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第69話

第69話


「どうするか…」


カルパエダ王女が顎を撫でる。

以前一度、彼女は歴史書で異界人に関する内容を見たことがあった。


この世界には、実際に異界人を召喚する魔法式は存在しなかった。

その本には、異界人がどこから現れるのかについて研究した内容があった。


今まで現れた異界人たちの共通点は、その者が死んだ瞬間、この世界へ渡ってきたということ。

原因は様々だった。

トラックというものに轢かれて死んだ場合もあれば、誰かに殺害されて死んだ場合も、病死によって死んだ場合もあった。

どんな形であれ、彼らが元の世界で死んだ後、この世界へ来ることになったのだ。

この世界へ来た時、神に会ったと話した者もいると書かれていた。

代表的な人物が、まさにネルガンティアを建国した、ネルガンタ王国の祖先である「メルペオセ・デ・ネルガンタ」。ネルガンタ王族の祖先だった。


彼らが皆、同じ世界から渡ってきたという研究はなかったが、もう一つの共通点があった。

まさに、彼らが渡ってくる時、特別な能力を授かるということ。

メルペオセ・デ・ネルガンタは、切られても貫かれてもびくともしない頑丈な身体と、何でも燃やせる紫色の炎を、まるで伝説の中のモンスター、ドラゴンのように口から紫色の炎を吐き出す者だったという。

また別の異界人は、建物一つを丸ごと持ち上げたり、巨大なオーガの硬い頭蓋骨さえ拳一発で砕ける怪力を、他の異界人はこの世界には存在しない「気」というものを操り、魔法がなくても空を飛んだり、気を手に纏って破壊力を高めるなど、それぞれ固有の能力を備えているとあった。


彼がもし異界人なら、彼もまた歴史の一片に残るほどの、すさまじい能力を備えているはず。


「ひとまずは、会ってみないと分かりませんね。その者が私の気に入れば、私の手足として迎え入れて出世させてやることもできるでしょうが、もし私の気に入らなければ…」


彼女の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。


「再び、別の世界へ送ってやるしかありませんね。」


ジェルノータの領主は、彼女が言った言葉の意味を悟り、わずかに驚いて目を見開いた。


「どんなことをしでかすか、予想して私に知らせたのではないのですか?ジェルノータの領主様。」


彼の反応がひどく面白いように、カルパエダ王女は片方の口角を上げた。


「それが…」


知ってはいた。

王家の子供たちが皆、あのような性格だということを。

ネルガンティアの歴史書には、建国時の初代国王について詳細に書かれていた。

もちろん、ほとんどが現実味のないものばかりではあったが、初代国王が異界人だと知られているので、歴史書に書かれた業績が事実である可能性はあるものの、実際に見たことのない彼にとっては、ほとんどが信じられない「興味本位の童話」の中でしか出てこないような話だった。

しかし、過去に一度、他の国家の歴史書を見る機会があった。

その中に初代国王の性格について書かれていたが、他のことはともかく、その性格だけはネルガンティアと他の国家の歴史書が同一だった。


その内容とは、初代国王の性格が非常に好戦的だったということだ。

その好戦的な血は代々受け継がれ、先代の国王だけでなく、今の王子と王女にまで受け継がれてきた。


ジェルノータの領主も、こんなことが起こるだろうとは予想していた。

しかし、王子は好戦的でありながら考えが読めない人物で、かなり残忍な性格だという話は、貴族たちの間でも不穏に囁かれていた。

少なくとも王女は、気に入らない者であっても殺すことはない人物だろうと思っていたからこそ、彼女に話したのだ。

しかし、その考えはかなり大きな間違いだったようだ。


「ジェルノータの領主様。何か大きな勘違いをされているようですが…」


カルパエダ王女がジェルノータの心を読んだかのように、目尻をわずかに曇らせて見つめた。


「異界人は、この世界に大きな災いを引き起こすかもしれない存在です。その存在がこのネルガンティアにいて、何か事故でも起こせば、ネルガンティアは滅亡するかもしれません。問題を起こさずとも、ネルガンティアに忠誠を誓わず、他の国家へ渡ってその国家に忠誠を誓いでもすれば、ネルガンティアに大きな脅威となるはず。」


彼女は飲み干したティーカップを、カチリと音を立てて置いた。


「まともに扱えない武器は、破壊するのが正しい選択です。」


ジェルノータの領主には「考え」を尋ねなかった。

ひたすら自分の考えが正しいとする、あの傲慢さ。

いくら説得しても、あの考えは変わらないだろう。


「(すまないことをしてしまったな。)」


ジェルノータの領主は、深いため息をついた。


「お茶も飲み干したことですし…では、案内してくださいますか?」


今まで優司を見ながら、一つ思っていたことがあった。

彼はどこかに属するような人物ではないということ。

ジェルノータの内部に住むのではなく、外部の森に住んでいることを見ても、簡単に分かることだった。


カルパエダ王女がいくら良い条件を提示しても、彼は受けない可能性が高かった。

そうなれば、優司は必ず死ぬだろう。

死なずとも、ネルガンティアの中で王女に敵対心を抱いて生きていくことはできなかった。

生きて逃げたとしても、賞金がかけられてネルガンティア全国に広まるだろう。


ただ森の一角で商売をしていただけの人間を、王女に知らせて、自分のせいで誰かが苦しむことになる。

それが気に入らなかったジェルノータの領主は、唾をごくりと飲み込み、彼女に言った。


「ここまで来られるのにお疲れでしょうから、今日一日は旅の疲れを癒されるのがいかがでしょうか?明日の朝、私がその者を城へ呼び、ここで王女様に謁見するように話しておきます。」


顔を見せていない今なら、優司を気づかれずに逃がすことができる。


「旅の疲れは、ひとまず会ってから癒しても遅くはないはず。構わずに、共に彼に会いに行きましょう。」


瞬間的に、ジェルノータの領主の表情が固まった。

その表情を見たカルパエダ王女は、表情から笑みを消して彼に尋ねた。


「まさか…ジェルノータの領主様は、私が心配なのではなく、その異界人が心配なのですか?」

「そ…そんなはずがございましょうか、王女様。分かりました。では、ここで少々お待ちください。私が支度を終えたら、またお声がけいたします。」

「では、お願いします、ジェルノータの領主様。」


微笑む彼女の顔を見て、ジェルノータの領主が頭を下げて挨拶しながら外へ出た。

そして、冷や汗を流しながらドアの周りを見た。

ドアを守っているのは、自分の兵士ではなく、王女が連れてきた親衛隊の女騎士たち。


彼女たちは、ジェルノータの領主が外へ出ると、軽く頭を下げて礼を示すだけで、再び応接室の入口を守った。


ジェルノータの領主は、何でもないという表情でゆっくりと彼女たちから離れながら、廊下を歩いた。

城の廊下、曲がり角まで行ったジェルノータの領主は、廊下を警戒する兵士一人を、手で呼んだ。


「お呼びでしょうか、領主様。」

「今すぐレベッカの元へ行って伝えろ。カルパエダ王女が、間もなく優司に会いに行くと。」


これだけ聞けば、ただの護衛兵に今後の日程を伝える領主の姿に過ぎない。

しかし、この話を聞いたレベッカは気づくだろう。

これが、ただ会いに行くだけではないということを。


***


日が暖かくなった。

森を凍らせていた雪が、少しずつ溶け落ちた。

濡れた地からは新しい生命が少しずつ芽を出し、今まであまり聞こえなかった鳥たちのさえずりが、小さくではあるが聞こえた。


ちょうど昼を告げるジェルノータの鐘の音が、俺の小屋まで聞こえてくる。


「昼食の時間か…」


今日の昼食は、簡単にラーメンで済ませるつもりだ。

今まではカップラーメンをよく食べていたが、やはり二日酔いには、辛い唐辛子をたっぷり刻み入れたラーメンが最高。

そのためには、カップラーメンより袋麺が正しい選択。


鍋に水を入れてIHコンロの上に置き、火をつけた。

IHコンロの熱線が、だんだんと赤く熱を帯びてきた。


プシュー。


チッ。


ちょうどコーヒーポットの水も沸いたので、インスタントコーヒーを入れた紙コップに湯を注ぎ、一口飲んだ。

日差しは少し暖かくなったが、まだ風が冷たいので、温かいコーヒーを飲むには、実に良い天気だった。


小屋の窓から入ってくる涼しい風に、温かいコーヒーからふわりと立ち上る湯気が舞い散った。

この世界に来て一年。

そして、かなり長い間、ここで趣味で農業をし、納品して金を稼ぎながら、かなり平和な時間を過ごしたと思っていたが、こうして座ってコーヒーを飲みながら窓の外の自然の風景を見ていると、今まで俺が考えていた平和なスローライフとは、かけ離れた生活を送ってきたようだ。

確かに、家を建て、イノシシを捕まえてバーベキューをした時までは、こんなことが起こるとは思いもしなかったのに。

まるで、その時が何年も前の遠い思い出のように感じられる。


ラーメンの湯が沸く音が聞こえ、立ち上がってインベントリからインスタントラーメンの袋を取り出した。

今回食べるのは「辛ラーメン」。

かなり辛いこのラーメンなら、昨日飲んだ酒も十分に醒めるはず。


「さて、煮てみるか~」


鼻歌を歌いながらラーメンの袋を開け、スープを入れた。

乱れた頭をすっきりさせてくれるスパイシーな香りと、全身を刺激するラーメン特有の人工調味料の香りが、家全体に広がる。


「匂いだけでも、二日酔いが醒めるようだな。」


箸でまだ固い麺をあちこちとほぐした。

すぐにほぐれる麺。

3分ほど経って、それを器に盛り、食卓へと持っていった。


そして、胃を落ち着かせるために口にラーメンを入れようとするが…


コン、コン、コン。


ドアを叩く音が聞こえ。


「ゆ…優司様…!優司様、中にいらっしゃいますか?!」


外から聞こえる、聞き慣れた声。

ドアを開けてみると、外にレベッカが息を切らしている。


「レベッカさん…?」

「ゆ…優司様…今すぐ、お逃げ…お逃げください…!」

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