第80話
第80話
「優司様、この者はいかがですか?かなり力も強そうですし、優司様について回りながら、色々な雑用をこなしてくれそうですが。」
中にいるのは一人の男性。
どこかでかなり拳を振るっていたのか、顔には鋭い刃物で斬られたような傷跡があり、筋肉質な男がソファに腰掛けたまま頬杖をついている。
その目はかなり殺伐としている。
おそらく、中に入れば今にも表情を歪めて襲いかかってきそうだ。
似たような動物がいるとすれば、おそらく狼だろう。
「あの方は、少し…」
「そうですか…?健康そうですし、強くて警護にもぴったりだと思ったのですが…では、あちらはいかがでしょう?あちらも良さそうですが!」
彼女が指差す人々を一人、一人と見ながら、奥へと入っていった。
奥へ入れば入るほど、人間ではない者たちも目に入ってくる。
四つ足の奇妙な獣のモンスターも見え、裸のオークやゴブリンも目に映る。
どうしてモンスターを奴隷として使うのかは分からないが、おそらく、特異な趣味を持つ人々のための奴隷なのだろう。
しばらく見物しながら奥へ入っていくと、共通点が目に見えてくる。
まさに、状態がだんだん悪くなっているということだ。
奥深くへ入れば入るほど、奴隷たちの状態は良くなかった。
服が汚れているのは言うまでもなく、体の一部に傷があったり、顔が歪んでいたり、腕や足が一本なかったりする奴隷も目に入ってくる。
「ここまでにいたしましょうか?」
良くない俺の表情を読み取ったのか、先を歩いていたテスさんが立ち止まり、振り返って俺を見つめる。
「お楽しみいただけましたか?」
俺が買う気がないことを見抜いたかのように、彼が笑いながら見つめる。
「ええ、まあ…」
「この奥にも奴隷はおりますが、奥へ入れば入るほど…」
彼は言葉を終えず、「お分かりでしょう?」とでも言うように笑いながら俺を見つめる。
「では、お気に召した方はいらっしゃいましたか?優司様?」
ヘメラが目を輝かせながら俺を見つめる。
彼女は俺に奴隷をとても買ってあげたいように見えるが、やはり残念ながら、彼女のこの純粋な(?)好意を受け入れるのは難しそうだ。
「申し訳ありませんが、奴隷は少し…」
カンッ―
断ろうとした刹那、奥の方から鉄格子を叩く音が聞こえた。
テスさんも顔を向けて音の方を見つめる。
透明なガラス窓から聞こえる音とは到底思えない、軽快な音。
カン、カン。
一定の間隔で、絶えず鉄格子の音が聞こえる。
「どうやら、奴隷の一人が音を立てているようですな。お気になさらず。」
カン、カン。
だんだん速くなる音。
俺よりもテスさんの方が気になったのか、音がする方向を見つめながら眉をひそめ、俺に挨拶する。
「少々お待ちいただけますか?」
言葉にはしなかったが、彼が何をしようとしているのか、大体予想がつく。
「行ってらっしゃい、テス。待っているわ。」
「ありがとうございます、お嬢様。」
そう言うと、袖をまくりながら奥へと入っていく。
テスさんの姿がだんだん遠ざかり、やがてある場所で立ち止まる。
何を見ているのかは分からない。
だが、遠くから見える彼の表情は、かなり良くない。
どれくらい経っただろうか。
テスさんが錠前を開けて中に入る。
そして。
キャアアッー!
「…?!」
少女の悲鳴が聞こえる。
「ゆ…優司様…!」
まさかと思い、彼が入っていった場所へ駆け寄ると、透明なガラスの向こうにテスさんと一人の少女が見えた。
テスさんの頭からは血が流れたまま、少女を足で蹴っていた。
床には、この部屋でどうやって手に入れたのか分からない鉄の棒のようなものがあり、鉄の棒の先にはかすかに血がついていた。
今のこの反応は、おそらくテスさんが少女に攻撃されたために起こったことだということ。
「この馬鹿なガキが…!」
しばらく殴られていた少女は、動かない。
かろうじて息だけはしているのか、少しずつ身じろぎするだけだ。
「ちょ…ちょっと待ってください、テスさん…!そんなことをしたら、死んでしまいます!」
俺の声が聞こえると、攻撃していたテスさんは興奮を鎮め、髪をかき上げながら微笑んだ。
「ああ、申し訳ありません。お客様に奴隷を教育する場面をお見せしてしまうとは…」
そう言うと、扉を開けて外に出てきて、再び錠前で扉を閉めた。
「テス、大丈夫?」
「大丈夫でございます、お嬢様。」
ポケットから慣れた手つきでハンカチを取り出し、流れる血を拭う。
「このようなことは、よく起こるのですか?」
「自分の状況を理解できない奴隷が多いもので、時々起こります。」
「ふぅん~…いっそ処分してしまえばいいのに。」
「最上級品の奴隷でして、値段が…」
話を交わす二人を後にして、少女を見つめた。
少女は苦しそうに上体を起こした。
咳をするたびに、口から血が流れ出た。
顔は腫れ上がり、破れた服の中からは痣が見える。
まだ十五歳くらいだろうか。
顔にはまだ、あどけなさが残っている。
他の誰でもなく、まだ成熟していない子供がここにいることが、少し心に引っかかる。
「テスさん、あの子はいくらですか?」
子供だからだろうか。
それも確かだが、ただ子供だからというだけではない。
おそらく、目の前で殴られているから、心がさらに動いたのだろう。
そこに子供という要素が加わり、助けてあげたいという気持ちが生まれたのだろう。
「あの子を…お買い上げになるおつもりで?」
俺の問いに、テスさんの眉がわずかに動く。
「はい。」
「かなり気性の荒い子がお好みのようですな。」
言葉を終えると、ははっと笑う。
一方、ヘメラの表情はかなり固まっていた。
「ゆ…優司様…?その子ではなく、他の奴隷を買われるのはいかがでしょう…?せめて、男の奴隷でも…」
「いえ、あの子にします。」
ヘメラが表情をわずかに歪め、少女を見つめる。
そして、俺と少女を交互に見ては、テスに尋ねた。
「あれ…いくらなの…?」
「300万ブロンでございます。」
「さ…300万ブロン?!30万ブロンではなくて300万?!テス、300万ブロンもあれば、奴隷が10人は買えてお釣りがくるのよ!なのに、たかが子供一人が300万ブロンだなんて…!何を馬鹿げた値段を吹っかけているの?!」
「それが…あの子の能力が、かなり希少なものでして…」
「貴重な…血統?」
「はい。この子の血液には、魔力が宿っております。」
「血液に魔力が宿っている…?」
「さようでございます。魔力というものは、基本的に身体に存在する心臓の隣の魔力炉に蓄えられます。しかし、あの子には魔力炉が存在しません。」
「魔力炉が存在しない代わりに…血液に魔力が溶け込んでいる…そういうことかしら…?」
「はい。ですから、あの子は高価なのです。」
二人の話を聞きながら、理解できないことがある。
身体にある魔力炉という器官が何なのかも気になるが、何よりさらに理解できないのは一つ。
「血液にマナが溶け込んでいることが…どうして希少な能力だというのですか?」
魔力炉からマナが流れ出るのと、魔力が血液に溶け込んでいるのとの違いが何だというのか、そんなに高価な値段を吹っかけてくるのか。
「優司様。血液に魔力があるということは…」
ヘメラが口火を切り、テスさんが話を締めくくる。
「あの子を連れている限り、マナポーションは必要ないということです。」
「(マナポーションが必要ない…?)」
瞬間的に、理解ができなかった。
いや、理解したくなかったのだろう。
常識的に考えて、誰がそんなことを考えるだろうか。
だが、しばらくして、俺の頭の中でその言葉の意味が理解され始めた。
血液にマナがある。
つまり、彼女の血液自体がマナポーション。
マナが不足するたびに血液を抜いて飲めば、マナポーション自体が必要ないということだ。
「ですから、私が殺すわけにはいかないのです。私の頭を攻撃した奴隷であれば、主人を攻撃する可能性も否定できないため、本来なら処分すべき奴隷ではございますが…」
あんな奴隷を処分してしまっては、奴隷商人としては相当な損害を被ることになる。
何より、こんな希少な奴隷は、言い値で売れるはずだ。
テスさんは後頭部を掻いた。
「ひとまず、分かりました…」
ヘメラは深呼吸をし、気まずそうに笑いながら俺に言った。
「も…申し訳ありませんが、優司様…うちの家門に300万ブロンもの大金を支払う余裕がないもので…あの奴隷ではなく、他の奴隷を選んでいただければ…」
「大丈夫です。俺が出せばいいですから。」
「え…?」
ヘメラが驚いた表情で俺を見つめる。
「お…お出しになるって…ご冗談を…300万ブロンは、そんなに簡単に出せる金額では…」
俺のインベントリには、かなりの金が眠っている。
もちろん、俺にとっても300万ブロンという金が、簡単に出せる金額ではない。
この金を出せば、俺のインベントリの金庫は空っぽになる。
だが、俺にはコンビ∞がある。
シャンプーだけを買って売っても、そこそこの金は稼げる。
がちゃり。
「…」
俺がインベントリから大きな袋を取り出すと、二人の目が同時に大きくなる。
「ここに、300万ブロンあります。」
何も言わずに袋を見つめていたテスが、ごくりと唾を飲み込み、近づいてきて袋を開ける。
その瞬間、光を受けて輝く金貨が目に映る。
「ま…ありえない…」
ヘメラも金貨を見て、口をぽかんと開けたまま閉じられないでいる。
「しょ…少々お待ちください…すぐに数えて…」
肩にブロンを担いでいくテスさん。
その姿は、まるで黄金を肩に担いだゴブリンのようにも見える。
「ゆ…ゆゆゆゆ…優司様…一体、あのお金はどこから…」
「俺は商人ですから。貯めておいた財産が、かなりあるんですよ。」
その言葉が終わった瞬間、ヘメラの眼差しがわずかに変わる。
なぜだか、背筋にぞっとするような悪寒が走る。
「優司様、もしかして、あれが全財産ではないですよね…?」
「ええ、まあ…まだ商売する金は残っていますよ。」
「わあっ!」
その言葉に、なぜだかヘメラが拍手をする。
そして、すぐに空咳をして微笑む。
「本来は私が買って差し上げるべきだったのに、申し訳ありません、優司様。」
「大丈夫です。特にいただくつもりもありませんでしたし…」
「いけません!恩人になんの恩返しもしないだなんて!奴隷の取引が終わったら、洋服店へ行きましょう!私が、とてもお似合いの服を選んで差し上げますから!」
「はは…」
まだ、歩き回るつもりなのだろうか。
女たちは一体、どこからショッピングをする力が湧いてくるのか…
理解できない。
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