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第72話

第72話


反応は、当然のことながら。


「…!」


瞬間的に、王女が目を見開く。

それもそのはず、このラーメンはかなり辛い部類に入る。

俺は食べ慣れているから大したことはないが、初めて食べる人にとっては、水なしで食べるのは難しいラーメンだ。


「こ…これは…本当に食べ物なの…」


真っ赤になった舌を出し、手で扇いでいるが、ただそれだけ。

辛い味は、そんなことで消えるものではない。


俺は冷蔵庫から牛の絵が描かれた紙パックを取り出し、蓋を開けてコップに注いで彼女に渡した。


「これをどうぞ。」


真っ白な液体。

辛さを中和するには、牛乳に勝るものはない。


王女は疑うような目で俺を見ていたが、やがて舌に針で刺すような痛みが続くのを耐えきれなくなったのか、牛乳を勢いよく飲み干した。


「あら…?」


牛乳を飲んだ彼女は、瞬間的に目を開いて牛乳を見つめ、もう一度飲んでみる。

何か特筆すべき点でもあったのだろうか。


「これは…何だ?」

「牛乳です。」

「牛乳…?牛の乳ということか?」

「はい…」


何かにひどく驚いた様子だ。

牛の乳ということを知っているということは、この世界にも同じように牛乳があるということだろうに、なぜこんなに驚くのだろうか。


「どうなさいましたか、王女様?」

「いや、その…私が飲んでいた牛乳とは、味も香りも少し違うな。何というか…さっぱりしているというか。独特の匂いのようなものがない…」


「(ああ、何が原因か分かった気がするな)」


おそらく、生乳と市販の牛乳との違いに驚いているのだろう。

原乳と市販の牛乳とでは、味や質感、香りが少し違う。

味で言えば原乳の方が少し濃厚な味が感じられるが、濾過されていない脂肪分と牛の乳特有の香りがある。そのため、市販の牛乳を飲んでいた人が原乳を飲むと、少し驚くこともあると聞いたことがある。

今ここでは、俺が聞いていた状況と正反対の状況が起こっているのだ。

原乳を飲んでいた人が、加工された牛乳を飲んで驚いた、と。


改めて、この世界が全く別の世界であることを実感させられる。


「私も一度、飲んでみてもいいかな?」

「ええ、もちろん。」


ジェルノータの領主も牛乳を欲しがり、オーロラを含む他の親衛隊たちも一度飲んでみたいという顔つきだ。

コップをさらに取り出し、彼らに一杯ずつ注いでいくと、俺のコップには半分も残らなかった。


「本当だ…」

「何だか味が違うな。」

「今まで飲んでいたものより、喉越しが滑らかです。」


牛乳一つで珍しそうに話している人々。

彼らを眺めながら、俺もゆっくりとラーメンを口に入れた。


***


食事を終え、シンクに食器を入れた後、彼らの前にお菓子の皿と麦茶を置いた。


俺が出した食べ物に対してかなり信頼が築かれたのか、今では親衛隊たちでさえ疑うことなくお菓子を手に取って食べている。


「異界人…いや、優司と言ったな?」

「はい、王女様。」


ただ呼んだだけ。

俺を見つめる彼女の眼差しがかなり鋭いため、思わず視線をそらし、緊張してしまう。

しばらくして、王女が席から立ち上がり、俺を見つめた。

俺が緊張した表情で見つめていると、王女は俺の予想とは違う行動を取った。


「挨拶が遅れたな。私はカルパエダ・プロクシン・デ・ネルガンタ。このネルガンティア王国の第二王女だ。」


右手を胸に当て、頭を下げる王女の姿にひどく戸惑った俺も、席から立ち上がって頭を下げた。


「坂本優司と申します。」


何と答えていいか分からず、もう一度挨拶すると、カルパエダ王女は下げていた上体を再び起こし、ふっと笑った。


「知っている。先ほど言ったではないか。」

「あ、はい…」


互いに気まずく笑い、再び席に着いた。

王女の反応は他の人々も予想していなかったようだ。

ジェルノータの領主は少し戸惑った表情を浮かべたが、やがて何か意味ありげな笑みを浮かべ、隣にいた他の親衛隊たちも驚いた目で王女を見つめていた。


「私がここになぜ来たかは、ジェルノータの領主から聞いているだろう?」

「くっ…」


その言葉に、ジェルノータの領主が何かを察したように身を縮こませる。


「あ…ご存知でいらっしゃいましたか、王女様…」

「当然だ。私が来ると聞いて、自ら手ずから食事まで用意してくれたのだからな。」

「はは…」


ジェルノータの領主は深いため息をつき、喉が渇くのか麦茶を一口飲んだ。


「王女様が本日お越しになるという話は、ジェルノータの領主様の伝令を通して伺いましたが、なぜお越しになるかについては聞いておりません。」


「そこまで伝える時間はなかったようだな。ジェルノータの領主。」


ジェルノータの領主は当惑し、顔をそむけたまま空咳をした。


「まあ、構わん。どうせ元からここで話すつもりだったからな。」


そう言うと、鋭い目で俺を見つめながら言った。


「私がここに来た理由は、お前を…ネルガンティアの騎士として推挙するためだ。」


その言葉に、ジェルノータの領主が驚いて彼女を見つめた。

驚いたのはジェルノータの領主だけではなかった。

隣にいた親衛隊たちも目を見開き、驚きながら彼女を見つめていた。


「お…王女様…少々お待ちください…!騎士ですと…それは国王陛下が…」

「父上には私が申し上げる。それに、父上も異界人を他の国に奪われたくはないだろう。むしろ、連れてきた我らを称賛されるはずだ。特に、そなたたちには領地をくださるかもしれんな。」

「りょ…領地を…?」


彼らはごくりと唾を飲んだ。


騎士の爵位。

俺の知る限りでは、貴族を守る護衛武士、あるいは戦場で他の兵士を率いる存在だと認識している。

騎士、坂本優司。

実に良い響きだ。

良い響きではあるのだが…


「並の平民は夢にも見られない地位だ。Bランク、Aランクの冒険者たちでさえ、完璧に実力を証明しない限り、得るのが難しい地位でもある。だが、私が国王陛下に申し上げれば、国王陛下は他の貴族たちの反対を押し切ってでも…」

「申し訳ありませんが、そのご提案は、お気持ちだけ頂戴します。」


その言葉が終わるや否や、俺の背中に冷たい感覚が突き刺さる。


「断る…というのか?」


瞬間的に頭に浮かんだ。

ここでまともな理由を言わなければ、次にやってくるのは暴力だということ。

俺には理由がある。

今まで滞在していたこの小屋から離れ、キャンピングカーでこの世界を旅するという理由が。

だが、目の前にいる王女は、果たしてこの理由をまともな理由だと考えてくれるだろうか?


「はい。」

「理由は?」

「この世界に来て、一年ほど経ちました。その間に、かなり色々なことが重なって起こりまして。それで…旅に出て、少し心を落ち着かせようと思っています。」

「出来事?一体、どんな出来事があった?」

「王女様も噂は聞かれているでしょう。モルモス国家商業ギルドの現状を。」


ジェルノータの領主の言葉に、王女が驚いた目で彼を見つめる。


「知っている。マルノフ商人ギルドとフクラ商人ギルドが手を組んで、モルモス国家商業ギルドを潰したということは…」

「ええ、そしてその黒幕こそが、ここにいる坂本優司なのです。」


俺は驚いた目でジェルノータの領主を見つめた。

どうして知っているのだろうか。

俺はギリアムとマルノフの双子ギルドマスター以外には話していないのに。


「それは、真か?」


カルパエダ王女が俺に真偽を問うように見つめる。

これを正直に話すのが良いか、それとも、どうにかしてごまかすのが良いか。

今の状況を切り抜けるためには、ごまかす方が賢明な判断だろう。

だが、王女に嘘をついて、もしバレたら…


おそらく、俺が勤めていた会社の社長の前で嘘がバレて怒鳴られるよりも、もっとひどい目に遭うだろう。


「…はい、その通りです…」


結局、仕方なくため息をつきながら事実を認めた。

王家の後ろ盾があるモルモス国家商業ギルドを潰した張本人が俺だと知ったら、果たして何と言うだろうか。

少し緊張した表情で王女を見つめると、王女は驚いた目で俺を見ていたが、やがて。


「ふふっ…ふふふ…はははは!」


腹を抱えて笑い出す。


「あの気に食わない奴め、いい気味だわ。あいつも資金源がなくなって、今頃焦っているだろうな。ああ、愉快だ。ははは!」


今回も俺の予想とは違う反応をされ、何だか戸惑ってしまう。


「あの…王女様は、お怒りではないのですか…?」

「私が?なぜ怒る必要がある?」

「それは…モルモス国家商業ギルドは王家が後ろ盾だと…」

「あ~、それか?」


王女はお菓子の皿からクッキーを一つ取り、口に入れてもぐもぐしながら話を続けた。


「王家が後ろ盾なのは確かだが、私の後ろ盾ではないからな。王族の中に、かなり気に食わない奴がいるのだが、そいつのものだ。」


かなり邪悪な笑みを浮かべている。

同じ王族なのに、あんな笑みを浮かべるとは。

その人物を、よほど嫌っているようだ。


「それなら、なおさら連れて行きたくなった。騎士…いや、やっていることを見れば摂政がふさわしいな。私の領地の摂政を任せたい。」

「申し訳ありませんが、先ほども申し上げた通り…」

「お前に、私の言葉を拒む資格はない。」


「(やはり…)」


国によって違いはあるだろうが、王女の地位は、おおよそ国の中で指折りの高さだ。

そんな人の命令を断れる資格を持つ人間は、そう多くはないだろう。

だが、俺には抜け道がかなり多い。


キャンピングカーで突破してもいいし、閃光弾や煙幕弾で視界をくらませて逃げることもできる。もちろん、小銃や拳銃といった武器を手に取ることもできるが、王女に武器を向けるのは、その国に敵対するということに等しい。

何事もなく静かに旅をしたい俺にとっては、最後の切り札のような行動だ。


「そうおっしゃられても、私は行きません。もし私を無理に連れて行かれたとしても、王女様のために働く気はありません。」

「それなら、仕方なく牢獄に送るしかないだろうな。」

「抜け出せないとでもお思いですか?」


王女の表情が少し固まる。

今にも剣を抜きそうな様子で見つめていたが、やがて席からすっくと立ち上がった。


「私を脅迫するつもりか?」

「脅迫だなんて。ただ、平穏に旅をしたいという私の願いを、聞いていただきたいと申し上げているだけです。」


前の会社での社長や副社長との会話。

そして、協力会社との会議。

だんだん、あの頃の口調に戻り始めている。

相手の攻撃から逃れるために取る、防御的な行動。

だが、その防御的な行動は、相手にそれ以上の攻撃をさせなくさせる。

まるで、棘の生えた鎧を着てうずくまっているかのように。


恐ろしい目で俺を見下ろしていたが、やがてふっと笑い、しばらくして。


「ふふ…ははは!」


笑い出した。


「純朴な羊だと思っていたが…羊の皮を被った狼だったか。」


そう言うと、お菓子を一掴み、口に入れる。

バリバリという音と共に、燃えるような眼差しで、俺を食い入るように見つめる。


「良いだろう。お前がそこまで旅をしたいと言うなら、これ以上は言うまい。だが、一つだけ約束しろ。」

「約束…ですか?」

「そうだ。旅が終わり、再び戻ってきたら…」

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