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第67話

第67話


「本当に、あの男の言う通りになるとはな…」


ギリアムが足を組んで座り、遠くに見える風景を眺めた。

貴族の区域。

その中にあるモルモスの商店の入口は、数多くの人々でごった返していた。

その理由は、良い品物が出たからとか、貴重な宝石がモルモスの商店に入荷したからといった、良い理由ではなかった。


「やはり貴族どもだな。自分たちが直接来るのではなく、下僕たちを遣わすとは。」


入口に立っている人々は皆、良い服を着ていたが、執事用のタキシードや、フリルのついたメイド服を着た人々ばかりだった。

もちろん、その中には冒険者のように見える者も何人かいたが、彼らはごく少数。

モルモスの商店の主な顧客は貴族たちだったので、ほとんどは貴族の侍従だった。


「どうして、あんなことを考えつくんだか…」


エテラがティーカップを持ちながら、小さくつぶやいた。

今、この状況は、一人の男の頭の中にあった作戦通りに進んだ結果だった。


いくら頭の良い商人だとしても、大抵は金があれば人を雇って相手の商店や営業所を妨害しようとは考えるが、こんなやり方で金を使おうとは考えなかった。


さらに、投資したマルノフ商人ギルドは、ほとんどの投資金を再び回収することができた。

まさに、彼らがこの事態を引き起こした張本人だったため、モルモスの商店の換金が止まる前に、全てのモルモス紙幣をブロンに替えることができた。


「モルモスの奴らが完全に死ななかったのは残念だが…それでも、ここにいるモルモスの奴らだけでもくたばってくれて幸いだな。」

「いいえ。モルモス国家商業ギルドは、完全に終わりましたよ。」

「何?」


ギリアムが理解できないという表情でエテラを見つめた。


「どういうことだ?」

「噂が、かなり早く広まったようです。」

「噂が…早く広まる?」

「はい。ジェルノータのモルモスの商店で、モルモス紙幣の換金ができなくなったという噂のことです。」


ギリアムが腕を組んだまま眉をひそめ、首をかしげた。


「それがどうした?どうせ、ここだけの問題で、他の場所には被害はないだろう?」


その言葉に、エテラが呆れたように目を大きく見開いて彼を見つめた。


「あなた…本当に商人ギルドのギルドマスターですか?」

「見れば分かるだろう?」


ギリアムが自信に満ちた声で答えると、呆れたように虚しく笑い、深いため息をついた。


「商人ギルドの支店は、キノコのようなものです。キノコが菌糸で繋がっていて、一つのキノコに問題が生じれば影響を受けるように、いくら遠く離れた支店でも、一箇所に問題が生じれば他の場所にも問題が発生するんです。」

「つまり…!」


エテラが頷く。


「はい。今、ジェルノータの支店で換金が中断されたという知らせが他の地域まで広がり、他の地域でも人々が皆、換金してもらうために押し寄せているそうです。」

「では…モルモス国家商業ギルドは、終わりなのか?」

「そう言えるでしょう。金持ちの巨大な勢力が、モルモス紙幣を全て換金してくれない限りは…」


そう言って、エテラは肩をすくめた。


「まあ、どこかの巨大な勢力が、役立たずのモルモス紙幣をブロンで全て替えてくれるなら、モルモスが生き残ることはできるでしょうけど…どこの馬鹿なギルドが、今では役立たずの紙切れになったモルモス紙幣を、金を出して買うと思いますか?」


そう言って、お茶を一口飲んだ。


「は…はは…!あの王族の後ろ盾を持つギルドが、一度の攻撃でこうも崩れ落ちるとは…!」


全身に鳥肌が立ったギリアムが、勢いよく立ち上がった。


「どこへ行くつもりですか?」

「あの優司とかいう奴…必ずや、引き入れてやる。」

「ちょ…ちょっと待ってください。優司がどこにいるのか、知っているんですか?」

「優司?そりゃ、家にいるだろう。」

「家がどこにあるのか知ってて行くんですか…」


ギリアムは体をびくりとさせ、気まずそうに笑って尋ねる。


「教えてくれ!」


エテラはギリアムに向かって、手のひらを広げた。


「何だ?」

「金よ。」

「金?」

「こんな高~級な情報を、ただでくれるとでも?」

「お…俺たちはもう、同志じゃないのか?!」

「同志?ふん!誰が勝手に同志ですって?今は一時的に手を組んでいるだけで、ジェルノータの中では競争相手ですよ。そんな相手に、無料で情報を渡すと思いますか?」

「この性悪女…!」

「好きに言えばいいわ。金を払わない限り、教えないから。」


ギリアムは深いため息をついた。


「ああ、いくら欲しいんだ?」

「10万ブロン。」

「じゅ…10万…?!今、俺とふざけてるのか?!」

「ふざけてませんけど?」

「この…!」


怒った表情のギリアムの顔が赤くなり、やがて席にどさりと座り、足を組んで考えに耽った。

しばらくして、頷いた。


「いいだろう、10万ブロン払ってやる。やればいいんだろう!?」

「では、私たちのギルドハウスに行きましょうか?」

「何のために?」

「そりゃ、契約書を書くためですよ、当然。」

「本当に、ここまでやるのか?!」

「嫌なら、いいですけど~」


そう言って、立ち上がって茶屋の外へ出た。

ギリアムは頭をガシガシと掻き、結局立ち上がって彼女の後を追った。


***


チャポン。


魚がわずかに口を出し、再び水の中へ入っていく音が耳に聞こえる。

湖を眺める椅子に座ったまま、片手にはビール、もう片方の手には裂きイカを手に持ち、口で噛みちぎりながらビールをちびちびと飲む。


「はぁ…」


何か、曖昧な感情が心の中にわだかまる。

すっきりしたとは言えないだろう。

かといって、もどかしいわけでもない。

ただ、何の感情も感じられない。

おそらく、これまでかなり感情労働があったせいで、感情がかなり鈍くなったのだろう。


これまで気にかけられなかった畑。

収穫時期を過ぎた白菜は、すでに枯れて地面にぐったりと垂れている。

この全てが、趣味で農業を一つ始めようとして起きたこと。

もう、農業なんて見たくもない。


残った裂きイカを全て口に放り込み、ビールをごくごくと飲み干した。

冷たいビールが、俺の胸の中のわだかまりを少し解きほぐしてくれるような気がする。


缶を潰し、インベントリに入れてからコンビ∞を開いて見てみた。

俺が開いた項目は、自動車。

その数多くの自動車の中でも、俺が注意深く見ているのは、まさにキャンピングカーだ。


「わあ…」


価格帯が半端じゃない。

一番安いもので20万ブロンほどし、高いものは100万ブロンも軽く超える。


一番高いものを買えないほどではないが、何も考えずに高い車をすぐに買ってしまうほど、浪費家ではない。


「うーん…」


良いキャンピングカーはどれだろうかと見ていた俺の目に、一つのキャンピングカーが入ってくる。

二人用のベッドと冷蔵庫、テレビとキッチン、各種の棚など、数多くのオプションがついているモーターホームキャンピングカー。

しかし、価格帯は82万ブロンだ。


「これなら、良さそうだな。」


何よりも気に入ったのは、ベッドの下に犬の家として使えそうな小さな空間があること。

実際に犬を寝かせる空間なのか、詳細ページの写真の中には、ベッドの下に犬用ベッドが置かれ、その上に犬が横になって眠っている写真が見える。


カチッ。


購入ボタンを押すや否や、俺の小屋の前にモーターホームキャンピングカーが一台現れる。

運転席へ歩いて行くと、キャンピングカーの鍵が刺さっている。

それを抜いて運転席の外へ出て、キャンピングカーのホーム部分へ歩いて行き、鍵を入れてロックを解き、ドアを開けてみた。


一番最初に見えたのは冷蔵庫、そして少し中に入るとIHコンロと共に上下に棚がある。

中に入れば、トイレとシャワーだけを簡単にできる浴室まであり、洗濯機はないが、洗濯機を置くスペースも十分に確保されている。

さらに、詳細ページの写真で見た、下部が開いたベッドが目に入る。

そして、ベッドの前にはテレビが壁についている。

ベッドの上にあったリモコンを手に取り、テレビをつけてみると。


[CBS]


放送局ではなく、OTTサービスのように見える画面が現れる。

その画面には、元の世界にあった映画やドラマのようなものが全て入っている。


「これ…本当に、見れるのか…?」


この世界の創作物でもなく、元の世界の創作物だなんて。


「このくらいなら、家として使っても良さそうだな。」


小屋を建てて住むより、確かにモーターホームキャンピングカーで住む方が、はるかに居心地が良く、良さそうだ。

もちろん、飲料水や体を洗う水、トイレなど、直接片付けなければならないことはあるが、それさえ我慢すれば、小屋での生活より、むしろこのキャンピングカーでの生活の方が良いようだ。


もう少しキャンピングカーの内部を見物してから、俺は外に出た。


チュンチュンと鳴く鳥の声が響き渡る。

そして、暖かい太陽が俺の体を照らす。

着ていたダウンジャケットを脱いで、インベントリに入れた。


事を起こしている間に、冬が過ぎ、いつの間にか春が訪れたようだ。


「ちょうど、出発するのに良い天気だな。」


この世界に来てから、およそ一年。

もう、一箇所にだけ留まる生活は清算して、あちこち見て回ろう。

そして、もう一度楽しんでみよう。

冬の間、楽しめなかったスローライフの生活を。


「もちろん、その前に…」


ハンスさんとメガンさん、そしてしばらく一緒に暮らしたレベッカさんにも、挨拶はして行かなければならないだろう。


「そういえば、レベッカさん…しばらく家に帰ってきてないような気がするけど…」


何か忙しいことでもあるのだろうか?

危険なことでなければいいのだが。

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