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第54話

第54話


「なんだと?!」


カイルが席を蹴るように立ち上がり、ルアナを睨みつけた。


「本当に冒険者なのか、だと?」

「だったら、あの場で俺たちがどうすればよかったって言うんだ?全身が溶けて肉塊みたいになったあいつを…俺たちがどうすべきだったって言うんだよ?!」

「遠くから見るんじゃなくて、直接確認すべきだったでしょう。もし生きていたら、どうにかして依頼主の元へ連れ帰るか、助からないようならその場で楽にしてやるか。でも、あんたたちはろくに確認もせずに死んだと判断した。それは冒-険者失格よ。」


拳を固く握りしめたカイルは、やがて力を抜き、うなだれた。


「ルアナさん。それは、ルアナさんがその場にいなかったから言えることです。」


アニエスの言葉に、ルアナが眉をひそめた。


「私がその場にいなかったから言えること、ですって?」

「はい。あの洞窟の中は、アントの幼虫の体液で満たされていました。奥にもっと幼虫がいるかもしれないのに、そんな場所にあんなランクの私たちに入れというのは、死にに行けということじゃないですか?」

「ええ、そうよ。」


その言葉に、アニエスが眉をひそめ、首をかしげた。


「そう…ですか?」

「そうよ。あんたたちが見捨てたせいで、依頼人とそのペットが危険に晒された。だとしたら、あんたたちは少なくとも、どうにかして依頼人が大切にしていたペットの生死を確認すべきだった。たとえ、そこで死ぬことになったとしてもね。」

「でも…本当に死ぬんですよ!あんな場所に入るなんて…」

「死が怖いなら、どうして冒険者なんてやってるの?」


アニエスが口をつぐんだ。


「冒険者とは、いつ、いかなる場所でも依頼主のために死を覚悟すべき存在よ。そうやって成長し、名声を広げていくものなの。なのに、あんたたちはどう?途中で依頼主を見捨てて、その依頼人が大切にしていたペットが死んだと言ったわけでしょう。命を失うのが怖くて、生死の確認すらろくにせずにね。」


ルアナが席を立つ。


「元々、大成する器じゃないでしょうけど、私はそんな奴らが冒険者を名乗るのを見るのは我慢ならないわ。」


ターニャが深くうなだれた。

すっかり気力を失った三人。

ルアナは深いため息をつき、手を振った。


「あんたたちが言っていたあのダンジョン、私が行ってそのペットが死んだか生きているか、確かめてくるつもりよ。もしあんたたちに良心があって、分別があるなら、ついて来てきちんと確認した上で、**優司**のところへ行ってちゃんと報告して謝りなさい。」


ルアナが冒険者ギルドのドアを開け、外へ出て行った。

三人の間にしばしの沈黙が流れ、やがてターニャが席を立つ。


「私は行く。」

「なに?死ぬ気か?」

「ルアナさんの言ったことは、一つも間違ってない。私たちは、ろくに確認もしないで、優司お兄さんに死んだって嘘をついた。」

「アニエスも言ったじゃないか。あんな酸性の体液がある場所を、俺たちがどうやって…」

「カイルは、このまま…嘘をついたままでいいと思ってるの?」

「それは…」


カイルは拳を固く握りしめた。

この事実は、あの時一緒に行った者たちだけが知っている。

ルアナか優司が言いふらさない限り、知られることはない。

そもそも、ろくに確認しなかったことを知っているのはここにいる三人だけで、あの二人には死んだのを確認したと言っておいたのだから、バレるはずがない。


だが、このままでいいのだろうか。

あれほど嗚咽していたあの人に嘘をついたまま、心穏やかに生きていけるのだろうか。


カイルは食卓を強く叩き、席を立った。


「分かったよ。俺も行く。行けばいいんだろ。」

「カイル…」

「二人が行くって言うのに…俺だけ残るわけにはいかないだろ…」

「アニエス姉さん!」


三人は互いを見つめて微笑むと、やがてドアの方へ歩いて行った。


「今度こそ、後悔のないように必ずやり遂げよう。」

「ああ。」


三人がドアを開け、冒険者ギルドの外へと出て行った。


---


ジェルノータ南西の外곽。

巨大な石造りの建物に、黒いベレー帽をかぶった数多くの人々が出入りしている。

他の多くの商人ギルドとは異なり、馬車を停める駐車場には、数多くの馬車が一分の隙もなく整列しており、その反対側には、その馬車を引く馬たちが厩舎で休んでいた。


【フクラ商人ギルド】


ジェルノータの四大商人ギルドの一つ、フクラ商人ギルド。

ドアを開けて石造りの建物の中に入ると、正面に案内のためのカウンターが見え、中央には上階へ続く階段が、両側には廊下が、そして階段の裏手にも廊下が長く伸びていた。


階段を上がって三階へ移動すると長い廊下があり、両側には一定の間隔で部屋のドアが、正面には両開きの大きな部屋が一つあった。


「ちくしょう!どういうことだ、これは?!」


その中から、男の怒声が聞こえてくる。

部屋の中では、一人の男が席から立ち上がったまま、テーブルの上の書類を見て強く叩きつけた。


「そ、それが…我々が冒険者を連れて行った時には、すでに…」

「ふざけるな!今、Cランク以上の冒険者は皆、ビッグウッドを討伐するために外に出ている状態だ!クイーンアントを倒せる奴なんていない!なのに、クイーンアントが死んでいた、だと?話になるか!」

「は…しかし、我々が着いた時には、本当に死んでいたのです…!」

「だから、誰がやったんだって聞いてるんだ、誰が!他の商人ギルドには俺たちがやると連絡しておいたのに、誰がやったんだ?!」

「も…申し訳ありません…!」

「誰が分からんという話を聞きたいと言った?!冒険者ギルドに行って調べてこいと言ってるんだ!」

「は…はい!すぐに調べてまいります!」


そう言って、向かいにいた黒いベレー帽の男が頭を下げて挨拶し、ドアの外へ逃げるように出て行った。


「どこのどいつだ、一体?」


商人というには、あまりにもたくましい筋肉。

白い長い髪を後ろで結び、その性格がうかがえる鋭い目つきと、下がった両口角。

袖なしのチュニックの上に黒いベストと革のズボンを履いた男。


彼は、一度噛みついたら絶対に離さないという「狂犬」の異名を持つフクラ商人ギルドのギルドマスター、ギリアム・フクラトスが舌打ちをした。


「(マルノフの奴らじゃないだろうし…モルモスか?それとも、ジュセフの連中か?)」


今の状況でクイーンアントを討伐できる傭兵を抱えているギルドは三つだけ。

マルノフはフクラ商人ギルドと仲が良い方なので、わざわざ目をつけておいた獲物を横取りするような汚い真似はしないだろう。

だとすれば、残るは二つのギルド。

モルモスとジュセフ。

この二つのどちらかに違いない。


彼らの目的は、おそらく一つ。

自分たちにクイーンアントの産卵管を高く売りつけるためだろう。


「くそ…奴らに知らせるんじゃなかった…」


奴らとは、仲が良いわけではなかった。

以前、自分たちが主力商品として売っていた武器や防具を、ジュセフがどこからか手に入れたのか、より安い価格で販売したからだ。


フクラ商人ギルドで売る武器や防具もかなり安い価格だったが、それよりも安い価格で大量に売る方法は一つ。

国王の後ろ盾を持つ、モルモスの連中のおかげだろう。


「モルモスがジェルノータを飲み込もうとしているとは聞いていたが…こんな汚い手まで使って食い物にしようとはな…」


調査によれば、モルモスは現在ジェルノータにある全ての商人ギルドを吸収し、ジェルノータを掌握するつもりらしい。

ギルドが一つしか残らなくなれば、待っているのは独占。

独占が始まれば、この都市は間違いなく滅びるだろう。


「領主がどうにかしてくれればいいんだが…やはり無理か…」


普通の商人ギルドであれば、ジェルノータ領主がどうにか止められただろうが、モルモス国家商業ギルドの後ろ盾は王家。

一介の領主が王家が庇護するギルドに手を出せば、家門全体が滅びかねない問題なので、領主は手を出せずにいるようだった。


「はぁ…厄介だな…」


ギリアムが頭をガシガシと掻き、額を押さえながらテーブルの上の書類をぼんやりと眺めた。


そうして、どれほど経っただろうか。

ドアをノックする音が聞こえ、外から女性の声がした。


「ギリアム様。」

「なんだ?」

「お客様がお見えです。」


「(客?)」


ギリアムの眉がぴくりと動いた。

他のギルドから来たなら、あらかじめ約束を取り付けてくるはず。

そうでなくても、事前に連絡を入れて会いに来た。


「誰が来たんだ?」

「それが…ある男性の方ですが…」

「時間がないと言え。」

「ギリアム様、それが…」

「どうした?また何かあったのか!」

「この方が、ギリアム様が望むものを持っているとおっしゃっていますが…それでも追い返しますか?」

「俺が望むもの?」


ギリアムが顎にまばらに生えた髭をいじり、片方の口角を上げた。


「(そうきたか…)」


彼が現在望んでいるのは、クイーンアントの産卵管。

だとしたら、今来た奴こそがクイーンアントを討伐した者だということ。

ジュセフかモルモスが提示した価格よりもっと高く売れるのではないかと、自分を訪ねてきたのだろう。


「(頭が回る奴らしいな…あるいは、情報が早い奴か。)」


現在、産卵管を欲しているという話は、公にはほとんど知られていない。

なのに、自分が何を望んでいるか正確に知って訪ねてきたということは、それだけの情報網を持っている人間だということ。

おそらく、ただの人間ではないだろう。


「入れろ。」

「はい!」


コツコツという靴の音がしばらくして消え、やがてタッタッという足音が部屋の外から響いてくる。

少しして、ドアをノックする音が聞こえると、ギリアムが言った。


「入れ。」


ドアを開けて入ってきた人物。

彼は、この辺りでは見かけない、黒い厚手の服を着ていた。

髪の色、顔の形や目鼻立ちから見て、以前に見た東の大陸の人間。


「お前か、俺が望むものを持っていると言った奴は。」

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