけますね?」


 そこからしばらくして、エレベーターホールにたどり着いたグレイスがアベルに声をかけてきた。彼は呼び出しボタンを叩いて、たまたまその階に停止していたエレベーターに乗り込み、ドアに手を添えながらアベルの到着を待つ。


「……はぁ……少し……待ってくれ。」


 全力疾走してきたアベルはその問いにすぐに答えられるわけがなく、息が整うのに数秒の時間が必要だった。


「……レイス君がリオールを連れて脱走しようとしているらしいんだ」

「本当ですか、それは?」


 ゆっくりとエレベーターが登り始めた。頭上のランプが秒刻みに階数を上げているのを示している。

 グレイスはそちらに目を向けながらも心底驚いたようだった。


「まだそれが本気なのか分からないが、恐らくあの声の感じでは……」

「善が相手をしてるのなら、レイスが殺されますよ!」


 すっかり顔を蒼白にしてしまったグレイス。眉間に深々と皺を寄せ絶望しているようにアベルには見えた。


「だから、私もそれが心配で――」

「善は五年前の事件以来、裏切って無くしてしまった組織からの信用を取り戻すことで躍起になっている節があります。更にリオールのこととなれば……」


 グレイスは今にも叫び出してしまいそうな様子でエレベーターの階表示ランプを睨みつけている。つられてアベルも視線を上げる。残念だが睨みつけたところでエレベーターの上昇スピードが早くなるわけではない。それでも、焦燥感を感じながら見つめることしか彼等にはできなかった。


「くそっ、間に合ってくれ……」




*****




「はぁ」


 特殊部隊の三人がフロアから去ったのを確認した戦闘部隊の兵士は一人小さく溜め息をついた。目の前はグレイスとターナーが置いていった書類の山が崩れて散らばっている。


「これでよろしかったんですか?」


 彼は散らばった書類を仕方なさげに片付け始めると、先ほどまで気配すらなかった人物がいることに気づき、そちらに目を向ける。何となく相手が誰だか彼は分かっていた。

 その人物は、長いローブを纏う者だった。ほんの数秒まで全く気配が読めなかったということに気づいた兵士は、少しだけ苦笑いして肩をすくめる。


「戦闘部隊を無理やり止めておくなんて、ほかの幹部に知られたら大変ですよ。……ノワール様」


 ローブの人物、〈イレブン〉の頂点に君臨するノワールは、音も立てずに兵士に近寄る。


「しかし、どうしたのでしょう? いつも穏やかで冷静なアベル統括があんなにも慌てているなんて……よほどの事があったとしか考えられないです。やはり、戦闘部隊を動かすべきでは」


 しかし、近づいていることに気づかない兵士は書類を手に取りながら真剣に考えを巡らせていた。


「……これでいい。これでいいのだ」

「え?」


 ようやくノワールが自分の目の前にいることに気がついた兵士は、目の前に手のひらを突き付けられ、硬直した


「忘れろ。お前は私からの命令も、己自身がしたことも忘れるのだ……額に感じる温もりがなくなったときには完全に今の時間の記憶は無くなる……いいな?」


 体の力が抜けていく。手に持った書類が床に散り、寝ぼけているようなぼんやりとした表情で彼は頷くと、その場に崩れ落ちた。頭の片隅でノワールが自分に幻術をかけたのだと理解できたが、どうすることもできない。意識が遠のくのを感じながらノワールを目で追う。


「これでいい。“肥やし”には足掻くだけ足掻いてもらった方が良い」


 視界もあまりよくない中、兵士にはノワールが笑っているように見えた。

 うっすら片頬を上げた、冷たい笑み。

 それを最後に意識が完全に途切れる。ノワールはその様子を確認するとローブを翻して足早にその場を去り始めた。


「全ては大いなる世界の母、“アバランティア”のため」


 数秒後、歩き出したノワールの姿は陽炎のように揺らめき、空気に紛れるように薄れて消えた。




*****




「ごめん。リオ」


 敵と認識した者が倒れた時、そう口が動いたように善には見えた。

激しく動いたせいなのか体が熱いと、彼は思う。頭に血が上っているのかあらゆる感覚が感じられず、負傷したはずの足は全くと言っていいほどに痛みが無かった。

 冷たい夜風が火照った頬を掠めていき、善は息を整えると共に 心を静めた。

 まだやるべき仕事が残っている。


「馬鹿げているとは思わないのか? 小娘一人助けたところで何になる。結局こうなるのなら……」


 意識のないものに語りかけるのを止めると、彼は深く長く目を閉じた。

 目の前の敵は抹消すべきだろう。それが〈イレブン〉の為には一番良いはずだ。……殺すしかないか。善はしばらく考えを巡らせ、結論が出ると目を開き、倒れている敵へしゃがみ込んだ。

 服で隠れた彼の首筋を出し、左手で掴む。

 窒息死か。それとも首の骨を狙った方がいいだろうか。彼の思考は相手の始末、それだけに偏っていた。


「止めて!」


 そこへ、何かが善の左手を拘束した。

 これでは敵の抹消ができない。彼はただ事実を確認するように己の状態を把握して、空いている右手で、左手を拘束する何かを掴んだ。


「邪魔だ、離せ」

「いやっ! 絶対にダメ」


 女の子の声。

 目の前に集中している善は、この叫びが誰の声なのか分からない。毎日耳にしているはずなのに、彼の耳はそれを意識にまで到達させない。


「レイスに酷いことしないで! レイスは私を助けようとしただけなのっ。善さん、もうこれ以上私の大切な人を殺さないで」


 善には彼女の言葉が、ただの単語の羅列にしか聞こえなかった。彼はこの戦闘で、意図的に心と思考を分離させていた。今の状態の彼は、殺人をただ行う機械と揶揄されてもおかしくはないだろう。

 敵は抹殺する。幼いときから教え込まれてきた習性が、善から感情を停止させていた。

 そうか、敵はレイスと言う奴だったな。左腕を拘束する者の言葉から、冷静に敵の名の情報を得る善。そして再び左腕に力を入れて、しがみつくものを振り払おうとした。


「善さん、どうして私の話を聞いてくれないの? 止めて、彼を殺さないで」


 まとわりつく何かの力が強まり、温かい液体だと感じられるものがポツリと一雫、彼の左腕に落ちる。

 それが涙だと頭の片隅で理解したその瞬間、凍らせていた心に鋭い痛みが突き刺さった。目の前が真っ白になる。


《善、どうして私の話を聞いてくれないの? お願い。彼を連れていかないで!》

《私の大切な人を奪わないで! お願い。お願いよ……。私はどうなってもいい……だから彼は助けてあげて》

《私達、親友じゃなかったの?》




「……ぐっ!?」


 心の痛みは、善を一瞬にして現実に引き戻した。

 手足の神経が戻り、負傷した足が痛みを訴え始める。善は急に胃が煮えるように熱く気持ち悪くなる感覚に襲われた。


「どうして邪魔をする!」


 このまま何も感じぬまま始末出来ていれば……! 善はそう叫びそうになる気持ちで頭を抑えた。


「善……さん?」


 隣からかかる声がリオールのものだと分かる。目の前に倒れるのは彼女を命がけで救おうとしたレイスだということも。せき止められていた情報が一気に善の意識に流れ込んでくる。

 彼等が何を思ってこの騒動を起こしたのか、それも今の善は分かる。


「くそっ」


 人並みの感情が戻りつつある善にはそれ以上、手を下すことは出来なかった。


「リーダー!」


 その時だった。花畑の扉が物凄い勢いで開かれ、長い髪を乱したターナーが飛び込んできた。両手には彼が開発したらしき兵器が握られている。変わった形をしたそれがどんな獲物なのかは善には分からないが、彼はどうやら戦いにやって来たようだ。


「レイス? 何しているんです、リーダー!?」


 階段を駆け上がってきたのか、微かに息切れているターナー。彼はレイスの首筋を掴む善とそんな彼にしがみつくリオールを見て驚いたようだった。


「……レイスが組織を裏切った。ターナー、彼を拘束しろ」

「えっ」


 首を掴む左腕を放し、リオールの手を今度こそ振り払うと、善は立ち上がってターナーに指示した。始末しないにせよやるべき処置はある、彼はそう結論づける。


「裏切っ……た?」


 まだ状況が把握できていない様子のターナー。すると彼の背後からまた見覚えのある姿が現れた。


「善!」


 グレイスとアベルだ。


「良かった。無事だったか!」


 グレイスは目の前の善を見て一瞬安堵したようだったが、倒れているレイスの姿に顔を青ざめさせた。


「……善、お前まだ手を下してはいないよな?」

「……」

「善!」

「……まだだ。始末すべきだと思ったが、邪魔が入った。レイスは生きている」


 叫ぶな。善はそう呟いて、目だけでリオールを指し示す。彼女は倒れたレイスの手を取って心配そうにしていた。


「そうか。なら良かった」


 何が良かったと言うんだ。レイスは組織を裏切った。本来ならば制裁を下す立場なのに、生きていることに安心するとはどういうつもりだ。善はそう考えたが、口にはせずに突っ立っているターナーに再び向き直る。


「なにをぐずぐずしている、ターナー。早く拘束しろ」

「……」

「情に駆られるな。こいつは〈イレブン〉の敵だ。もう我々の味方じゃない」

「分かってます」


 ターナーは苦しそうにそう言うとレイスに歩み寄っていった。


「殺し損ねた。全く情けない」


 ターナーがレイスを肩に担ぎ上げる様子を眺めながら、善はポツリと呟く。近づいてきていたグレイスは、その言葉に驚いたように足を止めた。


「善、お前」

「もう少しだった。邪魔さえなければ確実に仕留めていた」


 やっぱり本気で殺す気だったんだな。グレイスが思いつめたような目で善を見る。


「冷酷だと思うのなら、そう思えばいい。私はそういう人間だ」


 何と言われよう自分は組織にとって一番良いと思うことを優先する。たとえ後ろ指さされるようなことでもだ。善は心の中で呟く。だがそれが、今の行為に対しての言い訳のようだと気がついて、笑いたくなる衝動にかられた。

 彼は昂ぶる気持ちを抑えて空を見上げる。

 冷たい風が夜の空を深く澄んだ色に変える。明るい光を放つ満天の星は、溢れ出す涙のように流れていく。


「……レイス」


 花畑にはただ、少女の嗚咽だけが響き、善はしばらくその美しい夜空から目を離そうとはしなかった。



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