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第58話

第58話


どの世界でも同じだ。

金を持つ大企業は商圏の良い場所を占め、金のない中小企業は商圏の悪い場所に拠点を構える。


人々が集まるジェルノータの広場の中央市場。

最も多くの人々が集まる中央には、四つの商圏が占領している。

当然、その四つの商圏はジェルノータを代表する商人ギルドであるマルノフとフクラ、ジュセフとモルモスだ。


彼らが扱う品物は、互いに全く異なる。

マルノフの場合、ポーションや魔道具といった、魔法を使う人々のための品物を主に扱っている。


フクラの場合は戦士や盗賊のための装備を主に扱い、ジュセフの場合は実験用のフラスコやメス、あるいはスポイトといった、実験用の道具を主に売っている。


最後に、モルモス国家商業ギルド。

ここは、何が主なのか正確には分からない。

剣や短剣、斧などの武器や鎧のようなものを売っているかと思えば、ジュセフ商人ギルドで扱いそうな、錬金術師たちが使う道具も一緒に売っている。

それだけでなく、マルノフで売っているものと似たような魔道具まで。


売っていないものはないと言えるほど、多くの種類の品物を売っている。

それに、彼らが売る価格は、他のギルドで売る品物の半値近くの価格。


おかげで、他のギルドの店にはそれほど人が集まらないが、モルモス国家商業ギルドが占領した場所には、かなり多くの人々が品物を取引する姿が目に入る。


これは、企業にとってはかなり不愉快な状況だ。

元々安いものを高く売っていたのなら文句も言えないが、定価で売っているのに、他の誰かが半値で売っているのなら、さらに問題が発生する。

利益を得なければならない商人が、損をしながら品物を売ることはできない。

ましてや、その損が品物を作れば作るほど、仕入れれば仕入れるほど大きくなるようなことをする商人はいない。


結局、価格競争で淘汰される企業は、二つの選択肢に置かれる。

一つは、企業を解体するか。

もう一つは、半値競争をするその企業がいない場所へと、販売市場を移すか。


しかし、販売市場を移したところで、彼らはすぐに追ってきて、再び半値競争を始めるだろう。

同じ品物を扱う以上、逃げ場はないということだ。


それを知っているからこそ、マルノフ商人ギルドは俺の手を掴んだのだ。

逃げた先に楽園はないという言葉のように、逃げたところで何も変わらないだろうから。


アウルア家の屋敷へ向かう道で見たモルモスの商店。

その入り口に入ると、暖かい風が吹いてくる。

冬だというのに、この中にいる人々は厚着をしていない。


「いらっしゃいませ…!」


侍女の服を着た一人の女性が、俺に近づいてくる。


「お…お洋服をお預かりいたしま…あっ、舌噛んじゃった…」


かなり新人のように見える侍女が、口を覆って涙を浮かべる。


「申し訳ありません!私、今日が初めてなもので…!」


そして、ぺこりと頭を下げ、精一杯のぎこちない笑顔を浮かべて手を差し出す。


「お洋服をいただければ、私がお持ちして、お供いたします…!」


貴族たちの区域にある商店らしく、入ってきた客一人一人に、それぞれ侍女を一人ずつつけてくれるようだ。


「私につく必要はありません。」

「は…しかし、お客様にお仕えしないと、私が…!」


侍女が首にかけられた首輪に触れる。


「それは…」

「あっ、その…!」


俺もあのような物を元の世界で見たことがあるので知っている。

おそらく、奴隷の首輪ではないだろうか。


「分かりました。」


俺が厚いダウンジャケットを脱いで渡すと、彼女は明るく笑って受け取る。


「ありがとうございます!誠心誠意お仕えいたします!」

「先ほども申し上げた通り、その必要はありませんよ。私は少し見物しに来ただけですから。」

「印象に残るおもてなしが、お客様を再び呼び込むのです!見物されるだけであっても、必ずお客様に印象を残すようなおもてなしをいたします!」


ぎこちなく笑って、彼女を後ろにして店内を見回した。

明るい光に満ちた店内。

中にいる商人たちが売る品物は、宝石や絵画、装飾品など、貴族を対象とした高価な品物ばかりだ。


2階で売られている品物も同様。

しかし、1階とは違い、宝石や装飾品ではなく、剣と鎧だ。

黄金で作られた剣。

宝石で飾られた鎧。

高価な絹で作られたマントなど。


冒険者なら絶対に使うことのない品物に、貴族たちが多く集まっている。


「(こうやって金を稼いでいるのか…)」


いくら貴族だとしても、こんな物を買って回るなんて。

金の無駄遣いも、ここまでくると呆れるほどだ。


しかし、そんな品物の中の一つ。

俺の目を引く品物がある。


「懐中電灯ですよ、懐中電灯!」


懐中電灯だと叫ぶ男。

この世界に存在する懐中電灯といえば、俺がトゥスカードギルドに納品した懐中電灯だけ。


近づいて見てみると、俺が販売する懐中電灯と見た目が似たような懐中電灯を売っている。


「ランタンはもういらない!暗い夜にも!漆黒の洞窟でも!明るく照らす懐中電灯ですよ、懐中電灯!さあ、いらっしゃい、お客様~、懐中電灯一つ、いかがですかい?!」


商人が懐中電灯をあちこちと振りながら、俺に話しかける。

それを受け取って調べてみると、俺が売った懐中電灯とは違い、かなり粗雑な作りだ。

オンオフできるボタンが存在しないだけでなく、振るたびにカチャカチャと音がする。


「これは、どうやって使うんですか?」

「使い方は簡単です!こうして手に握った後、マナを流し込めば…!」


商人が手に握った懐中電灯が光り始める。

しかし、光はそこまで。

俺が販売した懐中電灯より、はるかに弱い。

電球の代わりに中に入っている石ころが原因のようだが、こんな懐中電灯も、果たして売れるのだろうか。


「これが懐中電灯っていうのか?」

「そうか?一つ買っていくか?」


周りに人々が集まっているところを見ると、かなり売れているようだ。


「(それにしても…もう模倣品が出るとは…)」


納品したのはトゥスカードギルド。

なのに、モルモスの商店で模倣品が売られている。


もし俺がトゥスカード商人ギルドに武器まで売っていたら、間違いなくその武器に対する模倣品も出ていただろう。

売らなかったのが、不幸中の幸いだろう。


「(もういい…)」


どのみち、取引は途絶えた。

これ以上の取引はしないだろう。

それに、今回のことを最後に、俺はもはや一つの場所に留まらないつもりだ。

旅に出る。

早くVIP等級を2に上げて、自動車を一台購入して回るつもりだ。


一つの場所にだけ留まるのではなく、この世界の旅。


「(不安ではあるけど…)」


俺には銃という武器もあるし、魔法も学んでみるつもりだ。


「お客様?」


俺がじっとしているので、おかしいと思った侍女が俺を見つめて首をかしげる。


「何でもありません。」

「あ、はい!」


懐中電灯を再び商人に渡し、俺は引き続き店を歩き回った。


***


「これからどうしよう…?」


三人が悩むような表情で、自分たちの前にいる一つの生命体を見つめた。


「ご…主…人…様…」


彼らは何とか逃げ出そうとする生命体を塞いだまま、ジェルノータの東門の前にある木の後ろに隠れて見つめていた。

今、この姿のまま入ろうとすれば、間違いなく入り口を守る警備兵に見つかるだろう。

だからといって、こっそり入ろうにも、中で何か問題でも発生したら大変だ。


だからといって、優司を呼び出すこともできない。この姿のまま見せたら、果たして優司は、この子をハルだと思うだろうか。

モンスターだと思って、むしろ恐怖に怯えて逃げ出さないだろうか。

そうなったら、大変なことになる。

せめて、この忌まわしい姿を剥がす方法を見つけなければならなかった。


「アニエス、何か方法はないの?」

「それを私に聞かれても…?!さっき見たでしょ!ヒールを使っても、体が変わらないのを!」


ヒールは身体を元の状態に戻す力があった。

しかし、ヒールを使ってもハルの体は元の状態に戻らなかった。

つまり、今、この姿が生まれ変わったハルの元の状態だということだ。


「どうするか、決まった?」


後ろから聞こえるルアナの声に、ターニャは深いため息をついた。


「いいえ…いくら考えても、思いつきません。」

「体を元に戻す方法でもあればいいのに、それもどこで探せばいいのか…」

「完全に方法がないわけじゃないわ。」


ルアナの言葉に、三人が目を丸くして見つめた。


「本当ですか?!」

「ええ。方法は二つ。一つ目の方法はね。」


ルアナがにやりと笑い、三人を見下ろした。


「エリクサーを、こいつに飲ませるのよ。」

「え…エリクサーですって?!」


エリクサー。

どんな病も、どんな身体も、完璧に元に戻すという伝説のポーション。

しかし、エリクサーはSランクの冒険者でさえ手に入れるのが難しい、伝説の中にしか存在しないのではないかと思うほど、希少なポーションだった。

そんなものを、Eランク冒険者の三人が手に入れられるはずがなかった。


「そんなもの、どこで手に入れるんですか?!」

「どこでって。ほら、いるじゃない。持ってる人が。」


ルアナが隣に近づいてきたモルガナを指差して言った。


「も…モルガナさんがエリクサーを?」

「ええ。そいつ、ああ見えてもSランク冒険者で、魔道具の店をやってるのよ。エリクサーも当然持ってるわ。」


ターニャがごくりと唾を飲み込むと、首を横に振った。


「持っていたとしても、私たちは買えません…あれが、どれだけ高いか…」

「三人とも、一生奴隷契約すれば使わせてくれるんじゃない?」

「奴隷契約ですか…?」

「誰が狂って奴隷契約なんてするかよ。」


アニエスとカイルが深いため息をつき、ターニャがルアナに尋ねた。


「二つあるとおっしゃいましたよね?じゃあ、残りの一つは何ですか?」

「残りの一つは…金はかからないけど、かなり厄介よ。大丈夫?」

「はい。ハルをまた元に戻せるなら、構いません!」

「そう、そう。冒険者なら、そのくらいの覚悟がないとね。」


ルアナはジェルノータへ歩きながら言った。


「ついてきなさい。案内してあげるから。」


三人が大きな布でハルを隠したままルアナについて行き、モルガナは目を細めて見つめると、肩をすくめて彼らの後を追った。

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