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第64話

第64話


城の上の旗がはためく。

川の周りを囲む都市、果てが見えないような城壁とその外に人々が住む都市。


ネルガンティアの首都、ネルガンタに、大きなファンファーレの音と共に馬に乗った女性が兵士たちを率いて入城する。

彼女の顔に浮かんだ明るい笑みを見て、人々は手を振り、彼女は一人一人に手を振り返しながら、自分を歓迎してくれる人々に挨拶をした。


「聞きました?今回のビッグウッドの話。」

「もちろんです!ビッグウッドを討伐されたのが、まさにカルパエダ王女様だと…!」

「さすがは王女様。幼い頃から素手でオークを倒したそうですから…」

「本当ですよね。このままではモンスターが絶滅してしまうのでは?」

「絶滅したら困りますよ!私たちが何を食べて生きろと。」


カルパエダ王女を見ながら、ほほ笑みながら雑談を交わす民衆たち。

王女は城門を通り、兵士たちと共に巨大な城の中へと入っていく。


コツ、コツという音が城の内部に響き渡る。

兜を腰に下げ、胸を張った彼女が堂々と向かった先は謁見室。

巨大な両開きの扉が開き、目の前に広い空間が広がる。


足元に敷かれた、草が伸びていく蔓のような金刺繍が施されたレッドカーペット。

その先には高い階段のある壇上と、その壇上の二つの王座には、肩に肩章とマントを羽織り、頭に王冠を戴いた中年の男性が、背筋を伸ばしたまま彼女が来るのを見下ろしていた。

そして彼の隣、彼が頭に戴く王冠よりも宝石の種類が多い美しいサークレットを頭に乗せた、金髪の中年女性が、口元に笑みを浮かべたまま堂々と歩いてくる彼女を見て、ほほ笑んだ。


「国王陛下、王妃陛下、カルパエダ・プロクシン・デ・ネルガンタ、ビッグウッドを討伐し、ただいま帰還いたしました。」


彼女が片膝をついて頭を下げ、礼法に則って挨拶をすると、国王が満足そうな笑みを浮かべた。


「よく来たな。怪我はないか?」

「はい。それほど手強い相手ではありませんでしたので、すぐに討伐できました。」

「それは良かった。」


国王が安堵して言うと、隣にいた王妃が深く息を吐きながら安堵した。


「どれほど心配したことか。私たちにとって、まともな子と言えるのは、そなたとカルポンだけなのだから…」

「私は決して負けません。ご心配には及びません。」


王妃の言葉に、彼女は笑みを浮かべたまま顔を上げる。


「ああ、信じているとも。」

「詳しい話は明日聞こう。今日は帰還したばかりで疲れているだろうから、下がって休むがよい。」

「はっ、ありがとうございます!」


そう言って、カルパエダは立ち上がって頭を下げ、応接室の外へ出て行った。


長い廊下に彼女の鉄の踵の音が響き渡り、ほどなくして彼女の前に一人の男性が現れ、彼女を見つめた。


「来たか、妹よ。」


その顔を見た瞬間、カルパエダの眉間が微かに動いた。


「はい、カルポン兄上。ご壮健でしたか?」


彼女と同じ真っ赤な髪色が光に照らされて輝く、美青年と言える小さな目の男性。

肩に肩章をつけた乗馬服に似た礼服を着た男性は、彼女を見ながら微笑む。


「ビッグウッドをそなたが倒したそうだな?」

「はい。」

「王家の名声を輝かせてくれて、感謝する。」

「もったいないお言葉です…」


カルパエダは頭を下げて挨拶した。


「では、私はこれで失礼します。」


言葉を終えて歩き、カルフォンの横を通り過ぎる瞬間、彼の口元にかすかな笑みが浮かぶのを見たカルパエダは、首だけを巡らせて歩み去るカルフォンを見つめた。


「ちっ…」


本当に気に食わない男だった。

あの小さな目も、すっと通った鼻筋も、口元に浮かんだあの陰険な笑みも。


確かに、幼い頃はそうではなかった。

むしろ、彼の笑顔を真似ようと鏡まで見て笑う練習をした。

しかし、いつからか彼の顔を見たくなくなった。

見るだけで吐き気がこみ上げ、唾でも吐きかけてこすりつけてやりたかった。


「くそっ…」


頭の中に一つの出来事が浮かび、彼女は歯を食いしばった。


自分が憧れていたカルフォンを嫌悪するようになったきっかけの出来事。

彼女は廊下に唾を吐き捨てると、自室へと歩いて行った。


二ヶ月ほど経っただろうか。

兵を率いてビッグウッドを討伐したのは。

冒険者ギルドからも多くの冒険者が助けに来てくれたが、やはり大した助けにはならなかった。

せめてAランクの冒険者が多ければ、もっと簡単に討伐できたはずだが、なぜかAランクの冒険者の数がかなり少なかった。

各都市や村の冒険者ギルドのマスターを集めて尋ねても、返ってくる答えは忙しいというだけ。

ビッグウッドを討伐するより忙しい仕事が、一体何があるというのか。


その時は、込み上げる怒りを抑えた。


「冒険者ギルドの奴ら…少し管理が必要ね…」


このままでは、冒険者ギルドが言うことを聞かない状況が来るかもしれない。

Sランク冒険者は皆、人間の限界を超えたと言われる者たちであり、Aランク冒険者たちも同様に、村一つくらいは簡単に壊滅させられる人間たちだった。

そんな人間たちが集まる場所で、もし反旗でも翻されたら、国家としてはかなり頭が痛いことになる。


もちろん、騎士の中にも冒険者のSランクに近い者も確かに存在し、Aランク冒険者レベルの騎士もかなり多い。

しかし、冒険者ギルドは世界の至る所に根付いていた。

ようやく小国を脱して大国へと向かっているネルガンティアにとっては、かなり面倒で危険なことだった。


カチャリ。


今まで脱がずに汗でいっぱいだった鎧が外され、涼しい風が彼女の薄い布の服と剥き出しの肌を撫でていった。

涼しい感触に微笑んだカルパエダは、続いて着ていた布の服まで脱ぎ捨てた。

彼女の膨らんだ胸が露わになり、近くにいた侍女がタンスから柔らかい絹の服を取り出し、彼女の体にかけた。


「クレアを呼んでこい。」

「はい、カルパエダ様。」


侍女が頭を下げてドアを開け、外へ出た。

バルコニーから涼しい冬の風が中に入ってきて、彼女はテーブルに座り、ティーカップに温かいお茶を注いで飲んだ。


そうして一息つき、旅のストレスを解消していると、誰かがドアをノックした。


「入れ、クレア。」

「カルパエダ様。ジェルノータの兵士、レベッカ・デ・クレッシェンドでございます。入ってもよろしいでしょうか?」


呼んだのは彼女の騎士であるクレアだったはず。

しかし、ドアをノックしたのはクレアではなく、ジェルノータの兵士。


カルパエダは眉をひそめ、ティーカップを置いた。


「入れ。」


ドアが開き、一人の兵士が中に入ってきて膝をついた。

そして、かぶっていた兜を横に置き、顔を見せた。

一度髪を短く切ったことがあるのか、長い髪ではなく首までしか届かない短い髪に、美人ではあるが、かなりたくましい顔が現れた。


「ジェルノータの兵士であり、クレッシェンド家の令嬢、レベッカ・デ・クレッシェンド、ネルガンティアの王女であるカルパエダ様にお目にかかります。」

「クレッシェンド家…?」


理解できない言葉に、彼女は表情をわずかに曇らせた。

クレッシェンド家はネルガンティアでもかなり有名な家門の一つだった。

子爵の爵位を受けてはいるが、伯爵家の令嬢と結婚した男性がいるため、伯爵家の庇護まで受けており、他の貴族は簡単には手を出せない家門の一つなのに、そんな家門の令嬢が騎士ではなく兵士をしている。


「ジェルノータから、私に何の用で来た?」

「ジェルノータの領主様が、手紙をお渡しするようにと。」


レベッカが立ち上がり、鎧の内側から手紙を取り出して彼女に近づき、差し出した。

手紙を受け取った彼女は、封蝋された手紙を見て舌打ちをした。


「確かに、ジェルノータ家の印章で間違いないようだな。」


再び距離をとり、片膝をついて頭を下げたレベッカは、何も言わずに静かにしていた。


カルパエダは蝋燭で軽く熱したペーパーナイフで丁寧に封を開け、手紙を取り出した。

彼女の瞳が手紙の文字を追ってゆっくりと動き、しばらくして、彼女の顔にわずかな興味が浮かんだ。


「ふぅん~…」


壁にあった燃え盛る暖炉に向かって手紙を丸めて投げ入れた。

暖炉に入った手紙は、すぐに燃え上がって灰になり、暖炉の下へと落ちた。


「レベッカと言ったか?」

「はい、王女様。」

「その者が異界人いかいじんというのは、確かなのか?」

「私の二つの目で、直接確認いたしました。」

「そうか?では、少し話を聞かせてもらおうか…」


レベッカが目を閉じたまま、ゆっくりと話し始めた。


そうして、どれほどの時間が経っただろうか。

話を全て聞いたカルパエダの表情に、明るい笑みが浮かんだ。


「そういうことか。」

「はい。」


そして、立ち上がってバルコニーへ歩いて行った。

冷たい風が彼女の着ている布の服を突き抜け、彼女の体を包み込んで消えた。


「異界人については、国王陛下に報告を上げたのか?」

「しておりません。」

「では、カルフォンには?」

「カルフォン王子様にもしておりません。」


カルパエダは満足げに微笑んだ。


「良いだろう、レベッカ。今すぐジェルノータへ戻れ。そして、ジェルノータの領主に伝えよ。」


彼女の口角が、にやりと上がった。


「このカルパエダが、贈り物を携えてジェルノータへ向かうと。」

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