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第63話

第63話


もう一発。

さらにもう一発。


引き金を引くたび、頭と体に穴が開くが、瞬く間に再び塞がっていく。


「そんなものじゃ、死なないって言ってるじゃない~」


奴は、まるでくすぐったいとでも言うように、からからと笑う。

今まで、この銃が通用しないモンスターはいなかった。

いや、そもそも通用しない生命体は存在しない。

それもそのはず、獣も、人も、頭を撃ち抜かれれば必ず死ぬのだから。


「撃ち尽くした?じゃあ、今度は私の番ね。」


そう言うと、俺に向かって手を伸ばす。

そして、理解不能な言葉を呟く。


「【ヘルフレイム】」


真っ赤な目から、わずかに光が流れ出し、奴の足元に得体の知れない赤い魔法陣のようなものが現れる。

そして彼女の手に紫色の炎が現れると、そのまま俺に向かって飛んでくる。


ドガァァン!


大きな爆発が起こり、俺の周りを煙が覆う。

俺に向かって飛んできた炎。

ならば、間違いなく俺の体に痛みがあるはずなのに、痛みのようなものは感じられない。


時間が経ち、煙が晴れると、俺の目に見えたのは。


「…」

「はぁ…はぁ…」


盾を構えたターニャが、俺の前に立っている。

かろうじて形だけを保っていたのか、吹いてくる風に盾が粉となって消えていく。


カラン。


残されたのは、地に落ちた盾の金属部分だけ。


「優司、お…兄さん…」


そのままターニャが、その場に崩れ落ちる。


「ターニャ!」


後ろからカイルの声が聞こえ、俺の前に駆け寄ってきてターニャを揺さぶる。

いくら揺さぶっても、ターニャが動く気配はない。

死んだのか。

死んだ?

またしても?


「あ~あ、つまんない。一発で死んじゃうなんて、弱すぎるじゃない!」


そうだ、俺は弱い。

あまりにも弱すぎて、皆が俺を助けようとして死んでしまう。

そうだ。

それなら、いっそ死んでしまおう。

死んで、ハルに、ターニャに、詫びるんだ。

だが、その前に…


「お前だけは、必ず殺してから行く。」


コンビ∞を開き、武器の欄を開いた。

そして、目の前に見える武器を一つ購入した。


【条件を満足しました。VIP 2等級になられました。おめでとうございます!】

目の前にアラームが現れたが、喜びさえ感じられなかった。


ガチャッ。


俺の手に、短い銃器と赤色の円筒形の弾丸が現れ、俺は装填ハンドルを引いて、その中に弾丸を入れた。

一つ、二つ、三つ。


装填するたびに、俺の心がだんだんと落ち着いていく。

まるで、熱く熱せられた鉄塊に水をかけて冷やすかのように。

ゆっくりと、状況が把握され始める。


「それは何?さっきのより、ちょっと大きいみたいだけど…そんなに脅威には見えないわね?」


まるで撃ってみろとでも言うように、口元に笑みを浮かべたまま、俺を見つめる。

最後の弾丸を込め、ポンプハンドルを引いた。


ガチャッ。


軽快な音が聞こえ、ゆっくりと奴に向かって照準を合わせる。

息を止め、片目を閉じる。


「ダメだって言ってるじゃない、それで…」


タン!


引き金を引く。

十数個、あるいは数十個かもしれない鉄の玉が噴射され、奴を襲う。


悲鳴さえ上げられなかった奴が、後ろに吹き飛ばされ、地面に倒れる。

周りにいた人々の視線が、全て俺に向かう。

何か言っているようだが、俺の耳に聞こえる耳鳴りのせいで、人々の声が聞こえない。

一歩、また一歩。

速いのか、遅いのかも分からない足取りで進み、奴に銃口を向けて、もう一度引き金を引こうとした時。


キャン、キャン!


ハルの吠える声が耳に入る。

ようやく、ハルの姿が、はっきりと見え始める。

以前持っていた、ゴワゴワして硬い毛は見えない。

可愛かった顔さえも、奇怪に変わり、原型を留めていない。

まさに、モンスター。


深呼吸をして、俺に向かって歯を剥き出しにしたハルに、ショットガンを向けた。


ガアッ!


口を開けたまま、俺の首に向かって飛びかかってくるハルに、引き金を引いた。


タン、タン、タン!


三発の銃声が響き渡る。

ショットガンを食らって、そのまま地面に倒れたハルに、もう一度銃口を向けて引き金を引いた。


タン!

一発。


タン!

二発。


タン!

三発…


ショットガンに装填しておいた弾を全て撃ち尽くしても、引き金を何度も引き続けた。

もう動かない。

かろうじて犬のように見えていた形も、もはや犬ではなく、肉塊となって地に散らばっていた。


「はぁ…はぁ…」


ガチャッ。


力が抜け、その場に座り込んだ。

ショットガンが落ち、装填しながら落ちた空の薬莢が転がっていく。


ようやく俺は、ハルを楽にしてやった。

もう、苦しまないように。

永遠に。


***


ジェルノータの城内は、大騒ぎになっていた。

魔族が現れた。

それも、入り口からではなく、内部からだ。


今まで、誰一人として魔族が入ってきたという報告はしていなかった。

つまり、人々の中に魔族がこっそりと潜入したということ。


「ということは、まだジェルノータの中にもっといる可能性があるということだろう…」


ジェルノータ領主が腕を組んだまま、考えに耽った。

魔族が最後に姿を現したのは、ベロカス公国のシャンタの丘でだった。

それも、ずっと昔のことで、それ以降、魔族は現れなかった。

もちろん、誰もが終わりだとは思っていなかった。


魔族の中には、人間と大差ない奴らもいるが、人間と似た姿をした魔族も間違いなく存在するため、まだ隠れている魔族がいるだろうと思っていた。

しかし、その魔族というのが、ジェルノータに潜り込んでいるとは。


「どうすればいい、デューラン。」


筋肉質の巨体、デューラン・デ・アウルアが席から立ち上がり、礼法に合わせて身をかがめて挨拶する。


「兵士たちに、ジェルノータの全ての場所を捜索させるのが良いかと存じます。」

「そうなれば、民が反発しないか?」

「そうだとしても、魔族をそのままにしておくことはできません。魔族の寿命はエルフ以上。魔王が勇者タッカーに殺されて300年。現在まで魔族が生きているとしたら…」

「魔王の再臨が起こる可能性もあるだろう…」


魔族は、歳月を重ねれば重ねるほど、自然にあるマナを内部に蓄積し、蓄積したマナを他の魔族に転移させることができる能力を持つ種族だった。

今まで魔族が一箇所に集まって生きていたとしたら、魔王が再び再臨してもおかしくない状況だった。


「お前にできるか?」


デューランが片膝をつき、頭を下げる。


「はい。お任せいただければ、ジェルノータの全ての家を捜索してでも、必ず見つけ出します。」

「では、今回のことはお前に任せよう、デューラン。」

「はっ!」


デューランが席から立ち上がる。


「ところで、今回の魔族は誰が倒したと言ったかな?」

「以前、ご覧になったことがあるので、ご存知かと。坂本優司という男です。」

「坂本優司…」


ジェルノータ領主が、片方の口角を上げる。


「今回も、褒美を与えねばならんな。」

「褒美と申しますと…?」

「まあ、以前もそうだったが、あの男は金や名誉には欲がないようだったな。だとしたら、残るは女だが…」


ジェルノータ領主が、デューランをじっと見つめ、顎を撫でた。


「お…領主様…?私を、なぜそのようにじっと見つめられるのですか…?」

「お前、娘がいただろう?そろそろ婚姻する頃合いではないか?」

「あ、それが…そうでございますが…」


デューランの表情が、だんだんと驚愕に染まっていく。


「ま…まさか…」

「本来なら、国王様に貴族の爵位を建議してやりたいところだが、平民を貴族の爵位に就けてくれと言えば、やはり他の家臣たちが反対しないか?」

「それは、そうでございますが…!」

「お前の娘と婚姻させれば、アウルア家が後ろ盾になるのだから、男爵の爵位を与えても、少なくとも不満は出ないだろうと思うが…どう思う、デューラン?」

「それは…」


デューランが冷や汗を流しながら、考えに耽る。

デューランも一度、会ったことがあった。

その時は、特に気に入らなかった。

度胸もなさそうだったし、何より、男らしい筋肉質の体を好むデューランにとって、ひょろひょろして見える坂本優司の体は、娘を守るにはあまりにも弱々しく見えた。


「お前も、高い爵位の貴族と婚姻させるよりは、能力の良い男と婚姻させることを、より望んでいたのではないか?」


デューランは、結局、頭を下げた。


「少し、考えるお時間をください。」

「ああ。考えてみろ。もちろん、あまり負担に思うな。お前が嫌だと言うなら、クレッシェンド家の娘と結婚させればいいのだから。」

「はっ…」


そう言って、デューランがドアを開けた。

その瞬間、廊下から兵士一人が全力で走ってきた。


「領主様!!!」


兵士は息を切らしながら、ドアの前にいるデューランに挨拶し、膝をついた。


「どうした。」

「そ…それが…」


膝をついた兵士から出た言葉を聞いた領主が、目を大きく見開いて驚き、席から立ち上がった。


「街で捕らえた、ま…魔族が…脱走しました…!」


***


風が、そよそよと吹いてくる。

完全な冬になり、木の葉が全て落ち、枝だけが残った木の下。

小さな墓が一つある。


その前には、炭火で焼いたワイルドボアの肉と共に、ビーフジャーキー、そして様々な犬用のおやつがある。

ハルが好きだったおもちゃと、ハルが敷いて寝ていた毛布も、きれいに畳んで置いてある。


ゴクリ。


コンビ∞で購入した酒を開け、墓にかけた。


「お前も、酒は好きか分からないがな。」


人に祭祀を執り行う時にかける酒を、犬の祭祀を執り行う時にもかけていいのかは分からないが、動物の葬儀手続きについてよく知らないので、ひとまずは酒を買ってかけた。


「すまないな、ハル。葬儀は、きちんと執り行ってやりたかったんだが…」


俺がショットガンで攻撃した後、ハルはもう動かなかった。

おそらく、皮膚が全て剥がれたからだろう。

そうでなければ、ハルを変異させた魔族が死んだからかもしれない。

どちらにせよ、ハルが安息を得たことに、俺は満足している。


地面にぽっこりと盛り上がったハルの墓に、体を預けた。

ふかふかだった毛は、もう感じられないし、ハルからだけ嗅げた匂いを、もう嗅ぐことはできない。

しかし、ハルがこの下にいるというだけで、心が安らぐのはなぜだろうか。


じっと目を閉じ、風を感じて、席から立ち上がった。


次の生では、ハルと、もう少し長く過ごせることを。


「おやすみ、ハル。」


そう願い、俺は背を向けて小屋へと歩いていった。

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