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第76話

第76話


これら以外にも、数多くのスキルがスキルウィンドウに並んでいる。

農業や中世のガンマンといったパッシブスキルもあれば、デスマークや乱射といったアクティブスキルまで。

俺が見たことも、聞いたこともないスキルが山積みになっている。


「(俺が何かをした分だけ、スキルが生まれたり、ステータスが上がったりするのか…?)」


これを見て、おおよそ推測できるのはそれくらいだ。

何より、このステータスが何を意味するのかは分からない。

これが俺の基本的なスペックに追加されるのか、それとも今の俺の状態を数値化したものなのか。

このステータスと、この世界に来てからの今までの生活を見ると、前者である可能性は非常に低い。

もしこの数値が俺の基本的な身体能力や知能に影響を与えていたなら、何か大きく変わったことを感じていたはずだから。

今もそうだし、初期もそうだ。今の身体がこの能力の分だけ向上したとは感じられない。


「(いや…力なんかは、かなり良くなった気もするな…)」


腕を上げて二頭筋を見ると、筋肉がかなりついたような気もする。

もちろん、ジェルノータの森で小屋を建てたり、農業をしたり、ハルを育てたり、イノシシを解体したりと、様々な力仕事をして身体が良くなったようではあるが、たかがそれだけでここまで二頭筋や腹筋ができるはずはない。


「(とにかく、今の俺の身体の状態がこのくらいだということか…)」


魔力の部分が少し残念ではあるが、これも魔法を学んだり、頻繁に使ったりしていれば、きっと上がるだろう。


俺はスキルウィンドウを閉じ、ベッドにそのまま横になって目を閉じた。


***


お風呂の準備ができたのは、俺が横になってからさほど時間が経たないうちだった。

ベヴィンさんがやって来て風呂場まで案内してくれ、タオルと着替えを準備して風呂場の脱衣所に置いてくれた。


風呂から上がった後は、当然、夕食の時間。


「何のお構いもできませんが、どうぞたくさん召し上がってください。」


数多くの山海の珍味が並んだ食卓。

ヘメラさんと一緒に、妻のロキシーさんまで目を輝かせて見ているところを見ると、どうやら俺のためにかなり大きな出費をしたようだ。


「さあ、ではどうぞ。」


モートラックさんの言葉に、ゆっくりとフォークを手に取り、料理を口に入れた。

口に入れて噛むや否や、淡白ながらも肉汁がじゅわっと広がる肉から始まり、キウイと似たような味が感じられる、爽やかで甘酸っぱいサラダ。

そして、パスタと一緒に出てきたガーリックバターパン。

胡椒のような香辛料があまり入っておらず、食べやすい感じの料理が次々と入ってくるので、久しぶりにたらふく食べた。


「たくさん召し上がりましたか?」


食事が終わり、ベヴィンさんが出してくれたお茶を一口飲みながら、俺は頷いた。


「こんなに美味しい食事は久しぶりでした。」

「お口に合ったようで、何よりです。」

「他のことはともかく、うちの料理人の腕は相当なものですからな。他の貴族たちも狙っているくらいですよ。」

「そうですわ。トライグがうちの料理人で、どれだけ幸運なことか…」


トライグという名前。

おそらく、彼がこの家の料理人なのだろう。


「そういえば、ルアナさんに会いに来られたとおっしゃっていましたね?」

「あ、はい。」

「商人だとおっしゃっていましたが、取引のために来られたのですか?」

「ええ、そうです。正確に言えば、契約書を少し修正しようと思いまして。」

「ああ、そうですか。契約書…仕入れ契約書ですか?もしそうなら、私が力を貸して、少しでも安く…」

「いえ、納品契約書です。」

「納品…?納品とは…先ほどの鉄車を見ても、納品するような品物はなかったようですが…」

「亜空間バッグがあるんですよ。普段はそこに品物を入れて持ち運んでいます。」

「おお、亜空間バッグ!」


三人が驚いた目で俺を見つめる。


「そういえば、優司様には亜空間バッグがありましたな。」

「しかし…亜空間バッグに、あれほど多くの品物が入るとは…」

「先ほど鉄車をしまわれた時もそうですが、あんなに大きな物が入る亜空間バッグがあるという話は、一度も聞いたことがありません。」


その言葉に、ヘメラが得意げににやりと笑って言った。


「それは、優司様が商人の神様に寵愛されているからですわ!こんなにお強い方なら、私が商人の神様だったとしても、世界で一番強いご加護を授けたでしょうね。」


その言葉に、モートラックさんがははっと笑った。


「確かに、商人の神様なら、優司様のような方に当然良いご加護を授けてくださっただろうな。」


何だか、かなり持ち上げられているような気がする。

今、俺にあるご加護と言えるものは、創造の神が授けてくれたコンビ∞一つだけ。

今俺が使っている武器も、亜空間バッグと言えるものも、間違いなく創造の神が授けてくれたもののはずだ。


「(やはり、俺は特別ケースなのか…)」


創造の神が隣にいたら、おそらくもどかしく思ったのではないだろうか。


「(私が授けたご加護なのに!)」と。


そういえば、神については特に調べたことがない。

宗教は図書館の本で何度か見たような気がするが、肝心の神については一度も探したことがなかった。

この機会に一度、尋ねてみるのも悪くないかもしれない。


「ところで、その商人の神という方は、どんな神様なのですか?」


その言葉に、理解できないという表情で、三人が俺を見つめる。


「しょ…商人なのに…商人の神様をご存じないのですか?」

「はい…特に宗教については、あまり関心がなかったので。」


モートラックさんは俺の言葉を聞くと、苦笑いを浮かべて頷いた。


「確かに…特に宗教に関心がない方なら、ご存じないのも無理はないでしょうな…」


表情を見ると、おそらく理解はできないが、どうにかして理解しようとしているように見える。

まあ、俺だったとしても、商人の神のご加護と言える亜空間バッグを持っているのに、肝心のその神について調べもしない人がいたら、理解できなかっただろう。


「商人の神様、つまりウロヌス様は、商人の神と呼ばれてはいますが、正確に言えば公平の神でございます。」

「公平の神…ですか?」

「はい。人間と人間の間の公平、物質と物質の間の公平、職業と職業の間の公平など、数多くの物質と概念の平等を司る神様です。」

「それなら、公平の神ではないのですか…?どうして商人の神と…」

「それが…」


モートラックさんは気まずそうに笑う。


「信じているのが、商人しかいないんですよ…」

「商人しかいないのですか…?」

「はい。基本的に、公平を好む者はいません。貴族は皆、他の一般民よりも優れているという認識を持っていますし、貴族の中では、誰もが皆、他の貴族よりも特別になろうとこそすれ、公平になることを望む者はいません。一般民も皆、物欲を持っているので、公平を望む者はいません。かろうじて公平を叫ぶ者たちといえば、商人くらいしかいないのです。」

「商人たちが公平を…?」

「はい。商人たちの取引における基本原則こそが、『等価交換』ですので。もちろん、基本的に商人たちの取引にも力の論理は適用されますが、彼らが追求する基本的な概念は公平であるため、公平の神様を信じるほとんどの者は商人たちです。」

「ああ、それで…」

「はい。それで、商人の神様と呼ばれているのです。そもそも、ウロヌス様が授けられるご加護も、商人たちにしか役に立たないような能力であるため、なおさらそう呼ばれるきらいがなくもないですが。」


この世界は貴族社会であり、王権国家ではあるが、資本主義社会でもある。

この三つが合わさった結果、公平を望む者はいないようで、皆、誰よりも優位に立ちたいと願っているようだ。


「なるほど…」

「もちろん、公平になることを望まないからといって、間違っているわけではありません。誰しも、自分が努力した分の報酬を受けたいと願いますからな。そういう面で見れば、今、この状況自体が公平であると見ることもできます。民たちも、一生懸命働いた分だけの報酬は受け取れますから。」

「だからといって、身分の差は超えられないじゃないですか?」


モートラックの言葉を、ヘメラが受け流す。


「貴族と平民の身分は絶対的なもので、その絶対的なものは変わりませんから。」


身分の差。

元の世界では、身分の差といえば会社でしか存在しなかったが、どうやらこの世界は貴族という爵位がある世界であるため、固定観念のようなものが存在するようだ。


「(貴族という爵位が、全てを防いでくれるわけでもないのに…)」


以前、ジェルノータでジェルノータ領主に処刑された「ヘルブライアン」という家門も、貴族だった。

嘘をついた後に処刑されるのを見ると、特に一般民と変わらないように見えるが、彼らの頭の中には身分差という刻印が脳の奥深くまで刻み込まれているのだろう。


「もちろん、優司様は平民とは見なせないので、私たちとこうしていても大丈夫ですが。もし他の平民がここで私と食事をしようとしたら。」


彼女の目が、ひどく恐ろしく変わる。


「私がとても厳しく叱ってやったでしょうね。」

「私も、ある意味では平民ではないかと思うのですが…」


気まずそうに笑いながら言うと、彼女は首を振った。


「私だって分かっていますわ。普通の平民が、あんな雷のような音を出す武器を持っていないということは。間違いなく、優司様はとても有名な冒険者か、どこかの貴族の爵位を受けられた方に違いありません!絶対に!」


あまりにも確信に満ちたその声に、俺は言葉を失い、それ以上口を開かなかった。


「さあ、さあ。そんな話はこれくらいにして。優司様もお疲れでしょうから、今日はこれくらいにして、お部屋でお休みください。」

「あ、それが…夜に少し、外に出かけようと思っています。」

「外出されるのですか?」

「はい。知り合いの方々に、来たと挨拶も先にしようと思いまして。明日になる前に、トゥスカードギルドに少し寄ってこようと思っています。」

「そうではなく、明日行かれては…もう夜も更けていますし。」

「あまり遅くはなりませんので、ご心配なく。すぐに戻ってきます。」

「そうおっしゃるのであれば…」

「では、私がトゥスカード商人ギルドまでご案内を…」

「ダメ。」


ヘメラさんがついてこようとすると、ロキシーさんがすぐに止める。


「優司様が知り合いの方々に会いに行かれるのに、あなたがついて行ってどうするの?」

「それは、夜道も暗いですし、何より、屋敷へ帰る道を忘れてしまったりしたら…」

「それは、あまり心配しなくても大丈夫ですよ。私の記憶力は、それほど悪くありませんから。」

「でも!…」

「ダメなものはダメ。山賊に襲われて死にかけたのが、まだ半日も経っていないのに、もしまた外に出て危険な目にでも遭ったら、どうするの?」

「それなら、優司様が助けてくださるでしょう!」

「むしろ、優司様まで危険になるわ。だから、今日は家にいなさい。」


その言葉に、ヘメラは母親を説得してほしいと懇願するような眼差しでモートラックさんを見つめたが、モートラックさんはロキシーさんをちらりと見ては、見なかったふりをして顔をそむけた。


「ちぇっ、分かりましたわよ。今日はついて行かなければいいんでしょう。」


結局、味方はいないと悟ったヘメラは、拗ねた顔で顔をそむけた。


「どうせ、明日、町を案内してくれると約束したのでしょう?その時に行けばいいじゃない。」

「はい。分かりましたわよ。では、私、先に失礼します。」


そう言って席を立ったヘメラが食堂の外へ出て行き、モートラックさんとロキシーさんは深いため息をついた。


「どうして、あんなにおてんばになってしまったのか…」

「全部、あなたに似たからですわ。あなたも、子供の頃はああだったじゃないですか。」

「何だと?」


モートラックさんの言葉に、ロキシーさんが目に毒気を込めて睨みつけた。

その瞬間、ぶるりと体を震わせたモートラックさんが空咳をし、気まずそうに笑うと、席を立って俺に近づいてきた。


「さあ、では参りましょうか?私が入り口までお送りします。」

「あ、はい…」


そうして、うっかり席を立った俺は、モートラックさんと共に屋敷の外へと歩いて行った。


***

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